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特集

2018年9月5日(水)

コロンビア “和平から取り残された街”

 
放送した内容をご覧いただけます

酒井
「特集はコロンビア和平です。」

半世紀にわたって、内戦が続いたコロンビア。
2年前(2016年)、政府と反政府ゲリラ組織FARC(=ファルク)が、和平合意。
FARCは武装解除しました。

FARC ロンドニョ最高司令官(当時)
「武器よさらば、戦争さらば、ようこそ平和。」


構成員たちは社会復帰の道を歩み始めたかと思われました。
しかし…。
『力の空白』が生まれ、麻薬の利権を巡り逆に治安が悪化する所も…。

FARC 元構成員
「女も男も関係なく、敵であれば殺す。」


コロンビアで今、何が起きているのか?
現地から最新報告です。

花澤
「内戦で20万人以上が犠牲となったコロンビアでは、和平合意に基づき、反政府ゲリラ組織FARC(ファルク)=コロンビア革命軍の武装解除が行われ、多くの地域で治安が回復しました。」

酒井
「その一方で、FARCが拠点としてきた地域では、その活動を支えてきた麻薬の利権を巡って、別の密売組織や武装勢力が抗争を繰り広げ、混乱が続いています。」

松岡
「FARCの元構成員は、およそ1万2,000人。
以前は、麻薬の製造と密輸などを主な資金源としてきました。
2年前に政府と結んだ和平合意で、FARC側は、武装解除し、麻薬の取り引きをやめる。
その見返りに政府は、FARCに食料を提供する。
社会復帰のための、農業プロジェクトなどに資金を提供する。
さらに、麻薬の原料であるコカを栽培する農家には、作物の転換を支援することになっています。

しかし、こちらの地図の赤い地域では、FARCの元構成員が武装して麻薬を取り引きしていて、その数は、およそ1,200人とされています。
また各地に、FARC以外の麻薬密売組織が数多く存在しています。
こうした密売組織は和平合意の後、『力の空白』が生まれたことで、活動を活発化。
麻薬の取り引きを続けるFARCの元構成員と縄張り争いを繰り広げ、この1年で51人が殺害されました。


治安が悪化した街に、ジャーナリストの柴田大輔さんが入り、その実情を取材しました。」

コロンビア和平から2年 「力の空白」で抗争続く街

コロンビア西部、太平洋に面した港町トゥマコです。
河口に広がるマングローブの林が、海外に向けて麻薬を積み出す拠点だとされています。
人口およそ20万のうち、9割はアフリカ系の人々です。
海岸には、水上に木材を組み合わせた家々が立ち並んでいます。
失業率は7割に上り、多くの若者がFARCや麻薬の密売組織の構成員となってきました。
和平合意の後もトゥマコの街では抗争が続いています。
7月、街の中心部で白昼、銃撃事件が起きました。
殺されたのは、麻薬密売組織のメンバーで、対立する勢力による犯行と見られています。
これまでトゥマコでは、FARCと密売組織などが抗争を繰り返し、多くの市民が犠牲になってきました。

住民
「武装組織なんてすべていなくなってほしい。」

地元の教会が運営する施設には、犠牲者の写真が展示されています。
抗争に巻き込まれたり、誘拐されたりした犠牲者です。
2001年以降、その数は2,000人を超え、和平後も増え続けています。

住民
「農民、母親、高齢者、若者が最も被害を受けています。」

背景には、政府とFARCが合意した、和平プログラムが十分に機能していないことがあります。
その1つが麻薬の原料となるコカの作物転換です。
国連の調査では、和平合意の翌年となる去年、コカの栽培は2割も増えていました
15年前にコカの栽培を始めたこちらの男性。
コカから野菜や果物に替えても、政府の補助金が少なく利益が出ません。
コカならはるかに高い値段で売れるため、栽培を続けていると言います。

コカ農家
「(政府は)援助なんて何もしていない。
コカの転換を政府が支援しないなら、もっと貧しくなるだけだ。」

  

FARCの構成員たちは、武装解除の後、和平プログラムによって設置された、専用のキャンプ地で生活しています。
トゥマコ近郊のこのキャンプでは、去年から構成員とその家族およそ400人が暮らし始めました。
現在は、政府の支援を受け、パイナップルの栽培や養鶏などを行っています。
しかし、農業を始めることができたのは、今年6月になってから。
政府から農業支援の補助金を待つ間に、130人がキャンプを去りました。

