Eテレ 毎週 金曜日 午前10:00〜10:20
※この番組は、前年度の再放送です。(2020年度 収録)
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第31回 衣生活
「家庭総合」では、これから生きていくために必要な知識や技術を、りゅうちぇるさんと一緒に学んでいきましょう!
まずは、現役高校生の、心さん(高3)、太哉さん(高3)によるスペシャルなショーからスタートです!
りゅうちぇる 「“第1回 素材いろいろ 冬物コレクション”、トップバッターを飾るのは、家庭総合のおしゃれ番長・心ちゃんの登場です!きょうのコーディネートはパープルでキュートな感じ。モコモコ(しているの)も、すごくあったかそうだよね。デートの初日って感じ。かわいいー!」
「続いて、太哉くん!きょうのコーディネートはブラウンですごくやさしそうな印象。素材もあったかそうですごいステキだよね。似合ってる〜!」
実は、心さんと太哉さんの服は、まったく違う素材で作られています。
今回のテーマは、「服の素材いろいろ」。
ふだん何気なく着ている服の素材について、一緒に考えていきましょう!
3つのポイントは、「天然繊維と化学繊維」「被服の安全」「高機能性繊維」。
着心地のよさにもつながる素材のこと、チェックしていきましょう!
服の素材は大きく分けて2つ、「天然繊維」と「化学繊維」があります。
りゅうちぇる 「きょうの2人の服の素材は、いったいどっちなの!?」
心 「私は、『化学繊維』を素材としたコーディネートです。」
太哉 「僕は、『天然繊維』を素材としたコーディネートです。」
2つの素材には、どんな違いがあるのでしょうか。
まずは、天然繊維の特徴から見ていきましょう。
天然繊維は、綿や麻などの「植物繊維」と、毛や絹などの「動物繊維」に分けられます。
「麻」は、植物の茎や根から作られます。
触ると冷たく感じる特徴がある「麻」は、夏用の衣服に使われることが多い繊維です。
その歴史は古く、世界中で衣服に使われてきました。
「綿」は「綿花」から作られます。
昔から多くの衣類に使用されている「綿」は、汗などの水分を素早く吸収する特徴があります。
肌触りもよいことから、「綿」は肌着やタオル・寝具など、体によく触れるものに使われています。
羊やヤギなど動物の「毛」は、保温性が高く冬物の衣服に使用されることが多い素材です。
羊は寒さから身を守るために太く丈夫な「毛」を蓄えます。この「毛」を刈り取って糸に紡ぎ、編んだり織って布にしたりするのです。
伸縮性があって、シワになりにくい特徴もある「毛」は、セーターやスーツなどにも使用されています。
続いて、「蚕(かいこ)」が吐き出す糸から作られる「絹」。
蚕はこの糸でさなぎになった時に身を守る繭(まゆ)を作ります。
この繭をお湯で煮て、表面の糸をほぐし、紡いでいきます。
絹はしなやかで上品な質感と深みを感じさせる優しい光沢をはなちます。
絹織物といえば、京都に伝わる「西陣織(にしじんおり)」が有名です。
こうした天然繊維は、作るのに手間がかかる貴重な素材でした。
これは「BORO(ボロ)」と呼ばれる、青森に伝わる衣類。
野良着から肌着、そして寝具まで、すり切れるたびに布きれのつぎはぎを繰り返し、何十年も何百年もかけて貴重な天然繊維を使い続けてきたのです。
心 「洋服をもっと大切にしないといけないなって思いました。」
りゅうちぇる 「そうだよね。ところで、太哉くんが着ている『天然繊維』の素材の種類は何かな?」
太哉 「僕が着ているセーターは『ウール・羊の毛』で作られたものです。」
りゅうちぇる 「なるほど。羊の毛ってとってもあったかそうだよね。天然繊維は作るのに時間や手間がかかり、大量生産するのが難しいんです。そのため、価格が高くなってしまうというデメリットがあるんです。」
ここで、世界の主な繊維の需要の推移をチェックしましょう!
