NHK高校講座

生物基礎

Eテレ 毎週 火曜日 午後2:40〜3:00
※この番組は、2018年度の新作です。

生物基礎

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今回の学習

第4回

代謝を進める酵素

  • 生物基礎監修:東京都立西高等学校指導教諭 平山 大
学習ポイント学習ポイント

代謝を進める酵素

  • 伏信進矢さん
  • 酵素のミニチュア
  • ビフィズス菌の持つ酵素の模型

酵素学研究者の伏信 進矢(ふしのぶ しんや)さんは、25年以上にわたって酵素を研究しています。

リゾチームや私たちの筋肉に存在するタンパク質であるミオグロビン、光を受け取る働きを持つロドプシンなど、研究室には酵素やタンパク質の模型がたくさんあります。

伏信さん 「これはビフィズス菌が持っている酵素です(右画像)。赤ちゃんの腸の中にビフィズス菌がたくさんいますので、彼らが生きていくために必要な酵素になります。」

酵素の「形」と「働き」
  • 酵素の模型
  • 触媒

伏信さんは、酵素の形や働きを研究しています。
そもそも酵素とは、何者なのでしょうか?


伏信さん 「酵素は触媒(しょくばい)です。生き物が持っていて、つくりだす触媒になります。触媒とは化学反応を助けるものです。私たちの細胞の中ではいろんな化学反応がおこることが、生きていくために必要です。その一つひとつに専用の酵素が存在して、それらの化学反応をどんどん助けて、速めている。それが酵素です。」


「触媒」とは、「反応を速めている」とは、どういうことなのでしょうか?

  • 豚のレバーにはカタラーゼ
  • 過酸化水素を分解すると酸素と水が発生

豚のレバーにはカタラーゼという酵素が含まれています。
カタラーゼは、過酸化水素という分子を分解する働きがあります。

過酸化水素が分解されると、酸素が発生しますが、常温ではなかなかこの反応は進みません。

  • カタラーゼが過酸化水素の分解反応を引きおこす
  • 酵素は自分自身は変化せずに反応をおこす

レバーを過酸化水素水の中に入れると激しく反応し、気体が発生しました。
カタラーゼが、過酸化水素の分解反応を引きおこしたのです。

反応が終わった後でレバーを取り出し、過酸化水素水を追加すると、再度反応がおこりました(右画像)。
残っていたカタラーゼが、反応をおこしたのです。

酵素は、自分自身は変化しないで、再び反応をおこします。
これが、酵素の触媒としての働きです。

  • 燃焼実験
  • ATPはエネルギーの通貨

穏やかな条件ですばやく反応を進めるって、酵素はすごいですね!
でも、なぜ生物には酵素が必要なのでしょうか?


伏信さん 「デンプンを分解するときに、デンプンを燃やしてしまうとエネルギーが熱となって出て行ってしまうので、生き物が利用できる形にしにくい。生き物が一番利用しやすい形であるATPをできるだけたくさんつくるために、生き物はたくさんの酵素を使って、化学反応を一つひとつ段階を踏んで、順番通りに行わせる。そのために何十種類もの酵素を用意して使っています。」


ATPは、エネルギーの通貨でしたよね。
ATPをたくさんつくるためには、順番通りに反応をおこさせる必要があるんですね!

酵素のカタチ?
  • 酵素の立体構造の表紙
  • 酵素の結晶

伏信さんが大学2年生のときに見たというパンフレットです。
表紙には、研究室の先輩が決定したという酵素の立体構造が描かれています。
このようにきれいなタンパク質の結晶構造を見てみたいというのが、伏信さんがこの分野の研究に進んだきっかけなのだそうです。

酵素の結晶を見せていただくと……きれいな六角形をしています!(右画像)


伏信さん 「これは、細菌を殺すような作用を持った酵素である、リゾチームの結晶です。これだけでは酵素の本当の形はわからないので、この結晶にX線を当てることによって、酵素の中の微細な構造がわかります。」


酵素の微細な構造……とは、酵素のカタチのことなのでしょうか。
いったい、どんなカタチなんでしょう?

