BS1 ワールドウオッチング - WORLD WATCHING -

特集

2016年11月22日(火)

自爆に向かう少年たち IS内部で何が?

 
放送した内容をご覧いただけます

モスル奪還作戦で劣勢に追い込まれている、過激派組織IS=イスラミックステート。
今、なりふりかまわぬ手段に出ています。





ISの少年兵
「仲間たちよ、自爆用の車に乗り込め。
天国で会おう。」

少年と爆弾を乗せ、走り出す車。
そして…。

“彼は天国に行った。”







10代の少年たちを巧みに勧誘。
自爆攻撃に動員しているのです。

16歳の少年
「“ジハードに参加しろ”と繰り返し言われた。
洗脳しようとしていたんだ。」




ISは、なぜ、どのようにして少年たちを巻き込んでいるのか。
現地からの報告です。

佐藤
「イラク第2の都市、モスルの奪還作戦が始まって1か月余り。
イラク軍やクルド人部隊など、あわせておよそ10万人が進軍。
戦いはイラク軍などが優位に進めていますが、市内に入ってからはISの激しい抵抗にあっています。」

田中
「イラク軍などを苦しめているのは、ISによる自爆攻撃です。
最近、その攻撃に、10代の少年たちが数多く動員されていることが明らかになってきました。
NHKの取材班が、その実態に迫りました。」

なぜ少年たちが… IS自爆攻撃の実態

リポート:森健一記者(カイロ支局)

「動くな。」

イラク北部の都市・キルクーク。
モスルからも避難民が向かうこの場所で、今年(2016年)8月に撮影された映像です。

警察官に取り押さえられているのは、14歳の少年。
体には、自爆用のベルトが巻かれていました。
少年は2人。
もう1人は、別の場所で取り押さえられる前に自爆しました。
いずれもモスルからの避難民を装い、町にたどり着いたとみられています。
捜査にあたる警察の幹部は、こうした少年の自爆テロは大きな脅威だといいます。

キルクーク警察 アフラ・シアウ氏
「大人は検問所で入念に調べられるが、子どもはチェックが甘くなる。
(大勢が集まる)祈りの時間だったので、自爆していれば多くの死傷者が出ただろう。」



少年たちは、どのように自爆へと駆り出されているのか。
ISから逃れてきた人たちが集まるモスル近郊のキャンプを訪ねました。

森健一記者(カイロ支局)
「避難民キャンプにたどり着いたばかりの人たちです。
荷物はほとんどなく、着の身着のままで逃げてきたことがわかります。」

話を聞いていくと、ISは、町のモスクで少年たちを勧誘していることがわかってきました。

ISが支配するモスル近郊の町に住んでいた、16歳のこの少年。
モスクに行くたびに、戦いに加わるよう繰り返し迫られていました。




ファリス・ダハムさん
「“ジハードに参加しろ”と繰り返し言われた。
僕たちを洗脳しようとしていたんだ。」



モスル奪還作戦が迫った夏以降、その要求は一段と強くなったといいます。

ファリス・ダハムさん
「1日5回モスクに行かないと、ISの“警察”が来て無理矢理連れて行かれた。」

ISの勧誘は、町の人たちが想像していなかったところにまで及んでいました。

ハイデル・アラファトさん。
10歳の息子・ムハンマド君にISの戦闘員が話しかけているのを見て、衝撃を受けたといいます。



ハイデル・アラファトさん
「ISの戦闘員が、モスクで息子に『殺し方を教えるよ』と話しかけていた。
まだ10歳の子どもにだよ。」



ムハンマド君
「殺し方を教えてあげるって言われたんだ。
人殺しにはなりたくないから断ったよ。」



町では、ISの少年兵の姿がたびたび目撃されていました。
知らないうちに息子たちも洗脳され、前線に送られはしないかと、不安でたまらなかったハイデルさん。
家族とともに戦闘が激しくなる町から逃れてきたのです。

ハイデル・アラファトさん
「とても危険な状態だった。
あのままでは命が危なかった。」

自爆攻撃に送り込まれる少年たち。
ISは、なぜ少年を勧誘するのか。
今年4月にシリアのISから抜け出した部隊の指揮官が、内部事情を語りました。
背景の1つは、有志連合などの空爆でISが弱体化したこと。
さらに戦闘員の離脱も相次ぎ、去年から少年たちを自爆攻撃に送り込むようになったといいます。

