NHK高校講座

生物基礎

Eテレ 毎週 火曜日 午後2:40〜3:00
※この番組は、前年度の再放送です。

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今回の学習

第15回

遺伝子の発現と生命現象

  • 生物基礎監修:東京都立西高等学校指導教諭 渡邊 正治
学習ポイント学習ポイント

遺伝子の発現と生命現象

  • 胡桃坂仁志さん

前回(第14回)に引き続き、構造生物学者の胡桃坂 仁志(くるみざか ひとし)さんです。
今回もよろしくお願いします!

胡桃坂さんは、DNAや遺伝子からどうやって生物ができあがってくるのかを知りたいと話していました。


胡桃坂さん 「ヒトだと、最初は精子と卵子が受精して受精卵になるわけです。この受精卵1つができあがったときに、ヒトが始まるんです。それが、細胞分裂をずっと繰り返していって、最終的にはヒトの数、ヒトができるぐらいの細胞の数ができあがって、塊になってできる。その間に目ができたり、皮膚、髪の毛、胃袋、脳みそ……いろんなものができあがっていく。これ、不思議ですよね。」


1個の細胞が分かれてたくさんの細胞になっているのに、全然違う細胞になる……本当に不思議です。
これこそ「生命の謎」ですね!
そもそも、生き物はどうやって生まれるのでしょうか?

  • 卵
  • 精子

1つの受精卵から、どのように体ができていくのでしょうか。

卵を覆う細胞が徐々にはがれて、表面が見えてきました。
卵と結びつくことができるのは、数億個の精子の中からたった1つだけです。

精子は小さな細胞で、核を含む頭部は5μm。
比較的大きな細胞である卵の、約1/30です。

卵の周りのとても厚い壁を破り、卵の中に進入していきます。

  • 精子の核が卵の核と出会う
  • 細胞分裂

精子の中で、小さな塊になっていた染色体がほぐれて、少し大きな核になります。

やがてこの精子の核は、卵の核と出会います。

出会った核は合体して受精が完了します。
その後、細胞分裂が始まります。

  • 胚
  • さまざまな細胞になる

受精卵は、細胞分裂を繰り返しながら卵管の中を子宮へ向かいます。

卵を保護していた壁の中から、受精卵が分裂してできた胚が出てきました。
これが、着床です。
この時期の胚は、約100個の細胞からできています。

最初はたった1種類だった細胞は、やがて骨や皮膚、神経など200種以上の細胞の塊となり、ヒトになっていくのです。

同じ設計図から違うものができる!?
  • 同じ設計図から違うものができる!?

胡桃坂さん 「最初は受精卵1個で、そこに入っている情報……つまり設計図は一緒なわけですね。同じ設計図なのにもかかわらず、目ができたり、皮膚ができたり。」


細胞が増えていくときに、何かが起こっているのですか?


胡桃坂さん 「その途中で『この部分は皮膚になりなさい』とか『この部分は脳みそになりなさい』と指令が分かれて出されるようになって。それが非常に高度に制御されて、皮膚や、胃袋や、目玉ができたりしながら増えていって。最終的にはヒトの形、ヒトの機能を全部持った個体になるということです。」


細胞の中に「目になれ!」「皮膚になれ!」と信号が送られて、形になるんですね。

  • 器官
  • 分化

胡桃坂さん 「たとえば、胃袋や筋肉、骨、皮膚、脳みそとか……全部の器官ですね。これをつくるのに、特化した細胞になっていきます。これを分化といいます。最初のなんの変哲もないただ1つの細胞が、分裂して数を増やしていく間に、だんだん皮膚の機能を持つようなものができあがって。別の部分では、胃袋をつくるための機能を持ったり、脳みそをつくるための機能を持ったり。こういう分化が起こっていって、それぞれの器官ができあがると。」

  • 体細胞分裂、娘細胞
  • すべての細胞は同じゲノムをもつ

体を構成するすべての細胞は、1個の受精卵が分裂を繰り返した結果、生じたものです。

体細胞分裂ではDNAが正確に複製されて娘細胞に分配されます。
そのため、すべての細胞は同じゲノムをもつことになります。

  • 分化

やがて細胞は、目や皮膚などのはたらきをもつようになります。

このように、細胞が特定の形態や機能をもつようになることを、分化といいます。


分化って、役割分担が決まることみたいですね。
どういうしくみなんでしょう?

