にっぽん縦断 こころ旅
こんにちは。火野正平様
平成23年から春と秋のこころ旅を、いつも楽しみに観ています。
今年の春の旅で、正平さんが愛知に来られるとお聞きし、是非、訪れていただきたい所があり、お便りしました。
その場所は、刈谷市にあるフローラルガーデンよさみの記念鉄塔近くの2本の楠(クスノキ)です。
この付近は平成9年まで、依佐美送信所の8基の鉄塔があった場所で 鉄塔の高さは250m、東京タワーができるまでは、東洋一の高さだったそうです。
私は、平成27年9月、突然、思いもよらない病の宣告を受け、闘病生活が始まりました。
平成27年は、1月に父、11月には母が亡くなり、また自分も病気が見つかり、病の辛さと悲しみが、どこまで続くのだろかと思った年でした。
元気のない私を見かねた妻や息子たちが、「体力をつけるためと気分転換に散歩に行こう」とフローラルガーデンよさみに連れて行ってくれました。
初めてフローラルガーデン内にあるジョギングコースを歩いた時、走っている人や歩いている人たちが、みんな健康に見え、「どうして自分は…」と、より辛い気持ちになりました。
そんな時、ふと周りに目をやると、300mくらい向こうの田畑の中に2本のクスノキがみえ、真っ直ぐ空に伸びでいる姿に魅かれました。
そのクスノキの所に行き、幹を触ってみると、木の肌から元気がもらえたような気がしました。
それからは、いつもフローラルガーデンよさみの記念鉄塔から歩き始め、クスノキの幹を両手で触り、子どもの頃から見ていた8基の鉄塔があった空を眺めながら、田畑の中を何周も歩きました。
平成28年1月に18時間の手術を受け、2月下旬には退院することができました。しかし、退院直後は、体調はどうなっていくのだろうか、仕事に復帰できるだろうかと、不安ばかりで、ずっと家の中で、だれにも会いたくない日々でした。
そんな様子を察し、3月に入った頃、妻や息子たちが、退院後の初めての外出場所として、フローラルガーデンに連れて行ってくれました。
すぐに、クスノキに会いに行こうと歩き出しましたが、たった300m程の距離なのに体力が落ちたことや眼帯をしていることで、なかなか真っ直ぐ、思うように歩くことができませんでした。なんとかクスノキに到着し、木を見上げ、幹を両手で触ると、いろいろな思いがこみ上げてきました。
それから毎日、いつも2本のクスノキに会いに行き、青い麦が日に日に伸びていく田畑、道端の小さな花を見ながら、ゆっくり歩き回りました。
散歩を続けたことで、少しずつ体力もつき、気持ちも前向きになり、半年後には、病院や職場の方々のお陰で、職場復帰をすることができました。
私にとって2本のクスノキからの景色は、一緒に歩いてくれた妻、支えてくださった方々、そして、幼い頃の8基の鉄塔の思い出がよみがえる こころ癒やされる場所です。
正平さんが訪ねてくださる頃は、ちょうど私が3年前に歩いていた時季です。そんな風景をみていただければ、幸いです。
浅岡浩次
愛知県高浜市
浅岡浩次さん(60歳)からのお手紙