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特集

2017年1月16日(月)

トランプ大統領誕生で『中東和平』の行方は?

 
放送した内容をご覧いただけます

アメリカ トランプ次期大統領
「米国とイスラエルが手を携えれば平和になる。
I love Israel.」




20日、大統領に就任するトランプ氏。

そこで注目されるのが、中東地域安定のカギを握るイスラエルとパレスチナ側の和平交渉のゆくえです。
仲介役として、大きな影響力を持つアメリカ。
その次期大統領が、イスラエル寄りの姿勢を鮮明にしているのです。



トランプ氏
「アメリカとイスラエルは不滅の友情で結ばれている。」




トランプ政権で中東和平はどこへ向かうのか?
特集で読み解きます。

田中
「スタジオには、中東調査会・主席研究員の中島勇(なかしま・いさむ)さんにお越しいただきました。
まず、トランプ氏の就任で中東和平交渉への影響、ひと言で言うとどうなると見ていらっしゃいますか?」



中東調査会 主席研究員 中島勇さん
「ひと言で言うと、『大きなクエスチョンマーク』。
彼が何を考えていて、何をしたいのか。
あるいは側近の人たちからは非常に強硬な発言がありますが、それが本当に政策に反映するのか、あるいは単なる『希望』の発言かというのはわからないという状況が続いています。
ですから非常に過剰な不安と、過剰な期待とがあるので、ある意味で『非常に不安の大きいクエスチョンマーク』というのが今の状況だと思います。」

田中
「では後ほどたっぷりと伺いたいと思います。
中東和平の実現は、アメリカの歴代政権が最も力を入れてきた外交政策の1つです。
まず、イスラエルとパレスチナ側の和平交渉の経緯について、佐藤さんからです。」

佐藤
「中東和平交渉は、イスラエルと将来のパレスチナ国家の平和的な共存を目標として行われてきました。




第2次世界大戦の後、国連は、イギリスの委任統治領だったパレスチナについて、ユダヤ人国家とアラブ人国家に分ける決議を採択しました。

これを根拠に、1948年、ユダヤ人国家のイスラエルが独立を宣言。
反発するアラブ諸国との紛争が相次ぎました。

1993年、アメリカが仲介役となり、パレスチナ側の自治を認める、いわゆる『オスロ合意』によって和平交渉が始まりました。





ところが2000年、ユダヤ教、イスラム教、キリスト教の聖地があるエルサレムの帰属問題で決裂。

さらにその後、イスラエルが進める占領地への入植活動が原因となって、交渉は再開と中断を繰り返しました。
2014年4月以降、直接対話による和平交渉はまったく行われていません。
こうした中で大統領に就任するトランプ氏は、オバマ政権とは対照的に、イスラエル寄りの立場を示すとみられています。」

田中
「そのトランプ新政権発足を前に、中東和平交渉の再開を促すための国際会議が、15日、パリで開かれました。」

トランプ氏就任を前に パリで中東和平会議

フランス オランド大統領
「イスラエルとパレスチナの共存以外に、和平への道はない。」




トランプ政権発足の5日前に開かれた中東和平会議。
アメリカのケリー国務長官をはじめ、およそ70カ国の外相などが参加しました。
しかし…。



イスラエルは、会議がパレスチナ寄りで、和平の役に立たないとして出席を拒否。





それを受け、パレスチナ暫定自治政府も欠席しました。
会議の最後、各国は、「今後の交渉で決めるべき事柄を決めつけるような一方的な行動をとるべきではない」とする共同宣言を採択。
イスラエル寄りの姿勢を強めているトランプ氏をけん制しました。




会議の主役 なぜ欠席?

田中
「取材した、エルサレム支局の佐伯支局長がパリにいます。
今回の会議、肝心の主役が双方とも欠席ということですが、双方の本音はどこにあるんでしょうか?」

佐伯敏支局長(エルサレム支局)
「イスラエルは、トランプ政権の誕生まで何もしたくないのが本音です。
会議はもともと、和平交渉を再開するために国際社会が関与を強めようという主旨のものです。



国際社会、特に欧米の口出しを嫌うイスラエルが、政権交代まであと5日という今、自分たちにとって都合の悪い会合に出るメリットはありませんでした。




一方、パレスチナ側はこの会議を歓迎していて、参加に積極的でしたが、パレスチナだけが参加しては会議の公平性に関わるとして、ホスト国のフランスが配慮し欠席になったとみられています。」





主役不在なのに なぜ開催?

