Eテレ 毎週 火曜日 午前10:20〜10:40
※この番組は、前年度の再放送です。
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第29回
福 「みなさん“酸と塩基の性質”覚えていますか?
酸性の水溶液は、青色リトマス紙を赤色に、BTB溶液を黄色に変えます。また、マグネシウム・Mgなどの金属と反応して、水素・H2を発生します。
そして、塩基と反応して塩基性を打ち消す。一方の塩基は、酸と反応して酸性を打ち消す。
きょうは、この酸と塩基が“互いの性質を打ち消し合う”ということに注目していきます。ただし、“完全に打ち消しあったら中性になる”という、単純な話ではないらしいんですよね…」
福 「(真白い紙とスプレーボトルを見つけて)なんだこれ? ここにスプレー? ここに吹きかけるのかな?
(スプレーを吹きかけてみると)文字が浮かび上がってきた! 『Q:酸と塩基が反応してできるモノって何?』クイズかぁ。」
福 「酸と塩基…酸の正体が水素イオン・H+で、塩基の正体が水酸化物イオン・OH−だから… あれっ? (浮かび上がった)文字が消えかかってる!」
美樹 「福くん驚いたかな? これは、酸と塩基の反応を利用した“化学マジック”なんだ。」
福 「ということは、種も仕掛けもあるってことだよね?」
美樹 「そう! この文字は、フェノールフタレイン溶液で書いてあったんだ。だから、最初は透明で見えなかった。そして、そのスプレー容器には、ごく薄いアンモニア・NH3水溶液が入っていた。」
福 「なるほど。アンモニア・NH3は塩基で、フェノールフタレイン溶液を赤色に変えるから、文字が浮かび上がってきたってことだね。じゃあ、また文字が消えちゃったのはどうして?」
美樹 「アンモニア・NH3が、空気中の二酸化炭素・CO2と中和して、塩基性が打ち消されたんだ。」
塩酸・HClと、水酸化ナトリウム・NaOHの、中和反応を見てみよう。
まず、塩酸・HClにBTB溶液を加える。
BTB溶液を黄色く変えるのは、酸性の特徴だったよね。
そして、塩酸・HClの入った試験管にマグネシウム・Mgを入れると、塩酸・HClとマグネシウム・Mgが反応して、水素・H2が発生する。
これも、酸性の特徴のひとつだ。
この塩酸・HClに、塩基性の水酸化ナトリウム水溶液・NaOHを少しずつ加えていくと、水素・H2の発生が次第に穏やかになり、やがて止まった。
水酸化ナトリウム・NaOHによって、塩酸・HClの酸性が打ち消されたんだ。
水溶液の色も、黄色から緑色に変わっている。
さらに、水酸化ナトリウム水溶液・NaOHを加え続けると、水溶液の色は塩基性を示す青色に変わった。
美樹 「今の実験とは逆に、水酸化ナトリウム・NaOHに、塩酸・HClを加えても同じことだよね。このように、酸と塩基がお互いの性質を打ち消し合うことを『中和』、この反応のことを『中和反応』というんだ。」
福 「なるほど。なんだか当たり前のような気もするけど、不思議な現象のような気もするなぁ…」
美樹 「じゃあ、試験管の中でどんな反応が起きていたのか、ミクロの眼で見てみよう!」
塩酸・HClは、水溶液中では水素イオン・H+と塩化物イオン・OH−に電離している。
酸の正体である水素イオン・H+が存在するから、BTB溶液は黄色に変色し、マグネシウム・Mgとの反応も起きたんだ。
そして、水酸化ナトリウム・NaOHは、水溶液中ではナトリウムイオン・Na+と、塩基の正体である水酸化物イオン・OH−に電離している。
塩酸・HClに水酸化ナトリウム・NaOHを加えると、水素イオン・H+と水酸化物イオン・OH−が反応して、水・H2Oができる。
これが、酸と塩基が「互いの性質を打ち消す」ということだったんだ。
さらに、水酸化ナトリウム・NaOHを加えていくと、塩酸・HClから出た水素イオン・H+と水酸化ナトリウム・NaOHから出た水酸化物イオン・OH−の数が等しくなり過不足なく反応する瞬間がある。これを「中和点」という。
塩酸・HClと水酸化ナトリウム・NaOHの反応では、このとき水溶液が中性となって溶液の色が緑色になり、マグネシウム・Mgとの反応も止まったというわけだ。
中和点を越えて水酸化ナトリウム・NaOHを加えていくと、水溶液中の水酸化物イオン・OH−が増えていくので、溶液の色は塩基性を示す青色に変わったんだ。
福 「なるほど。酸に塩基を加えていくと、最初酸性だった水溶液が、中和点で中性になって、さらに塩基性になっているんだね…」
美樹 「ちょっと待った! そこ誤解しやすいんだけど、中和点、つまり酸の水素イオン・H+と塩基の水酸化物イオン・OH−が同じ数になるように過不足なく反応させても、その水溶液が中性になるとは限らないんだ。」
福 「えっ?どういうこと? 完全に中和したら、中性になるんじゃないの?」
美樹 「う〜ん…そのことを説明する前に…、最初に出したクイズの答えをまだ聞いてなかったね。」
福 「酸と塩基が反応したら何ができるかという問題? そんなの簡単じゃん。
たとえば、塩酸・HClと水酸化ナトリウム・NaOHが反応すると、塩酸・HClから出た水素イオン・H+と、水酸化ナトリウム・OH−から出た水酸化物イオン・OH−で、水・H2Oができる。これが答えでしょ?」
美樹 「水・H2Oだけじゃないんだよなぁ…残っているものがあるじゃない?」
福 「ナトリウムイオン・Na+と、塩化物イオン・Cl−で、塩化ナトリウム・NaClだ!」
塩酸・HClと水酸化ナトリウム・NaOHを反応させて何ができるのか、顕微鏡を使って観察してみよう。
その前に、まず、塩酸・HClと水酸化ナトリウム・NaOH水溶液を、それぞれ蒸発させるとどうなるかな?
