NHK高校講座

生物基礎

Eテレ 毎週 火曜日 午後2:40〜3:00
※この番組は、前年度の再放送です。

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今回の学習

第37回

生態系のバランス (2)
〜復元力を超える人間の諸活動〜

  • 生物基礎監修:海城中学高等学校教諭 関口 伸一
学習ポイント学習ポイント

生態系のバランス (2) 〜復元力を超える人間の諸活動〜

  • 沖大幹さん
  • 研究の様子

「生態系のバランス」の2回目は、水文学者の沖 大幹(おき たいかん)さんにお話をうかがいます。
水文学とは、どのような学問なのですか?


沖さん 「水文学というのは、水に関する森羅万象を扱う。具体的には物理的な循環……水がどこから生まれて、どのように地球上を循環しているのか。生き物がどうやって水を使って、またその生き物に対して水の循環がどう影響しているか。さらには、人間活動への水の影響までを含んだ、非常に幅広い学問だといえると思います。」


沖さんの専門分野は、人間のさまざまな活動も含めた、地球上の水の循環です。
気候変動との関連についても深い関心を寄せて、研究をおこなっています。

水の循環は、気候変動からどのような影響を受けているのでしょうか。

気候変動で降水量が変わると
  • 気候変動で降水量が変わると

沖さん 「水の循環というのは、実は気候のシステムの一部なので、地球温暖化によって気候が変動してしまうということは、水循環が変わってしまうということです。」「気候変動で温度と雨が変わりますから、当然それに応じて、そこに育つ植生も変わってしまう。」


「たとえば、雨が年間に200mmから300mm分降らなければ、1本の木が平地で育つことは難しく、それ以下のところでは草やかん木(背の低い木)しか生えないのだそうです。
また、雨がさらに少なく年間100mmも降らないようなところでは、降った雨はすべて蒸発してしまうので、ほとんど草も生えないような砂漠になってしまうと思っていただいたらいいと思います。」

  • 生態系には復元力が備わっている
  • 人間によるかく乱

生態系には、小規模なかく乱が生じても再び元に戻る、復元力が備わっているんでしたね。
ところが人間活動によるかく乱では、その復元力を超えた力がはたらいて、生態系のバランスが崩れてしまうことが起きてしまいます。

では、今 地球温暖化による気候変動は、生態系にどのような影響を与えているのでしょうか。

気候変動で平均気温が変わると
北極海の氷が年々小さくなっている

沖さん 「気候変動は、基本的には温室効果ガスの増加によって地球全体で平均した気温が変わります。ところがその変わりかたというのが地球全体で一様ではなくて。たとえば北極や南極は5℃、6℃上がるだろうと。既に2℃、3℃上がっています。たとえば北極海には常に氷がありますが、9月にいちばん面積が小さくなります。その小さくなり方が年々減ってきて、9月の北極海の氷が小さくなっているんです。」


これは、北極海の9月の氷を、人工衛星で観測し画像にしたものです。
1980年、1999年、2012年と、その氷は小さくなっていることがわかります。

  • ゲリラ豪雨

沖さん 「これがもしかすると、2030年には、氷がいちばん小さくなったときにゼロになるということも考えられていて…。そこに氷があることによって成り立っていた生態系や人の暮らしがあるなかで、それまであった氷が失われてしまうというのは大きな変化かなと思います。気温が上昇して雨の降り方も変わりますので、そういう意味では『ゲリラ豪雨』が最近増えているのは、気温が上がって大気中に含まれうる水蒸気の量が増えたために、強い短時間の雨が増えてきた……と解釈してたぶん間違いないと思っています。」

  • 温室効果ガス
  • 人間活動によって温室効果ガスが大気中に増える

地球温暖化というのは、どのような原因で起きるのでしょうか?


沖さん 「地球温暖化あるいは気候変動は、いろいろな原因で起こっていて。自然としての変動もありますが、最近問題視されている人為的な気候変動に関しては、基本的には温室効果ガスとよばれるような二酸化炭素やメタン、一酸化二窒素といった、人間活動由来の温室効果ガスといわれるような成分が大気中に蓄積されて、それによってもたらされると考えられています。


人間活動によって、温室効果ガスが大気中に増えてしまうということなのですね。


沖さん 「温室効果は、人間が化石燃料を燃やした熱がこもるというのではないんです。ふだん太陽からきたエネルギーは、一部は吸収されて、一部は反射して宇宙空間に戻っていくわけですけれども。また宇宙に戻っていく途中で温室効果ガスに吸収されて、大気が少し温まって、バランスが取れるようになる。そうすると、大気の中層の温室効果ガスが温まった分に応じて地表も温まらないと熱エネルギーのバランスが取れなくなるので、その分少し上がってしまう。その『少し』が1℃であったり。既に1℃上がっていますし、将来的にもう1℃、あるいは2℃くらい上がってしまうと懸念されるのが、地球温暖化です。」

