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Eテレ 毎週 金曜日 午後2:40〜3:00
※この番組は、前年度の再放送です。

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地理

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※この番組は、前年度の再放送です。

今回の学習

第11回 現代世界の系統地理的考察
【資源と産業】編

世界の農業を見てみよう

  • 地理監修:首都大学東京教授 菊地俊夫
学習ポイント学習ポイント

世界の農業を見てみよう

  • 籠谷さくらさん
  • 石原良純さん

ここは、フィルドストン研究所。
新人所員の籠谷(こもりや)さくらさんが、お昼ごはんを食べようとしていると、そこに所長の石原良純さんがやってきました。

所長 「こんな時間まで食事もせずに仕事に励んでいたとは。感心、感心!」

牛肉・小麦・コーンはどこから?
  • ステーキ
  • 牛肉の国内生産量と輸入量

所長 「そのステーキ、牛肉だね?一体、どこで生産されたものかな?」

牛肉は、オージービーフ。
オーストラリアのものでした。
牛肉の国内生産量と輸入量のグラフを見てみると、輸入品が多いことがわかります。

所長 「オージービーフだけでも、国産牛に迫る勢いだ。」

  • 小麦の国内生産量と輸入量
  • とうもろこしの国内生産量と輸入量

所長 「それから、パン。原料は小麦だね。国内の生産量は、全体の13%にしか過ぎないんだ。大半は、アメリカ、カナダから輸入されている。」

では、コーンポタージュのコーンはどうでしょうか?

所長 「国内生産量は、わずかなもの。ほとんどは輸入。アメリカからやって来てるんだな。日本人の食生活は、多くが輸入品で支えられている。」

  • 農産物の輸入が自由化されたら日本の農家は仕事がなくなる?

そこで、今回の依頼です。
「農産物の輸入が自由化されたら、日本の農家は仕事がなくなる?」

所長 「今、世界の貿易は、関税や数量制限をなくして、自由化しようというのが大きな流れだ。そうなった場合、農業にどんな影響が出るのかって、ニュースでもよく取り上げられているからな。」

さくら 「そもそも、どうして輸入がこんなに多いんですか?」

所長 「それを考えるには、地理の知識が役立つんだよ。まずは、アメリカで小麦が、オーストラリアで牛肉が、どのように生産されているか、調べてみよう。」

大規模・大量生産の農業
  • パルース丘陵
  • ジョセフ・アンダーソンさん

アメリカ合衆国北西部に位置するパルース丘陵。
農業大国アメリカでも屈指の肥沃(ひよく)な土壌を誇り、小麦や豆類の一大生産地となっています。
この地で、4代にわたって小麦農家を営んできたジョセフさんです。

  • コンバイン
  • トラクターからトラックへと小麦が受け渡される

およそ1800ヘクタール、
東京ドーム380個分もの広大な農地を耕し、小麦を収穫するために欠かせないのが、巨大コンバインです。(左図)
ヘッダと呼ばれる刈り取り部分は、長さおよそ13メートル。
小麦を刈り取り、脱穀から選別まで、自動で行います。

しばらくすると、コンバインの隣に巨大トラクターがやってきて、コンバインにたまった小麦を受け取ります。
そして、トラクターからトラックへと小麦が受け渡され、速やかに出荷されます(右図)。

このように、広大な土地で、大型の農業機械を利用して、小麦や飼料作物などを大規模に栽培する農業を「企業的穀物・畑作農業」といいます。

  • オーストラリア中北部の農場
  • ミック・ビービさん

ところ変わって、オーストラリア中北部のとある牧場。
広さは、2500平方キロメートル。
東京ドームがおよそ53470個も入るほどの大きさを、ひとつの家族で経営しています。
牧場主のミックさんは、牛の群れを移動させるために無線で連絡を取りつつ、自動車を使って追いかけます。

  • 飛行機が欠かせない
  • ロードトレイン

広い敷地を見回るためには、飛行機が欠かせません。
牛に異常はないか、柵が壊れていないかなどを注意深く観察しながら、1周およそ2時間のフライトです。

そして、牛を出荷するときに活躍するのが、「ロードトレイン」と呼ばれる、巨大なトラック。
全長50メートル、3両連結で、一度に180頭の牛を運ぶことができます。

このような、広い土地・機械化・大規模経営の牧畜を、「企業的牧畜」と呼んでいます。

農業の地域区分
  • 世界の農業地域

さくら 「“企業的”って、どういうことですか?」

所長 「ちょっと、これを見て(図)。アメリカの地理学者ダウエント・ホイットルセイが、世界各地で行われている農業を分類して、地図にしたものだ。これを作ったときに、“広い土地”で、“大きな資本”を投下して、“大型機械”などを用いて、“大規模に生産”することを、『企業的農業』と名付けたんだ。」

ところでこの地図、どこかで見た覚えはありませんか?

