Eテレ 毎週 火曜日 午前10:20〜10:40
※この番組は、前年度の再放送です。
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第32回
「化学基礎」では、自分たちの身の回りの物質や現象などに興味を持って、鈴木福さんと一緒に考察していきましょう!
福 「前回(化学基礎「中和反応の量的関係」の回)は、『中和反応の量的関係』を表す関係式が出てきました。酸と塩基の水溶液それぞれの『価数』『濃度』『体積』をかけた値が一致するとき、2つの水溶液は過不足なく中和するんでしたよね。
たとえば、どちらかの水溶液の濃度がわからなくてもこの式を使えば、計算で求めることができるということなのですが、そのためにはまず、酸と塩基とをぴったり正確に中和させることが大切なんですって。きょうは『中和滴定』という操作にチャレンジします!」
福 「ちょっと酢酸について考えていて…。酢酸・CH3COOHは弱酸で、その酢酸を含む水溶液がお酢だよね。」
美樹 「福くんも、化学のことをだいぶ身近に考えられるようになって、なんだか嬉しいなぁ。お酢をつくるのにも化学のチカラが必要なんだよ!」
福 「化学のチカラ? どういうこと?」
私たちの食卓に欠かせないお酢が、どんなふうにつくられているのか。
100年以上続く昔ながらの製法でお酢をつくっている工場では、ずらりと並んだスギの桶に、酒かすから取ったアルコールが入っている。
そのアルコールを発酵させて、お酢の主成分である酢酸・CH3COOHに変える働きをしているのが「酢酸菌」だ。
いいお酢ができるかどうかは、職人の経験がものをいう世界。発酵の状態を確かめながら、桶のふたの隙間を調整するなどして、適切な温度にしているんだ。
そしてもうひとつ、お酢の品質管理で欠かせないのが、「中和滴定」だ。
工場の研究室でも、お酢の中の酢酸・CH3COOHの濃度を調べることで、発酵の状態を確認しているんだ。
福 「中和滴定か。酢酸・CH3COOHの濃度を化学的に調べることも、伝統のお酢づくりを支えているんだね。」
美樹 「その通り。」
福 「中和滴定ってどんなふうにやるの? 僕でもできるの?」
美樹 「できるできる! じゃあ、そのお酢を使って私たちも(中和滴定を)やってみようか!? 酢酸・CH3COOHの濃度を調べるためには、酸と塩基の中和の量的関係を考えたうえで…」
福 「難しいことはあとにして、とりあえずやってみようよ!」
用意したのは、さきほどの食酢をあらかじめ10倍に薄めたもの。
この食酢を10.0 mL使う。
そして、濃度0.100 mol/Lとわかっている水酸化ナトリウム・NaOH水溶液だ。
左の画像は、酸と塩基が過不足なく中和したときの、中和反応の量的関係の式だったよね。
食酢に含まれる酢酸・CH3COOHの濃度を求めるためには、もうひとつ知りたい数値がある。
ぴったり中和したときの、水酸化ナトリウム・NaOH水溶液の体積だね。
この体積を求めるために行うのが、中和滴定。
つまり、中和滴定によって求めた(水酸化ナトリウム・NaOH水溶液の)体積から、食酢に含まれる酢酸・CH3COOHの濃度が計算でわかるというわけだ。
福 「中和滴定に使う器具って、あんまり見たことのないものばかりだね。」
美樹 「そうでしょ。それぞれひとつずつ大切な役割があって、使い方にも注意点があるから、まずはそこから説明するね。
中和滴定に使う器具は、洗って乾かしたものを使うこと。乾かす時間がないときは、必要に応じて最初に『共洗い』というのをやるんだ。正確な測定をするためには、とっても大切な作業なんだ。」
中和滴定で測定に使う器具は、必要に応じて「共洗い」という作業を行っておこう。
器具が水でぬれていると中の溶液が薄まってしまうので、これから入れる溶液で何回か洗っておくんだ。
共洗いが終わったら、「ホールピペット」で濃度がわかっていない食酢を10.0 mL吸い上げる。
この「標線」に液面を合わせると、目的の体積になるんだ。
量った溶液は、最後の1滴まで正確にコニカルビーカーに移し入れる。
そのためには、ホールピペットの膨らんだ部分を手で包んで温めると、残った溶液を残らず押し出すことができる。
これでコニカルビーカーに、食酢を10.0 mL正確に量り取ることができる。
