NHK高校講座

生物基礎

Eテレ 毎週 火曜日 午後2:40〜3:00
※この番組は、前年度の再放送です。

生物基礎

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今回の学習

第34回

日本のバイオーム

  • 生物基礎監修:東京都立国分寺高等学校教諭 市石 博
学習ポイント学習ポイント

日本のバイオーム

  • 宮下直さん

生態学者の宮下 直(みやした ただし)さんは、日本各地へ足を運び、生き物を取り巻く環境や生態系、そして生物の保全のあり方を調査・研究されています。

バイオームとは、植物を中心にその地域に生息する動物も含めた生物のまとまりのことでした。
これまで世界のバイオームについて見てきましたが、日本のバイオームの特色とはどのようなものなのでしょうか。
宮下さんに、日本のバイオームを実感するのはどんなときなのか、伺ってみました。

日本のバイオームを実感するとき
  • 垂直距離に凝縮されている
  • 山登り

宮下さん 「沖縄から北海道まで旅行するというのがあるかもしれませんが、お金も時間も必要になります。それに対して日本には火山が多い。しかも4つのプレートがぶつかり合って、非常に急しゅんな山ができています。わざわざ遠くまで行かなくても非常に狭い範囲に、たとえば夏緑樹林、照葉樹林、そして亜高山帯の針葉樹林、そして高山帯のツンドラ。そういったものが、水平距離でいえば数kmとかせいぜい10kmくらいの間に、垂直方向で凝縮されている。これは非常におもしろいですね。ですからひと言で言うと、山登り。登山をすると、わりと短時間でいろいろなバイオームを経験できます。」


山登りには、そんな楽しみもあるんですね!
日本のバイオームに、がぜん興味がわいてきました!

水平分布

バイオームは、植物の成長に大きな影響を与える、気温と降水量によって決まります。
南北に長い日本列島には、どのようなバイオームが見られるのでしょうか。

日本では雨が多く、どの地域でも降水量はあまり変わらないので、年の平均気温によってバイオームが変わっていきます。
また、北に行くほど気温が低くなるため、緯度に応じたバイオームの変化を水平分布といいます。


寒冷な北海道東北部には、トドマツやエゾマツからなる針葉樹林が分布しています。

北海道南部の低地と東北地方には、ブナやミズナラなどの夏緑樹林が分布しています。

関東から四国、九州地方までの低地には、スダジイやアラカシなどの照葉樹林が広く分布しています。

九州南端から沖縄にかけてや、小笠原諸島では、平均気温が高く特徴的な亜熱帯多雨林が分布しています。

  • 垂直分布

さらに、高い山々が多い日本では、標高によってもバイオームが決まります。
これを、バイオームの垂直分布といい、標高が低いところから順に、低地帯、山地帯、亜高山帯、高山帯に分けられます。

日本の垂直分布

たとえば針葉樹林は、本州中部では標高1500m以上の亜高山帯で見られますが(富士山、日光白根山 等)、北海道東部では低地帯に分布しています(羊蹄山、大雪山、羅臼岳 等)。

このように水平に移動しても、垂直に移動しても、日本では多様なバイオームが見られます。
狭い国土に、豊かな自然が息づいているのです。


世界には、広大な針葉樹林が広がる地域や、草原や砂漠が続く地域もあります。
日本の場合はいろいろなバイオームがあって、特に山登りをすると、そのことがよくわかるということなんですね!

登山とバイオーム
  • 五感で変化を感じられる

宮下さん 「当然山登りですから、低いところ、つまり暖かいところから寒い高山帯まで歩くんですけれども。その間で私の経験からすると、見た目の景色というか。たとえば夏緑樹林から針葉樹林になって、高山帯のいわゆるツンドラのような状況になる。これは当たり前なんですけれども。それ以外にも、いわゆる五感ですね。聴覚とか、臭覚(嗅覚)。においですね。そういったものでも、実は移り変わりを感じ取ることができるんですね。」


聴覚や臭覚?
景色のほかには、どのような変化がわかるのでしょうか?