IS元指揮官
「ISが弱くなって、子どもを使うようになった。
私がいた部隊でも数回子どもを自爆させた。」

そして、子どもならではの素直さも大きな理由と明かしました。

大人よりも容易にISの思想を植え付けることができるため、ひとたび信じ込めば、むしろ自爆を志願するようにすらなるというのです。

IS元指揮官
「子どもたちに、天国に行けると教えた。
進んで自爆したくなるよう教育した。」

イラク軍は、ISが自爆攻撃の主力を10代の少年たちに担わせ、今後も前線に送り込んでくるとみています。


イラク軍 ハマド・デュゼイ准将
「少年たちは、麻薬や酒を飲まされた上で自爆攻撃に送り込まれている。
これまでは15~16歳の少年だったが、今後はもっと幼い子も巻き込まれるだろう。」



少年たちを死に追いやる自爆攻撃。
それは、ISが追い詰められているがゆえの悲惨な現実です。


ISの戦略は

田中
「取材した森記者に聞きます。
モスルの奪還作戦が難航していることはこれまでも伝えてきましたが、少年の自爆攻撃が影響しているということなんでしょうか?」

森健一記者(カイロ支局)
「要因の1つといえます。
ISは正攻法ではなく、『人間の盾』で守り、自爆や待ち伏せといった奇襲で攻めるという戦略をとっています。
取材前には、少年たちが自爆攻撃を強制させられているのではないかと想像していました。
しかしISは、少年たちに死ぬことこそ幸せなことだと思い込ませる、おもちゃを与えるように武器を与えて関心を持たせるといった手法で、親が反対するようならその制止を振り切って、自発的にISに加わるよう仕向けているのが実情のようです。
自爆攻撃に向かう戦力として計算するには、ISへの忠誠は欠かせないということだと思います。」


戦闘員の離脱 現状は

佐藤
「こうした自爆攻撃の背景には戦闘員の離脱があるということですが、これはISにとってどの程度深刻なんでしょうか?」

森記者
「今回、数人の元戦闘員に話を聞くことができたのですが、以前は捕虜を除けば、その機会すらありませんでした。
VTRで紹介した男は、ISが追い込まれていると肌で感じていたといいます。」

ISの元指揮官
「以前は銃弾も使い放題だったが、今は5発撃つと『誰の命令なのか』と聴取されるまでになった。」



森記者
「けがをした戦闘員の治療体制や遺族への補償も明らかに滞り、『もう逃げ出したいという人は多い』と話していた。
ISの壊滅という点では、こうした戦闘員の離反を促す戦略も必要になってくると思います。」


防ぐ手だては

田中
「ただ、ISを追い込めば追い込むほど、子どもが戦場へ駆り出されてしまうのではと思うんですが、このような状況を何とか食い止める手立てはないのでしょうか?」

森記者
「現時点では有効な手段はありません。
国連は、どれだけの少年兵がいるのか把握することさえ、今の段階では難しいとしているんです。」

UNHCR イラク事務所 ブルーノ・ジェド代表
「(少年兵の数の推計は)現状ではとても難しいですが、彼らが出てきたときに我々は“心のケア”をします。
2年間も過激な思想を植え付けられ、洗脳された子どもたちの保護は容易ではありません。」


森記者
「イラク軍は、殺害した中に14歳の少年が含まれていたと明らかにしています。
また、11歳の子どもが自爆したケースも報告されているということです。

向かってくる戦闘員には銃を向けなければならない、そして殺害して、マスクをはいで初めて少年だとわかる。
まさに救いのない事態が進行しているのが実情です。
これはモスルに限らず、対ISの多くの前線で起きています。
1つ言えるのは、ISの壊滅に時間がかかればかかるほど、少年が駆り出されるおそれが増していくということなんです。
食い止める方法がないかを探るためにも、洗脳するISの戦闘員、そして洗脳される少年たちの取材をもっと深めていかなければいけないと思っています。」

ページの先頭へ