NHK高校講座

生物基礎

Eテレ 毎週 火曜日 午後2:40〜3:00
※この番組は、前年度の再放送です。

生物基礎

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今回の学習

第26回

適応免疫 (1)
〜細胞性免疫〜

  • 生物基礎監修:東京都立八王子東高等学校教諭 長尾 嘉崇
学習ポイント学習ポイント

適応免疫 (1) 〜細胞性免疫〜

  • 河本宏さん

今回新たに登場する樹状細胞の絵を描いているのは、前回(第25回)に続き、免疫学研究者の河本 宏(かわもと ひろし)さん。

複雑な免疫のしくみを少しでもわかりやすく伝えたいと、手づくりの模型までつくっているそうです!

  • 樹状細胞とT細胞の模型
  • 樹状細胞の模型

河本さん 「こっち(左画像・左)が樹状細胞、こっちがT細胞なんですけどね。お互いにくっつきあって、刺激を入れあっています。情報交換をすることで、免疫反応が起こるというのを、一般の人に見せるための(模型です)。」


樹状細胞というんですか……不思議な形をした細胞ですねぇ。


河本さん 「この樹状細胞が情報を持ってきて、ここにきたT細胞に情報を見せています。」


樹状細胞が、T細胞に情報を見せる。
それは、どんな情報なのでしょうか?

  • 樹状細胞
  • 樹状細胞は適応免疫のはたらきはじめのきっかけ

自然免疫が病原体を撃退する一方で、同時にはたらき始めるのが樹状細胞です。
樹木の枝のような突起を持っているので、樹状という名前が付けられました。

樹状細胞は食細胞の仲間ですが、体に侵入した病原体を排除するしくみである適応免疫がスタートする際の、きっかけとなる免疫細胞です。
いわば、自然免疫と適応免疫とを結び付けて、橋渡しをする、要の役割を担った細胞です。


侵入してきた細菌や、ウイルスなど、病原体の情報を伝えるのが樹状細胞の役目なんですね!
どのように伝えるのでしょうか?

  • リンパ節でT細胞にウイルスの破片を見せる

河本さん 「これが体の外ですけれども……ウイルスが入ってきました。これを、樹状細胞が食べるわけです。中にウイルスを取り込む。この樹状細胞がリンパ節にきて、ウイルスの破片を見せるわけですね。リンパ節でT細胞に、食べたウイルスを……食胞の中で溶かして、抗原提示分子の上に乗せて、T細胞に見せる。」

  • 免疫細胞の多くは体の中を循環している
  • 樹状細胞は病原体を取り込んで仕事を始める

免疫細胞の多くは、血液やリンパの流れとともに体の中を循環しています。

食細胞の仲間・樹状細胞は、病原体と出会って、それらを取り込むことで重要な仕事を始めます。

  • 抗原提示
  • ヘルパーT細胞が活性化する

樹状細胞は、取り込んだ病原体を細胞内で分解すると、その一部を細胞の表面に掲げます。
これを、抗原提示といいます。

この状態で、樹状細胞はリンパ節にたどり着きます。
リンパ節は、リンパ管のところどころにある小さな器官で、免疫細胞が集まる場所です。

このリンパ節の中で、樹状細胞は、次々やってくるヘルパーT細胞に、病原体の一部である抗原を提示します。
そして、この抗原にだけ反応できるヘルパーT細胞が樹状細胞と結合し、活性化します。
樹状細胞によって、ヘルパーT細胞に抗原が提示されることで、適応免疫はそのはたらきを始めるのです。

  • T細胞
  • 研究室の様子

樹状細胞から病原体の情報を受け取るT細胞は、リンパ球のことでしたね。
河本さんの研究室で、顕微鏡を使ってT細胞を見せていただきました!