佐藤
「今回の会議、当事国がいないにも関わらず、70もの国が参加することになったのはどうしてなのでしょうか?」

佐伯支局長
「発足間近のアメリカの新政権によって、これまでの中東和平の枠組みが崩れてしまうことへの危機感があるからです。

実際、会議では欧米やアラブ諸国が共同宣言でまとまって懸念を表明しています。
宣言では名指しこそしないものの、明らかにアメリカを念頭に置いた異例の内容で、フランスのエロー外相も『イスラエルとパレスチナの和平を世界が望んでいるということを、アメリカの新政権に理解してほしい』と述べました。
なぜ参加国はそうした危機感を共有しているのか。
背景には、トランプ氏が掲げる、ある公約の存在があります。」


“大使館をエルサレムへ” トランプ氏で揺れる中東

リポート:佐伯敏支局長(エルサレム支局)

トランプ次期大統領の就任を前に揺れる中東和平。
中でも、懸念されているのが…。

トランプ氏
「われわれは、アメリカ大使館をユダヤ人の永遠の首都であるエルサレムに移転する。」

現在、イスラエルにあるアメリカ大使館の移転です。

アメリカをはじめ各国は、エルサレムの帰属はイスラエルとパレスチナ側の話し合いで決まるとして、大使館はテルアビブに置いています。

ユダヤ教、イスラム教、そしてキリスト教の聖地があるエルサレム。
その帰属をめぐって対立が続いてきました。

1967年の第3次中東戦争で、イスラエルは東エルサレムを占領し、一方的に併合。
イスラエルは統一したエルサレムを首都だと主張していますが、国際社会は認めていません。

佐伯支局長
「私が今歩いているこの線路沿いの道が、イスラエル側の西エルサレムと、占領地である東エルサレムの境目になります。」




東エルサレムの住民は、今でもアラブ人であるパレスチナ人がほとんど。
パレスチナ側も、エルサレムを将来の国家の首都だと主張しています。




実はアメリカは、大使館のエルサレムへの移転を以前から検討していました。
1995年には、議会が移転の法案を可決。
しかし、アラブ諸国からの反発をおそれ、歴代大統領は実行を見送ってきました。

ところが、トランプ氏の政権移行チームは、その大使館の移転を「最優先事項」だとしました。
すでに予定地の本格的な検討に入ったと報じられています。
これに対しパレスチナ暫定自治政府のアッバス議長は、14日、メディアのインタビューで…。



パレスチナ暫定自治政府 アッバス議長
“大使館を移転するなら、イスラエルの国家の承認を取り消すことも検討する。”

もし大使館移転が実行されれば、イスラエルとパレスチナ側の和平交渉は完全に崩壊するおそれがあります。


もし米大使館 移転したら…

田中
「再び中島さんにお伺いします。
冒頭で、トランプ氏の就任による中東和平交渉への影響は『クエスチョンマーク』とおっしゃっていましたが、このアメリカ大使館の移転、これが実際に行われると、どんな影響が出てくるんでしょうか?」

中東調査会 主席研究員 中島勇さん
「これはある意味、宗教問題といいますか『聖地問題』がありますので、皆がやめろと言っている言い方は、壊滅的なことが起きるとか、爆発的なことが起きるとか、はっきりしていないんですが、皆怖がっている。
怖がっているというのはこの聖地問題がありますから、宗教的なリアクションがどうなるかわからないという不安がいちばん大きいのだと思います。」

田中
「アッバス氏もかなり激しい反応を示していますよね?」

中東調査会 主席研究員 中島勇さん
「アッバス氏が言った『イスラエル承認を取り消す』というのは、ある意味で、今のパレスチナが持っている最大の武器を持ってきたということになりますから、彼がこういうふうにはっきり言うのは非常に珍しいというか。」

