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特集

2017年5月1日(月)

イラク 追い込まれるIS 開放地域は今…

 
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過激派組織IS=イスラミックステート。
ISのイラク最大の拠点モスルでは、イラク軍による奪還作戦がいよいよ大詰めに。
ISから解放されたばかりのモスル近郊の町・バシカ。
今回、取材班が初めて入りました。



渡辺常唱支局長(カイロ支局)
「こちらは過激派組織ISが残していった武器の数々です。」

ISが支配していた痕跡が数多く残っています。
荒廃した町は復興もままならず、住民のほとんどはまだ戻れていません。

「みんながここに戻って来てほしい。」

モスル奪還作戦の現状と今後の課題について、現地からの報告です。

対IS 進む“奪還作戦”

花澤
「過激派組織ISがイラク最大の拠点としてきた北部の都市・モスル。」

増井
「イラク軍やクルド人部隊がその奪還に向け、各地で攻勢を強めています。」

松岡
「イラクとシリアにまたがる広大な地域を支配してきたIS。
かつてはここまで支配を広げていましたが…。

現在では、ここまで縮小しています。

そして、今回取り上げるイラク北部の都市で、ISがイラク最大の拠点としてきたモスルはこちら。
モスルはISにとって、政治的、そして財政的に極めて重要で、ここを奪還すればISに極めて大きな打撃を与えることができます。
イラク軍は去年(2016年)10月、イラク国内のクルド自治政府の治安部隊などとともに奪還作戦を開始しました。
モスル市街地を拡大すると、こうなっています。

奪還作戦は街の東側から始まりました。
イラク軍は、今年(2017年)9月中旬、チグリス川で二分される市内の東半分をすべて制圧しました。
そして態勢を整えて、2月から西半分の攻略を開始。
これまでに市内のおよそ80%を制圧し、全域の奪還に近づいています。」

花澤
「進むモスル奪還作戦。
NHKの取材班が、作戦によってISから解放されたモスル近郊の町に入りました。」


取材班 現地リポート ISの爪痕が残る町

リポート:渡辺常唱支局長(カイロ支局)

今回、私たちはクルド自治政府の治安部隊の案内で、モスル近郊の町・バシカを訪れました。
ISから解放され5か月がたつ町です。
町の南端に到着して、まず目についたのは、住宅の無残な姿でした。

ISの戦闘員が潜んでいた住宅に対し、アメリカ軍主導の有志連合などが空爆や砲撃をした跡です。
住宅の壁には銃弾の跡が、なまなましく残っていました。

渡辺支局長
「こちらの建物、大きく破壊されていますが、かつてISが重要な拠点としていたところです。
建物の塀には今も、『ISは神の名の下にとどまる』と記されています。」

ISの戦術を知ることができる場所にも案内されました。

渡辺支局長
「こちらの住宅は以前ISの戦闘員が拠点にしていた場所です。
あちらの住宅からこのようにトンネルが掘られていて、向こうに続いています。
高さがだいたい150センチくらい、かがめばこのように歩けます。

幅はだいたい1メートルないくらいでしょうか。
このトンネルの上にトタン板がかぶせられて、上空からはトンネルの存在がわからないという状況になっていました。」

ISの戦闘員が空爆から逃れるため密かに通って移動したり、逆に奇襲攻撃を仕掛けたりするのに使われていました。
町には他にも、ISの支配の痕跡があちこちで見られます。
ひとつの倉庫に案内されました。

渡辺支局長
「こちらは過激派組織ISが残していった武器の数々です。
クルド自治政府の治安部隊が押収しました。」

内部にはたくさんの砲弾が残っていました。
ただ、これらは一部にすぎず、多くは爆破処理したといいます。
ISに対する軍事作戦に実際に参加した治安部隊の幹部は、作戦は困難を極めたといいます。

治安部隊 アブデルカーデル・アブドラ大尉
「対ISで苦慮したのは、多用される自爆攻撃だ。
爆弾を積んだ車が突入してきたりした。
重要な場所はISから解放したので、これからやるべきことは町の復興だ。」



