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特集

2017年7月18日(火)

モスル解放後のイラクはどこへ

 
放送した内容をご覧いただけます

イラク アバディ首相
「団結によって勝利を成し遂げた。」

 



9か月におよんだ、モスルの奪還作戦。
イラク軍とクルド人部隊、さらにシーア派やスンニ派の民兵組織が協力し、過激派組織ISのイラク最大の拠点を解放しました。
しかし、早くもその結束が崩れ、民族や宗派対立が深まる懸念が広がっています。
モスルに多く暮らすスンニ派は、シーア派主導の政府への不信感から、新たな政党を結成。


 

政党“イラクのための団結” オサマ・ヌジャイフィ代表
「この地域は地元の人間だけで統治されないかぎり、決して安定しない。」





一方、クルド自治政府は、今年(2017年)9月にイラクからの独立の賛否を問う住民投票を実施すると発表。
中央政府との対立は避けられないとみられます。
 

クルド 市民
「中央政府が反対しても、『独立したい』と要求する。」


 


モスル解放後、新たな壁に直面するイラク。
今後の行方を展望します。

 

花澤
「モスル解放の喜びも、つかの間、イラクに新たな課題が突きつけられています。」

増井
「過激派組織IS=イスラミックステートという、いわば『共通の敵』がいなくなったことで、イラク国内の対立が再燃しようとしているのです。」

松岡
「イラクには、宗派や民族による主に3つの勢力が存在しています。
人口の6割を占めるイスラム教シーア派。
今回解放されたモスルなど、北部や西部に暮らすスンニ派。
そして、北部に暮らす少数民族のクルド人です。

スンニ派だったフセイン大統領の時代には、スンニ派がイラクを支配。
フセイン政権の崩壊後は、人口の多いシーア派が主導する政権が続いています。




 

このシーア派主導の政府に不満を持つスンニ派の地域に、スンニ派中心のISが支配を拡大。
これに対抗するため、国内の勢力は、協力して軍事作戦を進めてきたのです。
しかしISの影響力が弱まった今、スンニ派やクルド人は、自分たちの勢力を拡大する動きを強めており、国内対立の再燃が懸念されています。
その現状を取材しました。」

モスル解放後 イラクはどこへ

リポート:渡辺常唱(カイロ支局)

モスル近郊にある民兵組織の基地。
主に、モスル出身のスンニ派で作る「ニナワ警護隊」の拠点です。
隊員は6,000人余り。
2年半前に結成され、モスルの奪還作戦にも貢献しました。
解放後、地元の部隊として、モスルの治安の維持に大きな役割を担おうと狙っています。
その背景にあるのは、シーア派主導の中央政府に対する不信感です。
3年前にモスルを、わずか1日で制圧したIS。
スンニ派の地元住民が、シーア派主導のイラク軍や警察の差別的なふるまいに不満を募らせたことがISの台頭につながりました。
しかもイラク軍は、ISとまともに戦うことなく撤退。
不信感に拍車がかかりました。

ニナワ警護隊 幹部 ムハンマド・ヤヒヤ氏
「我々はモスル出身者であり、よそ者ではない。
モスル市民が、地元出身者に守ってほしいと思うのは当然のことだ。」



 

政治の動きも始まっています。

今年(2017年)5月、モスル奪還後をにらんで、地元のスンニ派主体の勢力が新たに政党を結成。
モスルがあるニナワ県の自治拡大を目指すとしています。

政党“イラクのための団結” オサマ・ヌジャイフィ代表
「この地域は、地元の人間だけで統治されないかぎり、決して安定しない。」

この政党、地元出身者で作る「ニナワ警護隊」とも深いつながりがあります。
中央政府に対し、地域の実情にあった統治のあり方を認めるよう求めています。
 

政党“イラクのための団結”幹部 ジャーファル・ファディード氏
「モスルを解放したのはイラク軍かもしれないが、そのうち、地元住民に以前のような、ひどい扱いをするだろう。
そうなれば、強い反発を招き、次のISが現れるかもしれない。」


 

一方、北部のクルド自治政府は自治にとどまらず、イラクからの独立を目指す動きを見せています。

クルド人自治区のテレビCM
「住民投票は、人々の平和的な要求だ。」

自治区で放映されているテレビCM。
9月に予定されるイラクからの独立の賛否を問う住民投票の参加を呼びかけています。
領土をもたない最大の民族といわれるクルド人にとって、独立国家は悲願です。

クルド人自治区 市民
「50年以上、この機会を待っていた。
きっと独立国家になれると思う。」

クルド人自治区 市民
「ISとの戦いでは、クルドの治安部隊も血を流したが、無駄ではない。
ISとの戦いが、国家の建設を始めることを可能にした。」
 

クルド自治政府は、以前から予算配分などで中央政府に不満を強めていました。
モスル奪還で、ISとの戦いに一定のメドがついたことで強い態度にでたのです。
これに対しアバディ首相は、住民投票は地域に悪影響を与えるだけだと反対しています。