田中
「『大使館が移転された場合はイスラエル国家の承認を取り消す』と。」

中東調査会 主席研究員 中島勇さん
「そうですね。
この意味するところは、1993年のオスロ合意を取り消すということになりますから、過去20年ちょっとの議論の積み重ねを一度全部白紙にしますよということを彼は言っているということになります。」

田中
「一方でトランプ氏は、ISの壊滅を最優先課題にするとも言っているんですが、そこには影響はありそうでしょうか?」

中東調査会 主席研究員 中島勇さん
「もしアメリカの次期政権がIS壊滅を最優先するということであれば、当然ながらアラブの国、それからイスラムの国と関係を強化するということをやらなければいけないというのがありますから、エルサレムに大使館を移転するとなれば、いちばん怒るのはイスラム教徒ですから、そのイスラム教徒、アラブ人がある意味で激怒すると。
そういうことをこちらではやりたいと言いながら、一方では『彼らと一緒に戦いますよ』ということをやっている。
どうしてこうした矛盾する議論を彼らがやっているのかがわからないという意味で、周りが非常に心配しているという形ですね。」

田中
「両立しない2つの課題ということですね。」


イスラエルとパレスチナ 関係は?

佐藤
「トランプ氏の就任で、イスラエルとパレスチナの関係というのはどうなりそうですか?」

中東調査会 主席研究員 中島勇さん
「従来、アメリカだけが仲介役という役割がありまして、今もそれが変わらないんですが、アメリカの大統領というのは基本的には親イスラエルなんです。
親イスラエルの大統領が公平な仲介役をやるということで、ある意味、非常に意図的に『自分たちは中立なんだ』ということを演出してきました。
ときどき『違うじゃないか』という批判はありましたが、アメリカはつとめて中立的であろうとしたのが伝統だったんですが、今回のトランプ氏については、彼自身というよりも彼の周辺に、どう見てもイスラエル、それも極右のイスラエルに近いような発言をしている人たちがいますから、彼らが本当に仲介役ができるのかということを皆が心配しています。
パレスチナ問題については混乱が起きるのではないかというのが、いちばん大きいと思います。」

田中
「最悪の場合、パレスチナ側はどうなってしまうのでしょうか?」

中東調査会 主席研究員 中島勇さん
「パレスチナは、サッカーの試合で例えますと、審判が相手方のチームのユニフォームを着て、一緒に戦ってるチームと試合をしなくてはいけないということになりますから、非常に戦いにくいというか、フェアな審判がいないまま交渉しなくてはいけないことになりますから、非常に厳しいと思います。

田中
「パレスチナ自治区の存在自体が危うくなってくるということでしょうか?」

中東調査会 主席研究員 中島勇さん
「そうですね、もしそういう戦いであれば、先ほどアッバス氏が言っていましたが、『国家承認を取り消す』と。

ということであれば、この白い地域にパレスチナという国をつくるということ自体も、もう一度考え直すというくらいの影響はありますから、非常にインパクトは大きいと思います。」


中東情勢への影響は?

田中
「そして、トランプ政権発足の中東全体への影響というのはどうなりそうでしょうか?」

中東調査会 主席研究員 中島勇さん
「やはりいちばん大きいのは『わからない』と。
いろんなことを言っていますが、本当に何をやるかという政策についての説明がないので、わからないというのが大きいと思います。

その中で、今日は中東和平問題ですが、イランの核合意についてはトランプ氏は非常に批判をしていて、就任したらすぐ無しにするという発言はあるんですが、仮にイランとの合意を一度なくした後に、どうするかという説明が何もないんですよね。
そうすると本当になくすのか、あるいは、選挙戦の途中ではなくすと言っているけど、実際に大統領になったらしばらくは、もしくはずっとこのままでいくのかというのがわからないという意味で、非常に不安が大きいということだと思います。
従来、いろんな政権がありますが、過去の政権の政策をある程度継承しながら自分たちの色合いをつけていくという形であれば周りも予想しやすいんですが、今回のトランプ次期政権については、そこが非常に読みにくいというのがいちばん怖いというか、心配の原因だと思います。」

田中
「ただ、いろいろなところに影響は出てきそうだということですね。」

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