次は、「ビュレット」に中和反応をすすめるための、水酸化ナトリウム・NaOH水溶液を入れる。
ビュレットはコックをひねって、少しずつ溶液をビーカーに加えていくための器具だ。
溶液をたらす前と後の数値の差から、加えた溶液の体積がわかるというわけだ。
ろうとを使って水酸化ナトリウム・NaOH水溶液を入れたら、最後にコックを開き、先端まで溶液が入っている状態にしておこう。
これで、準備OKだ。
福 「それで、食酢の中の酢酸・CH3COOHの濃度を調べるために、この2つの水溶液を過不足なく中和させればいいんだね。」
美樹 「そうなんだ。水酸化ナトリウム水溶液を食酢に加えていくんだけど…」
福 「(ビュレットの)コックを開いて、水酸化ナトリウム水溶液をたらせばいいんだね。」
美樹 「ちょっと待って! その前にpH指示薬のフェノールフタレインを、食酢に2〜3滴たらして。」
福 「食酢は酸性だから(pH指示薬をたらしても)無色透明のままだね。よし、じゃあいくよ!」
美樹 「まだまだ! 次は、ビュレットの目盛りを読み取って。最小目盛りの10分の1までちゃんと読み取ること。水酸化ナトリウム水溶液の体積を正確に調べることが中和滴定のポイントなんだ。」
福 「そんなにきっちりとしなくちゃいけないんだ…。0.40 mLだね。」
美樹 「これで準備OK。では始めようか! 水酸化ナトリウム水溶液を少しずつたらして。」
福 「わかった。 おっ!(水酸化ナトリウム水溶液を1滴たらしたら)赤くなった!」
美樹 「そうしたら、コニカルビーカーを振り混ぜてみて。」
福 「こんな感じだね…おっ!色が消えた! 一回赤くなっても振り混ぜると、また無色透明に戻るんだね。」
美樹 「だから、まだ酸性ということ。振り混ぜても無色透明に戻らなくなったときが中和点なんだ。」
福 「なるほどね。だったらまだいけそうだね。もっと入れていくよ。(水酸化ナトリウム水溶液を少し入れてみても)なかなか中和しないね。」
美樹 「そろそろぴったり中和するはずなんだけどな。慎重にやっていこう。」
福 「でも待ちきれないから、ちょっと多めに入れちゃおうかな。(水酸化ナトリウム水溶液を多めに入れて、コニカルビーカーを振り混ぜてみても)あれ? 赤色のままだ! ということは、これで中和したってこと?」
美樹 「う〜ん…それだと、水酸化ナトリウム水溶液を入れすぎって感じかな。」
福 「ということは、失敗か…」
(化学基礎・監修講師)貝谷先生 「中和滴定では、酸と塩基が過不足なく中和する瞬間は、急激に現れるんです。だから、ちょうど中和するポイントを探るには、ちょっとしたコツが必要なんです。
コニカルビーカーの食酢が、赤色から無色透明に変化するスピードが遅くなってきたら、中和するポイントが近づいている証拠。その状態になったら、水酸化ナトリウム水溶液を1滴ずつたらし、振り混ぜます。わずかに赤色が残ったままになったら滴下をやめます。中和してできた塩の 酢酸ナトリウム水溶液は弱塩基性なんです(化学基礎「中和反応と塩の性質」の回)。薄く赤色が残っている状態を『過不足なく中和した』とするんです。」
美樹 「では、もう一回やり直してみよう。」
福 「わかった。」
美樹 「もう一度、ビュレットの目盛りを読むところから始めるよ。」
福 「水酸化ナトリウム水溶液の体積は、さっきから減って8.49 mL。
10.0 mL量り取ってある食酢をセットして、最初のうちは水酸化ナトリウム水溶液を多めに入れてもいいけど…
(食酢に水酸化ナトリウム水溶液を何度が滴下していく)
最初から比べて、赤色から無色透明に戻るのが遅くなってきたね。そろそろかな? ここからは、一滴ずつたらすよ。」
美樹 「いいね! その調子!」
福 「おっ、無色透明に戻らなくなった!これで過不足なく中和したってことだね。」
美樹 「そこで、ビュレットの目盛りを読んでみようか。中和滴定を始める前に読んだ目盛りとの差が、過不足なく中和するのに必要だった水酸化ナトリウム水溶液の体積。」
福 「(滴下後の水酸化ナトリウム水溶液の体積は)15.92 mL。滴下前は8.49 mLだから、その差は7.43 mLだ。」
中和滴定では、正確な数値を求めるため、同じ操作をくりかえして行う。
全部で3回おこなって求めた平均値は、7.43 mLだった。
3回量るのは、測定の誤差を少しでも小さくするためなんだ。