イラク アバディ首相
「クルド人の願いは尊重するが、この時期では住民投票はうまくいかず、正しくない。
問題を複雑にするだけで、解決につながらない。」



 

対立をいっそうあおりかねないのは、住民投票の対象地域の問題です。
クルド人自治区だけでなく、中央政府と管轄権をめぐって争う地域でも行うとしています。
その1つがイラクでも有数の油田地帯、キルクークです。
キルクークは、3年前ISの攻勢からクルド人部隊が守り、そのまま支配下に置きました。
住民投票を実施することで、既成事実化を狙っているとも指摘されています。
キルクークは、かつてフセイン政権がアラブ人の移住を促し、クルド人を迫害しました。

キルクーク県出身のナジャト・ラスールさんです。
フセイン政権時代、兄が非合法だったクルド人部隊に参加したことで、ナジャトさんの両親は7か月拘束されました。
迫害が続くことを恐れ、30年前、クルド人自治区の中心都市アルビルに一家で逃れてきました。

ナジャト・ラスールさん
「長年、私たちクルド人は耐えてきました。
監獄に入れられたり、傷つけられたりしてきました。
それでも自分たちの力でやってきました。」
 

ナジャトさんの身分証明書は、今もキルクークのまま。
住民投票では、キルクークに戻って1票を投じ、独立を求める姿勢を示そうと考えています。


 

ナジャト・ラスールさん
「キルクークは、クルド人でしか守ることができません。
なぜなら、キルクークはクルド人のものだからです。
住民投票はクルド人の運命を決めるものです。
投票所に行き、独立に賛成するのは、すべてのクルド人の義務なのです。」

モスルの奪還では、まとまることができたイラク。
しかしその先には、積み残されてきた根の深い問題が立ちはだかっています。

 

宗派・民族 対立の懸念

花澤
「取材した渡辺支局長に聞きます。
ISからのモスル奪還では1つになったんですが、早くも対立が深まる懸念が出ていますね。」

渡辺常唱支局長(カイロ支局)
「宗派間・民族間の対立は、以前からくすぶってきたもので、ISという共通の敵が現れたことで、問題が棚上げされていたに過ぎません。
モスル奪還で、IS対策に一定のメドがつき、イラク北部で新しい秩序作りが求められていることから、再び、この問題が浮上してきた形です。
ただ、モスルを奪還したからといって、イラクからISをすべて排除できたわけではなく、引き続き各勢力が協力して、対策にあたっていく必要があります。
さらに、モスルの復興も地元と中央政府の協力が不可欠で対立が深まりますと、さまざまな課題への対応に支障が出ることも予想されます。」

 

クルド人自治区 住民投票の行方

増井
「それから、クルド人自治区の住民投票が実施されますと、どうなってしまうんでしょうか?」

渡辺支局長
「実施されますと、独立賛成というのが多数になるというのは確実視されていますが、直ちに独立を宣言するということにはならないと思います。
イラク中央政府が反対していますし、トルコなど、自国にクルド人を抱える周辺の国々も、それぞれ自国内で独立運動を刺激しかねないと強く懸念しています。
さらに、クルド自治政府と良好な関係にあるアメリカも、今はIS対策に専念すべきだとしまして、住民投票の実施を考え直すよう求めています。
こうした状況をクルド自治政府も十分承知していまして、直ちに独立は宣言せず、中央政府と交渉していくとしています。
落としどころとしましては、予算の配分や係争地の管轄権などをめぐる交渉で立場をより強くし、自らの主張を通そうという狙いがあると見られます。」

 

国内対立は収められるか

花澤
「イラクの宗派間、民族間の対立、どう収めていくべきなのでしょうか?」

渡辺支局長
「モスル奪還作戦が、よい先例を作ったというのは間違いありません。
アバディ首相はイラクで多数派のシーア派ですけれども、国民の融和の必要性を強く意識しています。
モスル奪還作戦の勝利宣言でも『団結』を強調しまして、モスルの復興などの課題でも同じように団結して進めようと訴えました。
また、クルドの住民投票についても反対はしていますが、クルド人の長年の願望は理解できると述べ、対立が深まらないよう注意を払っているという印象です。
イラクには豊富な石油資源があり、国内の対立が収まり、安定さえ実現すれば、より豊かな国になれます。
まずは、喫緊の課題となるモスルの復興に向けまして、国際社会が国内の各勢力の協力を促しながら、支援していく、そのことが重要になりそうです。」

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