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特集

2017年2月1日(水)

ドイツに学ぶ『働き方改革』

 
放送した内容をご覧いただけます

日本社会に大きな衝撃を与えた大手広告会社「電通」の過労死の問題。
このニュースは海を越え、ヨーロッパでも大きく取り上げられました。
この問題と無縁とされているのが“労働先進国”のドイツ。



 

男性
「私のワークライフバランスでは(過労死は)絶対に起きない。」

 

男性
「仕事・家庭・趣味、時間を十分に取れ、とてもうまくいっています。」

 

ワークライフバランスのお手本を示すドイツ。
その働き方の秘けつに迫ります。

 

田中
「日本で今、大きな社会問題になっている『過労死』。
電通の問題は、海外でも“Karoshi”と表現され、繰り返し報道されています。」




 

佐藤
「こうした中、今日(1日)注目するのがドイツです。
ドイツの平均労働時間は、1,366時間。
日本と比べると、20%も短いんです。

 

その一方で、労働時間あたりのGDP=国内総生産は、日本の1.5倍。
つまり、日本よりも短い労働時間でより大きな成果を出しているということなんです。
ドイツの人たちは、一体どんな働き方をしているのでしょうか。」

“労働先進国”ドイツ流 働き方

リポート:堀征巳記者(ヨーロッパ総局)

空調設備の大手部品メーカーで働く、ウーベ・マルティンさんです。
営業を担当するマルティンさんのこの日の出勤時間は朝7時。
フレックスタイム制度を取り入れているこの会社では、すでに多くの人が働き始めていました。

このメーカーの従業員は、3,500人あまり。
1970年代から働きやすい環境の整備を段階的に進めてきました。
そのために、まず進めたのが「会議時間の削減」でした。



 

ウーベ・マルティンさん(32)
「新しいプロジェクトがあるので、これまでのデータを確認させて。」

担当者間の打ち合わせは必要最小限の人数で立ったまま行います。
大きな裁量を与えることで、意思決定のスピードを大幅に向上させました。
この日の打ち合わせは10分で終わりました。

さらに働きやすさを高めているのが「労働時間貯蓄制度」です。
例えば、マルティンさんが2時間残業したとします。




 

すると口座に2時間分がたまり、別の日に2時間分早く、仕事を切り上げることができます。
いわば、銀行口座のような制度です。
最近では、貯蓄した残業時間を、有給休暇に振り替えられる企業も増えています。

 

ウーベ・マルティンさん(32)
「口座に残業がたまってくると、上司に『もう少しで上限だ』と警告されます。」




 

こうした働き方を維持するのに欠かせないのが「行政の厳しい指導」です。
労働当局は、会社が提出したタイムカードを1枚ずつチェック。
悪質な違反を見つければ、経営側に最高で180万円余りの罰金や1年間の禁錮刑を科します。
法律違反する企業には、優秀な人材が集まらなくなるため労働環境の整備が進んでいると言います。

労働基準監督署 担当者
「毎日、抜き打ちで企業を訪問し、労働時間記録を提出させてチェックしています。」




 

マルティンさんが、この日帰宅したのは、予定通り午後3時すぎ。

ウーベ・マルティンさん(32)
「ただいま、ユリウス!
今日は楽しかったかい?
パパが帰ってきたよ。」

仕事を終えて先に帰宅していた妻と、半年先の夏休みの旅行プランを話し合います。
ドイツでは最低24日の有給休暇が保証されていますが、マルティンさんの会社では、30日の休暇を認めています。

ウーベ・マルティンさん(32)
「3週間の休暇でスイッチをオフにします。
リフレッシュして充電したあとは仕事に戻って、しっかり働きます。」

マルティンさんの妻
「モチベーションにつながります。」

職場環境の整備は、会社の業績にも好影響をもたらしています。
苦戦した年もありましたが、この10年程で売り上げは倍に伸びました。
会社側は、“私生活の充実こそが仕事の生産性を高めるカギ”だと考えています。

労務管理 担当者
「健康管理などだけではなく、従業員に何か問題が生じた時には支援しています。
何より社員に満足して仕事をしてもらうことが、会社にとって大切だと考えています。」



 

“労働先進国”ドイツの働き方。
私たちにも学べる所がありそうです。

 

残業は悪? 出世にもマイナス?

田中
「取材にあたったヨーロッパ総局の堀記者に聞きます。
VTRのマルティンさんの例は非常に恵まれた企業に見えたんですけれども、ドイツでは社会全体がこのように短時間労働、そして高い生産性を実現しているのでしょうか?」

堀征巳記者(ヨーロッパ総局)
「そうだと思います。
今回取材した企業が特別なのではなく、社会全体が休息の重要性を認識していると感じました。
ドイツでは勤務時間内に仕事を終えるのは当たり前です。
残業が多いのに成果の少ない社員は“仕事を片付けられない無能な人”として評価が下がってしまいます。
残業すれば手当ても出ますが、評価が下がることのほうが出世にも影響し、マイナスが大きいんです。
ドイツで働く人を見ると、昼ご飯もなるべく早く済ませて仕事を一気にやる集中力が高いように感じます。
また、残業によって社員の健康を害すれば、管理職側の責任も厳しく問われるので、労働時間の厳守が根付いているんだと思います。
さらに、経済が好調なドイツはEUの主要国で最も失業率が低く、優秀な人材が不足しています。
企業は人材確保のためにも待遇を改善する必要に迫られているんです。」

