NHK高校講座

生物基礎

Eテレ 毎週 火曜日 午後2:40〜3:00
※この番組は、前年度の再放送です。

生物基礎

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今回の学習

第28回

免疫とヒト

  • 生物基礎監修:東京都立国際高等学校教諭 佐野 寛子
学習ポイント学習ポイント

免疫とヒト

  • 河本宏さん

前回(第27回)に引き続き、免疫学研究者の河本宏(かわもと ひろし)さんにお話を伺います。
河本さんがギターを取り出しています。


河本さん 「細胞を見ていたら歌にしてみたくなったり、絵に描きたくなったり。」


やつらが壁を叩く音が 路地裏に鳴り渡る
ついに壁が崩れ落ちて 狼煙(のろし)が空を焦がす……


河本さんの、免疫細胞ソングでした!
この続きはまた後で、お願いします。

  • 研究室の様子
  • キラーT細胞

こちらでは、どんな研究をしているのですか?


河本さん 「ここは、我々のメインの研究室で。今は主に、人工的にキラーT細胞をつくろうというような。」


キラーT細胞は、感染してしまった細胞を攻撃する細胞でしたよね。
増やすことができるんですか?

T細胞の再生
  • T細胞の再生
  • iPS細胞を仲介し、T細胞を量産

河本さん 「このいろんなT細胞の中で、がん細胞を攻撃することができるような……これをまず選んでいきます。ここから、これをiPS細胞に戻してやる。」


iPS細胞は、さまざまな細胞に変化することができるのでしたよね。


河本さん 「すると、このT細胞レセプターをつくっている遺伝子の情報が受け継がれていますので。ここからT細胞を再生すると、すべてのT細胞が攻撃できる。ということで、がんを攻撃することができるT細胞を好きなだけ増やせる、量産できる。」


いったん、iPS細胞にしてから、もう一度T細胞をつくる。
つまり、若くて元気なT細胞を、たくさん手に入れるということですね。


河本さん 「最近は特に、自分たちでT細胞をデザインしてつくって、T細胞製剤という形で患者さんに投与できるような細胞をつくろうと。そういう研究をしています。」

医療から基礎研究の道へ
  • 河本さんの研究を伝える手段
  • ノーベル賞を受賞した本庶佑さん

多くの人に免疫のことを知ってもらいたい、そして何よりも新しい治療法に貢献したいという思いから、研究を続けてこられたのですね。


河本さん 「私はもともと医者だったんですが、基礎研究のほうがおもしろいと思って、基礎研究へいきました。一方で、基礎研究をやったら、もしかするとがんを治せるような治療法を開発できるかもしれない。そういう思いもあって、基礎研究のほうに移りました。基礎研究の成果を生かして、がんの患者を治そうと。がんだけでなく、あらゆる免疫がかかわった病気は、T細胞を薬として使うだけで副作用なく治せる。そういう時代が必ずくると思っているんです。」


ノーベル賞を受賞した本庶佑(ほんじょ たすく)さんも、がん細胞をT細胞が攻撃できるように、そのメカニズムを解明したのでしたよね。
T細胞は本当に頼もしい存在ですね!

免疫と人類
  • 1969年 人類初の月面着陸
  • 免疫と人類

河本さん 「ヘルパーT細胞とか、キラーT細胞とかが見つかったのが、1960年代。1960年代の後半といえば、もう既に人類はロケットで月に行けていたわけです。そこまでできていたのに、まだT細胞の存在に人類は気がついていなかった。そのギャップを考えると、すごく理解が遅れていた。難しかったんですね。人類にとっても、免疫のシステムを解明することが。」


解明が遅れると、治療法の開発も遅れてしまうのでしょうか?

免疫のしくみを利用した治療法
  • 種痘

河本さん 「免疫を利用した治療法というのは、T細胞やB細胞といった実態がわかる前からちゃんと応用されていまして。それが、ジェンナーがやった『種痘』ですね。天然痘に対するワクチンが、18世紀ごろから始まっていたわけです。」


天然痘……って、聞いたことはありますけど、どんな病気なんですか?