塩酸・HClは何も残らない。気体の塩化水素・HClとして蒸発してしまうんだ。
水酸化ナトリウム・NaOHの方は、白い固体、水酸化ナトリウム・NaOHの結晶が残った。
では、2つ(HClとNaOH)を反応させてみよう。
スライドガラスに塩酸・HClを1滴、そして、(塩酸と同じモル濃度の)水酸化ナトリウム・NaOH水溶液を1滴垂らして中和させる。
スライドガラスを加熱して、水分を蒸発させると、白い固体が残った。
福くんが予想した、塩化ナトリウム・NaClなのかな?
この立方体の結晶、なんだか見覚えがあるよね? 確かに塩化ナトリウム・NaClの結晶だ。
福 「塩酸・HClと水酸化ナトリウム・NaOHで中和して、塩化ナトリウム・NaClができた。酸と塩基が中和すると、塩(しお)と水ができたんだね。」
美樹 「中和反応の場合、“しお”ではなくて、“えん”と読むんだ。そういう決まりになっているから注意しようね。」
福 「分かった。中和反応とは、酸と塩基が反応して『塩(えん)』と『水』ができる反応である、ということだね。」
なお、酸と塩基の中和反応には、水・H2Oを生じないものもある。
以前紹介した、塩化水素・HClと気体のアンモニア・NH3の反応を覚えているかな?(化学基礎「酸と塩基」の回)
これは、塩化アンモニウム・NH4Clという塩だけが生成する、中和反応なんだ。
福 「中和反応で塩ができるということは分かったけど、もしかしてそれが『過不足なく中和しても中性とは限らない』ということと関係があるの?」
美樹 「そうだね。とりあえずはこれを見て。
中和反応によってできる塩は、大きく分けて3種類ある。
・酸のHも塩基のOHも残っていないものを『正塩(せいえん)』
・酸のHが残っているものを『酸性塩』
・塩基のOHが残っているものを『塩基性塩』 というんだ。」
福 「中和してできる塩が酸性だったり塩基性だったりするから、中和点でも中性とは限らないってこと?」
美樹 「…そう思っちゃうよね。これ、ちょっと紛らわしいんだよなぁ。」
福 「えぇー、それも違うの?」
美樹 「うん。塩の種類と、その塩の水溶液が示す性質は、必ずしも一致しないんだ。今回は、『正塩』の水溶液について詳しく見てみよう。」
酢酸・CH3COOHと、水酸化ナトリウム・NaOHの中和反応を見てみよう。
コニカルビーカーに入っている酢酸・CH3COOHと、ビュレットに入っている水酸化ナトリウム・NaOHは、同じモル濃度になっている。
水酸化ナトリウム・NaOHを、酢酸・CH3COOHと同じ体積滴下して、中和させる。
このようにして、完全に過不足なく反応させた溶液は中性なのだろうか?
BTB溶液を加えると、塩基性を示す青色に変わった。
どうして塩基性になったのか、福くん分かるかな?
