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Eテレ 毎週 金曜日 午後2:40〜3:00
※この番組は、前年度の再放送です。

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地理

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今回の学習

第12回 現代世界の系統地理的考察
【資源と産業】編

世界の林業・水産業を見てみよう

  • 地理監修:埼玉県立大宮中央高等学校教諭 仲田莉果
学習ポイント学習ポイント

世界の林業・水産業を見てみよう

  • 籠谷さくらさん
  • 石原良純さん

ここは、「フィルドストン研究所」。
新人所員の籠谷(こもりや)さくらさんと所長の石原良純さんが、花粉症に悩んでいるようです。

所長 「限られた資源をむだにするんじゃないよ。ティッシュ1枚にも、木が必要なんだよ。」

  • 日本は森も海も広いのだから、国産の木材や魚をもっと増やすことはできない?

「日本は森も海も広いのだから、国産の木材や魚をもっと増やすことはできない?」
これが今回の依頼です。

さくら 「日本は、国土面積では世界で第61位なんですが、森林面積は第23位、海の広さでは、なんと世界第6位なんです。」

  • 排他的経済水域
  • 木材と水産物の輸入国

所長 「この場合の海の広さは、魚や海底の資源などを自由に取ってよいとされている『排他的経済水域』の面積のことだ。」

さくら 「木も魚もたくさん取れてもいいはずなんですけど、どちらも輸入国の上位にランクインしているんです。」

所長 「木材も魚も、数十年前までは、国産品がほぼ100%だったが、今は“コスト”という高い壁がある。どうしてこういう状況になってしまったのかを探ることも、地理の大切な役割のひとつだ。」

ではまず、木材の生産現場を見てみましょう!

世界の林業と日本の林業
  • カナダ西部のアルバータ州

木材輸出量世界第2位のカナダ。
西部のアルバータ州には、種類のそろった針葉樹林が広がっています。
そのうちの一部が森林管理エリアとなっていて、毎年一定の面積を定めて伐採を行っています。

  • フェラーバンチャー
  • スキッダー
  • スキッダー プロセッサー

この森で活躍するのは、巨大な3台の“ウルトラ重機”。

まず、1時間に120本もの木を切ることができるというフェラーバンチャー(左図)。
アームの先には、1分間に2000回転するカッターが付いていて、あっという間に木を切り倒して行きます。
続いてやってきたのが、スキッダー(中図)。
巨大な爪で倒れた木をまとめて抱え込み、森の奥から運んできます。
そして、最後の仕上げをするのが、プロセッサー(右図)。
余分な枝葉をそぎ落とし、トラックに積みやすいように、同じ長さで切りそろえます。

この森から切り出された木材は、近くのパルプ工場に運ばれて紙の原料となり、北米や日本の製紙メーカーに出荷されていきます。

  • 熟練の技術を要する
  • 熟練の技術を要する 重機も小型

カナダの森林がほぼ平地にあるのに対して、日本の森林は、多くが山地に存在しています。
木の手入れや伐採などを、険しい斜面で行わなければならないので、熟練の技術を要します。
もちろん、重機も使われていますが、カナダの物と比べるとかなり小型。
斜面が多いため、使えない場合もあります。
木材を運び出すにも技術や労力が必要になるため、コストが高くなってしまうのです。

日本の林業の現状と今後
  • 日本の林業の悪循環

さくら 「大規模にできる国とは、やっぱりコストの面で勝負にならないんですね…。」

所長 「そうだな。もうからないから、後継者が育たない。育たないから高齢化が進む。すると、森の管理がままならなくて、いい木が出荷できなくなるから、ますますもうからない。こういう悪循環に陥ってしまっていて、日本の林業は危機的な状況にあると言って過言ではない。」

  • 日本の木材(用材)供給量と自給率の推移1

では、日本の木材の供給量のグラフを見てみましょう。
青い部分が国内産、緑の部分が輸入材です。
1960年までは、ほぼ日本産が100%になっています。

所長 「時あたかも“住宅建築ブーム”なんだ。日本の木材だけじゃ足りないから、徐々に輸入木材が入ってくる。」

赤いグラフは、日本の木材の自給率のグラフです。
1964年に木材輸入が完全自由化されると、あっという間に自給率は50%を切ってしまい、住宅建築ブームが終わっても、回復しませんでした。

所長 「木を切り過ぎてしまったこともあるし、また、やっぱり安い輸入木材にはかなわなかったんだな。」

  • 日本の木材(用材)供給量と自給率の推移2

でも、ここ数年は変化の兆しが見られ、2016年には30%を超えています。

所長 「森林が回復してきたこと、国産木材の生産コストも改善されてきたこと、そして、バイオマスの燃料としても使われるようになったんだ。ただ、国産木材の需要が増加したとはいえ、まだまだ日本の林業が厳しい状況にあることは、間違いない。」

では、水産業の方はどうなのでしょうか?

