NHK高校講座

世界史

Eテレ 毎週 金曜日 午後2:20〜2:40
※この番組は、前年度の再放送です

世界史

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今回の学習

第16回

繁栄する西アジア・中東の都市

  • 世界史監修:東京大学副学長 羽田 正
学習ポイント学習ポイント

繁栄する西アジア・中東の都市

  • 政井マヤさん
  • 富田早紀さん

ここは歴史の専門家も来店する無国籍雑貨屋。
政井マヤさん、富田早紀さんと一緒に、世界史のおもしろさを探っていきます。

  • 西アジア・中東

ユーラシア大陸の大半を支配したモンゴル帝国は、14世紀になると徐々に崩壊していきます。
一方で、西アジア・中東にはイスラーム教徒、つまりムスリムを君主とする帝国が台頭します。
これらのムスリム王朝では、特徴ある都市が生まれました。
さまざまな民族が行き交い、商業が発達。
壮麗なモスクが建てられ、内部には緻密な装飾が施されるなど、イスラーム文化が花開いていきます。

  • 聖ソフィア聖堂のアラビア文字
  • ユスティニアヌス帝のモザイク画

ビザンツ帝国、聖ソフィア大聖堂の写真をタブレットで見ている早紀さん。

早紀 「建物の中の写真を見てたら、不思議なものを見つけたんですけど…(画像・左)。文字が書かれているんですけど、これってアルファベットじゃないですよね。」

マヤ 「実は、イスラームの聖人の名前がアラビア文字で書いてあるの。」

早紀 「聖ソフィア聖堂ってキリスト教の教会ですよね?」

マヤ 「そうなんだけど、15世紀にオスマン帝国がビザンツ帝国を滅ぼしたあとは、イスラームのモスクに改装されているの。」

早紀 「ということは、キリスト教の教会を壊さずに、そのままイスラームのモスクにしてしまったってことですか」

マヤ 「ところで早紀さん、この絵(画像・右)、覚えてる?」

早紀 「聖ソフィア聖堂を建てた、ユスティニアヌス帝のモザイク画。手に持っているのが聖ソフィア聖堂ですよね。」

マヤ 「正解。このユスティニアヌス帝が建てた頃の聖堂の外観と、現在の外観が、大きく変わっているところがあるの。分かるかな?」

早紀 「えー・・」

  • 聖ソフィア聖堂

アヤソフィア、かつての聖ソフィア聖堂は、トルコ最大の都市、イスタンブルの歴史地域にあります。
ここはかつて、ビザンツ帝国の都、コンスタンティノープルでした。
三方を海に囲まれたコンスタンティノープルは防御力が高く、周囲に高い城壁を巡らせた難攻不落の要塞都市として知られていました。

しかし15世紀半ば、この街に大きな脅威が迫ります。
強大な軍事力を持ったオスマン帝国の襲撃です。

オスマン帝国の発展
  • 14世紀後半、オスマン帝国はバルカン半島に進出
  • イエニチェリ

「オスマン帝国」は13世紀末に、地中海と黒海に挟まれた半島部のアナトリアで建国され、周囲の小国家を取り込みながら領土を広げました。
14世紀後半にはバルカン半島に進出します。
帝国躍進の原動力のひとつは「常備軍」です。
中でもスルタン直属の「イエニチェリ」は強力な軍団として知られました(画像・右)。
そして帝国の軍隊は、世界に先駆け鉄砲隊や大砲を引く部隊などを組織していました。
当時、最新式の銃や大砲を装備したオスマン帝国の常備軍は、周辺諸国の脅威の的となります。

  • メフメト2世
  • 金角湾

“征服王”の異名を持つ第7代皇帝「メフメト2世」は、1453年、コンスタンティノープルを攻めます。
堅固な要塞都市を攻略するには、側面の金角湾からの攻撃が効果的と思われました。
しかし、入り口には太い鎖が張られ、艦隊の侵入を阻んでいました。

  • 包囲網
  • 細くとがった塔

そこでメフメト2世は、艦隊を一度陸にあげて山を越え、金角湾に侵入する作戦を立てました。
70隻ほどの船が侵入したところで、包囲網を完成させます。
重さ500キロを超す砲弾が城壁を破壊。
包囲から二カ月たらずで、コンスタンティノープルを陥落させました。
陥落後、聖ソフィア聖堂は破壊されることなく、モスクに改修されます。
このとき、聖堂内を飾っていたモザイク画は、漆喰で塗りつぶされました。
そして、アラビア文字でイスラームの聖人の名前が掲げられたのです。
また、ドームの周囲にはトルコ式のモスクの特徴である細くとがった塔が建てられました。
その後、イスタンブルはオスマン帝国の都として発展していくことになります。

