Eテレ 毎週 火曜日 午前10:20〜10:40
※この番組は、前年度の再放送です。
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第6回
「化学基礎」では、自分たちの身の回りの物質や現象などに興味を持って、鈴木福さんと一緒に考察していきましょう!
福 「物質のことをとことん調べるのが化学・ケミストリー。いよいよ今回からは、物質を構成する基本的な粒子について見ていきます。
その粒子とは、『原子』です。原子は英語で“アトム(atom)”といいますが、ギリシア語の『それ以上分割できないもの』という意味の言葉が語源なんだとか。
でも実は、この原子の中にも、さらに小さな粒子の世界があるんだそうです。きょうは、原子の中の小さな世界がどうなっているのか、一緒に見ていきましょう!」
美樹 「早速、問題です。Q:この薄い金ぱくの断面には、金の原子がおよそ何個並んでいると思う?」
福 「こんなに薄いんだから…30個ぐらい?…でも、金の原子なんて見たことないから、大きさなんてわかんないよ。」
では、ヒントを出そう!
この金ぱくの断面の厚さは、約1万分の1 mm(0.0001 mm)。
金の原子の大きさは、0.3 nm。[nm(ナノメートル)=10億分の1 m]
(金ぱくの)断面に(金の原子を)まっすぐ並べたとしたら、答えは およそ350個!
福 「こんなペラペラの金ぱくの断面に、原子が350個も並んでいるなんてビックリだね!でも、あんまりイメージが思い浮かばないんだよね。」
例えば、「炭素の原子」が「ゴルフボール」くらいの大きさだとすると・・・?
「原子」と「ゴルフボール」の大きさの比は、
「ゴルフボール」と「地球」の大きさの比とほぼ同じになる。
つまり、「ゴルフボール」から見た「原子」の大きさは、
「地球」から見た「ゴルフボール」くらいの大きさになるというわけ。
福 「やっぱり原子って相当、小さいんだね。」
美樹 「計算してみると、ゴルフボールは、炭素原子の大きさの約3億倍にもなるんだ。」
福 「原子って、本当にものすごく小さいんだね。人間の目ではとても見ることのできない、小さな世界。そんな原子の姿って、見ること、できるのかな!?」
原子の大きさは、きわめて小さいナノの世界。
(国立研究開発法人 物質・材料研究機構には)それを見るための、最新鋭の装置がある。
走査型トンネル顕微鏡「STM」。
これはSTMで原子を見るために使う金属の針、「探針」。
顕微鏡でくわしく見てみると、探針は細長く伸びている。
主幹研究員 鷺坂 恵介さん「(探針の)先端は原子1個分の細さまで尖っています。」
早速、STMで銀の原子を見てみよう!
探針の先を銀の表面ギリギリのところまで近づける。その距離は約1 nm。
電圧をかけると、探針の先から銀の表面に向かって「トンネル電流」と呼ばれる、わずかな電流が流れる。
この電流が常に一定になるよう、距離を制御しながら銀の表面をなぞっていくと、原子1個1個の間隔や並び方がわかる。
これが、STMで見えた銀の原子。規則正しくびっしりと並んでいる。
原子の大きさは約0.3 nm、金の原子とほぼ同じ(大きさ)だ。
一方、ケイ素(シリコン)の表面は、ひし形で囲まれた原子の配置が繰り返された構造をしている。
原子の種類によって、その並び方や間隔に違いがあることも、STMで見るとよくわかる。
さまざまな原子がどんな構造をしているか丹念に調べれば、物質の性質を解き明かすことができる。
鷺坂さん 「このような地道な努力が、いままでにない、まったく新しい材料の発見につながることがあるのです。」
また、STM(走査型トンネル顕微鏡)は(原子を)見るだけではなく、原子を動かすこともできるんだ。
銀の原子を実際に動かしてみる。
並び方を変えて、その時、物質の性質がどう変わるか調べることもできる。
原子を動かす技術は、将来、新しい物質を作り出すための開発にも役立つと期待されているんだ。
福 「人間の目には見えないナノの世界、原子が見えるなんてビックリ!STMってすごいね!」
美樹 「すごいよね。最先端の技術は、原子の、これまでは目に見えなかった世界を、見えるようにするだけではなくて、操作することもできるんだ。これこそが化学の力!」
