NHK高校講座

 美術T

Eテレ 隔週 木曜日 午後2:20〜2:40
※この番組は、2021年度の新作です。

美術T

Eテレ 隔週 木曜日 午後2:20〜2:40
※この番組は、2021年度の新作です。

今回の学習

第5回

光と影

  • 美術監修:上野行一(元高知大学大学院教授)
学習ポイント学習ポイント

光と影

  • 加藤諒さん

今回のテーマは「光と影」。
それでは、加藤諒さんと一緒に学んでいきましょう!

ドラマチックに見える理由
  • レンブラント・ファン・レイン『夜警』

この絵にはたくさんの人が描かれていますが、どんな人たちを描いた絵だと思いますか?

諒さん 「着ている服とかが豪華なので、王族の人とかですかね?歴史上の人物とか?」

この人たちは、市民が結成した自警団。
真ん中にいる人が隊長で、その隣りにいる人が副隊長。
この絵は、17世紀に活躍したオランダの画家・レンブラントの作品。
警備に出動しようとする一瞬の動きや表情を切り取った、肖像画です。

この絵が物語の一場面のようにドラマチックに見えるのは、一瞬の動きをとらえているからだけではありません。
もう一つ、巧みに計算して効果をあげているものがあります。
それは、光。
光がスポットライトのように人物に当たることで、ドラマチックな臨場感をもたらしています。

光と影に注目
  • 手の影が服にかかっている
  • 太鼓の所に手の影がかかっている

諒さん 「たしかに、この光の使い方は舞台とかに似ている気がしますね。よく見ると、隊長の手の影が服にかかっていたり、太鼓の所に手の影がかかっていたり、すごく細かいところまで描かれていますね。」

今回のテーマ、「光と影」。
画家たちが、光と影をどのように捉えて描いてきたのか、「光と影」に注目して絵画を鑑賞していきましょう。

  • レンブラント・ファン・レイン『目をつぶされるサムソン』

レンブラントは、「光と影の魔術師」と言われるほど、光と影を駆使した作品を数多く残しています。
中でも、光と影を最も効果的に用いたと言われているのが、こちらの作品。
これは、旧約聖書の物語の一場面を描いた作品です。
襲われているのは、怪力男のサムソン。
暴虐をふるい、誰からも恐れられていました。
彼の力の源は、一度も切ったことがない髪の毛にありました。
サムソンは、その秘密を、熱をあげたデリラに打ち明けてしまいます。
そのため、眠っている間に髪を切られ、デリラの仲間たちに襲われてしまうのです。

光に注目してみましょう。
レンブラントは、どうして、このような光と影を用いたのでしょうか?

諒さん 「光をサムソンに当てることによって、鑑賞している人たちの視点を集中させることができたり、切った髪の毛のハサミにも光が当たっているから、鋭さとかが強調されている感じがしました。」

実は、この絵の「光と影」の効果を、実験を通して確かめようとした人たちがいます。

レンブラントの光と影の技法を探る
  • オランダ・アムステルダム
  • 光と影の演出を再現する実験

レンブラントが20年暮らし、アトリエを構えていたオランダ・アムステルダム。
この町で、レンブラントの光と影の演出を再現する実験が行われました。
衣装からヘアメイクまで、絵の登場人物を忠実に再現。
照明技術を駆使して、光の当て方をさまざまに変えることで、レンブラントの技法を探ろうというのです。
俳優たちに絵と同じ姿勢をとってもらいます。

  • 全体に均等に光を当てる

実験スタートです。
まずは、全体に均等に光を当てます。
レンブラントの絵と比べてみると…。

諒さん 「緊張感とか臨場感とかがあまりなくなってて、ドラマチックでもないですよね。」

  • 均等な光とレンブラントの絵の光

今度は、絵と同じような光を作ってみました。
表情に注目してみましょう。
サムソンを裏切って髪を切り落としたデリラ。
フラットな光から、レンブラントの絵の光に変えてみます。
比べてみると…。

諒さん 「均等な光の方だと感じなかった怖さとかあやしさとか、そういうのを感じます。じっと観察していると、サムソンを裏切って申し訳ないなっていう気持ちが出てきたりとか…。」

レンブラントは、光と影を巧みに使って、登場人物の感情まで表現しようとしたのかもしれませんね。

諒さん 「光を変えただけで、感情まで読み取れるようになるなんて、面白いですね!」

  • レンブラントライティング

ここでもう一度、レンブラントの『夜警』を鑑賞してみましょう。
光は、どんな風に人物に当たっているでしょうか?

