BS1 ワールドウオッチング - WORLD WATCHING -

特集

2018年7月5日(木)

“忘れられた紛争” ウクライナ東部の今

 
放送した内容をご覧いただけます

酒井
「特集は、『忘れられた紛争』と呼ばれるウクライナ東部の“今”についてです。」

4年前に勃発した、ウクライナ危機。
独立を目指す親ロシア派とウクライナ政府の対立が高まり、戦闘へと発展しました。
翌年、親ロシア派とウクライナ政府などとの間で停戦合意が結ばれましたが、その後も散発的な戦闘が繰り返されています。
ウクライナの子どもたちは、今も砲撃の恐怖に、常にさらされています。

「近くで爆撃があると思うと、今でも怖いです。」

現地からの最新報告です。

花澤
「EUとロシアの間に位置するウクライナ。
EU加盟を目指すウクライナ政府と、親ロシア派との間で続く対立は、周辺諸国に影響を与えかねない重要な問題です。
今日(5日)は、現地からの最新報告を交えながら、ウクライナ情勢の今後を読み解きます。」

酒井
「まずは、ウクライナ情勢のこれまでについて、松岡さんお願いします。」

松岡
「ウクライナはEUとロシアの間に位置し、人口4,000万人を超える国です。

このうち、国の東部、ご覧の2つの州の赤い地域が『親ロシア派』と呼ばれる人々が支配している地域です。
親ロシア派とウクライナ政府の間で対立が高まったのは4年前。
ロシア寄りの政権が崩壊し、欧米寄りの政権が発足したことで、ロシアのプーチン大統領が、まず、ロシア系住民の多いウクライナ南部、クリミア半島の併合に乗り出します。
それに駆り立てられるように東部では、親ロシア派の住民や武装勢力が州政府庁舎などを次々と占拠。
ついにウクライナ政府軍との戦闘が始まったのです。
この翌年、ウクライナ政府と親ロシア派などとの間で停戦合意が成立しましたが、戦闘は今も散発的に続き、国連によると、紛争勃発からこれまでに3,000人を超える市民が犠牲になっています。
こうした中、先月(6月)ユニセフの関係者が現地に入り、現状を視察。
NHKも同行取材しました。」

戦闘続くウクライナ東部 子どもたちは今

リポート:松尾寛支局長(モスクワ支局)

双方を隔てる境界線付近の、ウクライナ側に設けられた検問所です。

松尾支局長
「私の後ろに人々の長い列が見えますけれども、この人たちは、ウクライナの管理地域に住んでいる人たちで、これから親ロシア派の地域に向かおうと手続きのために並んでいる人たちです。」

親族がもう一方の地域に住んでいるという人も多く、毎月20万人以上が行き来していますが、当局による厳しい手荷物検査などを受けなければ通過できません。

住民
「本当にひどい。
昨日は3時間以上も待たされたわ。」

「何を望みますか?」

住民
「平和。
平和それだけよ。」

親ロシア派の地域から西に1キロ離れたウクライナ側の町、マリインカ。
ここでは今も戦闘が続いています。

松尾支局長
「町の至る所に、このように砲撃を受けた建物があるんですけれども、あそこの落書き、“なぜこんなことをするんだ?”というふうに書かれています。」

先月、この町をユニセフ=国連児童基金などの視察団が訪ねました。

率いたのは、ユニセフのアジア親善大使をつとめる、アグネス・チャンさんです。

ユニセフ アジア親善大使 アグネス・チャン大使
「(ウクライナ東部について)なかなか情報が入ってこないので、ここについては特に“忘れられた”と感じていて、少しでも現状を知らせることができたらなと思いました。」