STM(走査型トンネル顕微鏡)で原子の研究に取り組む、(主任研究員)吉澤 俊介さん。吉澤さんが注目している物質がある。
非常に低い温度に冷却すると電気抵抗がなくなる「超伝導物質」。
(低温の時に)電気を流すと、(電気が)ずっと流れ続けるという特徴をもつ物質だ。
(超電導物質は)低温の状態では「ピン止め効果」によって、宙に浮き上がらせた強力な磁石を固定させる性質も現れる。
この「超伝導物質」の研究は、時速500kmを超えるスピードで走る「リニアモーターカー」の技術にも生かされている。
しかし、超伝導物質の多くは、−269℃の液体ヘリウムなどで冷却しなければ、その現象は起こらない。
実用化を進めるには、なぜ超伝導現象が起こるのか、そのしくみを原子レベルで解き明かす必要がある。
これは、吉澤さんが調べている、超伝導現象を起こす物質「インジウム」の表面画像。(左写真)
その断面をくわしく観察すると、インジウムは原子2層という、極めて薄い状態でも超伝導状態になる珍しい物質だとわかった。
なぜそんなに薄い状態で超伝導になるのか、その仕組みを解明したいと、吉澤さんは日夜、研究を続けている。
吉澤さん 「リニアモーターカーがもっと簡単に作れるようになったり、20年後 30年後の量子コンピューターの時代に役に立つようなコンピューター素子が、原子1層とかの(極めて薄い状態の)超伝導体の中から(コンピューター素子が)見つかるかもしれないと思っています。」
福 「原子レベルの研究って、ぼくらの未来ともつながっているんだね。」
美樹 「うん。ほかにも、目に見えない原子とか分子の姿をとらえるために、さまざまな技術が開発されていて、科学者たちの地道な努力が続けられているんだ。」
福 「そうやって物質の秘密が解き明かされていくんだね。でも、原子とかって本当にあるのか、まだ実感がわかないんだよね。」
物質が小さな粒子でできていると実感するための実験にチャレンジしよう!
使うのは、同じ量(50 mL)の水とエタノールが入った2つのメスシリンダー。
美樹 「実験の前に、福くんに質問。Q:水50 mLとエタノール50 mLを混ぜると、体積は何mLになるでしょう?」
福 「50+50=100 mLになるんじゃないの?でも、それじゃ当たり前すぎるか…」
エタノール・50 mL に 水・50 mLを加えると…
福 「あれ!?97 mLと98 mLの間くらいだね!どうして?」
美樹 「どうして50 mLと50 mLを足した100 mLにならないのか、何でだと思う?」
福 「物質の中の粒子と関係があるのかな…」
美樹 「じゃあ今度は同じことを、大きなガラス玉と小さなビーズ玉とでやってみよう。」
同じ50の目盛りまで入った、大きなガラス玉と小さなビーズ玉。
ガラス玉のほうにビーズ玉を入れると…やはり100にはならない。ということは!?
福 「わかった!さっきの水とエタノールも、こんなふうに合わせたときの体積が減ってしまったってことかな。」
美樹 「結合のこととかを詳しく説明するのはちょっと難しいんだけど、水とエタノールの粒子の大きさが、混ぜ合わせたときの体積の違いにつながるというのも理由のひとつ。つまり、物質は小さな小さな粒子からできているってこと!」
福 「なるほどね。でも、STMもなかった時代に、どうやって原子があるって突き止めたんだろう?」
(化学基礎・監修講師) 貝谷先生 「およそ200年前、物質とは何かを真剣に考えていた研究者が、イギリスの化学者 ドルトンでした。」
「気体が水に溶けるのは、水を構成する粒子の隙間に、気体の粒子がはまることではないか?」と考えたドルトン。
「すべての物質は、原子という実体のある粒子からできていて、その原子は質量によって区別される」といった「原子説」を唱えたんだ。
貝谷先生 「ドルトンはきちょうめんな性格で、観察や実験を必ず自分で行うことで、近代化学の基礎を切り開いていったんです。」
福 「目に見えない世界を想像する、そして自分で実際に確かめてみる行動力、すごいね。」
美樹 「いまでは、原子はさらに小さな粒子からできているってことがわかっているんだ。さぁ、原子の中はどんなふうになっていると思う?」
福 「確か、原子の中心にもっと小さい粒子があったんだよね。」
「ヘリウム・He」の原子で、その構造をチェックしよう!
