にっぽん縦断 こころ旅
=ばあちゃんと歩いて行った思い出の場所=
-七郎神(ひちろっさん)-
正平さん、そしてスタッフの皆様、こんにちは。
私の思い出の風景は、熊本県和水町の細い谷川沿いにある七郎神という五穀豊穣を祈ったのが起源と聞く、道祖神といってもよいほどの、小さな神様のある風景です。
足腰へのご利益もあるという、ひちろっさんは、800年の昔から地区の人たちに親しまれていたと聞きますが、わたしが知ったのは、今を去る、約50数年ほど前、祖母のキクばあちゃんに、「ひちろっさんにいこかね」とさそわれたことからでした。私はまだ、小学5、6年生だったと思います。
キクばあちゃんは、農作業で日々とても忙しい父母に代わり、御釈迦様の、花祭りなどに歩いて連れて行ってくれたりしていました。
いまはなくなりましたが当時は、この甘茶祭りが行われるところが村内にあリ、道中、ばあちゃんは小さな駄菓子屋さんで、飴玉の一つも買ってくれることが、たまにはありました。なので、ひちろっさんに行こうと誘われ、出かけましたが、しかし、道半ばで心から後悔することになったのです。
ひちろっさんはとても遠く、現在距離をみてみると、当時住んでいた家から約5kmほどもあります。昔のことで、ガタガタのとても細い草道、
おまけに、うっそうとした暗い雑木林や、杉林がありそれを通りぬけなければならず、子供心に気味の悪いどころのある道のりでした。
道を抜けると、人家も見えてきますが、とても疲れてたどり着いたひちろっさんは、当時は失礼ながら立派な、とは到底思えぬ、細い谷川のそばに小さな祠が鎮座しているところでした。 健康そうなばあちゃんでも、足腰の悪いところがあったのかもしれません。ひざまずき、お祈りする姿が懐かしく思い出します。 二人で参拝した記憶は、そのー度っきりであることから、私はその後、飴玉の誘惑にみごと打ち勝ち、遠い道のりを同行するのを拒否したものだと思いたいのですが、ばあちゃんはその後、体調を悪くし亡くなるまでの数年間寝たきりとなり、参拝できなくなりました。
運雁く私も同じ頃、病となり、長い間座敷には二つの病床があり枕を並べて、家族皆に迷惑をかけていました。
数年の闘病後、私はなんとか少し回復し、就職することになり、家を出る朝ばあちゃんに「ばあちゃん行ってくるけん」、と言うと顔を上げずに「いくとかい・・」と小さく言ってくれ、その言葉を交わしたのが最後となりました。
車一台くらいなら通れる道となった途中の杉林の薄暗い所を通り、ひちろっさんに着くと、50年忌が数年前に終わるほど遠い昔のことなのに、ばあちゃんと来たあの頃のことが思い出されます。 道下の、谷川沿いにある小さなお堂のたたずまいは、いつも私たち孫の面倒を見てくれた、やさしいばあちゃんの思い出につながる大切な場所です。
長いこと、訪れていないひちろっさんの映像は、遠く離れた兄弟たちも懐かしく思い出す事だと思います。
こころ旅がもっともっと続きますよう願っています。
福岡県糟屋郡宇美町
松尾欣也 年齢 68歳
福岡県宇美町
松尾欣也さん(68歳)からのお手紙