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特集

2018年6月29日(金)

候補者ら次々殺害 メキシコの“命がけの選挙戦”

 
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来月(7月)1日、大統領選挙が行われるメキシコ。
同時に行われる、地方自治体の長などを選ぶ選挙が、異常な事態に。

専門家
「これは歴史上、最も暴力的な選挙です。」

候補者や政党の関係者、132人が暗殺されたのです。

殺害された候補者の妻
「夫が亡くなり、私の人生は終わったようでした…。」

背景には、全国に巣くう麻薬組織が…。

麻薬組織メンバー
「利権が脅かされれば、対立候補に害を与えることもある。」

選挙をめぐってメキシコで何が起きているのか、その実態を探ります。

候補者 次々と暗殺 実態は…

酒井
「メキシコでは来月1日、大統領選挙と同時に、国会議員や、地方自治体の長や議員などを選ぶ3,000を超える選挙が行われます。」

花澤
「ところがこの地方選挙で、候補者が次々と暗殺されるという、これまでにない事態が起きています。」

松岡
「メキシコの民間調査会社によりますと、選挙戦が始まった去年(2017年)9月から今月までに殺害された政治関係者は、地方選挙の候補者を含め132人。
その多くが、麻薬組織などによる犯行とみられています。

メキシコでは、各地で麻薬組織が縄張りを争い、地方自治体のトップや警察などを買収したり、脅迫したりすることで、癒着が横行。
双方の利権となってきました。
殺害された132人のおよそ7割にあたる90人は、現職の対立候補や対立する政党の関係者でした。」



メキシコ 命がけの選挙 132人暗殺 実態は…

リポート:神津全孝記者(ロサンゼルス支局)

メキシコ中部、人口6万人余りの都市、アパセオ・エル・アルト市です。
3人の子どもを育てるカルメン・オルティスさんです。
先月、市長選の候補者だった夫を亡くしました。

カルメン・オルティスさん
「これが夫です。」

夫のレメディオス・アギーレさんは、選挙活動で治安の改善を訴えていました。
所属する新興政党は全国的に支持を集めていて、アギ―レさんも勝利に自信を深めていたといいます。
しかし、選挙まで2か月を切ったある日、アギ―レさんは帰らぬ人となりました。

「ここで殺人が起きました。」

アギーレさんが演説を終え、公園から出たところ、何者かに後ろから銃撃されたのです。
カルメンさんはその時、100メートルほど離れた選挙事務所にいました。

カルメン・オルティスさん
「銃声が聞こえました。
その瞬間、夫と紡いできた夢は、全て終わったと思いました。」

犯人はいまだに捕まっていませんが、手口などから、麻薬組織の犯行とみられています。去年9月の選挙戦開始から、メキシコ全土で132人の候補者や政党関係者が殺害されました。
専門家は、地方行政と麻薬組織の癒着は根が深く、命を狙われているのは、選挙で当選すれば行政の方針を変える可能性がある候補者が多いと指摘します。

犯罪分析の専門家 ルベン・サラサルさん
「麻薬組織は世論調査を見ており、狙ったのは、それぞれの地域で優位に立つ候補者だ。
麻薬組織は、地方行政や当局を支配している。
今の状況が変わるのを嫌がっている。
(麻薬組織は)今回の選挙に懸念やリスクを感じている。」

麻薬組織の幹部が、匿名を条件にインタビューに応じました。
地方の選挙では、政治家からの働きかけがあるといいます。

麻薬組織の幹部
「政治家は、当選する前に、支援と引き換えにいろんなことを約束してくる。
しかし、一旦権力の座に就くと、約束を守らない。」

候補者から、他の候補を襲うよう頼まれることがあるのかと尋ねると…。

麻薬組織の幹部
「現職の政治家は、自らの利権が脅かされると感じれば、他の候補に害を与えようとする。
私は実際に頼まれたことはないが、他の地域や他の組織では分からない。」

市長候補の夫が何者かに殺害されたカルメンさんは、夫の遺志を継いで立候補することを決意しました。
事務所には、こんなスローガンを掲げました。

“彼は生きている 戦いは続く”

カルメン・オルティスさん
「夫は『自分がやらなければ誰がやるんだ』と話していました。
彼の遺志を継ぎ、人々のため、3人の子どものために戦います。」

カルメンさんにとっても、命がけの選挙です。
選挙運動には、常に3人のボディーガードが同行します。
有権者から聞こえてくるのは、治安の改善を求める切実な声。

有権者
「この街は犯罪がなかなかなくならない。
彼女になんとかしてほしい。」

選挙戦終盤には、大統領選でリードするロペスオブラドール候補も応援に駆けつけました。

大統領候補 ロペスオブラドール氏
「正義を!」

カルメン・オルティスさん
「適切な安全対策を提供します!
警察の体制を整えます。」

カルメン・オルティスさん
「この街を安全にしたい。
私のように夫に先立たれる妻や子を二度と出さないために…。」

死と隣り合わせのメキシコの選挙。
暴力に屈せず、夫と願った平和な街を作るために戦っています。

麻薬組織と行政の関係は

花澤
「取材した神津記者に聞きます。
まさに命懸けの選挙活動となっていますが、なぜここまで事態が悪化しているのでしょうか?」

神津全孝記者(ロサンゼルス支局)
「複数の麻薬組織が抗争を続けていて、縄張り争いが激しくなっていることが背景にあります。
地方では、麻薬組織が行政の不当な公共工事の契約を口利きする見返りに利益を得るなど、麻薬組織と地方行政との癒着が深刻になっていると指摘されています。
麻薬組織が政治に介入し、地方行政をコントロールしようとしているともいえます。」

最新情勢は

酒井
「選挙の最新の情勢はどうなっていますか?」

神津記者
「地方自治体の長など、地方選挙や連邦議会選挙では、カルメンさんも所属している新興政党『国家再生運動』が大きな躍進を遂げています。
大統領選挙でも、与党や最大野党の候補を抑え、『国家再生運動』のロペスオブラドール氏が独走していて、既成政党への批判の受け皿となっています。
選挙の投票まであと2日。
政権交代が行われ、全国的にも勢力図が塗り替えられるのか、注目されます。」

酒井
「カルメンさんは当選したとしても、その後も麻薬組織と向き合っていかないといけない。
命の保証はない状況なんですね。」

花澤
「心配ですよね。
私も以前、麻薬組織の幹部にインタビューしましたが、組織に若者が次々と加わってくるのは、結局貧しいからなんだと話していたんです。
この貧困を解決しなければいけないということで、地方を開発・活性化させようとしても、行政が麻薬組織と癒着してしまっていて、うまくいかない。
麻薬組織を壊滅しようとメキシコ政府は軍隊まで使って戦ってきたんですが、結果、悪化したとも指摘されています。
麻薬組織との戦いは出口が見えないまま、勇気ある人々の厳しい戦いが続いています。」

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