  • グランドバザール
  • 1566年ごろのオスマン帝国統治領域

メフメト2世の命により建設されたグランドバザールと呼ばれる市場(いちば)は、東西交易の重要な拠点として世界中の品物が集まり、にぎわいました。
オスマン帝国はその後も領土を拡大し、アジア、ヨーロッパ、アフリカの三大陸に領土を持つ大帝国になります。
帝国は、20世紀初めまで続きました。

  • 羽田正先生

お話をうかがうのは、東京大学 副学長の羽田正先生です。

早紀 「キリスト教の教会の時には無かった塔が、四隅に建てられたんですね。」

羽田先生 「これはモスクの周辺に建てられる塔で、ミナレットといいます。1日に5回、礼拝の時を知らせるための塔なんです。」

早紀 「塔の中には、知らせるための鐘があったりしたんですか?」

羽田先生 「人が塔に上って、上から大声で叫んだんです。」

マヤ 「イスラームからすると、もともと異教のキリスト教の教会ですよね。それを壊さずにモスクとして利用したのはなぜなんですか?」

羽田先生 「とても合理的で、本当に無駄なことをしない人たちなんですよ。そこにあるものを使う方が便利ですよね。これはだめだから全部壊してしまおうという考え方はしない。とても融通が利くというか、ある意味、非常に柔軟な人たちだということになりますね。」

マヤ 「オスマン帝国というと、常備軍やイエニチェリという強力な軍隊で領土を拡大していったという、強権的なイメージもあるんですが、先生の話を伺っていると、緩やかな統治というのもあったんですね。」

羽田先生 「そうですね。特にキリスト教徒とかユダヤ教徒の人たちが沢山いましたから、こういう人たちは自治を認められていた。自分たちの宗教的な集会については、自分たちのやりたいようにやっていいですよ、というふうに言われた訳ですよね。」

マヤ 「そもそもイスラームでは人頭税、ジズヤを納めれば宗教の自由は認めるというのがありましたよね。」

羽田先生 「それぞれのやり方を認めて、しかし緩やかに自分たちの権威・権力を認めさせるというやり方が、帝国というんですけれども、こういう統治の仕方というのは、当時の世界ではほとんど当たり前のことで、一番いい例がオスマン帝国だということですね。」

イスラームの文化
  • スルタンアフメト・モスク
  • アラベスク

アジアとヨーロッパの間に位置し、東西交易の中継地としてさまざまな情報が行き来したオスマン帝国では、独自の文化が発展しました。

オスマン帝国の時代には数多くのモスクが建てられました。
アヤソフィアのすぐ隣に建つ「スルタンアフメト・モスク」
この時代を代表する建築物のひとつです。
ミナレットの数が多いほど、モスクの格式の高さを表していると言われます。

イスラームの教えでは、偶像崇拝を禁止しているため、モスクの内部の壁に聖人などの宗教画はなく、独特の模様が施されています。
壁面を飾るこの模様は、イスラーム美術のひとつの様式として発達した「アラベスク」と呼ばれるものです。
アラベスク模様は植物などを図案化した幾何学的な装飾文様(もんよう)でモスクの他、絨毯や書物の装丁にも用いられています。

  • 文字を美しくデザインする技術が発達

また、ムスリムが生み出した文化のひとつに「書道」があります。
コーランを装飾するため、文字を美しくデザインする技術が発達したのです。
書道家たちには「神から下された啓示は最も美しく表現しなければならない」という使命感がありました。
神の言葉、コーランを記す造形芸術として、書道が追求されたのです。

  • フェルメールの水差しを持つ女
  • オスマン帝国から入ってきたと考えられる絨毯

オランダを代表する画家のひとり、フェルメールの「水差しを持つ女」。
右下に描かれている絨毯は、オスマン帝国から入ってきたと考えられています。

羽田先生 「これはオランダで書かれた絵ですが、当時のオランダは交易が発展していましたから、そこに海外から貴重なこういう絨毯が入ってきていたんですね。絨毯はよくアラベスクの模様が多いんですけれども、アラベスクの絨毯というと、どういうイメージがありますか?」

マヤ 「トルコやペルシアの高級な絨毯というイメージです。」

羽田先生 「アラベスクというのは、文字や動物、植物などを図案化して幾何学的な模様にして、唐草模様を使ったりしながら、組み合わせてつくられたものですね。抽象的なものだと思いますけれども、唐草模様の原型というのはギリシア文化にありますし、幾何学なんかもギリシアで発達したものですよね。」