FARC ゴンザレス元司令官
「食べ物が調達できないこともあり、政府は裏切っていると考え、不安を抱いた多くが離脱の道を選んだ。」

中にはキャンプを去った後、麻薬組織に合流した元構成員もいると言います。

FARC ゴンザレス元司令官
「みずからが置かれた経済状況を打開しようとしたのです。
闇市場で武器を調達する方法も知っているので、一般の人を訓練して、新たな組織を作り始めている。」

こうして、トゥマコには6つの麻薬密売組織ができ、抗争を繰り返すようになりました。
そのうちの1つ、FARCの元構成員およそ100人が所属する、密売組織のメンバーに接触することができました。
FARCという大きな組織がなくなった今、トゥマコの支配を目指して、敵対する組織と抗争を続けていると言います。

「この街の状況は?」

麻薬組織に所属 FARC元構成員
「厳しい状況だ。
何か問題が起きるとそれぞれのグループで争いが始まる。
女も男も関係なく敵を殺す。
命令があれば、殺す。」

「敵を殺す?」

麻薬組織に所属 FARC元構成員
「敵をだ。」



酒井
「コロンビアでFARCを取材してきた、ジャーナリストの柴田大輔さんです。
元構成員の社会復帰支援はうまくいっていないようですね。」

ジャーナリスト 柴田大輔さん
「そうなんです。
支援には、農業支援の他に裁縫等の職業訓練などがあります。
しかし、高い失業率と貧困の中にあるこの地域では、販路を得ることは難しく、技術を生かす職場などもありません。
この点でも、今の政府の支援は十分とは言えないと感じています。
また、元FARCの彼らは、これまで十分な教育を受ける機会を奪われてきました。
仕事も教育も行き届いていない貧しい地域だからこそ、多くの若者たちがゲリラ組織の末端で働いてきたと言えます。
その彼らが担ったのが、麻薬取引や暗殺などのいわゆる汚い仕事でした。
今後、彼らが仕事を得て社会生活を維持していくためには、基礎教育や、専門的な知識を身に付けるための、長期的なプランが必要となるかと思います。」

花澤
「治安が悪化しているということでしたが、コロンビア政府としてはどんな対策を講じているのでしょう?」

柴田大輔さん
「私は政府の治安維持に関しても疑問を持っています。
私が現地に滞在中、麻薬組織を追い込むために増員された軍が街中に配置されていました。
ですが、私が滞在した、麻薬組織が拠点を置く貧困地区にはそれがありませんでした。
住民の中には、日常的に接する麻薬組織の構成員へ親近感を持つ住民も少なくありません。
過去、こうした地域で暮らす住民を、軍はFARCと同一視し、圧力をかけていたということがありました。
住民の中には政府に対する不信が今もあります。
住民の協力を得られないために、軍や警察は、治安対策がやや及び腰になっていると感じることもありました。」

花澤
「強制的に軍が治安を回復させるというのも、なかなか難しいということですよね。
そして、農家への支援も思うようには機能していないようでしたが、こちらはどうなっているのでしょう?」

柴田大輔さん
「脱退した元構成員が麻薬の密売などをしているのが、この地図の地域です。
黄色い地域がFARC以外の麻薬密売組織で、赤い地域が元FARC構成員が作った新たな組織が活動している地域です。
この地図にコカの栽培地を重ねると、ほぼ一致するのがわかるかと思います。

こうした地域では、去年1年間に120人以上の社会活動家が殺害されています。
その多くは、コカ栽培から合法作物への転換を支援するNGOの活動家などです。
麻薬組織が自分たちの利権を奪われないように、こうした活動家を暗殺しているものと見られます。
コロンビア政府もこれに対して特別捜査チームを作り、対策に乗り出しています。」

花澤
「そういった状況ですと治安の面でも農業支援でもなかなか打開策は難しそうですが、今後どうして行くことが必要なのでしょうか?」

柴田大輔さん
「今後コロンビア社会の周縁にいるこうした人々は、なかなかそういった環境から抜けられない現実があります。
内戦が終わっても、貧困や格差といった問題は放置されており、この地域は置き去りにされている現状です。
こうした問題をなくす意味で、誰もがが共存共栄し暮らせるような社会を目指して、国際社会をはじめとする人々が継続的な関心と適切な関与を持ち続けるということが欠かせないと思います。」

花澤
「ここでも、『格差』『貧困』、この解消がカギを握っているということですよね。
ありがとうございました。」

酒井
「ここまで、コロンビアの和平合意後の混乱について、ジャーナリストの柴田大輔さんと共にお伝えしました。」

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