  • 酵素と基質の模型
  • 酵素と基質、基質特異性

伏信さんが持っている透明な模型(左画像・右)はリゾチームという酵素を約1億倍に拡大したものです。
リゾチームは私たちの涙にも含まれていて、目に見えないほど小さなものです。

一方、基質(左画像・左)は、細菌の細胞壁にあります。
リゾチームは、この基質を切断する反応をしますが、そのために必要なのが基質特異性(きしつとくいせい)です。

酵素と基質の反応
  •  基質

酵素の作用を受けて化学反応をおこす物質を、その酵素の基質と呼びます。

酵素と基質の反応を見てみましょう。

  • ビーカーにパイナップルを乗せる
  • タンパク質を分解しゼラチンが溶ける

左のビーカーにはゼリーの材料として使われるゼラチン、右のビーカーにはところてんに使う寒天が入っています。
両方にパイナップルのかけらを入れ、時間をおいて見てみると、ゼラチンはどんどん溶けていきますが、寒天は変化がありません。

パイナップルには、タンパク質を分解する酵素が含まれています。
ゼラチンの主な成分はタンパク質、寒天は炭水化物が主成分です。

パイナップルに含まれる酵素は、ゼラチンのタンパク質とは反応しますが、寒天の炭水化物とは反応しません。
決められた相手としか反応しない酵素のこの性質を、基質特異性といいます。

酵素と基質の関係
  • 酵素Aとしか反応しない
  • 酵素Bとしか反応しない
  • 酵素Cとしか反応しない

さらに、酵素と基質の関係について見てみます。

複数の酵素を含む状態で、黄色で示された基質は酵素Aとしか反応しません。
次に、分解によって生じた一方は酵素Bとしか反応せず、さらに分解されて生じた一方は今度は酵素Cとしか反応しません。

このように、全ての酵素は基質特異性という性質により、反応する相手が決まっているのです。
では、酵素は自分に合う相手をどのように見分けているのでしょうか。

  • 酵素の形に基質がちょうどはまる溝
  • 酵素の形に基質がちょうどはまる溝

酵素には基質にちょうどはまるような溝があり、特定の基質しか反応しないような形で結合するといいます。
こうして酵素は、自分に合う相手を見分けているのです。


伏信さん 「もうひとつ大事なことは、基質のどこを切るか。酵素がぴったりとはまることで基質の特定の部分が切れるよう、化学反応がおきるように酵素の形ができていることが、とても重要になるわけです。」


酵素と基質は形がぴったりと合うことで、化学反応をおこすんですね!
まるでパズルのようです。
だから、その形が大切なんですね。

  • 酵素A
  • 酵素B
  • 酵素C

酵素がどのように働くのかを見てみます。

まず酵素Aと基質が最初の化学反応をおこし、基質は2つに分解されます(左画像)。
分解されて生じた一方が、今度は酵素Bと反応します(中画像)。
そして、次の酵素と反応します(右画像)。

このように、酵素と基質の形がぴったりと合わないと、化学反応はおこりません。
体の中ではたくさんの種類の化学反応が次々とおこりますが、基質特異性という性質があることで、酵素によって反応が整然と交通整理されていくのです。

  • 細胞の中は混み合っている
  • 渋谷の交差点のイメージ

伏信さん 「酵素は今認められているだけでも7000種類見つかっています。これは年に500種類くらいずつ見つかっていて、非常にたくさんの種類が見つかっています。その一つひとつが全く違うタイプの形を持っていて、全く違うタイプの反応をします。」


そんなにたくさんの酵素があると、細胞の中できちんと目当ての相手に会えるのか心配になりますが、「細胞の中は私たちが考えているよりもさらに混み合っている」と伏信さんは話します。


伏信さん 「非常にたくさんのタンパク質、DNA、核酸が込み合った状態で存在しています。渋谷の交差点でたくさん人がいると、すれ違うのが大変な状況ですよね。あれくらい混み合っているのではないかというのが最近わかってきています。」

細胞内は分子レベルで混み合っている

これは、細胞内の様子を描いたイラストです。
左が動物の細胞内、右が植物の細胞内を表しています。

植物の葉緑体には光合成に関する酵素があり、核にはDNA合成に関する酵素があります。
動物と植物に共通するミトコンドリアには呼吸に関する酵素があります。
同じように、呼吸に関する酵素は細胞質基質の中にも10種類あります。