分化のしくみ
  • 分化のしくみ

胡桃坂さん 「遺伝子がオンになるか・オフになるかということで、目玉や、皮膚や、脳みそができたりします。簡単にいうと、たとえば、皮膚がつくられていく……つまり皮膚の細胞の中では、目玉をつくるのに必要な遺伝子はオフになっています。逆に、目玉をつくる細胞の中では、皮膚をつくるために必要な遺伝子はオフになっています。このオンオフの違い、遺伝子の使い分けによって、皮膚や、目玉や、脳みそができたりということが起こっているのだとわかってきました。」

遺伝子の発現

細胞の中でDNAの遺伝情報をもとにしてタンパク質が合成されることを、遺伝子の発現といいます。

  • ヘモグロビン遺伝子
  • コラーゲン遺伝子
  • クリスタリン遺伝子

たとえば、ヘモグロビン遺伝子が発現すると、ヘモグロビンというタンパク質がつくられます。
ヘモグロビンは酸素を結合したり離したりするはたらきがあるので、赤血球は酸素を運搬することができるようになります。

コラーゲン遺伝子が発現すると、皮膚の細胞を保つコラーゲンという繊維状のタンパク質が合成されます。

クリスタリン遺伝子が発現すると、クリスタリンが合成されます。
クリスタリンは、目の水晶体を透明にするのに重要な役割を果たしているタンパク質です。


それぞれの細胞の中で、その細胞で必要な遺伝子が発現しているのです。

  • 機能分化

胡桃坂さん 「2万数千個の遺伝子の中から、皮膚をつくるのに必要な遺伝子、それだけが選ばれて皮膚ができているし。また、別の遺伝子。目をつくるのに必要な遺伝子、そして別のものがはたらいて、目ができたり……というふうに、機能分化しているということです。」


その細胞に必要な遺伝子だけがはたらいている……って、どうやってわかったんでしょうか?

  • ユスリカ
  • ユスリカのだ腺

遺伝子がはたらいている様子を見てみましょう。

ユスリカの幼虫の染色体を観察します。
ユスリカの頭部を引き抜いて、だ腺を摘出します。

  • 酢酸オルセイン
  • カバーガラスをかける
  • 不要な染色液を除く

酢酸オルセインを滴下し、5分間染色してカバーガラスをかけます。

その上に、ろ紙をかぶせ、不要な染色液を除きます。

  • パフ

濃い赤色に染まっている縞の部分には、DNAが多く含まれます。

赤い丸で囲ったこの部分は、ほかのところと比べて染色体が広がって見えます。
この部分をパフと呼びます。

  • メチルグリーン・ピロニン染色液
  • RNA

メチルグリーン・ピロニン染色液で染めてみましょう。
ピロニンは、RNAを赤く染めます。

右写真・赤い丸で囲った部分にRNAがあることがわかります。

  • 遺伝子がオフの状態
  • 遺伝子がオンの状態

ユスリカの幼虫では、遺伝子がオフになっているときにはDNAがコンパクトに折りたたまれて、束になっています(左図)。

遺伝子がオンになると、遺伝子の情報を読み取りやすくするために、DNAの折りたたみがほぐれて、広がっています(右図)。

  • DNA
  • 転写
  • mRNA

パフでは、転写によってさかんにmRNAがつくられているのです。

染色体でパフが観察されるのは一部です。
遺伝子が活発にはたらいているのは、染色体の一部であることがわかります。

遺伝子の折りたたまれ方とオンオフの関係
  • ヌクレオソーム
  • DNAの折りたたまれ方

胡桃坂さんは以前、DNAの折りたたまれ方によって遺伝子がはたらいているかどうかを調べていると話していました。


胡桃坂さん 「最近は折りたたまれ方によって、DNAの上で、遺伝子の読み取られやすさが変わってくるのではないかということを調べようとしています。それによって、たとえば皮膚ができる細胞では、オフになっている遺伝子が読み取られにくい折りたたまれ方をしていて。皮膚に必要な遺伝子は、読み取られやすい折りたたまれ方になる。」


