Eテレ 毎週 火曜日 午前10:20〜10:40
※この番組は、前年度の再放送です。
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第26回
福 「前回(化学基礎「酸と塩基」の回)は、『酸』と『塩基』それぞれに共通する性質について学びました。酸の正体は水素イオン・H+、塩基の正体は水酸化物イオン・OH−。そして、水素イオン・H+の受け渡しによって、酸と塩基を定義することができるということでした。
今回は、酸と塩基に“強弱”があるというお話です。酸や塩基が、“強い”とか“弱い”とかはどのように決まるのでしょう?」
福 「アレニウスの定義だよね。『酸とは、水に溶けて水素イオン・H+を生じる物質』というやつ。」
美樹 「福くん、復習バッチリだね! この水素イオン・H+こそが酸の正体!」
福 「でも、ちょっと不思議に思っていたことがあるんだけど、同じ酸でも、お酢は普通に食べ物に使っているでしょ。でも、塩酸は間違って口にしちゃったら大変なことになる。なんでだろう?」
美樹 「濃度の問題もあるんだけど、そもそも塩酸・HClは強い酸、酢酸・CH3COOHは弱い酸なんだよ。」
福 「強い酸と弱い酸?」
塩酸・HClが強い酸で、酢酸・CH3COOHが弱い酸って、どういうことなんだろう?
前回学んだ、酸に共通する性質「マグネシウム・Mg、亜鉛・Znなどの金属と反応して、水素・H2を発生する」で調べてみよう。
2つの試験管には、塩酸(塩化水素水溶液)・HClと、酢酸・CH3COOHが入っている。
濃度はどちらも 1 mol/Lだ。
同じ質量のマグネシウム・Mgを同時に入れると、
塩酸・HClの方は激しく反応して、気体がさかんに発生する。
一方、酢酸・CH3COOHの方は、反応がおだやかだ。
しばらく観察を続けると(約2分後)
塩酸・HClの方はマグネシウム・Mgがすべて反応してしまったが、
酢酸・CH3COOHの方は(マグネシウムが)まだ残っている。
反応に差があるのは、酸の正体である水素イオン・H+の濃度が違うからなんだ。
でも実験で使った、塩酸・HClと、酢酸・CH3COOHのモル濃度は同じだった。
では、どうしてこんな違いがあるのか、謎解きにチャレンジしてみよう。
福 「塩酸・HClと酢酸・CH3COOHは、どちらともマグネシウム・Mgと反応して、水素・H2が発生していた。これはこの間学んだ、酸に共通する性質だったよね。
でも、反応の仕方はずいぶん違っていた。
塩酸・HClは、水に溶けて、塩化物イオン・Cl−と水素イオン・H+に電離する。
酢酸・CH3COOHは、水に溶けて、酢酸イオン・CH3COO−と水素イオン・H+に電離する。
モル濃度が同じってことは、粒子の数も同じはずだから、酸の正体である水素イオン・H+の数も同じになるはずだよね?」
美樹 「では、電離を反応式で考えてみようか。」
福 「HClが、H+とCl−に電離する。CH3COOHは、H+とCH3COO−(に電離する)。同じことだよね。水素イオン・H+が1つ出て…あれ? (2つの化学式の)矢印が違うのはどうして?」
美樹 「福くん、いいところに気が付いたね! 両向きの矢印は、条件によって反応がどちら向きにも進む状態を示しているんだ。」
福 「ということは、塩酸・HClは一方向の矢印だから、すべての分子は電離したまま。
酢酸・CH3COOHは両向きの矢印だから、電離することも、分子に戻ることもあるってこと? すると、水溶液中の水素イオン・H+の数は、酢酸・CH3COOHよりも、塩酸・HClの方が多くなるってことか!」
美樹 「福くんお見事! 酢酸の方は結果的に“反応が一部だけ進んだ”ということになる。
塩酸・HClのように、水溶液中でほぼすべてが電離している酸を『強酸』。
酢酸・CH3COOHのように、水溶液中で一部しか電離していない酸を『弱酸』というんだ。」
福 「すべて電離するのが『強酸』、一部しか電離しないのが『弱酸』ということか。もしかして、塩基も同じ?」
美樹 「その通り!