  • ケッペンの気候区分図と似ている

さくら 「ケッペンの気候区分!なんとなく、色分けが似ているように思えます。」

所長 「農業は、気温・降水量・土壌といった自然条件の制約を強く受けるものだから、植生をもとにしたケッペンの気候区分と似たような分布になるのは、当たり前といえば当たり前のことだな。」

さくら 「でも、これって、けっこう細かく分類されているんですね。」

所長 「そうだな。でも、大きなくくりとしては、3つに分けられるんだ。」

いろいろな農業
  • 焼畑農業、集約的稲作農業、放牧

各地に見られる「伝統的農業」のひとつ、「焼畑農業」
東南アジアやアフリカ中南部、ラテンアメリカなどで行われています。
森林や草原に火を入れて、その灰を肥料として作物を育てます。

伝統的農業に分類される農業は、ほかに「放牧」やアジアの「稲作」などがあります。
農業は、元々こうした自給的な形で始まり、長い間人々を養ってきたのです。

  • 園芸農業や地中海式農業

やがて、18世紀後半に「産業革命」が起こりました。
農産物は、都市に住む人々の食料として、また、工業原料として需要が増えていきました。
初めから販売を目的とした「商業的農業」が発達したのです。

オランダのチューリップ栽培に代表される「園芸農業」や、地中海沿岸で行われるブドウやオリーブなどの「地中海式農業」などがあります。

  • プランテーション農業、企業的牧畜、企業的穀物・畑作農業

そして、商業的農業をさらに推し進めたのが、「企業的農業」

南北アメリカ大陸やオーストラリア、アフリカをはじめとするヨーロッパの旧植民地などで広まったもので、「プランテーション農業」も、ここに含まれます。

現在の世界の農業は、機械の導入、大規模経営など、“企業的農業化”する傾向にあります。

日本の農業が進む道は?
  • オージービーフと国産牛の価格を比べる

企業的農業の最大のメリットは、生産コストを安く抑えることで、消費者に安い値段で作物を提供できるということです。
スーパーで買ってきた国産牛とオージービーフの値段を比べてみると、100グラムあたり国産牛は548円。
一方、オージービーフは、100グラムあたり198円です。

所長 「関税や輸送費などを上乗せしても、この安さなんだよね。それだけ、生産コストに差があるってことなんだ。依頼者が懸念するように、自由化して関税や数量制限がなくなったら、確かに日本の農家は大きなダメージを受けてしまうかもしれないな。」

  • 菊地俊夫先生
  • 農民1人あたりの耕地面積

日本では、企業的農業はできないのでしょうか?
研究所のブレーン・菊地俊夫先生に教えていただきましょう。

菊地先生 「企業的農業の大前提というのは、広い土地があるということです。しかし残念ながら、国土の狭い日本では、企業的農業を取り入れることは、非常に難しい状況です。」

いくつかの国について、農民1人あたりの耕地面積を比較したグラフを見てみましょう。(右図)
日本は、世界の平均より大きいものの、アメリカ合衆国は日本の18倍、オーストラリアは日本の28倍もあります。

では、どうすればよいのでしょうか?
「いろいろと手は考えられる」と、菊地先生。

菊地先生 「例えば、2つあります。ひとつは、IT技術を駆使して、さらに進んだ農業を行うということです。そしてもうひとつは、“大規模”とは違う、反対の“小規模”というメリットを生かして、農業で勝負するということです。」

IT技術で最先端農業
  • 輸出額は、日本の26倍
  • 最先端の農業ハウス

農産物輸出額世界第2位のオランダ。
日本と比べて、国土面積が10分の1、農地面積は半分以下、農家人口は20分の1なのに、輸出額はなんと26倍もあります。

オランダでは、今、巨大な農業施設が増えています。
そのひとつ、およそ14平方キロメートルの敷地に、いくつかの企業が共同で建てた最先端の農業ハウスです。

  • 人工繊維・自動で水やり・二酸化炭素濃度を維持
  • 仕事場はオフィスのパソコンの前

どこが最先端かというと、例えば土の代わりに使っているのは、人工繊維。
水やりは、全自動で行われます。
そして、ビニールの管から二酸化炭素を散布して、光合成が活発に行われる濃度にします。
これも、もちろん全自動です。