2年余りに及ぶISの支配から解放された町・バシカ。
しかし5か月たっても、ほとんどの住民は戻ってきていません。
かつてバシカの町は、イスラム教徒やキリスト教徒、そしてイラクでは少数派のヤジディ教徒が共存していました。
この日、およそ3年ぶりに自宅の様子を見に帰ってきた男性に会いました。
サード・ダルウィッシュさんです。
難民としてドイツに渡り、そこで暮らしています。
ヤジディ教徒のサードさんは、3年前の夏、ISの異教徒に対する過酷な扱いを聞き、ISが町にやってくる前に故郷を離れました。
久しぶりに入った我が家。
留守の間、この家にはISの戦闘員が寝泊まりし、ISのものとみられる衣服やマットレスが放置されていました。
幸い、住宅は大きくは壊されていませんでしたが、電気もつかず、水道も止まっています。

サード・ダルウィッシュさん
「ここでは暮らせません。
水も電気もなく、どうやって暮らせるんですか。」

住民はすべて故郷を追われ、難民として国外に出た者も多く、地域社会が完全に失われてしまいました。
サードさんの兄弟もまた、アメリカやドイツ、オランダと散り散りになって暮らしています。
毎日、顔を合わせていた近所の人たちの行方も分からないままです。

サード・ダルウィッシュさん
「平和な暮らしをISがすべて破壊しました。
地域社会や隣人とのつながりをです。
イラクが平和になって、みんながわが家に戻れるよう願っています。」



ISに破壊された地域社会

増井
「ここからは、現地を取材したカイロ支局の渡辺常唱支局長に聞きます。」

花澤
「ISが地域に与えた傷の深さがよく分かりました。
取材してみて最も強く感じたことはなんでしょうか?」

渡辺支局長
「ISから解放されても、一度壊されてしまった地域社会をもとに戻すのは容易ではないということを痛感しました。
国外に難民として逃れた人も多いうえ、町が解放されてもインフラなどの復興には時間と資金が必要です。
ただ、この町のヤジディ教徒たちは先月(4月)、ISによって破壊された寺院の再建を果たしました。
復興が始まったことの象徴だと感じました。

クルド自治政府の治安部隊が、がっちりと町の守りを固めているという印象も受けました。
しかしこれは、脅威がくすぶっているからこその厳戒態勢とも言えます。
一部で不発弾や仕掛け爆弾などが除去されていない場所も残っているということで、治安部隊からは、移動にあたっては指示に従うよう言われました。」



作戦大詰め 住民の犠牲も

増井
「ISの壊滅に向けたモスル奪還作戦の現状はどうなっているのでしょうか?」

渡辺支局長
「モスル市内のおよそ80%を奪還したとするイラク軍の参謀総長は、今後3週間程度で市内全域を奪還できる見通しだとして、作戦は大詰めとの認識を示しました。
ただISの支配地域には多数の住民が取り残されています。
誤爆や住民の巻き添えも相次いでいて、犠牲者を出さないよう軍事作戦を慎重に進める必要があります。
モスルから避難した住民の証言からは、ISが住民を『人間の盾』とし、指示に従わなければ容赦なく殺害している状況がうかがえました。」

モスルから避難した住民
「IS戦闘員は住民を家から出さないようにした。
ISを標的にすれば住民が巻き添えになる。
『外に出ようとしたら、おまえも家族も処刑する』とISが脅してきた。」

渡辺支局長
「さらに専門家は、逃げ場のないISは文字通り、死にものぐるいで向かってくると指摘します。」

軍事評論家 旧イラク軍大佐 アラー・ナショアー氏
「スナイパーや自爆攻撃による抵抗は、中心部に近づくにつれ、さらに激しさを増すだろう。
戦闘の最終盤が最も困難なものになることを理解しておく必要がある。」




“奪還後”の新たな懸念

花澤
「まさにここからが正念場なんですね。
とにかくこのモスルが重要ということだと思いますが、今後の課題はなんでしょうか?」

渡辺支局長
「モスルを奪還すればISの壊滅に向けて大きく前進します。
隣のシリアでも今後、ISへの攻勢が強まっていくと見られます。
ただ気になるのは、ISの排除にかなり近づいてきたイラクで、再び根の深い問題が頭をもたげてきたことです。
それは宗派間、“民族間の対立”の再燃です。
イラクには大きく分けて多数派のイスラム教シーア派、スンニ派、そしてクルド人の3つの勢力がいます。
これまでは共通の敵・ISを倒すということで、まがりなりにもまとまっていましたが、例えばクルド人勢力は、油田を抱えるキルクークも含め、イラクからの独立の是非を問う住民投票を年内に行おうと動き出しています。
実際に行われればシーア派主体の中央政府との対立は必至です。

このすきをついて過激な勢力が再び勢いをつけてくるおそれもあります。
イラクはこれから、根深いこの問題にも真正面から向きあっていかなければなりません。」

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