  • 天然痘ウイルス
  • エドワード・ジェンナー
  • ワクチン

世界中の人々の命を脅かしてきた天然痘。
天然痘ウイルスに感染すると高熱が出て、全身にうみを持った発疹ができます。
治療法はなく、死に至る確率は2割から4割に達しました。

18世紀末、イギリス人医師のエドワード・ジェンナーは、天然痘に似たウシの病気・牛痘にかかった人は天然痘を発症しないということに注目しました。
ジェンナーは、牛痘にかかった人にできたうみを別の人に接種すると、その人が天然痘にかからないことを発見しました。
後に、接種することによって免疫力をつけるものを、ワクチンと呼ぶようになりました。


ワクチンって、予防接種のときに注射で打つものですよね。

  • T細胞やB細胞がはたらき、記憶細胞として残る
  • 免疫記憶

ある病原体に一度感染すると、そのときはたらいたT細胞やB細胞の一部が、記憶細胞として体内に残ります。
そのため、再びその病原体に感染したときは、素早く免疫反応が起きるのです。
これを、免疫記憶といいます。

人工的に免疫記憶を獲得する

予防接種で用いられる、病原体の毒性を弱めるか無毒化したものをワクチンといいます。

ワクチンによって、記憶細胞が体内にできます。
その後、実際に病原体や毒素が体内に侵入した場合には、記憶細胞がはたらいて体を守ってくれます。
このようにして、人工的に免疫記憶を獲得させて、感染症にかかりにくくするのです。


河本さん 「免疫のしくみがわかっていなくても、免疫という現象があるということを知って、ワクチンという方法で病気を克服してきたと。ワクチンは確かに免疫学の進歩を手伝って、たくさんの種類のワクチンができて。主にワクチンが効くのは、ウイルスの感染症なんですよ。」

  • 予防接種
  • インフルエンザウイルス

予防接種は、免疫のしくみを利用していろいろな病気にかからないようにするために考え出された知恵なんですね。

免疫のはたらきで、一度かかった感染症には二度とかからないということですが、インフルエンザはどうして何回も予防接種をうけるのでしょうか?

インフルエンザの予防
  • インフルエンザの予防

河本さん 「インフルエンザはちょっと手ごわくて。インフルエンザは種類が多い。一応、その年の流行しそうなタイプを予測してワクチンが打たれたりしていますけれども……ワクチンも打ったらかからないというほど強いものではなくて。やや症状を軽くするくらいにしか効かないんです。」


ワクチンは何にでも効くわけではないのですね。

  • 異なる特徴を持つので記憶細胞がはたらかない
  • トリインフルエンザがヒトに感染することも

インフルエンザウイルスは種類が多いだけでなく、毎年のように変化して、その形を変えてしまいます。
異なる特徴を持つインフルエンザウイルスとなるので、記憶細胞がはたらかないのです。

本来トリにだけ感染する鳥インフルエンザが、まれにヒトに感染することがあり、その場合には強い毒性を発揮します。


変身するインフルエンザウイルス、厄介ですね!

  • 健康でいられるために免疫は大切
  • 自己免疫疾患

私たちの体を守ってくれる頼もしい免疫のしくみですが、これから解明していかなければならない、どんな課題があるのでしょうか。


河本さん 「免疫というのはもともと、病原体に対して起こる反応ですけれども、免疫反応は勘違いをすることがあります。」


勘違い……どういうことですか?


