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特集

2017年6月28日(水)

現地取材・フィリピン IS支持武装勢力 VS. 政府軍

 
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増井
「ISの影響が、東南アジアのこの国にも飛び火しようとしています。」

フィリピン南部、ミンダナオ島の都市・マラウィ。
政府軍と過激派組織IS=イスラミックステートを支持する武装勢力との戦闘は、開始から1か月あまりたった現在も続いています。
NHKが入手した武装勢力の映像には、ISがフィリピンの指導者に指名した男の姿が。

「これが俺たちの襲撃計画だ。
学校に攻め込んで人質を取れ。」

ISを支持する複数の過激派が手を組み、拠点の構築を目指す動きが活発化しています。

フィリピン ドゥテルテ大統領
「武装勢力はムダに破壊し、何の罪もない多くの人を殺している。」

武装勢力とのぎりぎりの攻防が続くフィリピン。
現地の最新情勢から、今後の行方を展望します。

フィリピン 現地報告 マラウィ戦闘 最新情勢

花澤
「ISに忠誠を誓うイスラム武装勢力と、これを制圧しようとするフィリピン政府軍の戦闘によって、大勢の市民が脅威にさらされています。」

増井
「中東から離れたフィリピンのミンダナオ島で、なぜISの影響力が高まっているのでしょうか。」

松岡
「フィリピンは、国民の90%以上がキリスト教徒。
ところが、今回の舞台となっているミンダナオ島は例外なんです。
イスラム教徒の多いマレーシアやインドネシアのすぐ近くに位置し、500年前にはイスラム国家が栄えた歴史を持ちます。

現在も島の人口の4分の1がイスラム教徒。
特に島の西部、戦闘が続くマラウィ周辺は、イスラム色が非常に強い地域で、1970年ごろからイスラム系の武装勢力が、分離独立を求めて反政府活動を続けているんです。
その代表格が、西の沖合いの島々を拠点とする過激派組織『アブサヤフ』。
そして、マラウィがある南ラナオ州を拠点とする新興勢力『マウテグループ』です。
2つの組織をはじめ、複数の勢力が次々にISの支持を表明。
別々に活動していた地元の武装勢力が、ISという旗印のもとに結集しました。

そして、島の中心付近にあるマラウィにISの拠点を構築しようともくろみ、現在、政府軍との間で激しい戦闘を続けているんです。
緊迫した状況が続くミンダナオ島に、NHKの取材班が入りました。」


フィリピン 現地報告 マラウィ戦闘 最新情勢

マニラから南へ900キロのミンダナオ島へ。
さらに陸路で2時間余り、マラウィがある南ラナオ州に入りました。
マラウィに続く国道には、政府軍が数キロごとに検問所を設置しています。
武装勢力のメンバーの手配写真が貼られ、厳重なチェックが行われていました。

頻繁に行きかう軍用車両。
現地は張り詰めた空気に覆われていました。

姫野敬司支局長(マニラ支局)
「こちらの検問所の先、5キロほど行ったところにマラウィがあります。
マラウィでは現在も戦闘が続いています。」

マラウィの街に立ち上る黒煙。
そして、響き渡る銃声。
政府軍は戦闘機や戦車を前線に投入し、武装勢力を制圧しようとしています。

これに対して武装勢力側の戦闘員たちは、住宅街に入り込み、街じゅうにISの旗を立てるなど、存在を誇示しながら激しい抵抗を続けています。
フィリピン軍によりますと、これまでに市民27人を含むおよそ400人が死亡しています。
そして…。

姫野支局長
「マラウィの隣町にあるこちらの体育館には、仮設の避難所が作られています。」

マラウィに20万人いた住民の大半は周辺の町に避難し、厳しい生活を余儀なくされています。
生活の場は、コンクリートに敷かれたシートの上。
衛生状態も十分とはいえない環境です。

そして、避難所で多く見かけるのが、子どもたちの姿。
子どもたちの学び舎は戦場となり、学校へ行くこともできず、精神的なストレスは限界にまで近づいています。

子ども 「戦争がなくなってほしい。
このままじゃ勉強ができない。」

子ども
「この先どうなるか、家が無事かもわからない。
住むところがなくなったらイヤだ。」

避難所の隣に設けられた診療所を訪れてみると、多くの幼い子どもたちが点滴を受けていました。
最高気温が30度を超える日が続き、幼児や高齢者の多くが脱水症状などを訴えています。
各地の避難所を合わせ、20人余りが亡くなっているということです。