福 「う〜ん…何だ?」
美樹 「福くん、『価数』って覚えているかな?」(化学基礎「酸と塩基の強さ」の回)
福 「酸や塩基が出すことのできる、水素イオン・H+や水酸化物イオン・OH−の数のことで、酢酸・CH3COOHは1価の酸で、水酸化ナトリウム・NaOHは1価の塩基だったよね。
同じモル濃度、同じ体積で反応させれば、水素イオン・H+と水酸化物イオン・OH−の数は同じになって、HもOHも残らない正塩ができる…」
美樹 「そうだね。反応式はこうなる。酢酸ナトリウム・CH3COONaは正塩。それなのに、水溶液が塩基性になったのはどうしてだと思う?」
福 「そこが分からないんだよな…」
美樹 「価数のほかに、もうひとつ大事なことがあったよなぁ。」
福 「酸と塩基の強弱!? 確か、酢酸・CH3COOHは弱酸、水酸化ナトリウム・NaOHは強塩基だったよね? もしかしてそれが関係しているの?」(化学基礎「酸と塩基の強さ」の回)
(化学基礎・監修講師)露久保先生 「酸と塩基に強弱があるということ、よく覚えていましたね。福くんの言う通り、一般に、正塩の水溶液の性質は、その塩をつくるもとになった酸と塩基の強弱によって決まるんです。弱酸の酢酸・CH3COOHと強塩基の水酸化ナトリウム・NaOHが中和して、酢酸ナトリウム・CH3COONaが生成した水溶液の中では、塩の加水分解という現象が起きているんです。」
先ほどの実験で使った、酢酸ナトリウム・CH3COONaは、水溶液中ではナトリウムイオン・Na+と酢酸イオン・CH3COO−に完全に電離している。
ところが、酢酸イオン・CH3COO−の一部は、溶媒の水・H2Oと反応して酢酸・CH3COOH分子になってしまう。
この反応で、水酸化物イオン・OH−が生じるため、水溶液は塩基性を示すというわけなんだ。
この現象が、塩の加水分解だ。
露久保先生 「塩の加水分解は、酢酸・CH3COOHが弱酸(電離度が小さいので酢酸イオン・CH3COO−が水素イオン・H+とくっつきやすい)だから起きる現象です。
また、塩の加水分解には、正塩が水と反応して弱塩基と水素イオン・H+になるものもあって、この場合は水溶液が酸性になります。正塩なのに、水溶液が酸性だったり塩基性だったりする理由をしっかり説明できるところが、化学のすごいところだと思いませんか?」
福 「前に学んだ酸と塩基の価数とか強弱とかが(化学基礎「酸と塩基の強さ」の回)、中和反応の塩の話に繋がっていてすごい面白い! あれっ?もしかして、これが“化学への愛と情熱”か!?」
美樹 「その熱が冷めないうちに、酸・塩基の強弱の組み合わせと、正塩の水溶液の性質との関係を見てみよう!」
塩酸・HCl(強酸)、酢酸・CH3COOH(弱酸)、水酸化ナトリウム・NaOH(強塩基)、アンモニア・NH4OH(弱塩基)の組み合わせでできる塩の水溶液を作って、その性質を調べてみよう。
まず、塩酸・HCl(強酸)と水酸化ナトリウム・NaOH(強塩基)。
できる塩は、塩化ナトリウム・NaClだ。
BTB溶液を加えた純水に、塩化ナトリウム・NaClを加えると、色は変わらず緑色のまま。
強酸と強塩基の組み合わせで出来る正塩の水溶液は、中性だ。
塩酸・HCl(強酸)とアンモニア・NH4OH(弱塩基)の場合はどうだろう。
できる塩は、塩化アンモニウム・NH4Cl。
水溶液が黄色に変わった。
強酸と弱塩基の組み合わせでできる正塩の水溶液は、酸性になることが分かった。
最後に、酢酸・CH3COOH(弱酸)と水酸化ナトリウム・NaOH(強塩基)の組み合わせでできる、酢酸ナトリウム・CH3COONa。
先ほども見た通り、水溶液は青色になる。
弱酸と強塩基の組み合わせでできる正塩の水溶液は、塩基性になるんだ。
美樹 「実験の結果をまとめたよ。」
福 「強酸と強塩基は中性、強酸と弱塩基は酸性、弱酸と強塩基は塩基性。弱酸と弱塩基の組み合わせはどうなるの?」
美樹 「それは、組み合わせによっていろいろなので、今の段階では気にしなくていいんだ。」
福 「そう言われると、かえって調べたくなっちゃうなぁ…」
露久保先生 「中和反応と中和によってできる塩について調べてみると、面白いことがたくさんありますよ。私たちの生活のさまざまな場面で、中和反応や塩は利用されているんです。次回は、そんな例をいくつか見ていきましょう。」
福 「生活さまざまな場面ね。とりあえず、塩化ナトリウム・NaCl食塩は、人が生きていくうえで必要不可欠なものだよね。」
それでは、次回もお楽しみに!
1:中和反応とは?
酸と塩基が互いの性質を打ち消し合うことを中和という。
中和反応によって、塩と水が生成する。
2:塩の種類
塩には、正塩・酸性塩・塩基性塩の3種類がある。
ただし、塩の種類とその塩の水溶液の性質は、必ずしも一致しない。
3:正塩は酸性? 中性? 塩基性?
正塩の水溶液の性質は、その塩のもととなる酸と塩基の強弱によって決まる。
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