水酸化ナトリウム・NaOHのように、ほぼ完全に電離する塩基を『強塩基』。
アンモニア・NH3のように、一部しか電離しない塩基を『弱塩基』というんだ。」
酸と塩基の“強弱”は、他にも水溶液の性質に違いをもたらしているんだ。
塩酸・HCl(強酸)と、酢酸・CH3COOH(弱酸)で、電気伝導性を比べてみよう。
電極に電気を通す物質が触れると、明かりがつく装置を使用する。
0.1 mol/Lの塩酸・HClに電極をつけると、電球が明るく光った。
電極を純水でよく洗ってから、
塩酸と同じ濃度(0.1 mol/L) の酢酸・CH3COOHに電極をつけると、明かりはついたが、塩酸と比べるとずいぶん暗い。
2つの水溶液には、どんな違いがあるのだろう。
塩酸・HClは、ほぼすべてが電離しているので、電気を運ぶイオンが水溶液中にたくさん存在している。
それに対して、酢酸・CH3COOHは、一部しか電離しないので、電気を運ぶイオンが少ししか存在しないんだ。
福 「塩酸・HClと酢酸・CH3COOHでは、電気伝導性にも ずい分違いがあったんだね。この違いは、すべて電離しているか、一部しか電離していないかによって決まっているんだ。」
美樹 「そう。そして、水溶液中の酸や塩基の電離の程度を『電離度』で表すんだ。
電離度は、『α(アルファ)』という記号で表すことが多い。」
電離度α =溶解した酸(塩基)の物質量[mol] 分の 電離した酸(塩基)の物質量[mol]
美樹 「(電離度は)物質量だけではなく、モル濃度で計算しても結果は同じになる。
たとえば、塩酸・HClの場合、溶解した分子が30個だったとすると、そのすべてが電離するので、
(塩酸・HCl)電離度α=30分の30=1
酢酸・CH3COOHの場合は、条件によって電離する割合が変わるんだけど、
たとえば、溶解した30個の分子のうち、1個だけが電離していたとしたら、
(酢酸・CH3COOH)電離度α=30分の1≒0.03 ということになる。」
福 「強酸・強塩基の電離度は、ほぼ1。弱酸・弱塩基の電離度は、1よりもかなり小さい値になるんだね。」
美樹 「そう。その電離度によって、代表的な酸や塩基の強弱をまとめたものが、この表。」
福 「強酸には、塩酸・HClのほかに、硝酸・NHO3や硫酸・H2SO4。
弱酸には、酢酸・CH3COOHのほかに、炭酸・H2CO3や、クエン酸・C6H8O7もあるんだね。
塩基は、“水酸化〇〇”というものが多いね。
でも、こうやって3つの段に区切られているのには何か意味があるの?」
美樹 「それは…」
福 「分かった! 酸だとH、塩基だとOHの数で区切られているんだ。1段目は1個で、2段目は2個…あれ? でも、強酸の塩酸・HClはHが1つなのに、弱酸の炭酸・H2CO3はHが2つある。炭酸・H2CO3の方が水素イオン・H+の数が多くって、より強い酸ってことになったりしない?」
(化学基礎・監修講師)吉田先生 「 福くん、そう思ってしまうよね。炭酸・H2CO3は、1分子中のHの数が多いから、(酸が)強いと思うよね。でも、酸や塩基の強弱を決めるのは、“1分子中のHやOHの数”ではなく、“水溶液中のH+やOH−の濃度”なんだ。
“水に溶けた分子やイオンなどが電離してH+やOH−をどれくらい出すか”=『電離度』で酸・塩基の強弱が決まるんだったよね。
塩酸・HClと炭酸・H2CO3の『電離度』には、2桁以上の開きがある。炭酸・H2CO3には1分子中に塩酸・HClの2倍のHがあるけれど、そのほとんどはH+になっていない(電離しない)から、弱酸なんだ。
1分子が出すことができるH+やOH−の数を『価数』というんだ。
『価数』は“1分子が出すことができる”ということであって、“(電離して)水溶液中に存在する”こととは違う。
『酸・塩基の価数』と『酸・塩基の強弱』は、違う分類方法なんだよ。」
福 「“電離度”と、“HやOHの数”は、別物なんだね。」
美樹 「そうだね。では改めて『価数』について確認していこう。
ここに、塩酸・HCl、酢酸・CO3COOH、硫酸・H2SO4のモデルがある。
塩酸・HClは電離して、水素イオン・H+1個と、塩化物イオン・Cl−1個を生じる。(塩酸は)出すことのできる水素イオン・H+は1個なので、『1価の酸』というんだ。
では、酢酸・CO3COOHはどうなる?」
福 「酢酸・CO3COOHが電離すると、水素イオン・H+1個と酢酸イオン・CH3COO−1個を生じる。酢酸イオン・CH3COO−にもHが含まれるけど、これは電離しないんだよね。だから、出すことのできる水素イオン・H+は1個だから、塩酸・HClと同じ『1価の酸』だ。」