音で感じ取るバイオーム
  • コマドリ
  • メボソムシクイ

宮下さん 「聴覚ですと、鳥の鳴き声ですね。バイオームはそもそも植物だけで定義されているわけではなくて、動物や微生物も合わせたそのまとまりをバイオームといっています。当然、鳥も標高、バイオームによって変わってくる。たとえばコマドリの鳴き声がし始めたら、だいたい1500mくらいまで来たのかと。そうすると亜高山帯かな、と。もう少し上に行くと、今度はウグイスの仲間のメボソムシクイという小鳥。この鳴き声がすると、標高1800mとかの、亜高山帯の針葉樹林に入ってきたなというのがわかる。」

  • イワヒバリ
  • 高山帯の景色

宮下さん 「さらに上に行くとイワヒバリなど、まったく別の鳥が出てくる。」


山の頂上に近い、高山帯ですね!
もう高い木は生えていなくて、花畑が広がっているんですね。

においで感じ取るバイオーム
  • においで感じ取るバイオーム

宮下さん 「もう1つは、におい。バイオームとにおいってなんだろうか、と思うかもしれませんけれども。亜高山帯は、独特な針葉樹の、いわゆるレジンのにおいがする。これはスギやヒノキの香りとはまたちょっと違って、もう少しいい香りというか癒されるにおい。」


宮下さんによれば、亜高山帯ではシラビソやコメツガ等の仲間の樹木から発せられる『亜高山帯のにおい』が感じられるといいます。


宮下さん 「ですから見た目だけでなくて、鳥の声や、植物から発せられるにおいとか。そういった五感で感じて山を登っていると、極端にいえば標高がだいたいどのくらいかということもわかってしまう。身をもって体験するということで、私としてはおすすめというか。私自身も気に入っている部分です。」

  • 研究室の様子
  • 調査の様子

宮下さんは、学生たちとともに身近な自然に足を運び指導するかたわら、生物の多様性について研究されています。

どのようなきっかけで、昆虫などの生物や、生き物どうしのつながりに興味を持つようになったのでしょうか。

  • 亜高山帯にはほとんどチョウがいない
  • 高山帯のチョウ

宮下さん 「私の父親が、長野県の小学校の先生をやっていまして、チョウが好きだったんですね。物心ついたころから山に連れていかれて、虫をとっていた。それで生き物好きになりました。大学に行くと、生物部に植物に詳しい先輩がいて。その人に連れられて山に行くと『あのとき図鑑で見たのはこれなのか』と。そうやって生き物への関心が広がっていきました。たとえば、高山帯の下は亜高山帯で、針葉樹がたくさん生えていて。いいにおいはするんですが、あまりチョウがいないんです。2、3種類いるだけで。ところが、高山帯に入って森林限界を超えていくと、お花畑が広がっている。花をつけた植物がたくさんあるんですが、そこに高山帯ならではのチョウが乱れ飛んでいる。そういう場面が、いちばん好きですね。」


どうして、高山帯ならではのチョウがいるのでしょうか?


宮下さん 「実はそれがまさに、氷河期……1万5千年くらい前か、もっと前かもしれませんが。その時代に大陸から入ってきた生き物なんですね。それが縄文時代以降に温暖化した後も、高山帯は涼しいバイオームが残っているので、そこでいまだに生きながらえているという生物なわけです。」


縄文時代!
縄文時代に、日本のバイオームが変わったということなのでしょうか?

  • バイオームは未来永劫 不変ではない

宮下さん 「バイオームとは、未来永劫、不変ではないですね。よくご存じの氷河時代、氷期といいます。最終氷期、つまりいちばん最近の氷期は1万5千年くらい前まで、今より気温が7℃から8℃、あるいは10℃くらい低くて。縄文時代に入ると、今度は気温がグングン上がってきて、だいたい今と同じような気温になる。つまり、バイオームが全然変わってしまったんですね。」

  • 旧石器時代の石器
  • 縄文時代の石器

氷河期と現在では、日本のバイオームは大きく違っていたと考えられています。
どのような変化があったのでしょうか。
そのヒントが、昔の人たちが使っていた石器にあります。

左の画像は、旧石器時代に動物の狩猟に使っていた、代表的な石器です。
右の画像は、縄文時代の石器。
同じ狩猟用なのに、形が変わっていることがわかります。

バイオームと狩猟
  • 旧石器時代には草原が広がっていた

宮下さん 「大きなゾウの仲間やオオツノジカがいた時代は、草原的な環境で人間は狩猟をしていたわけですけれども。主にやりを使って、大きな動物をしとめていたんですね。今の関東地方や、本州の南のほうですと、夏緑樹林や照葉樹林が広がっているわけですけれども、当時は針葉樹林や草原が広がっていたと考えられています。」


