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特集

2017年6月29日(木)

ダッカテロ事件からまもなく1年

 
放送した内容をご覧いただけます

増井
「日本人も犠牲になったダッカのテロ事件、まもなく1年になります。」

バングラデシュの首都・ダッカ。
1年前、閑静な場所にあるレストランがテロの標的になりました。
店を襲ったのは、イスラム過激派の若者5人。
命を奪われた22人のほとんどが外国人で、7人が日本人でした。
当時、人質となった従業員は…。

レストラン従業員
「つらい経験でした。
なんとか忘れようとしています。」

事件から1年、バングラデシュ政府はテロ対策を強化。
しかし、現地の日本企業は今も不安な日々を送っています。

日本企業の駐在員
「どうしても外国人は標的にされがち。」

テロ対策はどこまで進んだのか。
現地からの報告です。

ダッカテロから1年 対策どこまで?

花澤
「バングラデシュは、親日の国として知られています。
その国の首都で7人もの日本人が犠牲になったこのテロ事件、大きな衝撃を与えました。」

増井
「実行犯は5人。
10代後半から20代の若者でした。」

松岡
「こちらがその実行犯とみられている5人です。
治安部隊が突入したときにいずれも射殺されています。

多くが比較的裕福な家庭に育った高学歴の若者でした。
警察は、この5人を含む合計24人のイスラム過激派のメンバーが事件に関わったとみています。
すでに、実行犯のほかに8人を殺害し、4人を逮捕。
残る7人の行方を追っています。

警察によりますと、拘束されたメンバーの供述などから、外国人が多く集まるレストランを狙ったことが分かっています。」

過激派の動向は

花澤
「事件から1年、捜査はどこまで進んでいるのか、取材にあたっている青山記者に聞きます。
青山さん、バングラデシュは穏健なイスラム教徒が多いと言われていますが、テロ事件後、過激派の動向はどうなっているのでしょうか?」

青山悟記者(ニューデリー支局)
「事件後は警察が摘発を強め、過激派は弱体化してはいるものの、水面下で新たなテロを企てたり、メンバーの勧誘活動を行ったりしているとみられています。
バングラデシュではもともと、反政府を掲げる過激派が主流でした。
そこにIS=イスラミックステートの影響を受けるグループも出てきて、外国人を狙った事件が起きたとも指摘されています。
バングラデシュでは外国人を標的にするテロは異例で、政府は強い危機感を抱いています。
ここダッカには多くの外国企業が進出してきています。
テロを2度と起こさないために、政府や警察はこの1年、対策に追われました。」


ダッカテロから1年 対策どこまで?

バングラデシュ政府がテロ対策のために制作したテレビコマーシャルです。
過激派に影響を受ける息子。
その母親の目線で描かれています。

“信じられませんでした。
わが子がテロを働き、捕まったというのです。
大事な息子が…。”

若者を過激派から守るために始めた実験的な取り組みです。

“愛する人が過ちを犯さないために、大事なのは、家族への思いやり。
家族を見守って下さい。”

CMを制作した キジル・ハヤット・カーン氏
「過激思想の裏の顔がテロリズムであることを理解してもらい、“無駄な死と破壊だけをもたらす”と強調した。」

テロ事件に関わったとみられているのは「ジャマトゥル・ムジャヒディン・バングラデシュ」というイスラム過激派の分派組織です。
去年(2016年)8月、警察はこの組織に所属し、事件の首謀者とみられる男を銃撃戦のすえ殺害。
これまでに組織の潜伏先など20か所近くを捜索し、メンバーらを次々と逮捕。
大量の武器も押収しました。
国内には、この他にも過激な思想を持つ組織が活動を続けていて、警察は摘発を強化しています。
過激派の弱体化を図るため、組織に加わった若者に対し「自ら出頭すれば罪に問わない」と呼びかける方策にも乗り出しました。

呼びかけに応じ出頭した、25歳の男性です。
過激派に加わった理由についてこう語っています。

元過激派の男性
「国を良くしたい一心からだった。
国民は経済的・精神的苦痛を強いられ、政治家たちの被害者だ。
ただ(指名手配され)子どもや家族には迷惑をかけた。
もう政治活動には関わりたくない。」