そのため、農家の方は、ふだん畑に行くことはほとんどなく、仕事場はオフィスのパソコンの前。
温度や湿度、二酸化炭素の濃度など、500項目以上のデータを集中管理して、ハウスの中が常に作物にとって理想的な環境になるように制御するのです。

  • フランク・フォン・クレーフェさん

フランクさん 「ITを使って、環境を自動でコントロールできるようになり、自分の理想どおりの栽培ができるようになりました。もう農業は、ITなしでは考えられません。」

小規模で消費者に身近な農業
  • 朝市

小規模で勝負する農業については、さくら君が調査に行きました。
訪れたのは、横浜市内の公園。
この公園では、地元で栽培された野菜などを販売する朝市が開かれています。

横浜は、農地面積も農家の数も、神奈川県で一番。
市内各所で開かれる朝市など「地産地消」の取り組みが積極的に行われています。
野菜を購入した人からは、「朝採れで、新鮮でいい」「全然農薬を使ってなくて、皮まで食べられる」「農家さんと、直接話ができるので、それがいいですね」といった声が。

  • お客さんからルバーブジャムを使ったケーキの差し入れ

農家の人にとっても、お客さんとの会話が励みになるそうです。
しかも、この日は特別うれしいことがありました。
以前、野菜を使ったジャムの作り方を教えたところ、お返しにと、ルバーブジャムを使ったケーキを差し入れてくださったそうです。
このような、生産者と消費者の距離の近さは、大規模経営ではなかなか見られないのではないでしょうか。

  • 小間一貴さん
  • 完熟トマト

朝市が終わった後、出店していた農家のひとり、小間一貴さんの農場を訪ねました。
お客さんに大評判だった、完熟トマト。

小間さん 「葉っぱからも根っこからも栄養をいっぱい吸って、甘みも、多少の酸味も、うま味もぎゅっと凝縮されています。」

小間さんは、この味をもっと多くの人に知ってもらいたいと考えています。

小間さん 「横浜の、たとえばブランドの野菜とかいうのをみんなで立ち上げて、横浜の農業を守って行きたい。10年、20年かけて実現していく。もしくは30年かもしれないし、長い目で、みんなで力を合わせないとできないことなので。」

日本の農業が進む道は?
  • 消費者と密接な関係を築いてニーズをくみとり品質の向上やブランド化につなげることができる

所長 「日本の農業にも、いろいろな形の未来が考えられるってことですね?」

菊地先生 「そうですね。小規模な農業が、消費者と非常に密接な関係にあることで、消費者のニーズをすぐにくみとりやすく、品質が高められるということがあります。そして、ブランド化して、そういったものを海外に輸出するという動きが出てきています。特に、イチゴやリンゴは、アジアの市場でも非常に高い評価を受けています。また、IT技術についても、日本政府がオランダを手本にして、積極的に後押ししようとしています。」

現代世界の農業の現状と課題
  • 多様化する消費者のニーズに応えるため、さまざまな農業の形があることが望ましい

菊地先生 「現在の世界の農業は、企業的農業が非常に重要な役割を担ってきました。そういった中で、アメリカ合衆国をはじめとするような特定の国々に食料生産が集中するというような問題が出てきています。」

例えば、気象災害や経済的な変動によって農産物の生産が減産になったり、あるいは農産物の価格が高騰するということになると、食料を輸入している国々は非常に大きな影響を受けることになります。

菊地先生 「一方で、消費者の好みも多様化してきていて、“安い食品を得たい”という人もいますし、もう一方で“高くてもいいから、安全でおいしくて、あるいは旬の食料を得たい”というようなニーズがあります。そういった多様なニーズに応えられるためにも、さまざまな形の農業があってよいと思います。」

  • 日本の農業にも可能性が秘められている

所長 「さくら君、一時はどうなるかと思ったけれども、どうやら依頼者にいい報告ができそうだな。」

さくら 「ITを使った最先端農業を導入する、あるいは、品質を高めてブランド化するといった方法をとれば、日本の農業にも可能性が秘められています!

菊地先生 「農業は、自然環境であったり、さまざまな環境に適応して、その場所、地域に適した食料生産が行われてきました。そういったことを踏まえながら、日々の生活、あるいは日々の食というものを考えてみるということが重要だと思います。」

それでは次回もお楽しみに!

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