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特集

2017年1月12日(木)

ジャカルタテロから1年 衝撃 IS“養成マニュアル”

 
放送した内容をご覧いただけます

去年(2016年)1月、ジャカルタ中心部で男らが爆弾を爆発させ、銃を乱射し、30人が死傷したテロ事件。
過激派組織IS=イスラミックステートの支持者が起こしたこのテロ事件から、まもなく1年になります。



インドネシアでは、その後もテロ事件の摘発が急増しています。
取材で見えてきたのは、これまでの「戦闘員のリクルート」だけにとどまらない、ISの新たな手口でした。




ISの支持者を遠隔でテロリストに養成する衝撃の“マニュアル”を入手。
インドネシアと中東を結ぶ、新たなテロ・ネットワークに迫ります。

田中
「ISがテロの標的としている国の1つが、世界で最も多くのイスラム教徒を抱えるインドネシアです。
ここを足がかりに、アジアでの影響力の拡大を図っていると見られます。
そして今、その手口が大きく変わろうとしています。」


佐藤
「これまで世界をしんかんさせてきたテロは、ISにリクルートされてISの支配地域に渡り、そこで訓練を受けた戦闘員が母国に帰って企てる。
あるいは、ISに感化された人物が独自に計画を実行するというものでした。

しかし、各国の監視強化でISの支配地域との行き来が難しくなる中、ISが新たに行っているのが、『遠隔』でテロリストを養成することです。
ISの戦闘員はシリアにいながら、インターネットやソーシャルメディアを通して支持者たちに指令を出し、テロを準備・実行させるというものです。」

田中
「こうした手口によって、捜査当局は事前に計画をつかむのが極めて困難になっています。
テロとの戦いが新たな局面を迎えたインドネシアからの報告です。」

インドネシアに迫る IS“新たな脅威”

リポート:太田佑介支局長(ジャカルタ支局)

首都・ジャカルタから東におよそ170キロ離れた町、マジャレンカ。
この町の郊外の住宅で、2か月前、爆弾を製造しようとしていたとして、24歳のIS支持者の男が逮捕されました。

太田佑介支局長(ジャカルタ支局)
「警察の特殊部隊は容疑者の自宅のカギを壊して中に突入し、寝ていた容疑者を逮捕するとともに、床に置かれていた大量の化学物質を押収したということです。」




押収されたのは、少量で大規模な爆発を起こすことができる爆薬。
起爆装置を付ければすぐに爆発させることができる状態でした。
狙われていたのは、ジャカルタにあるインドネシア議会や外国の大使館でした。

警察によると、その破壊力は、2002年にバリ島で200人以上が犠牲になったテロ事件で使用された爆弾の2倍から3倍に上るといいます。
逮捕された容疑者の家族は、驚きを隠せません。



リオ容疑者の兄
「これが弟の写真です。」

リオ・プリアトナ・ウィバワ容疑者は、3年前まで地元政府で農業指導員として働く、まじめな若者だったといいます。



リオ容疑者の兄
「もの静かで、ほかの人と変わらず、おかしなところは一切ありませんでした。
弟がそんなことをするなんて信じられません。」



なぜごく普通の若者が、大量の爆薬を製造することができたのか。

警察は、現在も行方を追っているインドネシア人のIS戦闘員、バルン・ナイム容疑者が、遠く離れた中東からインドネシアのリオ容疑者に爆弾の作り方を手ほどきしたと見ています。




今回、そのナイム容疑者が作成したとされるISの“テロ・マニュアル”を入手しました。
そこには、ロケット弾など殺傷能力の高い武器の作り方や、自爆装置の製造や装着方法など、具体的な手口が示されています。