諒さん 「サムソンの絵と同じように、斜め上ぐらいから光が当たっているように見えますね。」

この斜め上から当てる光は、のちに「レンブラントライティング」と呼ばれるようになりました。
今でも、映画やドラマの撮影現場でこの技が生きています。

作品を見る
  • オーギュスト・ルノワール『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会』

ここに集まっている人たちは、どんな人たち?

主役は誰?
どうして、そう思うの?

この5人は、それぞれ、誰を見ている?

どんなことを話しているんだろう?

あなたが、この絵の中にいたら、どこにいたい?

それは、なぜ?

日本の作品 光と影に注目
  • 菱川師宣『見返り美人図』

レンブラントが光と影を駆使していた時に、日本ではどんな絵が描かれていたのでしょうか。
こちらが、ちょうどレンブラントが活躍していた頃の作品。
江戸時代の前半、菱川師宣(ひしかわ もろのぶ)が描いた『見返り美人図』です。

諒さん 「よく見ると…、影がないですね。」

  • 歌川広重『東海道五十三次』

江戸時代後半の作品はどうでしょうか。
こちらは、浮世絵師・歌川広重(うたがわ ひろしげ)の『東海道五十三次(とうかいどうごじゅうさんつぎ)』。
日本橋の朝の風景を描いた作品です。

諒さん 「これは風景画だけど…、やっぱり影が描いてないですね。」

江戸時代の日本の画家たちは、レンブラントのように、光と影を意図的に描き表そうとする意識が、あまりなかったのです。

諒さん 「西洋画と日本画の違いが出ていて面白いですね。」

  • 葛飾応為『吉原格子先之図』

ただ、こんな作品もあります。

諒さん 「あっ、この絵には影がありますね!」

江戸時代に、光と影を描写した珍しい作品。
描いたのは、葛飾応為(かつしか おうい)という女性です。。
葛飾北斎の三女で、「江戸のレンブラント」とも呼ばれています。
遊女でにぎわう夜の吉原(よしわら)を描いています。

諒さん 「奥の方の女性たちがいる場所は、明るくて、華やかできれいなんですけど、手前で柵をのぞいている方々は、ちょっと暗い影のところにいて対照的というか。住む世界が違うのかなっていうのが伝わってきますね。」

  • 曽谷朝絵『Bathtub』

そこからおよそ200年。
現代の日本の作品を見てみましょう。

諒さん 「光にあふれてますね。光のゆらぎとか、空気感がすごく伝わってきます。」

  • 曽谷朝絵『Circles』

こちらの作品はどう思いますか?

諒さん 「きれい!なんかこう、雨が降ってきていて、波紋が重なっていて、あたたかみのある光が差し込んでいて、素敵な作品だと思います。」

光を表現するには?
  • 曽谷朝絵さん

この作品の作者、曽谷朝絵(そや あさえ)さん。
光と影の表現について、お話を伺います。

諒さん 「曽谷さんの作品は、光や空気がすごく伝わってきて、癒し効果があるというか。この絵の中に、自分もこう…、“お湯につかりたい”みたいな。」

曽谷さん 「嬉しいですね。絵は見るものだけど、そうじゃなくて全身で感じることができるような。いろいろな感覚が立ち上がってくるような装置みたいな絵、ものを作りたいなっていつも思っているんです。」

  • 絵の右上と右下を比較

諒さん 「光を表現するにあたって“ここに気をつけると、より光が輝く”みたいな手法ってあるんですか?」

曽谷さん 「絵画って物体じゃないですか。電気とかテレビの画面みたいに発光しているものではない。でも、そこに光を描いたり、発光しているように見せるためには、やっぱり影を描かないといけないというか。あるものよりも暗いものを描くことで、それが発光、光って見えるということをしているんですよね。
例えば、右下の明るいところ、白い四角って光のような気がするじゃないですか。でも右上のところと比べると、暗いじゃないですか。光は影であって、影は光であるということが言えますよね。
なんとなく自分では、影、一つ一つの影の中にダイヤモンドを埋めこむような。
影だからといって、ただ単に暗くするんじゃなくて、影の中に光とか色を感じるような、発見しながら描くような、そういった表現をしていますね。」