所長 「水産業も、やはり1950年頃には自給率が100%を超えていたんだが、現在は60%ほどになっている。その背景には、2つの大きな出来事があったんだよ。」

日本の水産業と世界の水産業
  • 遠洋漁業
  • 漁業生産量の推移

1960年代前半、日本の水産業は活況を呈していました。
駿河湾西部のほぼ中央にある焼津港は、国内有数の「遠洋漁業」が盛んな漁港でした。

順調な伸びを示していた遠洋漁業に、1973年、第1の出来事が起こりました。
石油危機です。
燃料価格が高騰したため、長い航海をするとそれだけコストが高くなり、採算が取れなくなってしまったのです。

  • 排他的経済水域
  • 日本の遠洋漁業は徐々に衰退

2つめの出来事は、「排他的経済水域」の設定です。
領土から200海里(領海を含む)、およそ370キロメートル沖合いまでを、その国が管轄するという国際的なルールが決められました。
(※領海:領土から12海里)

その外側の「公海」では、どの国も自由に漁を行えますが、他の国の200海里内で漁を行おうとする場合、料金を支払うなど、その国の取り決めに従わなければなりません。
この排他的経済水域の規定を定めた「国連海洋法条約」が1994年に発効したことにより、日本の遠洋漁業は徐々に衰退していきました。
また、それをまかなうために、「沖合漁業」では乱獲が進み、水産資源が減少してしまいました。

この2つの出来事に加え、1980年代から安い水産物の輸入が増え始め、日本の漁獲量は減少の一途をたどっているのです。

  • 世界の漁業生産量の推移
  • サーモン

このような傾向は、日本だけではなく、EU諸国やアメリカなどの先進国においても見られます。
その結果、世界全体の漁業生産量は、1990年ごろから、ずっと横ばいが続いているのです。

その一方で、健康志向の高まりや経済発展の進む発展途上国での食生活の変化などによって、世界的な魚の需要は高まっています。
特に、中国では、サーモンをはじめ、魚介類の消費量が急増。
サーモンを扱う日本食レストランが、次々とオープンしています。

持続可能な水産業とは
  • 仲田莉果先生
  • 持続可能性

研究所のブレーン・仲田莉果先生は「今までの考え方ややり方にとらわれずに、いろいろなアイデアを取り入れていくことが必要になってくる」と言います。

仲田先生 「とても重要なのが、『サステナビリティ、持続可能性』という考え方です。持続可能性とは、“生物資源などを、長期的に維持できるような条件で利用すること”です。
水産業でいえば、魚を取り過ぎてしまって、生息数が減って、さらには絶滅というようなことが起きないように配慮をしよう、ということです。具体的には、漁獲量を制限することなどが挙げられます。」

  • 世界の漁業・養殖業生産量の推移

そこで今、あらためて注目されているのが「養殖」
自然にあるものを取り続けるのではなくて、自分たちで増やして消費するということです。
先ほど見た、世界の漁獲量のグラフに養殖生産量を加えると、養殖がすごく増えていることがわかります。

仲田先生 「特に、近年は中国の生産量の伸びが大きく、その多くが川や湖などで行われる『内水面養殖業』です。」

日本も、昔から養殖の技術が高い国。
最近では、最先端のバイオテクノロジーを用いて、一歩進んだ養殖の研究が進んでいます。

持続可能な水産業と林業
  • 一般的な養殖
  • 完全養殖

2002年6月、近畿大学の水産研究所が、世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功したというニュースが流れました。

一般的な養殖の場合、海から取ってきた小さなマグロの稚魚を大きく育てます。
でも、これだと、海にいるマグロの数は減ってしまいます。

完全養殖では、養殖したマグロから卵をとり、ふ化させて大きく育てます。
このサイクルが出来上がれば、海からマグロを取ってくる必要がなくなるのです。

現在、近畿大学のマグロ生産量は、年間およそ4000匹。
レストランなどに出荷されているほか、海外への輸出も検討されています。

  • 吉崎悟朗教授
  • 精原細胞を使った実験

完全養殖のために卵を得るには、マグロのメスが必要ですが、そんな常識を覆すユニークな研究が進められています。
東京海洋大学の吉崎悟朗教授が研究しているのは、マグロのメスがいなくても卵を自在に作り出せる技術です。