河本さん 「丸っこいやつもいれば、変形したやつもいますね。こういうのが、元気よく動き回ろうと一生懸命手足を出して、形を変えていると。動きが肉眼で、早回しでもなんでもなく、ちゃんと見えます。これは、iPS細胞から再生したキラーT細胞です。」


これは、キラーT細胞ですか!
T細胞には種類があるということなんですね。

  • キラーT細胞とヘルパーT細胞
  • ヘルパーT細胞
  • キラーT細胞

河本さん 「T細胞には2種類ありまして。1つはキラーT細胞といって、感染細胞を殺す細胞。もう1つはヘルパーT細胞というのがいて、免疫細胞の中ではいちばん偉いやつだと。どの細胞もみんな偉いんですけれども。いわゆる司令塔的な役割をして、いろいろなはたらきをしてくれます。キラーT細胞を励ますということもしますし。」


ほかの免疫細胞に対して司令塔の役割を果たすのが、ヘルパーT細胞。
そして、もう1種類のT細胞は?


河本さん 「キラーT細胞は、病原体そのものを殺す力はなくて、病原体が感染した細胞を殺す。これで病原体を撃退することができる、感染症が治る、ということになります。」


もう1つはキラーT細胞ですね。
病原体に感染した細胞を殺すから、キラーなんて名前がついているんですね。

  • ヘルパーT細胞とキラーT細胞
  • 樹状細胞による抗原提示

ヘルパーT細胞、キラーT細胞による適応免疫のはたらきについて、その基本的な流れを整理しましょう。

ヘルパーT細胞とキラーT細胞は、いずれもリンパ節にきた樹状細胞の抗原提示によって、病原体の情報を得ます。
そして、その病原体に対応できる細胞だけが増殖するのです。

  • 活性化したキラーT細胞
  • ヘルパーT細胞はマクロファージのはたらきを強める
  • 細胞性免疫

こうして活性化したキラーT細胞は、体じゅうを循環して、感染した細胞に出会うとその細胞ごと病原体を排除します。

一方、増殖したヘルパーT細胞はリンパ節から感染箇所へ行き、そこで戦うマクロファージのはたらきを強めます。

これらのしくみを、細胞性免疫といいます。

  • 自然免疫と適応免疫のはたらきの違いは?

そもそも、食細胞が活躍する自然免疫と、T細胞が活躍する適応免疫では、そのはたらきにどのような違いがあるのでしょうか?


河本さん 「自然免疫系の細胞というのは、すべての細胞がひととおりの病原体を見分けて食べたりする能力を持っています。ところが適応免疫の細胞というのは、T細胞にしてもB細胞にしても、1つの細胞が、たった1種類の分子にしか対応できない。こういうのが何百万種類も用意されています。」


何百万種類ですか!
しかし、特定の病原体にしか対応できないのは、どうしてなのでしょうか。

  • 自然免疫では受容体が複数ある
  • 適応免疫では受容体は1つだけ

自然免疫では、免疫細胞が病原体を感知する受容体を複数持っています。
そのため、さまざまな病原体に幅広く対応できます。

それに対し適応免疫では、免疫細胞が持つ受容体はそれぞれ1つだけです。
このため、特定の病原体だけに対応します。
免疫細胞が何百万種類と用意されることで、ありとあらゆる病原体に対抗することができるのです。

  • 何百・何千個にも増えて病原体に対抗する

河本さん 「実際、何百万個の中の1個しかはたらけないわけですから、もともと数が少ない。でも病原体がきたら、その1個が何百個、何千個に増えて病原体に立ち向かっていくわけですね。増えて、対応する。これが獲得免疫系の特徴です。どうしても時間がかかりますが、ものすごく強力に結合できる力を持ったリンパ球が増えますので、いったん増えると、これはとても強いわけです。」

  • 樹状細胞から病原体の情報をT細胞に伝える
  • はしかの抗原データを受け取ると、はしかには対応できる
  • はしかの抗原データを受け取っても、おたふくには対応できない

あらゆる病気から、私たちの体を守る免疫のはたらき。
その1つである適応免疫は、樹状細胞が捕らえた病原体の情報をリンパ節でT細胞に伝えるところから始まりました。

たとえば、樹状細胞がはしかのウイルスの情報を提示して活性化したヘルパーT細胞なら、はしかにははたらきますが、別の病原体によるおたふくかぜにははたらきません。
ある特定の抗原に対応するヘルパーT細胞だけが活性化し、病原体と立ち向かうのです。

では、活性化したT細胞が増殖するのはなぜでしょうか。

  • 何百万種類もあるT細胞
  • 数を増やす

もともと あらゆる病原体に対して用意され、何百万種類とあるT細胞ですが、1つの細胞に1つの受容体であるため、それぞれの細胞の数は多くありません。

病原体を撃退するために数を増やして、感染した場所に送り込む必要があるのです。

  • 自然免疫は早く弱い、適応免疫は遅く強い

病原体の侵入に素早く反応する代わりに、効き目が弱い自然免疫に対して、適応免疫は細胞を増やさなければいけないので反応が遅くなりますが、効き目が強いのが特徴です。


反応するまで時間はかかるけれど、適応免疫が第3の防衛ラインといわれるのは、こうした理由があったからなんですね!

