にっぽん縦断 こころ旅
「心に残る風景」
青森県東津軽郡今別町にある
"高野埼灯台下の二つの赤い橋"
火野さん、毎日お疲れさまです。同い年とは思えぬタフな自転車旅には毎朝頭が下がります。
さて、私の心に残っている風景、それは夫の転勤で秋田県に住んでいた時の事なのでもう20年以上前の話しになります。
数日間の夫の休暇を利用し、秋田から北上し津軽半島の海岸前を車で一周するという旅をしました。
「定年退職した暁には、日本の海岸線をのんびり一周する!」を楽しみの目標に日々働いていた夫には いわば楽しみの予行練習のような旅でもありました。道が有ればできる限り海岸線を走ろう!と決めたその旅の中で 思いがけずの印象で心に残っている場所が 高野埼灯台の下にあった二つの赤い橋です。 予定では寄るつもりはなかった場所でしたが、海の中に赤い橋が二つ見えたので思わず車を止めました。上から見ると灯台の下の岩場に、岩場と岩場を繋ぐように赤い太鼓橋が二つ架かっていて その橋を渡って岩場の先まで行けるようになっていました。
多分、磯遊びや釣りができるように架けてあるのでしょうが、私にはその橋がなんだか海の底まで続く竜宮城への橋のように見えたのです。
晴れた日には赤い橋と青い海がきれいなのだろうなと思いましたが、その日はあいにく曇っていて風も強く、時折り橋の上まで覆いかぶさるような波が押し寄せていました。それでも取り敢えず橋の近くまで行ってみよう!と遊歩道のような道を下まで下りてみました。
海岸線の好きな夫は釣りも大好きで「手前の橋までなら大丈夫!」とカメラを持つ私に写真を撮るように言い、更に橋の近くの岩場まで歩いて行ったのです。
風に煽られながら 夫が手前の橋までたどり着き振り向いた時、二つ目の橋をさらうように大きな波がバサッ!と橋にかかったのです。後ろの出来事に気付かぬ夫は、にっこり笑って早く写して!のポーズでしたが 私は次の波で夫が竜宮城にひきずり込まれて行くような気になり、誰もいない海岸で急にナウバスな不安な気持ちになり風と波の音にかきけされながら「もういいから早く戻って来て!」と叫びました。
何で竜宮城に続く橋、という感覚になったのか判りませんが いつか穏やかな晴れの日にあの赤い橋を渡り青い海を見ながら岩場の先まで行ってみたい、今も竜宮城へ続く橋に見えるだろうか?と思っています。
そう思っても日々の暮らしはなかなか思い通りにはいかず、現在の住まいからは青森は遠く、夫の言っている海岸線の旅も未だ実現していません。
青森を走る火野さんが 代わりに立ち寄ってくださらないかしら、とお便りしました。
行ってくださると 嬉しいです。
筒井れい子
香川県高松市
筒井れい子さん(68歳)からのお手紙