にっぽん縦断 こころ旅
樹齢三百数拾年にもなる杉の大木が連なる参道、そしてその奥に佇み まわりを石積みに囲まれた池の中に建つ社殿、十五歳まで私が過ごした故郷にある唐松神社が私のこころの風景です。
母や兄弟と参道のそばにあった畑で畑仕事を手伝ったほろ苦い思い出が残っています。
当時は、生活も貧しく唐松神社所有の畑を借りて母が耕作し、一家の生活を支えていました。
子供ごころに、いつか立派な大人になって母を助けてやるのだと思っていましたが、その母も私が十歳の時に父と離婚し その二年後に事故で亡くなってしまいました。
母との思い出は辛い事しか思い出せません。
故郷を出る十五歳まで いやなことがあった時は 参道の杉の大木を仰ぎ見ながら、いつか必ずこの杉のように大きく立派な大人になってやると心に誓ったものでした。
あれから五十年、立身出世は叶わなかったものの
現在、故郷から遠く離れた三重県に住まいし ふたりの子供ができ孫にも恵まれて農業をしながら日々充実した幸せな生活を送っています。
機会あるたびに秋田に立ち寄りますが、もうそこには私の生まれた家はありません。
しかし、帰郷の時には欠かさず墓参りと唐松神社に参拝をして 今の自分があることに心から感謝を捧げています。
子供の頃、唐松神社は安産の神様とばかり思っていましたが縁結びから子授け、そして安産、さらに子育て、そしてその生涯まで「女性一代守り神」としてのご利益があることを大人になって知りました。
今の自分には、そのご加護が少なからずあったのではと感じています。
最後になりましたが、火野正平さん、伴走の皆さんが、事故もなく元気にご活躍されますことと、番組制作スタッフの皆様のご苦労に感謝を申し上げて「にっぽん縦断こころ旅」が末永く続くことを心から願っております。
三重県いなべ市
阿部 聡さん(66歳)からのお手紙