NHK高校講座

生物基礎

Eテレ 毎週 火曜日 午後2:40〜3:00
※この番組は、前年度の再放送です。

生物基礎

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今回の学習

第31回

植生の遷移

  • 生物基礎監修:筑波大学附属駒場中・高等学校教諭 宇田川 麻由
学習ポイント学習ポイント

植生の遷移

  • 上条隆志さん
  • 三宅島の一次遷移を再現したジオラマ

今回お話をしていただくのは、植生学者の上條 隆志(かみじょう たかし)さん。
上條さんは、三宅島の植生について長年に渡って研究しているそうです。

これは、なんでしょうか?(右画像)


上條さん 「これは三宅島の溶岩上の一次遷移を再現したものになります。」


溶岩?一次遷移?

  • 遷移のジオラマ

上條さん 「手前が、植物が入りだした状態。その次が、植物が繁茂しだした状態になります。さらに生態系が50年から60年たったところになりまして、もう森林になってきている。そしてこちらが150年。最後が、だいたい1000年くらいたった森をモチーフにして作成したジオラマになっています。」


これが、遷移ということですか?

  • 三宅島の噴火
  • 降り注ぐ火山灰
  • 溶岩がいたるところに流れ出る

伊豆諸島の1つ、三宅島では、昔から幾度となく火山が噴火を繰り返してきました。

噴火によって火山灰が降り注ぎ、溶岩は島の至るところに流れ出ました。

  • 裸地
  • 一次遷移

火山の噴火後、溶岩で覆われた場所は、植物や土壌がまったくない裸地になります。
しかし、そのような裸地でも時間がたてば土壌がつくられ、やがては森林になります。

ある場所の植生が時間とともに次第に変化していくことを遷移といい、噴火のあとの溶岩台地など、土壌のない土地から始まる遷移を一次遷移といいます。

  • 遷移がどのように進んだのか
  • 遷移がどのように進んだのか2
  • 遷移がどのように進んだのか3

上條さん 「三宅島というのは非常に活発な火山で。噴火するんですけれども、1回ではなくて何回も起きます。さまざまな年代の噴火、すなわち溶岩流があるということになります。非常に若い、最近流れた溶岩流から、100年くらいたったもの。そして何千年も噴火の影響を受けていない森。そういったものが1つの島の中に存在するというのが非常に大事なことになります。」


いろいろな時代の溶岩流の跡を比べれば、三宅島で遷移がどのように進んでいくのかがわかるということですね。

上條さん!ジオラマではなく、実際にどのように森ができるのかを見たくなりました!


上條さん 「それでは、実際に三宅島に行って遷移を見てみましょう!」

  • 三宅島
  • 今回の調査場所

今回、上條さんと訪れるのは、右図の5箇所です。
遷移がどのように進んでいるのか、調査開始です!

  • 1983年の溶岩跡

まずは1983年の噴火で流れ出た溶岩の跡です。


上條さん 「ここは三宅島の中ではいちばん新しい溶岩流となって、いちばん若い土地となります。」

  • オオバヤシャブシ
  • ハチジョウイタドリとハチジョウススキ

こんな溶岩だらけのところでも、植物が育っているのですね!


上條さん 「高等植物としては、維管束植物としては、量的に順でいうと、オオバヤシャブシ。あとは、ハチジョウイタドリとハチジョウススキの多年生草本が多く見られます。地衣類は、遷移初期に真っ先に入ることは極めて多いんですけれども、ただ地域性はあって。ここみたいに比較的、海岸が近くて、やや乾燥気味のところ。三宅島はそんなに極端に乾燥はしていないんですけれど。そういう場合は、地衣類は量的には非常に少ないです。」

  • むき出しの溶岩
  • 地衣類

上條さん 「探すと、こういう溶岩むき出しのところにはほとんどくっついていないんですけれども、ちょっとした岩の隙間みたいなところを探すと、地衣類を容易に見つけることができます。」

  • 土壌が未発達で水分を保てない
  • 先駆種

溶岩などに覆い尽くされた裸地は、土壌が未発達なため水分を保つことができません。
そのため、そういった厳しい環境にも耐えられる植物しか生育できません。

オオバヤシャブシのように、遷移の初期の段階に現れる種を、先駆種といいます。

  • カルシウム、マグネシウム、リンが含まれる
  • 窒素

上條さん 「溶岩の中自体にはミネラルとして、鉱物質の状態としてカルシウム、マグネシウム、そしてリンといった物質が含まれています。ただ、それが植物にとって、やや使いにくい状態にある。潜在的なポテンシャルは非常に持っているというふうになります。唯一欠けているのが窒素になって。窒素は溶岩の中には基本的に含まれていない要素になるので。で、窒素はどこにあるかというと、私たちが息をしている大気中に分子としてあります。ただ、その場合、分子上の窒素は直接、維管束植物は利用できないので。」