  • 太陽の熱は地表から宇宙へ逃げる

地球は太陽の熱によって温められ、その熱は地球の表面から宇宙空間へ逃げていきます。
大気がなければ、地球の表面は−19℃という氷の世界になると考えられています。

  • 温室効果ガスで気温が保たれる
  • 温室効果ガスが増えると熱の量も増える

しかし、地球には大気があり、その中には二酸化炭素などの温室効果ガスがあります。
温室効果ガスは地球から放射される熱の一部を吸収し、再び地表へ向かって放射します。
それにより、地球の気温は平均で15℃程度に保たれているのです。

ところが、人間活動によって温室効果ガスが増えると、地表に放射される熱の量も増加します。
このため地球の気温が上昇してしまうことを、地球温暖化といいます。


沖さん 「地球規模では明らかに気温は上昇していて、既に産業革命より前と比べて1℃くらい上昇したといわれています。1℃というと大したことないと思われるかもしれませんが、平均気温が1℃上昇するということは、南北差でいえば下手すると数百km移動するのと同じなんですね。」

気温上昇と生態系のバランス
  • 気温上昇と生態系のバランス
  • ライチョウ

沖さん 「たとえば1000年で1℃上がるとか、1万年で2℃上がるということでいうと、おそらく社会も生態系も、その変化に合わせて何とか追いつけるのではないかと思うんですね。」


ところが、沖さんによれば、あまりにも急激な変化の場合は次のようなことが考えられるといいます。

植生は、世代交代でしか自分の生息域を変化させることができません。
つまり、温度や雨の変化に応じて適地を見つけても、すぐに移動することはできません。
動物にとっては、依存している植生がついてこられないということが、問題になります。
気温や雨の量がよくても、そこに自分の望む植生・生態環境がなければ暮らすことができないためです。


沖さん 「植生は動けない、動物は動けても植生がついてきてくれないと困るという意味では、やはりゆっくりとした変化でないとなかなか生態系は適応できないのではないかと思います。生態系が急な変化に適応できないので、下手をすると絶滅してしまうような植物や動物がいるというのが大きな問題なのだと思います。」


わずかな平均気温の上昇でも、それが短期間に急激に起こると、生態系は大きなダメージを受けてしまうんですね。
復元力を超えてしまったら大変です。

海の生態系への影響
  • 二酸化炭素の増加による海への影響
  • 海の生態系への影響

人間活動によって大気中の二酸化炭素が増加すると、海にまで影響を与えるのだそうです。
どのような変化が起きているのでしょうか。


沖さん 「大気中の二酸化炭素濃度が増えると、海水に含まれる二酸化炭素濃度が増えるというのは、理論的にも予測されますし、実験的にも、さらに観測でも確かめられています。そういう意味では、実際に起こりつつあると考えていただいていいと思います。」

  • 海の酸性化
  • pH(酸性化の指標)

海水に溶ける二酸化炭素が増えると、どのようなことが起こるのですか?


沖さん 「海の二酸化炭素濃度が増えて、結果としては酸性化というのが起こります。海は弱アルカリ性、pH8.1とか8.2くらいだったところが、中性がpH7ですので、中性に近づくという意味で酸性化なのですが、今は8.09とか8.07くらいまで進んだ状況です。」

  • 凌風丸
  • 水のサンプルの採取

さまざまな海洋の観測や調査を行っている、気象庁の凌風丸(りょうふうまる)です。
太平洋上で装置を沈めて、水のサンプルを採取しています。

採取した海水から、溶けている二酸化炭素の濃度のデータを調べます。

  • 1990年のデータ
  • 2014年は海の酸性化が進んでいる

これは、大気が海洋に与える影響を示したデータです。
赤はpHの値が小さいところで酸性度が高く、青はpHの値が大きく酸性度が低いところです。

30年間の変化を見てみると、赤いところが増えているのがわかります。
1990年と2014年のデータを比較すると、太平洋のところどころで海の酸性化が進んでいることが明らかになりました。

海の酸性化が進むと
  • 海の酸性化が進むと

海の酸性化は、生き物たちにはどのような影響があるのでしょうか。


沖さん 「サンゴに代表されるような炭酸カルシウムの殻を持っている生き物にとって、酸性化が進むともろくなったり、そもそも殻をつくりにくくなったりするというような悪影響が生じます。サンゴだけではなくて貝なんかが、やはり殻をつくりにくくなる。大きくなればいいんですけれども、特に幼生、小さいころにそれがつくりにくいと、うまく育たないといったことがあります。こうした意味では、深刻な影響も考えられると思います。」