警察は、テロ対策で一定の成果があがったと強調しています。

ダッカ警察 テロ対策責任者 モニルール・イスラム氏
「過激派の能力は目に見えて低下している。
もはや彼らにはバングラデシュで大規模な襲撃を実行する力はない。」

しかし、テロの脅威は続いています。
今年(2017年)3月には、ダッカ南部で爆発物を持った男が検問所を強行突破しようとして射殺される事件も起きました。

ダッカで活動する日本企業は、社員の安全確保に頭を悩ませています。
3年前、ダッカ近郊に進出した兵庫県の釣り針メーカーです。
以前は中国が主要な海外の生産拠点となっていましたが、人件費の安いバングラデシュにシフト。
今では、日本向けの商品の半数近くをこの工場で生産しています。

遠藤佳祐(えんどう・けいすけ)さん。
唯一の日本人社員として工場の責任者を担っています。
テロが起きたのは、さらなる生産拡大を計画していたやさきでした。

釣り針メーカーの駐在員 遠藤佳祐さん
「かなり衝撃的な事件で、一時帰国や工場閉鎖ということも頭をよぎった。」

経営は軌道にのっていたため、撤退という判断には至りませんでした。
しかし、安全対策にコストをかける余裕はありません。
そのため、遠藤さんは極力、外出を控えています。
平日は工場内に寝泊まりする生活です。
自宅で過ごす週末もほとんど外出しません。
買い物は工場のスタッフに頼み、外食はせず、自炊します。

遠藤佳祐さん
「今まで積み上げてきたものもあるし、工員さんの生活もかかっているので、むげにはできない思いで続けている。」

日本をはじめ、外国企業の投資や進出が経済成長を支えるバングラデシュ。
企業にとっても、人件費が安いだけではなく、人口およそ1億6,000万人という巨大市場は大きな魅力です。
テロ事件後も、進出する日本企業は増加。
現在、250社余りが拠点を置いています。

大手製薬会社に勤める松本幸隆さんも、バングラデシュで商品を製造・販売するため、今年3月からダッカに滞在しています。

「なかなか外に出られない窮屈な感じはありますか?」

大手製薬会社 駐在員 松本幸隆さん
「しかたないですよね、安全優先ですから…。」

工場は、10月の稼働を目指しています。
松本さんは、テロの脅威を感じながらも、バングラデシュの巨大市場に現地生産の商品を販売するメリットは大きいとみています。

大手製薬会社 駐在員 松本幸隆さん
「南アジアで大きな人口を抱えた国の中で、確実にブランドが浸透してきて、非常に高いポテンシャルを持った国がバングラデシュではないか。
この国で今後も継続した企業活動をやっていきたい。」


進出企業の緊張続く

増井
「再び、現地で取材した青山記者に話を聞きます。
現地に進出している日本企業の人たちは、テロの脅威にさらされながらの生活が続いているようですね。」

青山記者
「そのとおりです。
中には、車で移動する際に武装した警備員を配置したり、通勤経路を毎日変えたりするなどの対策をとっている企業もあるんです。
このほか、外で打ち合わせなどをする際は必ず逃げ道を確認しているという人もいます。
一方で、事件後、現地から撤退した日本企業は1社もないんです。
経済がグローバル化し、日本企業が生き残りをかける中、バングラデシュが生産拠点としても消費市場としても、投資先として魅力があるということだと思います。
これからは安全対策も1つの柱として活動にあたることが、企業にとって必要不可欠となっています。」

なぜ若者が過激派に?

花澤
「外国企業が安心してバングラデシュで企業活動を行うためにも、テロ対策は欠かせないですよね。」

青山記者
「そうですね。
ISに影響を受けていようがいまいが、過激派がテロを行う最大の目的は政府に大きなダメージを与えることです。
その目的のために過激派は、家族関係にトラブルを抱えていたり、就職がうまくいかなったりして精神的に不安定になっている若者たちを勧誘しているとみられます。
そして若者たちに、こうした閉塞感の原因は政府にあるため武力を使った攻撃も不可欠だと教えているとみられます。
特に外国人をターゲットにすれば、海外からの投資を増やしたい政府にとっては大きな打撃となります。
過激派の動向に詳しい現地のジャーナリストは、若者が抱える社会への閉塞感を打破しなければ、根本的な解決にはならないと指摘しています。」

ザヤダル・アッサン・ピントゥー氏
「(勧誘される)若者たちは社会からの疎外感を感じている。
警察や軍がいくら武装グループを殺害しても、社会全体で若者たちの不満を解消しない限り、意味はない。」

青山記者
「警察による摘発などで過激派が弱体化しているとはいえ、多くの人が集まる場所でテロを起こす危険性がある状況は依然として変わっておらず、日本企業は警戒を続けながらの活動を行っています。」

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