早紀 「ギリシアが関係しているんですか?」

羽田先生 「アラベスク自体がギリシアのものだったというわけじゃないけれども、そういう他の地域で発展してきたデザイン・芸術・学問など、そういったものを全て取り入れて自分たち流に解釈して新しい文化を生み出していったということですね。
中国からは紙だとか羅針盤だとか、そういったものが入ってきますし、インドから数字が入ってきますよね。
よそからいろんな文化を取り入れて…、といっても周辺ですよね、それをまた自分たち流に変えて外に出していく、という地理的な特徴、優位さがあったと思いますね。」

マヤ 「当時はギリシアやローマで生まれた学問や技術といったものがイスラームの世界で発展して、またその後ヨーロッパに伝えられていったということなんですね。」

ムスリムの諸国家
  • サファヴィー朝
  • アッバース1世

15世紀から16世紀にかけて、オスマン帝国の他にも、ムスリムを君主とする諸国家が勢力を広げていました。
イラン高原とその周辺を支配したのは、「サファヴィー朝」です。
16世紀末、イスファハーンに都が置かれました。
イスファハーンは「世界の半分」といわれるほど繁栄した街です。
世界の富の半分が集まるという意味です。
イスファハーンに都を移した、「アッバース1世」は“この街を地上の楽園にせよ”と命じました。
その楽園とは、遊牧民を率いて戦った歴代の王たちの強い憧れ、オアシスをイメージしたものでした。

  • 王の広場
  • 王のモスク

  • イラン型のモスクの最高峰
  • ドームの頂点までアラベスク模様で装飾されている

イスファハーンの中心に造られた「王の広場(イマームの広場)」。
水と緑が調和したこの広場は、王の威信と権威を象徴する場所です。
広場からひときわ目をひくのが、「王のモスク(イマーム・モスク)」です。
イラン型のモスクの最高峰に位置する傑作と言われます。
礼拝堂の内部は、ドームの頂点までくまなくタイルで覆われ、アラベスク模様で装飾されています。

  • ムガル帝国
  • 赤い石が使われている

  • インド古来の建築様式が見られる
  • ハヌマーン

16世紀前半、インドにムスリムの王朝である、「ムガル帝国」が建てられました。
第3代皇帝「アクバル」が建設した都、ファテープル・シークリーには、インドの文化が色濃く残されています。
宮廷の建物には、インドで採れる赤い石が使われ、屋根や柱にはインド古来の建築様式が見られます。
また、街の随所にヒンドゥー教の神々の姿も見ることができます。
宗教的な寛容さは、都を築いたアクバルの政治理念と関係がありました。

  • アクバル
  • アグラ

  • 細密画
  • タージ・マハル

アクバルは、異教徒に対する人頭税を廃止し、ヒンドゥー教徒も軍人や官僚に採用するなど「万民との平和」を政治理念としていました。
都はその後アグラに移しますが、政治理念は変わりませんでした。
アクバルの時代の都市の繁栄を描いた細密画があります。
宮殿の周りに、さまざまな職人を住まわせ、アクバルはその働きぶりを好んで視察したといわれています。

アグラの街には、ムガル帝国が世界に誇る建築物があります。
「インドの宝石」とも例えられる「タージ・マハル」です。
タージ・マハルは、第五代皇帝シャー・ジャハーンが、亡くなった王妃のために建てた霊廟(れいびょう)です。
贅(ぜい)を凝らした造りからは、王妃への愛情とともに、帝国の繁栄ぶりが伺えます。

  • ムスリム諸国家
  • ヨーロッパにいろいろな文化が入っていく

ムスリム諸国家は互いに争いながらも、緩やかな統治によって東西交易を活発化させ、独自の発展を遂げました。

早紀 「世界の真ん中にあったように見えるムスリム諸国ですが、今はアメリカやヨーロッパが中心のように見える位置づけです。それはいつごろ、どのようにして変わっていったんですか?」

羽田先生 「本当に変わっていくのは19世紀になってからでしょうね。地図を見ていただいたら分かるのでしが、このあたり(中東・西アジア)ってユーラシア大陸、アフリカ大陸を含めた大陸群の、ど真ん中ですよね、
ところが、16世紀ぐらいになり大航海時代が始まって、一番向こうにあったはずのヨーロッパの人たちがグルッと回ってやってきたり、南北アメリカの方に出かけていったりしますよね。そうすると、ヨーロッパの方がいろんな文化が入ってきたり、それから経済的な意味での真ん中になっていくわけですよ。結果として、このあたり(中東・西アジア)が世界の真ん中ではなくなってしまう、ということなんでしょうね。」

イスラーム発展の名残
  • アルはアラビア語の定冠詞

マヤ 「アルカリ、アルコール、アルゴリズム、星の名前のアルタイル。科学、サイエンスの言葉には、こういった『アル』から始まる言葉があります。この『アル』というのは、実はアラビア語の定冠詞。イスラーム圏で科学・文化が発展したことの名残なんですね。」

それでは次回もお楽しみに!

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