NHK高校講座

生物基礎

今回の学習

第23回

ホルモンによる調節 (2)
〜ホルモン分泌量の調節〜

  • 生物基礎監修:東京都立八王子東高等学校教諭 長尾 嘉崇
学習ポイント学習ポイント

ホルモンによる調節 (2) 〜ホルモン分泌量の調節〜

  • 高橋伸一郎さん
  • われわれの体には次の飢餓に備えるしくみがある

前回(第22回)に引き続き、内分泌学者の高橋 伸一郎(たかはし しんいちろう)さんにお話を伺います。


高橋さん 「おそらく我々の体は、ずっと今まで飢餓状態で……。基本的に飢餓に耐えられるようになっているので、余った糖や脂肪はどこかにためておいて、次の飢餓のために用意をするというしくみがあるのだと考えられます。脂肪肝になってしまうというのは、ある意味 臓器が連携して血糖値を下げるというホメオスタシスを保つための一つのしくみで、これは我々が飢餓に備えるためのひとつの方法だったと……。」

  • インスリン葉成長因子

私たちの体が、ずっと飢餓に耐えられるようになっている……というのは、どういうことなのでしょうか?


高橋さん 「私たちが研究しているホルモンの中で『インスリン様(よう)成長因子』というホルモンは……。」


インスリン様成長因子……ホルモンの1つなんですよね。
そのホルモンは、いったいどのようなはたらきをするのでしょうか?

  • インスリン葉成長因子
  • ホルモン濃度のコントロールが健康寿命に大切

高橋さん 「たくさん出ていれば、過成長。成長がすごく起こるので、大きくなりすぎてしまう。あるいは歳をとってしまうとガンになりやすくなるといわれています。」


インスリン様成長因子が多いと、成長しすぎてしまうんですね!


高橋さん 「一方、非常に少ないと、成長遅滞が起こる。背が低くなってしまうとか、糖尿病になったり、筋肉が落ちてしまったり。それから、アルツハイマーになったり、動脈硬化になったり。いわゆる老化が促進されてしまうということが知られています。一生にわたって、ある程度の濃度。高すぎない、低すぎない濃度に、ホルモン濃度をコントロールしておくというのが、健康寿命のために非常に重要だということがわかっています。」


多すぎても、少なすぎても、ダメなんですね。
しかも、一生にわたって!
どうやって調節されているのでしょうか?

ホルモン分泌量の調節
  • ホルモンは脳からコントロールされる
  • ホルモンのコントロールシステム

高橋さん 「脳から、いろいろなホルモンをコントロールするようなしくみがあるのではないかというふうに、今は考えられています。」


脳って、ホルモンのコントロールもするのですか?
司令塔なんですか?


高橋さん 「脳で、視床下部というところから脳下垂体、それから内分泌組織という、コントロールのシステムがあると考えられています。」

  • 内分泌組織

内分泌組織というのは、前回も出てきました。
ホルモンがつくられる組織ですよね。

脳の中の視床下部、脳下垂体とは、どのようなものなのでしょうか?

  • 視床下部から脳下垂体に指令
  • 体内の各内分泌細部がホルモンを出す

ホルモンの分泌量はどのように調節されるのでしょうか。

脳に視床下部という部分があります。
視床下部では、体内環境の変化を感知すると、脳下垂体に指令を出します。

視床下部から指令を受けると、脳下垂体は、体内の各場所にある内分泌細胞に作用するホルモンを放出します。
このホルモンを受け取った体内の各内分泌細胞は、ホルモンを出します。

視床下部が社長、脳下垂体は専務、内分泌細胞は社員のよう

このように、視床下部から脳下垂体、脳下垂体から内分泌細胞へと指令が伝わり、ホルモンの分泌量がコントロールされています。


視床下部が、いちばん偉い社長さん!
脳下垂体は専務さん、内分泌細胞は社員さんたちみたいですね!

どうやって社長さんから専務さんに連絡がいくのでしょうか?

神経分泌細胞は視床下部にある

神経分泌細胞は視床下部にあり、ホルモンを分泌します。

神経分泌細胞からのホルモンは脳下垂体前葉へ運ばれる

神経分泌細胞から分泌されたホルモンは、血液によって脳下垂体前葉に運ばれます。
脳下垂体前葉から、別の標的細胞に作用するホルモンが分泌されます。

  • 血液中にホルモンを分泌
  • バソプレシンは腎臓で水分の再吸収を促進

別の神経分泌細胞は脳下垂体後葉にまで延びていて、その末端から血液中にホルモンを分泌します。

このようにして分泌されるホルモンの1つが、バソプレシンです。
バソプレシンは血流によって腎臓に届くと、水分の再吸収を促進し、体液の量や濃度を調節するはたらきをします。


脳から遠く離れた腎臓で、ホルモンが作用するんですね。
遠く離れていても、ちゃんと手紙を受け取っているんですね!

