にっぽん縦断 こころ旅
私の心の風景は、55年前 小学5年生の夏休み1か月間 父と過ごした思い出がある所です。
島根県江津市和木町にある 陸続きといわれる真島の西側の海岸です。
私の父は、道路工事会社に勤め、私が幼い頃から 今で言う単身赴任でした。
2か月に1回位 愛媛県西条市の私と母の元に帰って来ました。
「父ちゃんが もうすぐ帰って来るよ」と母から聞いた時は、指折り数えて その日を待ちました。
父が 国道9号線の道路工事で、和木町に滞在していた時がありました。4年間位だったと思います。
5年生の夏休み 母と二人で父の所へ行きました。住宅を間借りして 1か月程過ごしました。
住宅の路地を 海に向かって歩いて行くと すぐ砂浜に出て 右側に真島、左側には砂浜が どこまでも続いている景色が広がっていました。
朝、夏休みの宿題を終えた後 遊び相手もなく、毎日のように海岸へ出かけていました。
瀬戸内海のおだやかな海と違って、ドサッ、ドサッと波が打ち寄せる様は、豪快そのものです。
海の向こうに島などなく 海原がずっと続いています。右側に 目を向けると、真島が大きな黒い口を開け、横たわっています。
洞窟の中は どんなになっているのだろうと、不思議でたまりませんでしたが、そこは、海水がたっぷりあり、自力では到底行けません。
瀬戸の海も好きですが、日本海の雄々しさに、子供ながら、引かれました。
砂浜へ行く時、誰かが見ている様な気がして、後ろを振り返ると、サッと 2、3人の子供が 隠れました。
友達になれたら良かったのに、お互いひっこみじあんだったのですね。
結局、誰も友達が出来ないまま、夏休みが終わり、二学期が始まった頃、私のクラスにたくさんの手紙が届きました。
記憶がさだかでないのですが、滞在先の近くに小学校があり、誰かから父に問い合わせがあり 父が私の小学校を知らせ、クラスどうしの文通をしよう との便りだったと思います。
私を含め クラスのみんなも、2、3回便りは続いたものの、残念ながら音信不通になってしまいました。
父は4年前 84歳で他界しました。
ロードローラーや グレイダーを自由自在に操り、まっ黒になって仕事をしていた姿が思い出されます。
その後 私が高校生の時、西条市に帰って来て 晩年は、母、私達夫婦と生活を共にし、孫2人曾孫4人に恵まれ、幸せそうでした。
夏休みになると、いつも思い出す5年生の夏休み、父と1か月過ごせたこと、和木町の海岸の美しい景色、私の大切な思い出の場所です。
元気な間に、一度 訪れてみたいと思っています。
寺田文子
愛媛県西条市
寺田文子さん(67歳)からのお手紙