 

ドイツでも急増 派遣社員

佐藤
「私たちから見ると“うらやましいな”というところが多かったんですけれども、一方で、課題はないのでしょうか?」

堀記者
「ドイツではここ10年余りで労働市場の規制緩和が行われ、派遣社員が急増して、正社員との格差が問題になっています。
いまや派遣社員は100万人近くに上りますが、平均の賃金は正社員より40%少ないんです。
ドイツ最大の労働組合は、正社員の労働環境を守るために派遣社員が犠牲になっていると指摘しているんです。
いわば、日本と同じような状況があるわけで、企業や政府が派遣社員の生活をどう守っていくのかが問われています。」

 

ドイツ人が見た日本の労働現場

佐藤
「スタジオには、筑波大学准教授のマルティン・ポールさんにお越しいただきました。」

田中
「ポールさんは日本とドイツ両方の労働事情に詳しいということで、ドイツ人のポールさんから見て、日本人の働き方というのはどのように感じていますか?」

筑波大学人文社会系経営学 准教授 マルティン・ポールさん
「まさに日本とドイツの文化というのは非常に違いがあると思います。
私が日本で驚いたのは、会議です。
というのは、あまりにも多くの会議が行われます。
それに加えて会議の中で決めることですが、すでに意思決定がなされているというんです。
その意味では、管理職の関与が必要だと思います。
しかし、今のところ管理職が十分に関与していないんだと思います。
VTRでも見たように、管理職の関与がワークライフバランスには必要です。
もう1点、驚いたのは、外国人の人たちですが、評価されるのはその専門性ではなく、自分たちの言語能力です。
それに加えて実際に評価されるのは、その評価される人の感情です。」

 

労働者“厚遇” ドイツの事情とは

田中
「ドイツが大切にしているのが、“充実した有給休暇”や“労働時間の貯蓄制度”などがありました。
このように労働者が働きやすいように工夫がされているように感じましたけれども、これはどうしてなんでしょうか?」

筑波大学人文社会系経営学 准教授 マルティン・ポールさん
「伝統的にドイツの社会は積極的に労働者を保護しています。
特に労働組合が発達しています。
ドイツではそれほど労働組合の数は多くないんですが、それぞれが産業の労働組合として活動しています。
グローバルな大企業であっても、数千数万の中小企業の労働組合も一括して交渉を行っています。
給与の交渉も一括して行っています。
大企業、中小企業に関わらず基本給は同じです。
これがドイツの経済に大きな影響を与えています。
競争で勝つためには、給与を引き下げることはできません。
成功するために必要なのは、成功できるような製品、そしてサービスを提供することです。
さらに製品の質を高めることです。
そのためには労働者の人たちもクリエイティブである必要がありますし、VTRにあったようにワーキングコンディションを十分に用意しなければなりません。」

 

外国人労働者もドイツ社会の一員

佐藤
「生産性を上げるために、ドイツの企業では具体的にどんな工夫をしているのでしょうか?」

筑波大学人文社会系経営学 准教授 マルティン・ポールさん
「ドイツの企業ですが、実際に社員のスキルを向上させるための責任を担っています。
例えば、金属や電子機器の業界では、企業の規模に関わらず、少なくとも1週間の研修が行われます。
もちろん、これは有給で行われます。
彼らが実際に社会で技能を高めるためのチャンスなんです。
特に日本でも重要だと思いますが、ドイツでは非常に優秀な外国人社員を採用しますが、同じように挑戦させます。
そうすることによって多様性も高まることになりますし、それによって企業がイノベーティブになることができます。
その意味で、ドイツ社会に組み込まれていくことになります。
数年後に帰国するということではありません。」

 

「第4次産業革命」 職場の未来像とは

田中
「世界の労働環境にとって課題になっているのが、人工知能などによる第4次産業革命なんですけれども、生産性が向上する一方で、失業者が増える心配も出ています。
これに対してドイツはどのように対応しようとしているのでしょうか?」 

筑波大学人文社会系経営学 准教授 マルティン・ポールさん
「ドイツの社会にとっても大きなチャレンジになっています。
第4次産業革命ですが、雇用にも非常に大きな影響を与えると考えています。
そして、大半の雇用に大きな影響を与えるでしょう。
多くの仕事が失われます。
この現象は過去にもあったことです。
しかし、今回の産業革命においては、そのスピード、方向性は分かりません。
日本とドイツは大きな影響を受けるでしょう。
政治にできることは、変革過程をモニタリングして、公の議論の俎上(そじょう)にのせること。
ドイツ政府は同時に、未来の働き方について技術的・経営的観点からの議論の促進を行っています。」

田中
「日本がドイツからいろいろ学べるところがあると同時に、共通の課題もあるということですね。」
 

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