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特集

2017年7月5日(水)

“モスル奪還”後 どうなるイラク・シリア

 
放送した内容をご覧いただけます

大詰めを迎えているイラク第2の都市・モスルの奪還作戦。
3年にわたる過激派組織ISの支配が、ついに終わろうとしています。

一方、シリアでも、ISが「首都」と位置づけるラッカを完全に包囲。
城壁を爆破して旧市街に部隊が入るなど、IS包囲網は徐々に狭まっています。
そして今、新たな焦点となっているのが、IS壊滅後のイラクとシリア。
さまざまな国や勢力の思惑が交錯する、“IS後”の行方を展望します。

 

花澤
「世界に衝撃を与えた、過激派組織ISの登場から3年あまり。
ISとの戦いが今、大きな局面を迎えています。」

 

増井
「スタジオには、中東情勢に詳しい、放送大学教授の高橋和夫さんにお越しいただきました。」

 

花澤
「高橋さん、まず、モスルですけれども、これが奪還ということになると、これはISにとっては、非常に大きな痛手ということになりますよね。」

 

放送大学教授 高橋和夫さん
「そのとおりですね。
やっぱり象徴的な意味でも、実質的な意味でも大きいです。
象徴的な意味では、ここでISの設立宣言というのは、3年前にやったわけですよね。
そのモスクもIS自ら破壊しましたし、ですから象徴的な意味も大きい。
それから実質的には、モスルというのは、このIS騒ぎが始まる前は、人口200万を超える大都市だったんです。
この都市を支配しているということは、ISがただ単なるテロ組織ではない。
領域を支配している、国家を目指すんだという主張の根源だったわけですけど、この都市を失うということで、ISもその実質を失っていく。
やっぱり大きな意味だと思います。」

 

増井
「高橋さんには、また後ほど、たっぷりとお話を伺ってまいりますが、ここで、そのモスルを巡るISとの戦いについて、VTRをご覧ください。」

狭まるIS包囲網 モスル“最終局面”

ISが、イラク第2の都市・モスルを制圧したのは、3年前の6月。
その直後、指導者のバグダディ容疑者は、旧市街のモスクでイラクとシリアにまたがる「イスラム国家」の樹立を一方的に宣言しました。



 

バグダディ容疑者
「我々の目的のため、神は力をくださった。
『イスラム国家』の樹立を宣言する。」



 

その後、ISはインターネットを駆使して過激な思想を広め、世界各地から戦闘員を集めます。

油田などを資金源として、国家樹立宣言から半年後には、イラクとシリアにまたがる広大な範囲に勢力を広げました。
これに対し、地上からイラク軍やクルド人の部隊、シリアのアサド政権の政府軍がISとの戦闘に乗り出しました。
さらに、アメリカ主導の有志連合やアサド政権を支えるロシアも空爆を行い、ISは徐々に支配地域を失っていきました。
そして、去年(2016年)10月。

イラク アバディ首相
「モスル解放作戦だ。
残虐なISから、皆を解放する作戦を始めると宣言する。」



 

イラク軍は、クルド人部隊などとともに、モスルの奪還作戦を開始。
追い詰められたISは、先月(6月)、かつて国家樹立を宣言したモスクを自ら爆破。
作戦開始から、およそ9か月。
完全制圧に向け、作戦は最終局面を迎えています。

 

現地の最新情勢は

花澤
「そのモスルから80キロほどの場所にあるイラク北部のアルビルには、カイロ支局の土屋記者がいます。
モスルの奪還作戦は大詰めを迎えているようですが、現地の雰囲気はどうでしょうか?」

土屋悠志記者(カイロ支局)
「作戦は、最終局面を迎えています。
イラク軍は、モスルのほとんどの地域を制圧し、現在、最後に残った旧市街のうち、チグリス川に沿った一角にISを追い込んでいます。
イラク軍の司令官によりますと、IS側の戦闘員は、現在200人から300人程度が残るということです。
ただ、ここに来て、イラク軍の進軍のペースにブレーキがかかってきています。
その最大の理由は、住民を『人間の盾』として利用したIS側の抵抗です。
私が、モスルから逃れた住民に避難民キャンプで話を聞きましたところ、ISは支配地域を追われる度に、その地域の住民も連れて移動し、逃げ出そうとする住民がいれば、容赦なく撃ち殺しているということでした。
このため住民は、イラク軍が近くまで迫っていることが分かっていながら、なかなか助けを求めることができませんし、イラク軍の方も住民を巻き込まないように戦わなければならず、難しい作戦を強いられています。
さらにISは、地下に張り巡らしたトンネルに潜んで奇襲をかけたり、助けを求める住民に紛れて自爆攻撃を繰り返したりしていまして、こうした必死の抵抗にイラク軍は、あと一歩のところで足踏み状態が続いています。」

