にっぽん縦断 こころ旅

ずっと残したい、ふるさとの風景
「おふどうさん」
私が小さい頃、病気で臥せりがちの母にかわって、
家事をするために祖母が泊まりがけで来てくれていました。
祖母は何をおいても私の味方で、面白くて優しかった。
ふたりで(時には祖父も一緒に)近くの「おふどうさん」へお参りに行きました。「おふどうさん」は正式には鳴滝不動尊といいます。
家から鳴滝川の上流へ向かって歩いて行きます。
祖母はいつもお参り用の小さな小銭入れに、一円玉や五円玉をいっぱい入れていました。「おふどうさん」にはたくさんのお参りするところがあるので、一つ一つお賽(さい)銭を入れるのです。何をを祀っているのか知らないままに、いくつもお参りした覚えがあります。
わかっていたのはお稲荷さんくらいです。
母は私が二十歳の時に亡くなりました。
祖母が家に来ることもなくなり、また、私が就職で家を離れることになり、会う機会も減っていきました。
化粧品の販売をしていた祖母は、「おばあちゃんはな、60歳から年をとらへんのや」といって笑っていましたが、私が結婚して、仕事や子育てに忙しくしているうちに、年をとっていきました。
私を母と間違えるようになってからも、なぜか私の夫のことは覚えていて、「髙井さん、髙井さん」とニコニコと迎えてくれて、親戚からもあきれられていました。
祖母が亡くなってから、もう10年以上たちます。
父も5年前に亡くなリ、実家はしぱらく空き家となっていました。
数年前に娘が、大学入試(セン夕―試験)のために二日ほど実家に泊まったとき、久しぷリに「おふどうさん」に行ってみたいと思い立ち、犬の散歩がてら行ってみました。
道中、通っていた幼稚園を過ぎ、鳴滝川沿いを歩いていくと、
祖母と歩いた頃を思い出しました。家並みは変わっているところもありましたが、一本道なので迷うこともありません。
鳥居が見えてきます。もっと大きかった記憶がありますが、自分が小さかったということでしょう。たくさんのお祀リしているところを過ぎ、滝のところまで行くと、空気がひんやりしています。
滝の横をあがってお参りしました。
あの頃祖母は、母の病気が治るようにと祈っていたのでしょうか・・・。
人も少なく、ひんやりとした場所で、心が落ち着く気がします。
(催しのある日は人も多いのかもしれません)

和歌山県 田辺市 髙井 三恵子 53歳

和歌山県田辺市
髙井三恵子さん(53歳)からのお手紙