天然繊維の需要には、ほとんど変化がありません。
しかし、化学繊維の需要は年々増加し、2016年には約73%を占めています。
・人口の増加に「天然繊維」の生産が追いつかないこと
・「化学繊維」は大量生産が可能で価格が安いこと
などがその理由です。
「化学繊維」は大きく3つに分けられます。
木々や植物などに含まれるセルロースを原料とする「再生繊維」と「半合成繊維」。
そして「合成繊維」。
石油などを原料とした「合成繊維」は、いま最も需要が高い繊維です。
例えば、女性のストッキングに使われている「ナイロン」。
ナイロンのストッキングは丈夫で価格が安いため、爆発的ヒット。
それまでの高価な「絹(天然繊維)」のストッキングに取って代わる存在になります。
日本のある企業は、合成繊維の「ポリエステル」に絹織物で培った技術を生かし、世界を相手に取り引きをしています。
アラブ首長国連邦・ドバイにも進出しています。
衣料品店の棚にずらりと並ぶ白い布は、すべてポリエステル。
ドバイの成人男子がまとう伝統衣装に使われる布です。
(ドバイ男性) 「柔らかくてしなやかな肌触り。光沢があるのもいい。」
実はこの布、すべて同じ白に見えますが少しずつ色が違う100種類もの白が表現されています。
ここまで細かい色の違いが出せるのは、伝統の絹織物の染色技術が育んだ日本の職人の技が生かされているからです。
こちらは、「アクリル」の加工技術にすぐれた日本の企業。
一見すると毛皮の服のようですが、実は素材は「アクリル」です。
弾力性と保温性の高さが特徴のアクリルは、毛皮に似せるには最適な素材です。
本物に限りなく近いアクリルの生地。
日本製の高品質の合成繊維は世界でも高く評価されています。
太哉 「世界のいろんなところで、日本の技術がすごく評価されてるんだなって思いました。」
りゅうちぇる 「そうだね。さて、心ちゃんは『化学繊維』の服を着ているんだけど、素材は何かな?」
心 「私のセーター(の素材)は『アクリル』です。石油などから作られる合成繊維です。」
りゅうちぇる 「すごく発色がいいというか、いい色だし、着心地もよさそうだよね。」
心 「はい、着ていて気持ちいいですね。」
りゅうちぇる 「いろいろな服の素材を見てきたけど、それぞれ長所と短所があるんだよね。合成繊維は価格が安いんだけど石油などが原料なので、洗濯すると大量のマイクロプラスチックが出て環境を汚染するんですね。そして土にかえらないというデメリットがあります。(天然繊維と化学繊維)どちらも、その特徴を知ったうえで素材を選びましょう!」
ここからは服の素材のプロフェッショナル、横浜国立大学 教授 薩本 弥生先生と、服の素材について、安全という観点で考えていきましょう。
りゅうちぇる 「”被服の安全”について、僕たちはどんなことを注意したらよいのでしょうか?」
薩本先生 「安全については、被服の素材の燃えやすさについて考えるべきだと思います。」
消防庁による“住宅火災の経過別死者発生状況”という統計では、
1位 逃げ遅れ
2位 着衣着火 となっています。
死亡者889人中、40人が、「着衣着火」が原因で亡くなっています。
「天然繊維」と「化学繊維」どちらが燃えやすいのか、薩本先生に協力していただいて実験しました。
服の素材には、燃えやすいものと そうでないものがあります。
天然繊維の「毛」と、合成繊維の「ポリエステル」を燃やしてみましょう。
「毛」はゆっくり燃えていきますが、「ポリエステル」は勢いよく炎が広がっていきます。
スロー再生で「ポリエステル」の燃え方を見ると、溶けた繊維がボタボタと垂れています。石油を原料とした合成繊維の燃え方の特徴です。