 

今後の見通しは

増井
「ひどい戦闘が、まだ続いているんですね。
イラク軍が、モスルを完全に奪還するのは、いつになりそうなんでしょうか?」

土屋記者
「奪還が目前に迫っているのは確かです。
ただ、それがすぐかもしれませんし、もう少し時間がかかるかもしれず、正確な時期ははっきりとは言えません。
イラク軍がモスル全域を完全制圧すれば、3年間に及ぶISとの戦いで最大の成果となります。
その時は、アバディ首相がモスルに入って、奪還を宣言する見通しです。
その日がいつになるのか、イラクの人たちは固唾をのんで、戦況を見守っています。
以上、イラク北部のアルビルからお伝えしました。」

 

モスル奪還後 イラクは安定?

増井
「高橋さん、モスルを奪還すれば、イラクは安定に向かっていくと考えていいんでしょうか?」

放送大学教授 高橋和夫さん
「その方向に動いているというのは、そうなんですけど、やっぱりまだ超えないといけない山がいくつもあると。

その1つはやはり、そもそもISを支持した、この地域の人たちはスンニ派ですよね。
政府はシーア派ですよね。
シーア派の政府が、スンニ派の人たちの思いをくみ取ることができなかったのが、このスンニ派の人たちのIS支持につながったというのがありますから、どうやってこのスンニ派の人たちの気持ちを政治に反映させていくか、そのシステムが、まず求められます。
それから2つ目は、この3年間もISが支配していましたから、もちろんISの支配に協力した人もいるわけです。
解放後に『お前、ISに協力しただろう』ということで報復が始まるということも懸念されます。
それから、ISの戦闘員がたくさん殺害されましたけど、その家族もいらっしゃるわけです。
その人たちをどういうふうにして取り扱うのか。
だから、モスルという街の建物の復興の前に、モスルの人たちの気持ちをどう折り合いをつけて、復興させていくのか。
気持ちの復興が、まず求められているんですね。」

花澤
「なるほど。
それも本当に複雑で難しそうな話ですが、イラク全体の安定に向けてということになりますと、一番の課題は何になりますでしょうか?」

放送大学教授 高橋和夫さん
「スンニ派の人たちの問題、それからもう1つは、やはりこのモスルの攻略戦で協力した中央政府軍と北部のクルド人たちの関係をどう折り合いをつけていくのかという問題ですね。」

 

イラク政府とクルド人勢力

花澤
「ISと戦っている時は、共通の敵ということで協力していたわけですね。




 

それが、ISがこれで壊滅というか、いなくなると、今度は対立し出すということになるわけですね。」

放送大学教授 高橋和夫さん
「そうなんです。
そもそもクルド人が北部を支配して、中央政府があるんですけど、クルド人が支配すべき自治地域はどこまでかということで、ずっと議論があったんです。
双方の間で議論があって、解決していなかったんですけど、このIS騒ぎの中で、そういう争っていた地域をクルド人が全部抑えてしまったという状況にあるわけです。
中央政府としては、『当然、そこからは出ていってくださいよ』という要求で、クルド人としては、『いや、ここはもともと自分たちの土地ですよ』ということで、その線引きの問題が難しいですね。」

花澤
「旧来からある対立関係が、また残って、さらに今後は決着するかどうかということになるわけですね。」

放送大学教授 高橋和夫さん
「そうですね。
ISの問題で一時期延期されていた問題が、また表面化してくるということだと思います。」

花澤
「続いて、隣国シリアなんですが、モスルが陥落したとすると、次はシリアということになりますが、この紫のところがクルド人勢力の支配地域、赤がアサド政権、水色が反政府勢力、黒いところがISという状況なんですが、やっぱりモスルの次、ラッカが最大の焦点になりますよね。」

放送大学教授 高橋和夫さん
「とりあえずはそうですね。
すでにモスルの戦いが不利になって以来、ISの主力はラッカの方に移動したと考えられていますから、次の対決の舞台はラッカということなんです。」

 

“ラッカ陥落” ISはどうなる?