でもよく考えると、社長さんの視床下部がすべてのホルモンをつくって、社員さんたちに号令をかければいいのではないでしょうか?

  • 単細胞生物
  • 多細胞生物

高橋さん 「我々の体(の細胞)が60兆個なければ、そんなに複雑にする必要はなかったんだと思うんですけれども。これだけの多細胞を一度に動かすためには、たくさんのホルモンを出さないといけない。そのためには小さいシグナルでどれだけ効率よく、たくさんのホルモンのシグナルに変えるかということが重要なので、こういうしくみが発達したのだと思います。」


そうでした!
単細胞だったら外の環境が変われば、シンプルに細胞の中も対応すればいいんですよね。
細胞がたくさんになってくると、それぞれの器官やそれぞれの細胞の役割があるから、その役割に合わせて指令を使い分けなければならないのですね!

そんなにたくさんの部署に、それぞれ違う内容の手紙を届けるなんて……まず、どうやってたくさんの手紙を書くのでしょうか?

  • 視床下部でつくられるホルモンは少ない
  • 最初の手紙は少ない

高橋さん 「視床下部では、非常に少ない量のホルモンしかつくられないと考えられています。脳からくる刺激で、非常に微小な電流。そのような刺激を視床下部に集めるので、そこの部分はかなり……電気信号なので、弱い信号なんですね。」


最初は、手紙の数は少ないんですか?
じゃあ、どうやって、どこで増えていくんでしょうか?


高橋さん 「それを元に、視床下部で非常に少量の、ナノグラム単位のホルモンをつくると考えられています。それが門脈を流れて、脳下垂体に行きます。」


ナノ!?……って、すごく小さいんですよね。

  • 手紙が増やされる
  • 手紙が末端まで届けられる

高橋さん 「脳下垂体がこれを受けて、マイクログラムオーダーの、1000倍ぐらいの濃度のホルモンをつくると考えられていまして。これが血中に出て、内部組織に至ると。」


マイクログラム、これも小さい!
でも、ナノの1000倍なんですね。


高橋さん 「内部組織がそれをまた受けて、今度はミリグラムオーダーのホルモンをつくって、体じゅうにばらまくと。そういう意味では階層性があって、小さいシグナルを強く増強していくという意味で、このシステムは非常に重要だと考えられています。」


1通だったものが10通に、その次は100通に……と、だんだんと手紙の量が増えていくということなんですね。

  • チロキシン

視床下部から内分泌細胞まで指令が届くしくみを見てみましょう。

甲状腺から分泌されるホルモンに、チロキシンというものがあります。
チロキシンには、全身の代謝を高めるはたらきがあります。

視床下部は、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンを分泌

視床下部は、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンを分泌します。

そのホルモンを受け取った脳下垂体前葉は、甲状腺刺激ホルモンを分泌します。

甲状腺刺激ホルモンを受け取った甲状腺は、チロキシンを分泌

このホルモンを受け取った甲状腺は、チロキシンを分泌します。

こうして、チロキシンが全身の細胞の代謝を促すのです。

増強機構ができている

高橋さん 「会社組織ですと、社長がたくさんいる会社というのはあまりないですよね。そこに部長がいて、係長がいて、社員がいる……みたいなしくみが、ある意味普通の会社ですけれども。この会社は、言ってしまうと増強機構ができているわけです。シグナルの増強が起こっている理由は、部長1人ではないので。社長は1人かもしれないけれど、副社長は数人。その下にまた部長がいて……というふうに人数をどんどん増やしていくことで、最後に社員に上の情報をたくさん伝えさせるということが可能になります。」


ホルモンが分泌されるしくみって、本当に会社みたいなんですね。
おもしろいですね〜!

  • 研究室の様子

高橋さんが研究されているのは、インスリン様成長因子……成長ホルモンでしたよね。
これは どのようなはたらきをするのでしょうか?


高橋さん 「動物の一生に非常に重要で。どういうしくみで外の環境に反応して、私たちの健康を維持しているのかというような研究をしています。」


成長に関係するホルモンって、何ですか?

  • GRH
  • IGF−1

高橋さん 「成長ホルモンというのは脳下垂体から出るホルモンで、視床下部でこれをコントロールしているのはGRH(成長ホルモン放出ホルモン)。このほかにも成長ホルモンをコントロールするホルモンはいくつかあるんですけれども。それに従って、脳下垂体で成長ホルモンがつくられることになります。この成長ホルモンが血中をまわって、いろいろな細胞にはたらいて、IGF−1(インスリン様成長因子1)というホルモンをつくることになって。これが、動物の成長、あるいは代謝をコントロールしていると考えられていまして。」

  • IDFがどうコントロールされているか研究

高橋さん 「私たちの研究室ではこのIGFというのがどうやって作用をコントロールされているか、あるいはうまく作用を調節することによって、健康な寿命を延伸できないかということを研究しています。」


インスリン様成長因子、IGFというホルモンは、健康で長生きすることに関係しているんですね!