薩本先生 「どろどろと糸をはいて溶けるように燃えているところが特徴だと思います。燃えかすを見てください。ちょっと手で触ってみますが、カチコチに固まっています。もとのプラスチックに戻ったのではないかな、という状況です。」
繊維はそれぞれ燃え方が違います。
合成繊維は勢いよく燃えて、繊維が肌に張り付くので特に危険です。
火に近づくときは、服の素材にも気を付けるようにしましょう。
心 「いま私が着てるのは、アクリルの化学繊維のほうなので、いまにでも燃えてくるんじゃないかって思ってちょっとドキドキしちゃいました。」
太哉 「自分の(着ている)天然繊維のほうは、燃え方がゆっくりだったので、もし燃えたときはすぐに脱いでバーンって(脱ぎ捨てれば)、大丈夫なのかなって思いました。」
りゅうちぇる 「薩本先生、“服の安全”という点では天然繊維のほうがよさそうですよね?」
薩本先生 「よく着衣着火が起きるのは、台所で料理をしている時が多いので、エプロンの素材は綿のほうが合成繊維の素材を使うよりはいいと思います。合成繊維でやけどをおった時に、体にはりついてしまいケロイド状のやけどが残ることがあるので危険かなと思います。」
りゅうちぇる 「なるほど。バーベキューや冬場の鍋料理などでも卓上のガスコンロを使うと思うけど、そういうときには服の素材にはしっかり注意しましょうね!」
りゅうちぇる 「いま僕たちの生活には欠かせなくなっている“アレ”も『高機能性繊維』のひとつなのですが…、心ちゃん 何かわかる?」
心 「冬になって寒い時に着ると 暖かくなる服、かな!?」
りゅうちぇる 「そうだね。どうして高機能性繊維の服は着ると暖かくなるのか?その秘密を解く鍵が、太哉くんが着ているウールと同じ天然繊維の『毛』にありました。まずは実験の様子を見てみましょう。」
ワタ状にした羊毛(ウール)を湿度30%に乾燥させ、ガラス容器の中に入れました。
これを湿度70%の室内に出します。
最初の温度は20℃でしたが、およそ10分後、 約4℃、温度が上昇しました。
実は、ウールには湿気を吸収すると発熱する特徴があります。
この天然繊維の特徴を生かして開発されたのが、ある高機能性繊維です。
京都にある繊維メーカーが販売しているのは、高機能性繊維を使った肌着。
冬でも暖かいと評判になり、ヒット商品になりました。
なぜ暖かくなるのか?その決め手は、植物由来の繊維「レーヨン」です。
実はレーヨンにはウールと同じように、吸湿すると発熱する「吸着熱」という特徴があるんです。
繊維メーカー 研究開発担当 丸岡孝さん 「吸湿性が高い繊維(レーヨン)が、体から発する汗を吸うことによって起こる吸着熱を利用して発熱をさせています。」
しかし、肌着用に薄くした「レーヨン」はすぐに熱が逃げてしまいます。
そこで、保温性に優れたアクリルなどをレーヨンに混ぜて開発したのが、汗で発熱する高機能性繊維です。
薩本先生 「(天然繊維でできた)布団を干した日の夜、布団がぽかぽかと心地よく感じられるのは、布団に太陽の熱がそのまま残っているからではなくて、水分を発散して乾燥状態になった布団が人体の水分を吸着したために発熱が起きるんです。」
りゅうちぇる 「なるほど。」
薩本先生 「この原理を応用した高機能性繊維が『吸湿発熱繊維』です。ウールの約1.8倍の吸湿量で、発熱量は約2倍もあります。」
りゅうちぇる・心 「すごい!」
太哉 「冬にスノーボードをやるんですけど、雪とか降っていると寒いじゃないですか。でも(吸湿発熱繊維の服を)着ていると、動いているから汗であったかくなってそんなに寒くないのは、それ(吸湿発熱繊維の原理)のおかげだったんだなって思いました。」
りゅうちぇる 「薩本先生、ほかにも高機能性繊維は開発されているんですよね?」
薩本先生 「例えば、アイロンをかけなくてもシワがよらない『形態安定加工』シャツというのがあります。それから、アウトドアのときに着るアウトドアパーカーには『透湿防水加工』といって、体からの水蒸気は外に逃し、雨など外からの水分は中に通さないように工夫されたものもあります。」
