にっぽん縦断 こころ旅
ずっと残したい、ふるさとの風景
私がずっと記憶に残るこころの風景は、兄と私が贈った大漁旗を掲げて 父が初航海の漁に出た和歌山県田辺市目良の海です。
父は高校卒業後、会社に42年間勤務して私達兄弟を育てあげ、定年退職後に母の故郷の和歌山県に移住して念願だった漁師になろうとしました。漁師になるのは漁協組合員になる必要がありました。
しかし、会社員がいきなり漁師になるのかと組合員の漁師の方々に容易には認めてもらえず、一年間「しらす漁」の船に漁師見習いとして乗り組み、先輩漁師の船長に従いました。
また、漁船の修理や漁網の整備も一生懸命取り組んで組合員の漁師の方々から認めていただき、やっと漁協組合員となりました。
私もそのころの父の年齢に近くなり思うのは、退職後、還暦を迎えて60の手習いで下働きから始めて第二の人生を送ろうとしたそのバイタリティーや辛抱の精神に対して、偉かったな、自分もそうありたいなということです。
二人の子供を育てる間は安定した会社勤めをして、還暦過ぎてから 自分らしい生き方を実現するために一からやり直すようなことはなかなか出来ることではないと思います。
また父の夢を支えて付いていった母にも尊敬の念を抱いています。
もう約30年前になります。父は中古の船を求め造船所でお色直しと修理をしてもらい、漁師として初航海に出ました。
兄と私が贈った「三宝丸」と染め抜かれた大漁旗を掲げ、目良の漁港から元嶋神社の海中鳥居の前、波を切って走り抜けるその姿はとても晴れ晴れとして格好良かったです。
両親はともに他界しましたが、親への感謝とともに
ずっと記憶したい初航海のこころの風景です。
神奈川県 横浜市 川崎 晶二 54歳
神奈川県横浜市
川崎晶二さん(54歳)からのお手紙