細胞の中はこのように、分子レベルで大変混み合った状態になっています。
非常に混み合っている細胞の中、決まった基質としか反応しないという性質があるために、何段階にもわたる複雑な化学反応が、秩序正しくおこっているのです。


伏信さん 「酵素も基質もいろいろな種類のものが動いていて、その中で出会うわけです。これは恐らくですが、試行錯誤のような形で、泳いできた基質が上手くはまる。正しい基質がたまたま正しい向きで近寄ってきたときに、酵素が、場合によっては形を変えて、中にググッと入り込むようなことがおこっているのだと思います。本当にビックリしますね。」

  • 酵素が気質を待ち構えている状態
  • 酵素が形を変えて基質を取り込む

酵素がどのように動いているのか、コンピューターグラフィックスで見せていただきました。

酵素に基質が結合するとき、酵素が大きく形を変えて動くものがあります。
その代表として、ヘキソキナーゼという酵素に、基質であるグルコースとATPが結合しているところを表しています。

ヘキソキナーゼは、細胞の中でグルコースを分解していくときに最初に反応をおこす酵素です。
酵素であるヘキソキナーゼは、まず開いた状態で、基質であるグルコースとATPを待ち構えます(左画像)。
基質がそこにやってくると、酵素が閉じて基質に合った形になり、ここで初めて化学反応がおこります(右画像)。

  • 小さな細胞の中で酵素が働く
  • 小さな細胞の中で酵素が働く

伏信さん 「想像の範囲を超えるような酵素やそのメカニズム、酵素の働きが初めてわかったときは興奮するし、おもしろいと思いますね。」


酵素はその形で物質を見極めていて、その動きで確実に反応をおこしているんですね!
小さい細胞の中で、こんなに精密なことが行われているなんて、すごい!

消化に関わる酵素
  • 消化に関わる酵素

生物が生きていくために必要な、さまざまな化学反応をおこす酵素ですが、その中でとても身近なものが消化に関わる酵素です。

唾液の中にはデンプンを分解するアミラーゼが、胃液の中にはタンパク質を分解するペプシンが、すい液の中には脂肪を分解するリパーゼが含まれています。

  • 胃液と同じ成分の液体に鶏肉を入れる
  • 胃の中の状態を再現する

ペプシンの働きを見てみます。

ペプシンは胃液の中にあり、肉や魚などに含まれるタンパク質をアミノ酸に分解します。
胃液と同じ成分の液体に鶏肉を入れ、胃の中と同じ状態を再現します。

  • 胃液と同じ成分の液体に入れた鶏肉
  • 3時間後
  • 6時間後

3時間後、肉の表面が溶けてきました。
6時間後、半分ぐらいが溶けてしまいました。
ペプシンによって、肉のタンパク質が分解されたのです。

酵素は、その性質に最も適した場所に存在し、それぞれの役割を果たしているのです。


伏信さん 「効率よくエネルギーを得るように、生き物は進化してきていますので、その中でより効率のよい酵素がどんどん選ばれてきて、その中で現在あるような何十種類ものたくさんの酵素を生き物が使うようになったと。そういうふうに考えられています。」

酵素で生き物の痕跡を探る
  • 人間ばかりでなく微生物もいる
  • 次回もお楽しみに!

伏信さん
「私たちは地上に住んでいると人間ばかり見ますが、そこに木が生えていて、地面を見れば虫がいる。
植物や動物の世界だけではなくて、土の中には微生物がいたり。
あるいはヒトが住みにくいような、寒いところや暑いところ、海の中。
そういうところにはたくさんの微生物が生きています。
それらはみんな生物なんですね。

たとえば南極にいる微生物とか、そういうものから酵素を取ってくると、低温で反応しやすいような形をしていて、そういうようなアミノ酸残基・タンパク質の形をしていることがわかります。
酵素の研究をすることは、それぞれの生き物がどのように居場所を見つけていって、そこに適応していったか、その痕跡を探るための手掛かりになるのではないかと思います。
私にとっては、いろいろなところで生きている生き物を研究するのが、秘密を解き明かすのが、酵素の研究だと思って楽しんでいます。」



酵素を研究することで、この地球上でその生き物がなぜそこに生きているのか、という疑問が解けてくるのですね。

次回も、お楽しみに!

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