避難民
「こんな暮らしをしていては子どもが病気になってしまう。
うんざりだ。」

そして取材を続ける中、私たちは今回、ある映像を入手しました。
政府軍が制圧したグループのアジトから押収されたものです。

戦闘が始まる直前の先月(5月)下旬、「マウテグループ」が撮影したとみられる幹部会議の映像です。
幹部たちが、マラウィを支配下に置くための作戦を練る様子が映し出されています。

アブドゥラ・マウテ幹部
「われわれの計画はマラウィを侵略することだ。
われわれは今ここにいる。」

声の主は、マウテグループを立ち上げたマウテ兄弟のうちの兄、アブドゥラ・マウテ幹部。

アブドゥラ・マウテ幹部
「お前たちどう思う?
この場所にどう戦闘員を配置しようか。
装甲車を使って標的のエリアに突き進むんだ。」

さらに映像には、ある男の姿が捉えられていました。
頭に黄色い布を巻く、この男。
フィリピンのイスラム過激派組織「アブサヤフ」の最高幹部、イスニロン・ハピロン容疑者です。

アメリカが、重要手配犯として懸賞金500万ドル、およそ5億6,000万円をかけ、行方を追っている人物です。
ハピロン容疑者は、2014年にISに忠誠を誓い、その後、ISからフィリピンの指導者に指名されたと伝えられています。
これまでは、別々に活動をしていたアブサヤフとマウテグループ。
今回の映像から、マラウィにISの拠点の構築を図ろうと一体となって活動していることが明らかになりました。
さらに、ISの拠点構築という共通の目標を掲げることで、インドネシアなど周辺国のほか、中東などからも戦闘員を集め、組織力を高めている実態も浮かび上がってきています。

フィリピン ロレンザーナ国防相
「マラウィの戦闘で殺害した外国人戦闘員は、サウジアラビア2人、マレーシア数人、インドネシア、イエメン、それにチェチェンだ。」

新たに東南アジアで影響力を強めようとしているISをどう押さえ込むのか。
ドゥテルテ大統領は、どんな強硬な手段を使ってでも武装勢力を制圧する姿勢を鮮明にしています。

フィリピン ドゥテルテ大統領
「マウテグループはISに感化されている。
俺は国を守るためなら何だってやる。」


“何でもやる” 軍作戦どこまで?

花澤
「ここからはマニラの姫野支局長に聞きます。
ドゥテルテ大統領は掃討に向けて何でもやると話していましたが、軍による作戦はどの程度進んでいるのでしょうか?」

姫野支局長
「政府軍は予想以上に苦戦を強いられていて、事態の長期化は避けられない情勢です。
武装勢力は現在も百数十人が住宅地に入り込み、住民を『人間の盾』にして激しい抵抗を続けています。
このため、軍は空爆を限定的にとどめ、地上部隊によって武装勢力の支配地を1つずつ奪還していかざるを得ない状況です。
制圧の時期について、軍は戦闘開始当初『2~3日以内』としていました。
しかし昨日(28日)、国防のトップは、その見通しを大統領が施政方針演説を行う来月(7月)24日まで後退させるなど、収束のめどは立っていません。」


忍び寄るIS脅威 国民は…

増井
「今の状況を国民はどう受け止めているのでしょうか?」

姫野支局長
「国民もISの脅威の足音が大きくなっているのを肌で感じています。
この数か月、ミンダナオ島だけでなく、マニラや中部のリゾート地などでISを支持する勢力のメンバーが相次いで拘束され、爆弾テロや未遂事件も起きています。
さらに、商業施設やイベント会場では、セキュリティーチェックが以前より格段に厳しくなり、普段の生活の中でもその変化が見て取れます。
そのため、国民の間では『剛腕で強い指導者』と捉えるドゥテルテ大統領に何とかしてほしいという声が日に日に高まっています。」


“IS拠点化” 阻止できるか

花澤
「ただ、仮にフィリピンにISの拠点が構築されるようなことになれば、アジア全体にとっても大きな脅威を抱えることになりますが、今後はどうなると見ていますか?」

姫野支局長
「ISの脅威を完全に押さえ込むというのは容易ではないと思います。
フィリピンは、地縁血縁の関係が非常に強く、武装勢力も兄弟から親戚、その友人と、かなり広い範囲で結びついています。

今回の戦闘で武装勢力側は戦闘員の70%程度を失っているとされますが、ゆがんだ憎しみから新たな戦力が出てくることは否定できません。
ミンダナオ島は国内でも貧しい地域の1つで、それが政府への不信となり、過激な思想への傾倒にもつながっています。
貧困の解消という長年の、そして、根本の問題を解決しない限り、ISの脅威を取り除くことはできないと思います。」

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