ルノワールは光をどう描いたのか?
  • オーギュスト・ルノワール『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会』
  • 緑や黄色を塗り始める

曽谷さんは、以前、ある作品を模写したことがあります。
ルノワールの「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」。
広場のダンスホールを描いた絵です。

19世紀半ば、チューブ式の絵の具が発明されたことで、画家たちは屋外で描くことができるようになりました。
ルノワールたち印象派の画家は、アトリエから外へ飛び出し、自然の光を作品にしていったのです。

曽谷さんは、作品の一部を模写することで、ルノワールの技法を探ることにしました。
まず、髪の毛や顔の下地に、緑や黄色を塗り始めます。
なぜ、緑や黄色なのでしょうか?

曽谷さん 「例えば髪の毛ひとつとっても、ブルーとか緑とか紫とかいろんな色を感じるんですよ。」

  • オリジナル
  • 模写

オリジナルをよく見ると、茶色の髪の中に、実は、さまざまな色があることがわかります。

曽谷さん 「これってどういうふうにできているかというと、茶色を塗ったあとに、違う色を入れていったのではなくて、最初からいろんな色を入れて、最後に茶色ぐらいの気持ちでやらないと、こういう複雑な感じにはならないんですよね。」

曽谷さんは、同じ場所にたくさんの色を重ねていきます。
茶色の髪の奥から、さまざまな色が見え隠れすることで、微妙な光の反射を表現するのです。
7日間かけて、模写は完成(画像・右)。
木漏れ日を浴びて踊る2人が、生き生きと描き出されました。

諒さん 「びっくりしました。髪の毛は茶色に見えていますが、実は緑とか黄色とかいろんな色が重なって茶色になっているとか。よく見ると、影の部分がブルーで描かれていたり、あと背中に木漏れ日が映っているところの…、光がいろんな色で描かれていますよね。」

曽谷さん 「そうですね。音楽が奏でられるように、画面全体で光と色とタッチが調和してひとつの曲を立ちあげているような、そんな絵だなと思いましたね。」

  • 曽谷朝絵『鳴る色』
  • 曽谷朝絵『宙(そら)』

曽谷さんは、絵画だけではなくインスタレーションなど、さまざまな手法で光と色彩を表現し続けています。

諒さん 「曽谷さんにとって、光をアートで表現することって、どういう意味があるんでしょうか?」

曽谷さん 「私たちはずっと光の中にいる、光と関わりながら生きているので、光というのは人間の認識の中にすごく入り込んでいるんですよね。気づかないうちに。
写真も光がないと撮れないですけど、実際に写真を撮って、素敵な光景とかをあとから見返すと、“あれ?こんなんじゃなかったな”って思うことってないですか?それってたぶん、私たちは見ることで世界を認識するというだけじゃなく、全身で感じていて、その混ざり合ったものが、私たちの頭の中で“こういうことを体験した”ってことになっているんですよね。」

諒さん 「写真の話、すごくわかります。やっぱり自分の目で見るのが一番かなって思いますもんね、そういうとき。」

曽谷さん 「そういうことを留めるために、絵はすごくいい媒体ですよね。変えられるじゃないですか。」

諒さん 「自分の記憶に近いものに…。」

曽谷さん 「全身で感じたものを呼び起こすようなものを作るために、光とか色彩を使っているんだと思います。」

  • 光と影に注目して鑑賞してみよう

諒さん 「改めて、作品を見るときに光と影ってすごく重要なんだなと思ったので、そこに注目してまた鑑賞したいなと思いました。あと、僕がやっているお芝居の世界でも、光と影で感情を表現できるというのを知ることができたので、やっている中ですごく助けられているんだなと改めて思いました。」


それでは次回もお楽しみに!

科目トップへ

制作・著作/NHK (Japan Broadcasting Corp.) このページに掲載の文章・写真および
動画の無断転載を禁じます。このページは受信料で制作しています。
NHKにおける個人情報保護について | NHK著作権保護 | NHKインターネットサービス利用規約