にっぽん縦断 こころ旅
私のこころの風景は、和歌の浦の高台から見える景色です。
和歌山市の南、海南市にある私の実家は商売を営んでおり、父も母も働いていました。
特に母は朝早くから家事・お店の切りもりと、子供の私から見てもとても忙しい毎日を送っているように見えました。
私が、小学2年生の時です。
当時 犬を買いたいと言っていた私と、3歳年上の姉を、母が「たくさんの犬を見に行こう」と、今度の休みに和歌の浦で開催されている、多くの種類のペットが集まるイベントに連れて行ってくれることになりました。
私が記憶している限り、母が私たちを“遊びに行こう”と誘ってくれたのは、初めてだったと思います。
私は母と出かけられる事がとても嬉しくて とても楽しみにしていました。
ですが当日、忙しい母の仕事が一段落したのは夕方。ロープウェイのあるその会場に到着すると、すでにイベントは終わっていました。
「ごめんね。残念だったね。」と謝る母でしたが、私は忙しい中、時間を割いてくれた母に、なんだか申し訳ない気持ちでいました。
仕方なく会場のある高台を後にしましたが、そこからは和歌浦湾が一望でき、海に沈む夕陽がとても綺麗でした。
イベントは見れなかったけど、来て良かったと思いながら、夕陽を眺めていたのを覚えています。
あれから30年ほど経ち、私も2人の子供を授かりました。
単身赴任のため、離れて暮らしていますが、あの時のことを思い出し、たまに家に帰る時はよく夕陽を見にいきます。
きっと子供達も私と同じように、出かける事を楽しみにしているのだと思います。
すでにロープウェイは廃止されてしまいましたが、和歌の浦の高台から見える海と夕陽は今でも変わらず綺麗なままです。
上り坂は急ですが、ぜひ一度訪れてみて下さい。
神奈川県川崎市
宇藤 啓さん(43歳)からのお手紙