にっぽん縦断 こころ旅
正平さん、皆さん、こんにちは。楽しく番組を拝見しています。
私の故郷の風景をお手紙に託します。
そこは、ずっと残したい故郷の風景でもあり、中学生の多感な頃、自分の心の置き場所にもなった風景です。
川沿いの堤防に座り、夕刻から日の暮れていく様を観ながら一日を終えていく。
その誰にも邪魔されない、自分だけの場所であり、時間でした。
堤防に座り中津川のゴーゴーと流れる水脈の音を聞きながら、
川原には夕刻、サギがたたずみ川面を覗いています。
半原は、その頃、撚糸業を何処の家もしていました。私の家もそうでした。
お父さんもお母さんもおばあちゃんも糸の仕事を家でしていました。
家に帰ると、糸の工場から、機械が糸を巻いていく生活音がします。
川原では耳を澄ます。目線を上げると山がどっしりとあります。
ああ、その山のどこかが水源で沸いているのだな、と思ったりしました。
夕方、白く淡いオレンジ色の風景は、濃い燃えるようなオレンジ色に変わり、川面のそばの白いサギは、その濃いオレンジ色を体全体にまとって、羽を広げて山の奥のほうに飛んでいきます。
山の夕刻は、突然のように真っ暗になります。ここ半原は、丹沢山系の盆地の集落です。太陽は、ドスンと山の向こうに消えて夜になります。
あっ。鳥さんかえっちやったな。帰ろう、私も。と、堤防わきに横倒しにたてかけた自転車に乗り、日向橋を渡り、対岸の家に帰りました。
路地の反対側には、芝生の広い敷地に貯水池がありました。
春は、その敷地周辺は桜吹雪が舞い、私の眼には、きらきらと光りながら風に流され、川面に散っていきます。今でも脳裏に浮かびます。
中学生で毎日、部活動の日々。それでも夏休みの夕暮れ、堤防に座って 昼間の汗を忘れさせてくれた夕涼みのひととき。
正平さん方が、神奈川県の旅の頃は、初冬の頃ですね。
冬枯れの丹沢山系の山並みも美しいと思います。針葉樹林の深い緑色に交じり、広葉樹の枝の枯れた、茶色い濃淡の低い里山。
十代の頃のあの故郷の風景が、変わらずありますようにと思い、
このお手紙に託します。
もう少し具体的に場所をお伝えしますと、神奈中バスの半原駅終点から、小島用品店の路地を入ります。岡本医院を過ぎ、小学校の同級生の家も過ぎ、川沿いの堤防になると思います。貯水池と桜並木の坂道を背に堤防に座ると川原と上流と大きな山の風景です。
サギやセキレイの小鳥たちがいると思います。行ってみてください。
神奈川県横浜市 伊藤篤子 54歳
横浜市
伊藤篤子さん(54歳)からのお手紙