河本さん 「感染症が起こったことがきっかけで勘違いをして、自分の体の一部を攻撃し始めることがあります。これが自己免疫疾患という状態でして。これは、体じゅうのありとあらゆる臓器が標的になって。」

制御性T細胞の機能が低下すると自己免疫疾患に

自己免疫疾患は、本来自分を攻撃しないはずの免疫システムが、自分を攻撃してしまうことにより起こります。

自己に反応し攻撃するT細胞が現れたとき、それを抑制するのが、制御性T細胞です。
その制御性T細胞の機能が低下してしまうと、キラーT細胞は、自己の細胞や臓器を攻撃してしまいます。
これにより臓器は、深刻な影響を受けてしまうのです。



河本さん 「自己免疫疾患は、ひどい場合はその標的になった臓器がぼろぼろになって、ついには、はたらかなくなります。たとえば関節リウマチは関節が標的になって、関節が硬くなって動かなくなります。」


自分で自分を攻撃してしまう?
それは困りますね。

  • アレルギー
  • 花粉

河本さん 「一方で、自分の臓器ではないけれども、外から入ってきた異物、たとえば花粉とかホコリ。そういうものに過剰に反応してしまうということもあります。この状態がアレルギーというものです。


アレルギーって、たとえば花粉症などですか?
アレルギーも免疫が関係しているんですか?

花粉症が発症するしくみ

花粉症は、多くの日本人が抱えているアレルギーです。

花粉症の人では、体の中に花粉に対する抗体がつくられています。
その抗体は、免疫細胞の1つ、マスト細胞の表面に結合しています。

再び花粉が入ると、花粉の抗原がこのマスト細胞の抗体と結合します。
それが引き金となって炎症を引き起こし、くしゃみ、鼻水、目のかゆみをもたらします。

花粉症は本来、体に害のない花粉に対して、排除しようと免疫のしくみがはたらくために起こります。

  • 免疫の暴走
  • 免疫学には未解決のテーマがたくさんある

河本さんは「自己免疫疾患とアレルギーは意味が違うものの、広い意味ではどちらも免疫が過剰にはたらいて、そのせいで起こる」と話します。
どちらも、免疫の暴走と言えるのだそうです。


河本さん 「自己免疫疾患がなぜ起こるのか。病原体との勘違いという基本メカニズムはいいましたが、具体的にどの抗原が標的になっているのか、何がきっかけで起こっているのか、というのがなかなかわからなくて。重大なことがわかっていないわけです。免疫学にはまだまだ、未解決のテーマが山ほどあります。」


治療につなげるとなると、免疫の研究はまだまだ解明されていないことがたくさんあるんですね。

  • 免疫細胞ソング

……狼煙(のろし)が空を焦がす
集え いさましき好酸球よ
ILCの旗の元へ
槍(やり)を掲げろ 勝ちどきを上げろ
魂を震わせろ


河本さん、歌っているのは何の歌なんですか?

  • 寄生虫が侵入する
  • 好酸球が寄生虫に対応する

河本さん 「寄生虫がやってきたら、寄生虫が上皮細胞をつぶして侵入してくる。この壊れた上皮細胞を感じ取って、サイトカイン(情報伝達分子)をいっぱい出して好酸球をよぶんです。好酸球をよんで『お前行ってこい』と、好酸球は寄生虫に立ち向かうんですけれども、あまり歯が立たなくて。小さいやつなら殺すことができるんですけれども、大きな寄生虫だったらほとんど無駄死にというか。それでも、どんどん立ち向かっていく。そのさまを歌にしたということですね。」

免疫細胞への思い
  • 免疫細胞への愛情
  • 免疫細胞への思い

歌をやったり、イラストを描いたり。
河本さん、免疫への愛情がいっぱいですね!


河本さん
「細胞の培養がうまくいくかどうかは、愛情に近いものがないと。
毎日見てあげて『元気そうにしとるな』と。
『仲良くやっとるな』と。
それができてきたら『ええ細胞ができた』と。

生き物を育てるのと同じで、自分が愛情を持ってつくってきた細胞を、これを治療に使って『世の中に役立ってこい』と送り出してやる。
そういうようなイメージですかね。」


免疫の奥深い世界。
免疫学の未来に注目です。

河本さん 「そう思うと免疫学は、やること……基礎研究でもやることがあるし、応用のほうでもやることが山ほどあります。
だから、まだまだとてもおもしろい学問だと思います。」

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