真ん中に、陽子と中性子が2つずつある。これが「原子核」。
陽子は正(+)の電荷をもつ。
原子全体では電気的に中性なので、「原子核」の周囲を取り巻く 負(−)の電荷をもつ電子は2つ。
これが、原子の基本的な構造となる。
福 「原子の中に、さらにもっと小さな世界が広がっているんだね。」
福 「次はこの小さいビーズ玉が、何か関係あるの?」
美樹 「その直径2 mmのビーズ玉を、『原子核』と考えてみてほしいんだ。」
福 「わかった。この小さいビーズ玉が『原子核』だね。」
原子核の大きさが直径2 mmのビーズ玉だとすると、原子全体はドーム球場ほどの大きさとなる。原子核はとても小さいんだ。
原子の中心にある原子核を構成するのは、陽子と中性子。その質量は ほぼ等しい。
一方、原子核の周囲を取り巻く電子の質量は、陽子や中性子の質量を1とすると、約1840分の1と小さい。
つまり、原子の質量の大部分を占めるのは、陽子と中性子。
陽子の数と中性子の数の和を「質量数」というんだ。
福 「原子をドーム球場だとしたら、原子核はビーズ玉くらい(の大きさ)しかないのに、原子の質量の大部分を占めているってことになるよね?!」
美樹 「うん。原子の質量はほとんどが原子核の中にある陽子と中性子の質量を足したもの、だからね。陽子の数は、原子の種類ごとに決まっていて、それが原子番号っていうんだ!このことを踏まえたうえで、もうひとつ考えてみよう!」
美樹 「水素の原子で見ていくよ!『水素』は陽子が1個で、中性子はない。
でも、陽子が1個なのは同じなんだけど、中性子を1個もつ『重水素』っていう水素もあるんだ。」
福 「『水素』と『重水素』では、中性子の数が違うってことは、質量も違ってくるんじゃないかな?」
早速、実験しよう!
まずは、「水素」を含む 水と、「重水素」を含む 重水、それぞれ氷を作って重さをくらべてみる。
できた氷を普通の水に入れてみると、水で作った氷は浮かぶ。
一方、重水で作った氷は沈んだ。
氷の状態では、「重水素」を多く含む 重水の方が重いとわかった。
今度は、「水素」と「重水素」の重さ(質量)をくらべよう。
使うのは、水素を発生するための リチウム。
水と重水それぞれにリチウムを入れて反応させ、「水素」と「重水素」を取り出す。
ポリ袋がいっぱいになった状態で重さをくらべてみると、(天秤が)やや右(重水素の方)に傾いた。
「水素」よりも、「重水素」の方が重いと確かめることができた。
最後に、「水素」と「重水素」の性質に違いはあるかチェックしよう!
水と重水にリチウムを入れて発生させた気体を、試験管に閉じ込める。
(試験管に入った気体)両方に火をつけると、どちらも燃えた。
ということは、水素と重水素はほぼ同じ性質だとわかる。
このように、同じ原子でも中性子の数が異なる原子を、互いに「同位体(アイソトープ)」というんだ。
福 「水素と重水素は、中性子の数が違うから質量数も違う『同位体』。でも、性質は、ほぼ一緒ってことだね。」
美樹 「うん。実は、水素の同位体は重水素のほかに、もうひとつあるんだ。
水素の同位体、もうひとつは、陽子が1個で中性子を2個もつ『三重水素(トリチウム)』いうんだ。」
福 「水素・1H、重水素・2H、三重水素(トリチウム)・3H、どのくらいの割合で存在するんだろう?」
水素の3つの同位体が存在する割合は、圧倒的に水素が占めている。
重水素(の存在比)は、0.001〜0.028%ほど。
さらに、極めて微量に存在するのが、三重水素(トリチウム)。
こうした同位体の存在比は、地球上では、ほぼ一定になる。
福 「同位体って、水素だけじゃなく、ほかの元素でもあるのかな?」
美樹 「福くん、同位体にも興味をもってくれたんだね!化学が大好きになる5秒前って感じ!?」
福 「いや、まだそこまでは…」
それでは、次回もお楽しみに!
1:原子の大きさ
原子は極めて小さいナノの世界。
STM(走査型トンネル顕微鏡)を使った原子レベルの研究は、新しい物質の開発にもつながっている。
2:原子の構造と質量
原子の中心は、陽子と中性子で構成される「原子核」、その周りを電子が取り巻いている。
3:同位体
同じ原子でも中性子の数が異なるために質量数も異なる原子を、互いに「同位体」という。
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