美樹 「そう。では、硫酸・H2SO4はどうかな?」
福 「硫酸・H2SO4は電離すると、水素イオン・H+2個と硫酸イオン・SO42−1個を生じる。出すことのできる水素イオン・H+は2個だから『2価の酸』だね。」
価数の違いを、実験で確かめてみよう。
用意したのは、1価の塩酸・HCl、2価の硫酸・H2SO4、3価のクエン酸・C6H8O7だ。
ただし、濃度(0.1 mol/L)と体積は3つとも同じ。
まず、3つのビーカーにフェノールフタレイン溶液を加える。
フェノールフタレイン溶液は、酸性には反応しないから無色のままだ。
ここに、3種類の酸と同じ濃度(0.1 mol/L)で、少しだけ量の多い水酸化ナトリウム水溶液・NaOH(1価の塩基)を加えていくと、
塩酸・HClのビーカーだけ、溶液の色が赤色になった。
濃度と体積が同じだったら、1価の酸である塩酸・HClが出すことのできる水素イオン・H+の数は、1価の塩基である水酸化ナトリウム・NaOHが出すことのできる水酸化物イオン・OH−の数と釣り合って打ち消し合う。
この実験では、水酸化ナトリウム・NaOHの量を少しだけ多くしたので、水酸化物イオン・OH−の数が多くなって水溶液が塩基性になり、フェノールフタレイン溶液が赤色に変わったんだ。
続いて、無色のままの硫酸・H2SO4と、クエン酸・C6H8O7に、先ほどと同じ量の水酸化ナトリウム水溶液・NaOHを加える。
今度は、硫酸・H2SO4(のビーカーの溶液)が赤色になった。
クエン酸・C6H8O7のビーカーに、もう一度 水酸化ナトリウム水溶液・NaOHを加えると、(クエン酸のビーカーの溶液も)赤色になった。
この実験から、出すことのできる水素イオン・H+の数は、
硫酸・H2SO4が、塩酸・HClの2倍
クエン酸・C6H8O7は、塩酸・HClの3倍、だということが分かった。
価数は、クエン酸・C6H8O7(3価)の方が、塩酸・HCl(1価)より多い。
だけど、酸の強弱では、塩酸・HClが”強酸”、クエン酸・C6H8O7が”弱酸”だ。
今度は、塩酸・HClと、クエン酸・C6H8O7の電気伝導性を比べてみよう。
塩酸・HClが明るく光るのは、先ほども見た通り。
クエン酸・C6H8O7は、あまり明るくは光らない。クエン酸は電離度が小さいので、電気を運ぶイオンの数は少ない。
つまり、酸の価数は、酸の強弱とは関係がないということが分かったかな。
美樹 「さっき福くんが気にしていた、この段の区切りは、価数の違いだったんだ。塩酸・HClは1価の強酸、硫酸・H2SO4は2価の強酸、クエン酸・C6H8O7は3価の弱酸なんだ。」
福 「塩基の方も、考え方は同じだね。水酸化ナトリウム・NaOHは1価の強塩基、水酸化カルシウム・Ca(OH)2は2価の強塩基、水酸化アルミニウム・Al(OH)3は3価の弱塩基だ。」
美樹 「そう。塩基の価数は、“アレニウスの定義”によれば『出すことのできる水酸化物イオン・OH−の数』ということになるし、“ブレンステッドとローリーの定義”によれば『受け取ることのできる水素イオン・H+の数』ということになるんだ。」
福 「“ブレンステッドとローリーの定義”は、水溶液中に限定しなくても対応できる定義だったよね。」
美樹 「おっ!ちゃんと復習できているね。」
吉田先生 「これから、酸と塩基について学んでいく時に、酸と塩基の価数や強弱を使うことになるんだ。この先の学習で混乱しないように、しっかりと整理していこうね。」
福 「酸と塩基の“強弱” は、電離度、つまり水溶液中でどれだけ電離しているかで決まる。
酸と塩基の“価数” は、水素イオン・H+や水酸化物イオン・OH−をいくつ出すことができるかどうか。
価数が多くても電離度が小さければ弱酸だし、価数が小さくても電離度がほぼ1なら強酸。
“強弱”と“価数”は、別の分類方法。よし!ちゃんと覚えたぞ。」
それでは、次回もお楽しみに!
1:強い酸と弱い酸
水溶液中で、ほとんど電離している 酸・塩基を、強酸・強塩基といい、
一部しか電離していない 酸・塩基を、弱酸・弱塩基という。
2:電離度を考えよう!
酸と塩基の強弱は、電離度α=「溶解した酸・塩基の物質量」分の「電離した酸・塩基の物質量」で表す。
3:酸と塩基の価数
1分子が出すことのできる水素イオン・H+や水酸化物イオン・OH−の数を「価数」という。
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