これまでに成功しているのは、ニジマスのオスが持っている精原細胞(せいげんさいぼう)、精子になる細胞を使った実験。
これを、ヤマメに移植して育てると、成長したヤマメのオスの体内ではニジマスの精子が、そして、ヤマメのメスの中では、ニジマスの卵が作られました。
精原細胞が、卵に変化する力を持っていることが、世界で初めてわかったのです。
吉崎教授は、この技術を応用すれば、マグロの卵をサバに産ませることができると考えています。

養殖の方法に、大きな転換がもたらされる可能性が出てきました。

  • 長坂文人さん
  • 紙の原料

一方、林業において、持続可能性はどのように考えられているのでしょう。
さくら君がやってきたのは、いろいろな紙を作っている会社。
長坂文人さんにお話を伺います。

長坂さん「紙の原料は、木材だけではなく、実は回収された古紙のほうが多く使われています。」

現在、日本では、紙の原料の60%が古紙。
残りの40%が木材ですが、その内訳は、丸太から板や柱を取った残り、細かったり曲がっていたりして使い道がない木、一度家などに使われた廃材、そして、植林された木です。

  • 植林事業

長坂さん 「わが社では、世界中で植林事業を行っています。ブラジルをはじめ、7か国11地域で合計26万ヘクタール。これは、佐賀県の面積に相当します。」

さくら 「海外の植林は、順調に進んだんですか?」

長坂さん 「そうですね、苦労したことのほうが、多かったと思います。新たに植林する場所を決めるときは、十分な場所が確保できるかどうか、治安は大丈夫か、道路や鉄道、港のインフラ整備がしっかりしているかどうか、さまざまなことを検討します。」

  • 水辺の森林は生物多様性を保護するため保存
  • 保育園に遊具を設置

長坂さん 「そういう検討をして、とてもよい地域が見つかったとしても、その中で一番よい土地は食料の生産にあてられるので、なかなか植林としてはいい場所は使えません。また、生物多様性が高いなど、保護価値の高い森林は、そのまま残します。このため、十分な土地が確保できなかったり、期待したような木の生長がなかったりというような経験もしてきました。」

植林を行うには、その地域の住民と良い関係を築くことも大切なのだそうです。
川に頑丈な橋をかけたり、保育園に遊具を設置したり、住民の健康診断をする医師団を派遣したり、といった活動を、積極的に行ってきました。

長坂さん 「最初に言ったように、紙の原料の半分以上が古紙からできています。ひとりひとりが、貴重な資源である紙をリサイクルしていくことが、とても大切です。それこそが、今すぐにできる持続可能性への第一歩です。

  • 森林が荒廃

所長 「植林事業は、紙を作っている会社だけではなく、家とか家具を作ってる会社でもやっているんですか?」

仲田先生 「そうですね。その背景には、過去に対する反省があります。かつて、東南アジアの熱帯林を乱伐して生態系を破壊してしまったり、ロシアのタイガの樹木がなくなって地表が暖められ、永久凍土が溶けてしまったり、ということがあったんです。日本国内でも、高度経済成長期の住宅建築ブームで過伐採が進み、森林が荒廃しました。」

  • 森林の機能
  • 日本の優れた漁場や森林を高い技術力と新しいアイデアで活用

仲田先生 「特に、森はただ木材を得るためだけでなく、水を蓄えて調節する機能、土壌を保全する機能、二酸化炭素を吸収して酸素を供給する機能など、様々な機能を持っています。ですから、なくてはならないものなんです。木材も魚も、育てるにはたくさんの時間がかかります。だからこそ、持続可能な資源として管理していくことが大切なんです。」

所長 「どうだい、さくら君。見通しが明るくなってきたんじゃないかな?」

さくら 「森と海に恵まれた日本では、全国各地に優れた漁場や森林があります。日本の技術力を利用して新しいアイデアを生み出せば、きっと国産の木材や魚を増やすことができます。

仲田先生 「そうですね。そして、私たち自身も、国産の木材や魚を、積極的に生活に取り入れていくことが大切です。」

それでは次回もお楽しみに!

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