市販の頭痛薬とバッテリー液を原料とした強力な爆薬の作り方や…。





携帯電話を使った起爆装置など、身近にあるものを工夫して使う方法も書かれています。





さらに、ハッキングを用いた資金調達や、ビットコインを使った資金洗浄のやり方など、テロ計画の立案から実行まで、全般にわたって詳細に指南する内容となっています。

こうしたマニュアルや計画に関する情報は、メッセージを自動で消去できる通信アプリを介して、活発にやりとりされているとみられています。





消去までの秒数を指定してメッセージを送信すると…。

自動で消去。
履歴が残らないため、捜査の網にはなかなかかかりません。

ISはこうして“テロ・マニュアル”をサイバー空間で拡散させており、遠く離れたシリアから、インドネシアの若者に大規模なテロを実行させる仕組みを築き上げようとしているのです。




この日、首都・ジャカルタ近郊に暮らすIS支持者の男性に接触することができました。
一度も中東に行ったことはないというこの男性。
しかしソーシャルメディアを使えば、当局の監視をかいくぐり、中東のIS関係者と簡単に連絡をとりあえるといいます。



IS支持者
「アカウントが凍結されても、何度も何度も新しいものを作ればいいのです。
ソーシャルメディアを使えば簡単にやりとりができます。」



警察は、こうした新たな脅威への対策を急いでいます。

インドネシア国家警察 ティト長官
「爆弾の作り方も訓練も、もはや物理的な場所は必要なく、オンライン空間を使えば十分になっている。
サイバー空間の現状には強い警戒感を持っており、強い規制や対策が必要だ。」



ISの過激な思想が拡散するだけでなく、テロリストの育成までもが行われるサイバー空間。
新たなテロとの難しい戦いが始まっています。


テロ計画 相次ぐ

佐藤
「ここからは、取材にあたったジャカルタ支局の太田支局長に聞きます。
新たな手口の出現によって、テロの脅威はどのくらい高まっているといえるのでしょうか?」

太田佑介支局長(ジャカルタ支局)
「大規模なテロの危険性が高まっているのは間違いありません。
インドネシアでは、VTRにあったように、中東からネットを経由してナイム容疑者の指示を受けた犯行が相次いでいます。



先月(12月)には自爆テロを計画していたとみられるISの支持者3人が銃撃戦の末に警察に射殺されたほか、去年8月には、隣国シンガポールの観光地にロケット弾を撃ち込む計画を立てたとして男6人が逮捕されています。
去年1年間にテロに関わったとして逮捕されたのは170人に上り、一昨年(2015年)の2倍以上に急増しています。
ネット上にテロを企てるための情報が拡散していることから、誰がいつ、どこでテロリストになるかわからない恐怖が広がっているといえます。」



“サイバー空間” 困難な監視

田中
「そうなると、取り締まりは相当難しくなりますよね?」

太田支局長
「その通りです。
2000年代前半にインドネシアで『ジェマ・イスラミア』などのテロ組織による事件が相次いだ当時は、組織は指導者と構成員の強固な関係のもと、指揮命令系統が明確でした。
裏を返せば、組織への張り込みや尾行などによってテロはある程度、防げたということです。

ところが、現在のテロの主体になっているISの支持者たちは互いの関係も希薄で、組織の実態すら把握できません。
インターネット上で交わされる膨大な量の通信を監視するのは困難な上に、テロリストたちは次々と新しい技術を取り入れており、当局の対策が追いついていないというのが現状です。」




主戦場はネットに

田中
「それに対して、インドネシア当局はどう対処しようとしているのでしょうか?」

太田支局長
「テロとの主戦場をインターネット上に移す方針です。
インドネシア政府は今月(1月)下旬にも、インターネット上で過激思想やテロ関連の情報を監視する専門の機関を発足させることにしています。

そして、ソーシャルメディアや通信アプリでおとりのアカウントを使って潜入捜査を行うなどして情報を収集し、テロを未然に防ぐ考えです。
世界で最も多くのイスラム教徒を抱えるインドネシアでさらにISの影響力が増加すれば、アジア全体にもその影響が及びかねません。
今後も、インドネシアのテロとの戦いの行方に高い関心が集まりそうです。」

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