  • サンゴの骨格ができるには
  • 二酸化炭素が溶け込むほど炭酸カルシウムがつくられにくくなる

サンゴは、海洋中のカルシウムイオンと炭酸イオンとが反応してできる、炭酸カルシウムで骨格をつくっています。

ところが、海に二酸化炭素が溶ければ溶けるほど、その一部が炭酸イオンと反応して炭酸水素イオンに変わっていきます。
このため炭酸イオンが減少するので、カルシウムイオンがいくらあっても、サンゴの骨格に必要な炭酸カルシウムがつくられにくくなってしまうのです。

  • サンゴ礁と多様な海の生物

サンゴ礁では、多様な海の生物たちが暮らしています。
サンゴは、豊かな海の生態系の象徴なんです! 
これ以上悪くならないようにするには、いったいどうしたら良いのでしょうか?


沖さん 「海洋酸性化は特に目に見えにくい。悪影響が出てからでないと私たちが気づきにくいので、今のように既に海洋酸性化が起こっているというデータを見た時点でアクション、行動しなければいけない。酸性化に対しては元から絶つしかないので、そういう意味ではすぐできる行動というのは非常に限られていて、多少は(海洋酸性化が)今後も進んでしまうのではないかと思っています。」


いちばんの解決策は、二酸化炭素の排出を少なくすること。
生態系のバランスを守っていくために、できることはなんでも取り組んでいかなければいけませんね。

海の変化に気づく大切さ
  • 海の変化に気づく大切さ

海の変化は気づきにくいということですが、ほかにも人間の活動が知らず知らずのうちに影響を与えているということはあるのでしょうか。


沖さん 「直接の影響としては、たとえば漁業のやりすぎ。あるいは沿岸を開発することによって、たとえば干潟が失われてしまう。干潟や沿岸みたいなところで産卵していたような魚がすめなくなるというような、直接の影響もあります。あるいは気候変動を通じた海面の上昇や気温の上昇といった、気候の変化を通じた間接的な影響もあると思います。」

  • 海水のサンプル
  • 海水から検出されたマイクロプラスチック
  • マイクロプラスチック

世界中の海は、つながっています。
そして、陸も川などで海とつながっています。
その海で今、心配されているのが、たくさん漂うようになったプラスチックのごみです。


沖さん 「私たちは陸に住んでいるので、やはり海のことは知らないんですね。たとえばレジ袋であったり、包装のプラスチックなんかが、紫外線や熱で分解されたマイクロプラスチックになって、それが魚の体内にたまってしまうというのが問題視されています。陸で、海に流れ込む河川、あるいは海岸に物を捨ててしまうと、それが大洪水のときに全部流れていって、それがそのまま海流に乗って広がっていくということが起こってしまっている。実は、海で汚すというよりは、陸の汚れが海に流れ込んでいるんだと考えていただいたほうがいいです。」

  • 沖さんとさかなクン

海のプラスチック問題の深刻化について、ナビゲーターのさかなクンは、沖さんとともに登壇したイベントで話し合ったことがあるといいます。

今、プラスチックの使い方が見直されています。

  • マイクロプラスチック
  • マイクロプラスチック

大きさ5mm以下のプラスチックの破片が、マイクロプラスチックです。
海水からは、目に見えないくらい細かくなったものも見つかっています。
今、海の生物がこれらを体内に取り込むことによる、生態系への影響が懸念されています。


沖さん 「海の場合には、たまっている水が多いので循環がゆっくりであるということがいえます。そうすると、汚れに気づくまでも遅いですし、汚れに気づいてきれいにしようとしはじめてから、元通りきれいになるまでの時間も長くなってしまう。自分たちが何をしているのかをわかっていても、自分たちがやったことが、さらに人間社会や自然環境にどのような影響を与えているかまで、ふだん私たちは考えないわけです。そこに思いをはせるということが、非常に重要なのではないか思います。」


沖さんは、10年後には今高校生のみなさんが、環境の悪化に対していろいろな手立てを考え実行する主役になるのだという自覚を持ってほしいといいます。

  • 目に見えないところで人間活動の影響を受けている
  • 次回もお楽しみに!

生態系のバランスは人間活動によって、目に見えないところでも乱されたり、影響を受けたりしているんですね。
今、何が起きているのか、関心を持つことが大切なのだと思いました!


沖さん
「これは科学者、研究者的な発想なのかもしれませんが。

まず、何が起きているかをきちんと観察して、記録にとどめて。
それを10年、20年、100年……できれば1000年後と比べられるように記録しておく。

大きな変化が見られたら、それは果たして大丈夫なのかどうかということを、みんなできちんと想像力をはたらかせて検討する。
それが何か悪影響を及ぼしそうだったら、それがそうならないように、1つ1つ事前に防いでいく。

そういう地道な努力が必要なんだと僕は思います。」



それでは、次回もお楽しみに!

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