にっぽん縦断 こころ旅
誰かにそっと教えたい、こころの絶景
正平さん、いつも楽しく番組拝見しています。
自分もロードバイクに乗っていて、皆さんが各地でペダルを漕ぐのがとても羨ましいです。
さて私のこころの風景は、岡山県真庭市樫西の山生にある「足尾滝」です。
その滝は岡山3大河川のひとつ旭川の支流・目木川のそのまた支流余川のそのまた支流(名前が分りません)を、流れに沿って3kmほど遡った場所にあります。
滝の入り口には鳥居があり、石段を上がっていくと落差20mほどの小さな滝があり、右手には「足の神様」として御利益がある小さな祠が祀られています。
私が最後にこの滝を訪れたのは今から30年前、亡くなった祖父とでした。真庭市の久世町と呼ばれていた町に生まれ育った私は 当時高知県の大学に通っていました。
在学中、19歳で車の免許を取ったのですが、学生の身分で車が買えるわけがなく、当時つきあっていた彼女とドライプがしたい一心で車を手に入れるのが念願でした。
夏休みに帰省した際、同級生の父親が自動車屋を経営していたので相談すると、けっして格好良いとは言えない古い軽四自動車を
格安で売ってくれることになりました。値段は諸費用込みで13万円とのこと。厳格な父に相談するのが何となく憚られ、私が頼ったのは当時まだ元気だった91歳の祖父でした。
実家の近くで一人暮らしをしていた祖父を訪ね「車が欲しいので
13万円貸して欲しい」と相談すると、祖父は「そうか」と言い
13万円を渡してくれました。「ありがとう、絶対返すから」と礼を言い その足で車を買い受けに行きました。
すぐに祖父の家に取って返し念願の車を見せると、
祖父は「良かったな」と笑顔。
自分は何か恩返しがしたく祖父を乗せそのままドライブに出かけました。向かった先が祖父の家からおよそ10km離れた足尾滝です。
なぜならその時祖父は足を痛めていて「足が痛い」がロ癖になっていたからです。祖父の脇を抱え、石段を登り、ひんやりとした空気に身が包まれとても爽やかな気分になりました。
一緒に祠に手を合わせると、祖父は私の方を見て「ワシの足もまた良うなる気がする。連れてきてくれてありがとう」と言いました。
大学を卒業した私はそのまま高知の会社に就職。
祖父はその年、94歳で亡くなり、結局借りたお金は返さないままでした。
正平さん、これからも元気にペダルが漕ぎ続けられるよう
ぜひ祖父と私の思い出のその滝を訪ねてみてください。
高知県 高知市 猪頭 大輔 50歳
高知市
猪頭(いとう)大輔さん(50歳)からのお手紙