窒素!植物にとって窒素は必要なものなんですよね。

  • オオバヤシャブシの根粒
  • 放線菌

オオバヤシャブシの根には根粒があり、そこに放線菌という細菌がいます。
その放線菌が大気中の窒素分子を吸収することで、オオバヤシャブシは窒素を栄養分とすることができるのです。


なるほど、放線菌さまさまですね。
ところで、このヤシャブシはどうやってここにきたのでしょうか?

  • オオバヤシャブシの種を採る
  • オオバヤシャブシの種子

上條さん 「これがオオバヤシャブシの種ですね。決して大きくはないですね。」


風で飛んできたんですね!

  • 樹木の下に落ち葉が溜まっている
  • 先駆植物の侵入から遷移が始まる

上條さん 「ヤシャブシの樹木の下に、落ち葉がたまっている様子がわかると思います。こういうところが非常にパッチ状に集中的に、生物が利用可能な有機物、あるいは栄養源が集まってくるというふうになります。ですから、局所的には非常に生物が活動しやすい環境ができつつあると。こういうのがきっかけとなって、次の遷移段階に進んでいくというふうになるといえますね。」


普通の植物が育つことができない厳しい環境に、真っ先に侵入する先駆植物……頼もしいですね。
そんな先駆植物が土壌のベースをつくっていくことから、遷移は始まるんですね。

  • 1983年の溶岩跡
  • 遷移の進行度が違う

それでは次のところに行ってみたいと思います!


上條さん 「ここは1983年の溶岩流です。遷移の進行度が、83年の噴火後の中では非常に速いほうになります。」


先ほどと同じ年の溶岩とは思えませんね。


上條さん 「三宅島は島なので、低標高、特に海辺に近いと潮風の影響を受けて遷移が抑えられる。ここは三宅島の中腹なので、潮風の影響は、そういう悪影響がないと。あと全体的に島自体が山の上ほど湿潤になる、そういう傾向があるので、水供給がいい。」

  • 生物が生きられる環境になってきている
  • ハチジョウススキとハチジョウイタドリ

上條さん 「このように面的に覆われた瞬間に、ここはどこもある程度、植物・生物が生きられる環境になってきています。そうすると、次から次へと新しい植物が侵入できる。環境がマイルドになる。ここから先は、極めて進むのは速いというイメージになります。」


こちらではどんな植物が育っているんですか?


上條さん 「みんな、オオバヤシャブシです。なので、先ほどのが、ちょうど大きくなったわけですね。同じように、下に生えているのはハチジョウススキとハチジョウイタドリになります(右画像)。ここを探すと、遷移の次の段階のものが、かなり頻繁に見られるようになります。」

  • 落ち葉も分解作用を受けている
  • 環境で遷移の進み具合が異なる

上條さん 「土、まだ土壌という段階ではないですね。ただ、ヤシャブシやイタドリの落ち葉で、決して落ち葉のままではなくて明らかに細かくなっているんですね。分解作用は受けているわけで。そうすると植物が利用可能なものが放出されていると。」


遷移の進み具合も、環境の違いでこんなにも差が出るんですね。

  • 1962年の溶岩跡
  • 成長したオオバヤシャブシ

上條さん 「ここから1962年の溶岩流上になります。まずは、森になっているということですね。先ほどとは違って低木林ではなく、高さも10m近くあるというふうになっています。ただ、森といっても巨樹があるわけではなくて。せいぜい太さ的には40cmくらいかと思います。植物ですけれど、何度も出てきましたオオバヤシャブシが、ついにでかくなりました(右画像)。いわゆる巨樹ではないですけれども、すごく年を経てきたということは、わかるかと思います。」

  • タブノキ
  • タブノキ

上條さん 「さらに、森の中が少し暗い感じになってきます。その理由は、このオオバヤシャブシだけでなくて常緑広葉樹が入り始めます。見上げると葉っぱの色が非常に濃いのですけれども、これは常緑広葉樹でタブノキになります。立派な成木サイズのタブノキが成育するようになっています。」