縄文時代の前、旧石器時代には草原が広がっていて、ゾウやシカがたくさんいたんですね!
人々は、やりでこうした獲物をとっていたので、大ぶりな石器が多く発掘されるのだそうです。

  • 森林が広がり中型の哺乳類を狩猟するように
  • 石器が小さくなる

宮下さん 「ところが旧石器時代が終わり、だんだん暖かくなって森林が広がってくると、大きなゾウやシカがいなくなる。そうすると、森林性で比較的中型の哺乳類が増えてくる。やりではうまく狩猟できないので、弓を使うようになる。使う石器のタイプが、旧石器時代から縄文時代にかけて大きく変わったというのが、考古学者の定説になっています。バイオームが草原的環境から森林環境に移る。そうすると今度は、たとえば木の実。ドングリやクリ、クルミといった堅果類。そういった植物質の食べ物を食べるようになる。つまり、生活スタイルが変わった。」


弓矢に使う小さめの石器が増えてくるのは、縄文時代になると気温が上がって、草原が森に変わってきた。
つまりバイオームが変化したことで、人々の生活も変わったということを示しているのですね。

  • 三内丸山遺跡
  • 遺跡での発掘物

青森県の三内丸山遺跡では、その出土品から縄文時代に人々がどのような生活をしていたのかを見ることができます。

森が増えてきたことは、狩猟の方法だけでなく、どのような変化を人々にもたらしたのでしょうか。
遺跡からは、当時の食生活を知る手がかりが数多く発掘されています。

  • クルミの殻
  • クリ
  • 縄文時代の生活のイメージ

左の画像は、クルミの殻です。
ほかにもドングリやクリ(中画像)などが見つかり、人々は大切な食料だった木の実を栽培もしていたと考えられています。

こうしたことからも、縄文時代の東日本には、豊かな森が集落の近くに広がっていたことがわかるのです。

遷移が速い日本のバイオーム
  • 日本は遷移の進みが速い
  • 日本は遷移の進みが速い

宮下さん 「結局、日本の場合は、気温もそこそこ暖かいし、雨はかなり多い。そうすると、たとえば裸地や草原は、放っておくとたいてい、やぶになってすぐ森になってしまう。遷移が非常に速い、進みやすいというのがいちばん大きな特徴だと思います。」


気温が高く雨が多い日本では、草原は森林に遷移してしまうということですが……今の日本は決して、森林だらけにはなっていませんよね?
またバイオームが大きく変わったということでしょうか?

  • 土地利用の変化
  • 人工林も増えている

宮下さん 「弥生時代以降、水田や畑が広がったりとか、もちろん宅地が広がったりとかしてきしましたけれども。これは、バイオームの変化とは直接関係ありません。これは人間の土地改変というか、土地利用が変化したというふうにとらえていただいたほうがいいんじゃないかと思います。」


本来は森や林で覆われていくはずが、人間が農業を始めて田んぼや畑にしていった、ということですね。
今では植林など、人工林も増えているので、本来のバイオームは見えにくくなっているのかもしれません。

ところで、日本のバイオームは、これからもずっと変わらないのでしょうか?

日本のバイオームの未来
  • ライチョウ
  • 高山植物

宮下さん 「地球温暖化というのが、ほぼ科学的に立証されている段階になっています。そうなると当然、今の温帯のバイオームが亜熱帯になってしまう。長期的には、このまま行くとそういう予想が出ています。陸だと、まさにその高山帯がどんどん縮小していくということで、高山植物も高山チョウもですね。あとは高山性の鳥でライチョウという、日本アルプスにしかいない鳥がいるんですけれども。これもある研究者の予想によると、あと50年ほど先になると、南アルプスも北アルプスも生息できる場所がほとんどなくなるといわれています。」


気候変動で日本の高山帯がなくなってしまうかもしれない!?
ライチョウや貴重な高山植物が絶滅してしまったら、大変です!

日本の豊かで多様なバイオームを守っていくには、どのようなことが必要なのですか?

  • 次回もお楽しみに!
  • 山登りで五感を使いバイオームを実感

宮下さん
「もちろんそれは、このまま温暖化が進めばの話です。
そういった生態系というか、バイオームをこれからも維持していくためには、われわれがこれからどうやって、いわゆる低炭素というか、化石燃料を無駄に使わないような暮らしをしていくかが、1つ重要な観点になるかと思います。」



日本の豊かなバイオームを実感するために、五感をフルに使って山登りをしてみたいですね。
そしてこれからのバイオームについて、みんなで真剣に考えていきたいですね!

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