その折りたたまれ方による、読み取られやすさ、読み取られにくさを、実際につくって証明しようということを考えているのだそうです。

  • 「遺伝子の発現と生命現象」

「遺伝子の発現と生命現象」
作詞・作曲 胡桃坂仁志

たった1つの細胞
2万種類の遺伝子
全てが使われている わけじゃない
いろんなからだの部品 作られる
設計図は同じはずなのに

目には 目を作る
皮膚には 皮膚を作る
そのために必要な
遺伝子だけが つかわれている
どうやって細胞は
遺伝子を選んでいるの
生命が生まれるの

遺伝子の発現の研究
  • 遺伝子の発現の研究
  • 遺伝子から細胞がどうやってできるのか

胡桃坂さん 「昔はいろんな考え方があったんです。遺伝子の使い分けが行われることによって、いろいろな器官や細胞ができる……というのは、わかっていたんですけども。それがどうやって起こっているのかは、実はわかってなかったんですね。」


遺伝子から細胞がどうやってできるのか、深い謎だったんですね。


胡桃坂さん 「たとえば、2つ考えられますよね。1つは、受精卵ができて、それが分裂している間にいらない遺伝子をどんどん捨てていって。つまり、目をつくる細胞は、目になるために必要な遺伝子以外のところはどんどん捨てていって、最終的に目ができる。皮膚の細胞は、皮膚の細胞ができあがる過程で分裂を繰り返しているうちに、皮膚の細胞をつくるのに必要な遺伝子以外は捨てていって、最終的に皮膚ができる。こういう可能性が1つあります。」


細胞は、その細胞になるのに必要な遺伝子しか持たなくなる、ということですよね。


胡桃坂さん 「もう1つの可能性は、遺伝子は一切捨てられていない。全部の遺伝子を持ったまま、皮膚ができたり、目玉ができたりしている。」


全部の細胞が同じゲノムを持っているけど、違う細胞ができるということですね。


胡桃坂さん 「この2つの可能性があったんですけど、この2つの可能性は、完全に後者だったわけです。つまり、遺伝子はまったく捨てられていなかった。それを証明したいちばん最初の実験は、ジョン・ガードンのカエルの核移植の実験ですね。」

  • ジョン・ガードン
  • アフリカツメガエル

1962年、ジョン・ガードン氏は、アフリカツメガエルを使った実験を行いました。

  • 未受精卵の核を破壊する
  • 別のオタマジャクシの腸の核を移植する

未受精卵を用意し、その細胞の核を紫外線照射で破壊し、別のオタマジャクシの腸の核を移植します。

すると、成長してカエルになったのです。

  • iPS細胞

胡桃坂さん 「皮膚になってしまった細胞は皮膚にしかならないはずだったんだけれど、これを何とかいじくってあげると、これからまた胃袋ができたり、たとえば目玉ができたりする可能性が生まれたわけですね。それを実際に、本当にそういうことができるということを示したのが、山中先生のiPS細胞ですね。」

  • 山中伸弥
  • iPS細胞

2006年、山中伸弥によって作製されたiPS細胞。
iPS細胞は、マウスの皮膚からとった細胞、つまり分化した細胞の初期化に成功したものです。

皮膚の細胞になる特定の遺伝子を発現している状態から、受精卵のように、さまざまな細胞に分化できる状態になることを確かめたのです。

  • 皮膚の細胞
  • いくつかの遺伝子を入れ培養
  • iPS細胞が誕生する瞬間

皮膚の細胞に、いくつかの遺伝子を入れると初期化することができ、遺伝子のオンオフをコントロ―ルする物質を作用させると、血液や神経など他の細胞に分化させることができるようになったのです。

  • 次回も、お楽しみに!

胡桃坂さん
「今の我々の、僕のレベルで知りたいことは、たとえばヒトの中で、遺伝子がどうやって読み分けられているのか……それを知りたいですね。

DNAの塩基配列に書き込まれているA、T、G、Cだけの情報だけではなくて、実際に細胞核の中で遺伝子が折りたたまれている。
その折りたたまれ方と、遺伝子のオンオフのメカニズムが、どういう関係にあるのかということを知りたいと思っています。

究極的には、どうして生物は生きているのか。
どうしてヒトは、好きなものがあったり嫌いなものがあったりするんだろうか、とか。
どうして、喜んだり悲しんだりするんだろう、と。
そういうのも、結局は遺伝子のオンオフで、説明できるんじゃないかなという。
そんなことを、ちょっと期待をしています。」



まったく同じゲノムからいろんな細胞ができて、体になる……奇跡みたいですね!
どこまで生物のしくみを遺伝子で説明できるのでしょうか?
もっと調べてみたいですね!

それでは、次回もお楽しみに!

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