にっぽん縦断 こころ旅
息子が神隠しにあった末吉宮
火野正平さん、チャリオくん、スタッフのみなさん、いつも楽しく番組を見ています。
私のこころの風景は、那覇市首里末吉町にある末吉宮です。私たち夫婦は沖縄の風土が好きで、子どもたちを連れて毎年のように沖縄を旅していました。
今から15年くらい前のこと。泊まっている首里の民宿の窓から眺めていると、山の中にぽつんと浮かぶ、中国風の朱色の瓦屋根が目にとまりました。民宿のおばさんに訊ねると、琉球王朝ゆかりの末吉宮という神社とのこと。さっそく散歩がてら親子で出かけました。
末吉宮の入り口は、末吉公園という緑豊かな公園なのですが、奥に進むほど樹木が生い茂り、御願所もあり、山の中という雰囲気になってきました。しばらく歩き続けていると、深い森の中に石造りの楼門と赤い社殿が見えてきました。
気がつくと、一緒に歩いていたはずの四歳の長男の姿が見えません。さっきまで一緒に手をつないで歩いていたはずなのに。息子の名前を呼びながら、私たちは息子を探しましたが、どこにもいません。まるで神隠しにあったようでした。
そのうち、小学生の娘が、「どこかで泣き声がする」と言いました。耳をすますと、細い脇道の奥から「おかあさあーん」という泣き声が聞こえます。草むらをかき分けて進むと、そこには涙と鼻水にまみれた息子が立っていました。今思うとわずか五分くらいの出来事だったのですが、冷や汗が流れ、私たち夫婦にとってとてつもなく長い時間に感じられました。
末吉宮は、ちょうどその頃流行っていた映画「千と千尋の神隠し」のような場所だと思いました。
月日は流れ、神隠しにあった長男も今や19歳。沖縄の大学に進学し、ダイビング部に入って真っ黒に日焼けした青年になりました。小学生だった娘も縁あって沖縄の人と結婚し、今は那覇で新婚生活を送っています。少し怖い思い出のある末吉宮ですが、あの時から子どもたちと沖縄との縁が深くなったような気がします。私たち家族にとっての不思議な場所、末吉宮を訪ねていただけたらと思います。
住田真理子(58歳)
愛知県豊橋市
愛知県豊橋市
住田真理子さん(58歳)からのお手紙