  • 落ち葉を掘る
  • 土らしくなっている

上條さん 「土の方は、先ほどは落ち葉を取るので精いっぱいだったんですけど、今度は違いますね。落ち葉をめくって、握ってみるとフカフカですね。」


本当だ!だいぶ土らしくなっています。

  • オオシマザクラ
  • 陽生植物 陽樹

上條さん 「こちら、オオシマザクラになります。典型的な、遷移の途中段階に出る樹木です。どちらかというと陽樹に相当するものになります。」


ヤシャブシやクロマツ、サクラなど、日当たりの良い場所でないと生育できない植物を陽生植物といい、その性質をもつ樹木を陽樹といいます。

  • スダジイ
  • 50年で遷移が進む

上條さん 「三宅島で遷移のいちばん最後をつくるといわれているスダジイも、ごく少数ですけど、こういうふうに侵入しています。この木なんですけれども、一見して決して成長は悪くないです。よく成長しています。」


50年もたつと、これほどまでになるんですね。

  • 1874年の溶岩跡

上條さん 「ここからが1874年の溶岩流になります。先ほどの森のタブノキは、直径20cmくらいだったと思います。それが、もうかなり、直径50cmくらいあるかと思います。」

  • 後から入る植物には過酷な環境
  • 陰生植物 陰樹

上條さん 「森が発達するということは、非常にいいことに聞こえるんですけれども、あとから入ってくる植物たちにとっては、非常に過酷な環境になるわけです。その過酷さは、光になります。上空はもちろん、林冠部はたくさん光があるので、ひとたび森林内になれば、下にいけばいくほど光は無くなります。そうすると、ここに生育している植物たちは、ある一定の耐陰性……暗いところにいても物質生産を行う能力を持っていなければならない。」


タブノキやスダジイなど、日陰の環境でも生育できる植物を陰生植物といいます。
その性質を持つ樹木を、陰樹といいます。

陰樹は陽樹よりもゆっくり成長しますが、明るい環境でも暗い環境でもよく育つことができます。

  • 少ない光を効率的に受けている
  • 遷移が進み光をめぐる競争に

上條さん 「イヌビワとか、葉は非常に水平的に、かつ重ならないように配置されます(左画像)。少ない光を効率的に受けるみたいな形になっていると。暗い環境に耐える、なんらかの形・システムを持ったものたちが構成するというのが、森林が発達して、遷移が進むとともに、そういうものたちが増えていくと。


光をめぐる競争は大変ですね!

  • 約1000年前の溶岩跡
  • 極相

上條さん 「姉川溶岩流といいまして、幅を見ると1000年から1500年前に流れた溶岩流の上に成立した森林となります。いわゆる極相林という段階になります。」


遷移が進行した結果、全体として大きな変化が見られない比較的安定した状態を、極相といいます。

  • 森が発達するとスッキリした大木が点在する
  • 遷移の魅力

上條さん 「樹木どうしは光をめぐる競争をするので、一つ一つのサイズが大きくなると、密度が減っていく。だから、極相林になるに従ってジャングルになるというイメージではまったくなくて。ある一定のところから森が発達していくと、森はむしろ、すっきりした大きい木が点在して。かつ、亜高木のもの。場合によっては森が壊されて再生されているところというのを、非常に複雑な大きな構造をつくるものになってきます。」


極相ですか……ここまでなるのに約1000年。
さすがに迫力があります。

  • 成長した森林の最後は?

ゴツゴツとした溶岩がむき出しの若い土地から、それから約1000年たった土地を見てきました。
森林は、成長した最後、極相になったあとは、どうなるんでしょうか?


上條さん 「たとえば、自然の災害だと台風とかそういうものがあります。そういうときは、1つの大きな木が倒れて、そうするとギャップができて。」

  • 木が倒れるとギャップができる
  • 二次遷移

極相林でも、木が倒れるなどしてギャップができることで、生えている木は少しずつ入れ替わっていくのです。

山火事や森林伐採のあとのように、土壌がある状態から始まる遷移を二次遷移といいます。

二次遷移では土壌中に窒素の栄養塩類、植物の種子や地下茎、根などが残っているため、一次遷移に比べると遷移が速く進行します。


極相林でも、少しずつ木が入れ替わっていくのですね。

  • 次回もお楽しみに!

上條さん
「遷移を観察すると、本当に何もないものからシステムができて、生態系ができ上がっていくということを知ることができる。
生物がすごいということを時間という尺度を使って理解できるのが、遷移の魅力かなと思います。」



何気なく見ている森でも、実はそこに至るにはたくさんのドラマがあるのですね!

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