この日、視察団はマリインカの学校を訪問しました。
およそ170人の子どもたちが学んでいます。

教室の窓ガラスには、親ロシア派による攻撃に備えて、びっしりと土のうが積まれていました。
子どもたちは、砲撃の恐怖に常に悩まされている現状を、次々と訴えました。

ユニセフ アジア親善大使 アグネス・チャン大使
「家が壊れたり、ケガをした人はいませんか?」

生徒
「自宅を2回も攻撃されました。」

生徒
「もう慣れましたけど、近くで爆撃があると思うと怖いです。」

学校では、砲撃に備えて地下に設置したシェルターに避難する訓練を定期的に行っています。

ミハイル・シガーエフくん、10歳です。
自宅が親ロシア派の地域に近く、地雷などが埋められた危険地帯にあることから、友達を呼ぶことができません。

ミハイル・シガーエフくん
「たくさん友達がいたのに、だれも来てくれない。
退屈だよ。」

2年前、ミハイルくんは自宅にいる時に攻撃を受け、大けがをしました。

ミハイル・シガーエフくん
「この破片は僕から取り出されたんだ。」

母親ら家族は無事でしたが、飛び散った爆弾の破片が頭に入り、一部が今も残ったままです。

ユニセフ アジア親善大使 アグネス・チャン大使
「今も怖い?」

ミハイル・シガーエフくん
「そうでもない、もう慣れたよ。
片手で自転車だって乗れるよ。」

アグネスさんは、誕生日を迎えたばかりのミハイルくんのために、バースデーソングを歌って祝いしました。

ユニセフ アジア親善大使 アグネス・チャン大使
「私たちは戦争をコントロールできないですけど、生活をしなければいけない子どもたちの面倒はできるだけ見たい。」

一方、親ロシア派の地域でも、ウクライナ側からの攻撃で被害は後を絶ちません。
国連によると、今年(2018年)初めから4月までの間に、双方の地域であわせて24人が死亡しました。
ウクライナ情勢の先行きは見通せないままです。


現地の状況は

酒井
「取材にあたった、モスクワの松尾支局長に聞きます。
現地を取材してみて、どんなことを感じましたか?」

松尾支局長
「ウクライナ東部の状況は、最近では大きなニュースとして伝えられる機会が減りました。
しかし、現地を訪れまして、市民が生活しているまさにその町で、今も戦闘が続いているということを肌で感じました。
リポートの中でミハイルくんが言っていました『もう慣れた』という言葉が印象に残ります。
中には、長引く戦闘によるストレスで心の病を抱える子どももいます。
このため学校では、子どもたちに絵を描かせたり、ゲームなどで楽しむ時間を増やしたりするなど、さまざまな工夫がなされていました。
一方、学校には、軍の活動をたたえるかのように、銃や手榴弾などの武器を展示する部屋もありまして、子どもたちが戦争を当たり前のものとしてとらえることにならないか、危機感も覚えます。
また、日本政府が学校の改修などの支援を続けていることもありまして、日本への感謝の声も多く聞かれました。
地域の復興に対する日本の存在感の高さも感じることができました。」


紛争 終わる見通しは?

花澤
「この紛争が始まってから4年が経ちますが、終わる見通しは立たないんでしょうか?」

松尾支局長
「収まる気配はありません。
視察団が現地を訪れていました、まさにその時でありますが、先月中旬、ロシアのプーチン大統領とウクライナのポロシェンコ大統領との間で電話会談が行われました。
しかしプーチン大統領は、ウクライナ側からの攻撃の方が激しさを増していると指摘するなど、双方、非難の応酬を繰り返しまして、事態の打開にはほど遠い状況です。
専門家は、そもそも両首脳とも停戦合意を順守すれば、弱腰だなどと非難され、激しい反発を招くことが予想されるため、問題解決の意志にとぼしいのではないかと指摘をしています。」

国際政治学者 ドミトリー・トレーニン氏
「もしウクライナ政府や大統領が停戦合意を順守するなどと言えば、ウクライナの民族主義者たちが反発し、政権は数日で崩壊するでしょう。
一方、プーチン大統領が支配地域を返還すれば、支持基盤を失うでしょう。
どのみち、双方ともに停戦合意を順守することはない。」

松尾支局長
「両首脳それぞれの思惑もからみまして、ウクライナ東部の戦闘は、今後も先の見えない状態が続くとみられます。
以上、モスクワからお伝えしました。」

酒井
「自宅が攻撃されたと話す子どももいましたよね。
常に危険と隣り合わせの中で生活していくのは怖いはずなのに、それを『もう慣れた』と言わざるを得ない状況、これを見ると本当に胸が痛みますね。」

花澤
「そうですね。
このウクライナ東部、欧米とロシアの緊張、そして対立のまさに最前線ですよね。
そして、冷戦が終結して以降、EU、そしてNATOは、東にずっと拡大してきたわけですが、プーチン大統領はこれについて『アメリカが約束を破ったんだ』と、非常に強い不信感を抱えています。
トランプ政権はロシアとの関係改善に意欲的ではあるんですが、ことウクライナに対しては、武器の供与を認めるなど、オバマ政権よりも、むしろより厳しい姿勢を示しています。
今月(7月)行われる米ロ首脳会談でも、ウクライナについて議論される予定です。
戦闘地域の人々に平和をもたらす道筋を見出せるのか、首脳会談の議論が注目されています。」

ページの先頭へ