りゅうちぇる 「なるほど。今回は服の素材についていろいろ見てきたけど、どう思ったかな?」
太哉 「いままではデザインやサイズばかり気にしていたけど、これからは化学繊維と天然繊維、両方のいいところを見て選んでいきたいと思います。」
心 「何気なく着ている洋服が、いまも私が着ている化学繊維の洋服が多いんですけど、環境のこととか考えると天然繊維のほうがいいのかなと思ったりもするので、値段的には高いかもしれないけど、天然繊維の服を買えるようにしていけたらいいなって思いました。」
りゅうちぇる 「そうだね。」
薩本先生 「(いま着ている)この服は10年以上着ているんだけど、1着の服としてはけっこう高かったものなんだけど、1着を長持ちして、手入れをきちんとして、大切に着てもらいたいなって思っています。」
りゅうちぇる 「今回はいろいろな服の素材を学びましたが、再びモデルの太哉くん!太哉くんの着ている服、実は新しい繊維を使っているんですよね。何だかわかる?」
太哉 「どうなんですかね?着た感じはめちゃくちゃあったかくて、めちゃくちゃ軽いです。」
りゅうちぇる 「正解は、人工のクモの糸です。クモの糸の強じん性は鋼鉄の340倍あるといわれているんです。」
太哉 「えっ!?」
心 「340倍!すごい。」
りゅうちぇる 「さらに、軽くて伸び縮みし 衝撃も吸収するなど、いいところがいっぱいなんですよ。そのクモの糸のよさをいかした新しい繊維は注目の新素材なんです!」
山形県鶴岡市にある繊維企業では、人工のクモの糸の開発に成功しました。
クモのDNAの中から糸に関わる遺伝子の一部を取り出し微生物に組み込むと、クモの糸の材料となる人工のたんぱく質を作り始めました。
この微生物をタンクで培養すると、たんぱく質ができます。
風呂おけ1杯分の培養液があれば、約1時間でセーター1枚分に必要なたんぱく質ができるそうです。
このたんぱく質から、繊維を作ります。
たんぱく質由来の繊維は、合成繊維のような石油由来ではないため、最後は土にかえります。
クモの糸をヒントに開発したこの繊維の強じん性の高さが注目を集め、車のドアなど、今後さまざまな分野での応用が期待されています。
心 「ふだん生活している中で何個も見かけるクモの糸が人工的に作られて、さらにそれが 洋服だけじゃなくて、車のドアとかになるっていうの聞いて、時代の進化と技術の進歩ってすごいなって思いました。」
りゅうちぇる 「このたんぱく質由来の繊維は、天然繊維・化学繊維どちらにも分類できない新素材なんですね。」
りゅうちぇる「今後、こうした新素材の繊維(の開発など)が進むことで、SDGsの目標にどう関わるかというと…、『目標9:産業と技術革新の基盤をつくる』ことができるかもしれないし、さらに環境に優しい服を作って買うということにもなるから『目標12:つくる責任 つかう責任』にもつながるよね。さらに、最後は土にかえる素材だから『目標14:海の豊かさを守ろう』と『目標15:陸の豊かさも守ろう』にもつながるよね。
今後、日本の企業が作る新たな繊維がSDGsの目標達成のための世界の力になったら、すごくいいよね。服を選ぶとき、持続可能な世界にするっていうSDGsのこともしっかり意識していきましょう!」
1:天然繊維と化学繊維
服の素材には、「天然繊維」と「化学繊維」があります。
2:被服の安全
石油由来の「合成繊維」は、燃えやすいので注意しましょう。
3:高機能性繊維
天然繊維を超える機能を持った「高機能性繊維」が生まれています。
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