花澤
「ラッカが落ちたとすると、だいぶ支配地域を失っていって、ラッカの中でも勢力が小さくなっていると言われています。
これが陥落すると、どうなりますでしょうか?」

放送大学教授 高橋和夫さん
「今のところ、ラッカを守っている外壁を2か所で突破して、攻め落とす側が入ってきたということで、先は見えてきたんです、まだ、少し時間はかかると思いますけれど。

ラッカが陥落すれば、恐らくラッカから、まだシリア東部、イラク北部に近い方の地域にISの主体は動いていくだろう、あるいはすでに動いているかもしれない。
ですから、ラッカの攻防戦は1つの段階ですけど、もう1イニング残っていると。
最終回があるという感覚を受けています。」

 

花澤
「徐々にISが支配地域を失っていく流れになっていくんだと思いますが、その先の話をお伺いしたいんですけれども、やっぱりシリアもクルド人勢力、ISとの戦闘でアメリカの、いわば代わりになって地上戦を戦っている存在で、アサド政権の後ろにはロシアがついていると、こういう構図になりますよね。
クルド人勢力の扱い、これ、アメリカがどうするのかというのが1つのポイントになりますが、高橋さんはどう見ていらっしゃいますか?」

放送大学教授 高橋和夫さん
「実は、アメリカ軍は自らの陸上部隊を危険にさらすことなく、空軍の支援、特殊部隊の支援で、実際の戦いはクルド人にやってもらっているわけですね。
トランプ大統領の選挙公約がIS退治でしたよね。
ラッカが陥落して次のシリア東部での戦闘に勝てば、ISの問題が片づけばクルド人はいらないですよね。
クルド人をそこで見捨てるのかというのが1つの問題で、散々クルド人に戦ってもらって、そんなことができるのかという問題なんです。
ただ逆に、クルド人は戦って勝利を収めていますから、影響力を強めているわけです。
それに対して、トルコが懸念を示しているわけです。
トルコにもクルド人がいます。
シリアのクルド人と、トルコのクルド人の組織がつながっていると思われているんです。
ですから、このシリアのクルド人がどんどん強くなれば、やがてはその人たちがトルコに向かってくるということで、トルコはトランプ大統領に『いいかげんにしてください』と言っているわけです。
トルコとアメリカは、NATOの同盟国ですよね。
だから、NATOの同盟国であるトルコの言い分を受け入れてクルド人を切るのか、あるいは、これだけ戦ってくれたクルド人を守るのかという、トランプ政権はここでジレンマに直面しているわけです。
ただ今のところ、決断はついていないようで、いろんな発言があるんですけど、まだ見えないんですね。」

 

入り乱れる思惑 衝突の懸念

花澤
「まず、クルド人勢力をどうするのかというのが、最大のポイントになるとして、もう1つ、アサド政権の存在をどうするのか。
これはアメリカとロシアの結局は交渉になるんだと思いますが、シリアへのミサイル攻撃をアメリカがした時までは、アサドファミリーの排除は大前提だと、これはゆずれない一線だとアメリカは言っていたんですが、これはどうなると見ていますか?」

放送大学教授 高橋和夫さん
「最近のアメリカの議論というのは、少し変わってきたように思うんですね。
そもそもシリアの内戦が始まった時からアメリカは、『アサドは、もう辞めてくれ』というのが議論ですから、だんだん『結局、辞めてくれればいいんだよ』というふうに下がってきて、一番最近の私が受ける印象は、アサド政権のことは、もうロシアに任せるからということで、アサドの生き残りを認めるというところに来たと思うんです。
なぜかというと、それはもうロシアが守っている限り、アサド政権が倒れないということはアメリカも、それから周辺諸国も納得したのかなという気がいたします。
ですから、もしもアサドを本当に倒したければ、アメリカが陸上部隊を入れるしかないわけですけど、そんな元気はないわけです。
確かに巡航ミサイルを59発打ち込んで、アサドの化学兵器をつんだ飛行機が出撃したと思われる空軍基地を爆撃しましたけれど、巡航ミサイルというのは、1人もアメリカ人が死なない無人兵器です。
ですから、そういう意味では、トランプ大統領はオバマ前大統領に比べて、半歩前に出たんですけど、1歩ではなかったと思います。」

花澤
「そうしますと、アサド政権はこのまま、クルド人勢力もある程度勢力は残したまま、こんな感じで落ち着いていくということですね。」

放送大学教授 高橋和夫さん
「シリアという国がバラバラになって、だんだんと収まっていくという流れですかね。」

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