福 「平均値は7.43 mLか。これでいよいよ酢酸の濃度を求めていくんだね。」
美樹 「そう。まずは水酸化ナトリウム水溶液の体積を、過不足なく中和することを表した式に、あてはめていくよ。」
福 「食酢に含まれる 酢酸の価数(a)は『1』、濃度(c)はわからないから『c』のまま。体積(V)は10.0mLで、Lにすると『1000分の10.0 L』。
水酸化ナトリウム水溶液の価数(b)は『1』、濃度(c´)は『0.100 mol/L』。そして、いま量った体積(V´)の平均値は7.43 mLで、Lにすると『1000分の7.43 L』だね。
濃度(c)をこの式から求めると、c=の形に直せばいいんだよね…
答えは、0.0743mol/Lだ。」
美樹 「これで、食酢に含まれる酢酸の濃度は求められたね。」
福 「そういえば、中和滴定で使った食酢はこれを10倍に薄めていたよね。」
美樹 「そう。だから、その食酢に含まれる酢酸・CH3COOHの濃度は、10倍にして0.743 mol/Lということになる。」
福 「これで正確に、酢酸の濃度がわかったってことか。」
福 「中和滴定って、なんであんなに微妙なの? どんなことが起きていたんだろう?」
美樹 「福くん、いい疑問だね! これは、さっきやった中和滴定『弱酸と強塩基』の変化を表したもの。縦軸がpHで、横軸が弱酸に加えた強塩基の量を表している。こうした図を『滴定曲線』というんだ。」
福 「過不足なく中和したのはどこのこと?」
美樹 「水酸化ナトリウム水溶液を加えていって徐々に上がっていったpHが、あるところで一気に上昇しているでしょ。つまり、この垂直に変化しているちょうど真ん中あたりを『中和点』といって、ここが過不足なく中和したところなんだ。
そして、グラフに書かれた赤い帯は、さっきの中和滴定で使った指示薬のフェノールフタレインの変色域を表している。」
福 「その変色域と、急激に変化するところが重なっているから、中和点を知ることができるんだね。」
美樹 「それで、この中和点前後の急激なpHの変化を『pHジャンプ』というんだけど、ここを越えてしまうと…」
福 「水酸化ナトリウム水溶液を入れすぎちゃったときみたいに、うまく中和滴定できないってことなんだね。」
美樹 「もうひとつ大事なことは、酸と塩基の組み合わせによって、適切なpH指示薬を使うこと。」
福 「ほかの酸と塩基の組み合わせの場合は、違う指示薬を使うってこと?」
では、「強酸と弱塩基」の場合の、滴定曲線を見てみよう。
この中和滴定では、中和点での水溶液のpHは酸性にかたより、指示薬のフェノールフタレインの変色域に重なっていない。
この場合は、酸性側に変色域をもつメチルオレンジを用いる必要があるんだ。
「強酸と強塩基」の場合では、pHの変化が大きいので、フェノールフタレインとメチルオレンジ、どちらでも中和点を知ることができるんだ。
福 「ところで、『弱酸と弱塩基』の場合はどうなの?」
美樹 「弱酸と弱塩基による中和滴定では、中和点前後のpHの変化はわずかしかないんだ。だから、どんな指示薬を使っても中和点を知ることができないんだ。」
福 「中和点を知ることができない酸と塩基の組み合わせもあるんだ〜。」
美樹 「福くん、今日はどうだった?」
福 「モル濃度とか、pH指示薬とか、中和反応とか、いままでやったことが総動員されて、中和滴定のことがわかるんだなって…」
それでは、次回もお楽しみに!
1:中和滴定とは?
中和反応の量的関係(の式)を利用すると、酸(塩基)の水溶液の一方の濃度がわかっていれば、計算によってもう一方の濃度を求めることができる。
その酸(塩基)の体積を正確に測定する操作を「中和滴定」という。
2:中和滴定をやってみよう!
中和滴定では、使用する器具の使い方をしっかり確認しておこう。
指示薬の色が徐々に消えにくくなってきたら、ビュレットのコックを慎重に操作して、1滴ずつ加えていこう。
3:滴定曲線と指示薬の選択
中和滴定を行ったときの、pHの変化をグラフにしたものを「滴定曲線」という。
中和点を見つけるためには、酸と塩基の組み合わせに応じて、適切な指示薬を使うことが大切になるんだ。
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