にっぽん縦断 こころ旅
正平さん、スタッフの皆様いつも楽しい番組をありがとうございます。
今度秋の旅で三重県に来られるとの事で 是非行っていただきたい所がありますので、拙い文ながら取り急ぎペンを取りました。
それは志摩郡の和具です。
古い話しで申しわけございませんが教師をしていた父の赴任地であります。確か昭和13年頃から16年頃迄和具の小学校に勤めていたと思います。
両親共伊賀の山国で生まれ育っているので 海辺での生活は初めてだったようです。若い夫婦が幼な子を連れての生活は大変だったろうと思います。
でも言葉が悪いが漁師町特有の人々のあたたかさ、食べ物のおいしさ、そして何よりも和具の海の雄大さに惹かれ一生忘れられない土地になったようです。
当時小さかった私は和具のことはほとんど覚えておりませんが、両親から何度となく聞かされた鍋島医院の横の道を通るとすぐに海に出るとか、一緒に勤めた山下先生や月岡先生の話しや、とにかく元気な志摩の子供達の話し等、今でもよく覚えております。
晩年両親は日々弱って来ました。特に母は車椅子なしではほとんどどこへも行けなくなりました。どうにか二人が元気なうちに どこかに連れて行こうと考えていましたので ある日 どこか行きたい所はないかとたずねると 二人共口を揃えてもう一度和具に行きたいといいました。
同じ県内に住みながら中々計画が立てられませんでしたが、両親の希みをかなえようと、平成8年8月30日 私の息子の運転で 孫、ひ孫も一緒 総勢8人で鳥羽経由で和具に行って来ました。
両親はどんなに喜んだか分かりません。和具の海に着くと父は靴をぬぎ波間に足をつけて、しばらくの間何も云わず、黙って遠くを見つめておりました。私は少し離れた所で母の車椅子を押しながら父の戻って来るのをまっていました。 少しだけ親孝行の真似が出来たと思っております。
何れ近い内 私も両親の元に行くと思いますが その時あなた方が愛した和具の海の話しをしてあげたいと思います。一緒に旅した孫やひ孫達も大きくなり 夫々良い家庭を持ち 幸せに暮らしていると伝えたいです。
そして私自身
人生下り坂最高の一生だったと
伝えたいです。
三重県伊賀市
田中 三重(81歳) (女)
三重県伊賀市
田中三重さん(81歳)からのお手紙