  • 成長ホルモンの入っている血液をかけると軟骨が増殖する
  • 脳下垂体を取ってしまったラットの血液では軟骨は増殖しない

高橋さん 「成長ホルモンは、実は脳下垂体からつくられていると申し上げたんですけれども。そもそも脳下垂体があるときには、成長ホルモンが血液中に出ていますから、この血液を取ってきて軟骨にかけてやると、軟骨の増殖が起こります。」(左画像)


成長ホルモンが入っている血液を軟骨にかけると、軟骨が増えるということなんですね!


高橋さん 「脳下垂体は成長ホルモンを分泌していますので、脳下垂体を取ってしまうと、取ってしまったラットの血液を軟骨にかけてやってもグロスホルモンは出ていませんので、軟骨は成長しないことになります。」(右画像)


成長ホルモンが出ていないから、軟骨が成長できない……これもわかります。

  • 脳下垂体を除去したラットの血液に、試験管中で成長ホルモンを直接入れて軟骨にかけると?

高橋さん 「脳下垂体を除去したラットから取った血液に、試験管の中で成長ホルモンを直接入れて。その血液の中に成長ホルモンが入ったものを軟骨にかけてやりますと……。」


脳下垂体がないから成長ホルモンがない血液に、人工的に成長ホルモンを入れる、ということですよね。
成長ホルモンがあるんだから、軟骨も成長しますよね?

  • 成長ホルモンが入った血液をかけても軟骨は成長しない
  • 成長ホルモンが直接、軟骨の成長を促進しているわけではない

高橋さん 「成長は起こらない、ということがわかっています。」


成長ホルモンが入った血液をかけて、軟骨は成長しなかったということは……??


高橋さん 「成長ホルモンが直接、軟骨の成長を促進しているわけではないということを示しています。」


軟骨を成長させているのは何なのですか?

  • 脳下垂体がないネズミに成長ホルモンを打ち、その血液を軟骨にかけると?
  • 成長ホルモンがどこかの細胞にはたらき軟骨を成長させる物質をつくっている

高橋さん 「脳下垂体がない動物に成長ホルモンを打ってやって、その血液を取ってきて、軟骨にかけますと……。」


脳下垂体がないから、体には成長ホルモンがありませんよね?
そこに成長ホルモンを注射して、そのあと血液を取ってくる、ということですよね。


高橋さん 「最初に脳下垂体があった状況と同じように、軟骨が成長するということがわかります。成長ホルモンがどこかの体の細胞にはたらいて、何か軟骨を成長させるような物質をつくっているということが、これで明らかとなります。」


成長ホルモンが、直接軟骨を成長させているわけではないということなんですね。

  • IGFが、成長ホルモンの成長活性を仲介している

高橋さん 「このホルモンを生成してみたら、それがIGFだったということで。IGFが、成長ホルモンの成長活性を仲介しているということがわかったわけです。」


高橋さんが研究されているインスリン様成長因子は、成長ホルモンが軟骨を成長させるのを手伝っているということなんですね。

  • フィードバック調節
  • 研究室の様子

高橋さん 「成長ホルモンがたくさん出ると、IGFというホルモンがあまりつくられなくなります。」


たくさん出ているはずなのに、減ってしまうのですか?


高橋さん 「本来ならば、IGF−1がたくさん出ているので、フィードバックループがはたらいて、グロスホルモンをあまり出さなくする。それによって成長を抑えるということが起こるはずなんですけれども。」


通常は、IGFが出ていると成長ホルモンが出なくなって、成長しないということですよね。


高橋さん 「成長ホルモンが出すぎている患者さんというのは、多くの場合、脳下垂体の良性腫瘍なんですね。そうすると、成長ホルモンをずっと出し続けているので、フィードバックループが効かないわけです。」


フィードバックって、何ですか?

視床下部でのはたらき

再び、チロキシンを例に見てみましょう。

まず、視床下部から放出ホルモンが分泌されます。
そのホルモンを受け取った脳下垂体前葉は、刺激ホルモンを分泌します。

甲状腺がチロキシンを分泌

これが甲状腺に作用すると、甲状腺はチロキシンを分泌します。

しかし、血液中のチロキシン濃度が高くなると視床下部や脳下垂体が感知し、ホルモンの分泌を抑制するようになります。

フィードバック

このように最終的に出る分泌物や効果が、一連の反応の前の段階に対して影響を及ぼすことを、フィードバックといいます。


ちょうどよくなるようにやりとりしているなんて、ホルモンの調節はうまくできていますね。

  • 次回もお楽しみに!

高橋さん
「実は、生物が生き残るためにいちばん大事なしくみというのが、人間社会の活動にも活かされているのではないかと考えることが多くて。
これから実際に、社会学の一部として『生物から学ぶ社会学』みたいなものもできる可能性があるのではないかというふうに思っています。」



私たちの社会は、私たちの体の中から学ぶことが、まだまだたくさんありそうですね!

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