  • 胸腺
  • 負の選択

河本さん 「胸腺というのは、心臓の上にある……ヒトでいったら親指くらいの組織なんですけれども。この中で、T細胞がつくられます。胸腺の中で起こるそのしくみは、負の選択といわれています。免疫にとって、とても大事な現象です。」


負の選択、ですか……どのようなしくみなんですか?

  • 受容体(レセプター)
  • 自己寛容

河本さん 「T細胞というのは、やっぱり免疫の中心ですので。まず増えて、たくさんの病原体を見分ける能力を、1個ずつが別々に持たなければならない。そこで1つずつの細胞が、違うタイプの受容体(レセプター)をつくる。そういう現象が起こります。すると、自分に反応するやつもできてくるので。これがまた別のキーワードで、ここで自己寛容が起こります。自分に反応する細胞をつくってしまってはいけないので、胸腺の中では自分に反応する細胞を取り除くということが起こります。」

  • 自己寛容のイメージ
  • 自己免疫疾患

せっかくつくられたT細胞が、胸腺で取り除かれる……これはどういうことなのですか?


河本さん 「すごく大事な仕事で。それがうまくはたらかないと、体じゅうでいわゆる自己免疫疾患という、自分を攻撃するという病気が起こってしまいます。」

  • 胸腺
  • 骨髄で生まれた未熟なT細胞は胸腺へ運ばれる
  • 胸腺でT細胞が育つ

胸腺でT細胞が成熟するしくみを見てみましょう。

骨髄で生まれた未熟なT細胞は胸腺に運ばれ、厳しい選別を受けることでヘルパーT細胞やキラーT細胞に育っていきます。
最終的に生き残るのは全体の2〜3%で、ほとんどのT細胞は胸腺で死滅することになります。

この厳しい選別には、理由があります。
免疫システムは生命にとって大切なだけに、確実にはたらくT細胞を送り出さなければならないからです。
また、自分の組織を外敵とみなすT細胞が生まれては大変です。
このように、胸腺の中で自己に反応するような細胞が取り除かれることを、負の選択といいます。


負の選択って、難しい言葉だけれども……つまりは、自分の体の成分に反応する免疫細胞をあらかじめ取り除くということなんですね。

負の選択に加えて
  • 制御性T細胞
  • 制御性T細胞

ところで、自分の体を攻撃しない免疫のしくみは、ほかにもあるようですね!


河本さん 「胸腺の中で、負の選択というので自分に反応するT細胞をすべて取り除くという話をしましたけれども。実は、少し取りこぼしがあるんです。これはなんとかしなければ、となる。そこで、制御性T細胞というものがありまして。制御性T細胞は、自分に反応するT細胞の邪魔をするような形で、はたらけなくするはたらきがあります。」


これが、制御性T細胞ですか(右画像)!
こんな細胞まではたらいているなんて……本当に、手抜かりがないのが免疫の世界なんですね!

  • 坂口志文さん

河本さん 「制御性T細胞というのは、坂口 志文(さかぐち しもん)先生が発見された細胞で。毎年ノーベル賞候補に挙がるくらい。世界中が『そんな細胞があるのか!』と驚いて。この中にたくさんの研究者がひしめいているという状態ですね。」

  • 抗体をつくる
  • 次回もお楽しみに!

さて、適応免疫のはたらきにはもう1つ、「抗体をつくる」がありました。
まだまだ、奥が深いですよ〜!


河本さん 「キラーT細胞がウイルス感染細胞を殺すことも大事なんですけれども、実際にはウイルス感染を完全に治すためには抗体ができないと、なかなか完全に治らないです。」


次回は、抗体を使って病原体をやっつけるB細胞の出番です。
お楽しみに!

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