NHK高校講座

生物基礎

今回の学習

第12回

DNAの正確な複製

  • 生物基礎監修:東京都立新宿高等学校指導教諭 渡邊 正治
学習ポイント学習ポイント

DNAの正確な複製

DNAが正確に複製される理由
  • 武村政春さん
  • 遺伝子の変異が起こる

DNAの正確な複製に関するお話をしてもらうのは、前回(第11回)に引き続き、DNA研究者の武村 政春(たけむら まさはる)さんです。


武村さん 「DNAとは遺伝子の本体として知られる物質です。生物も含めウイルスもそうですけれども、ほとんどの生物は自分の遺伝子を子や孫に伝えていくために、正確に複製していかないと、遺伝子の情報が変化してしまう。」


たとえばヒトの細胞で正確な複製が行われなかった場合、遺伝子の変異が起こることで、細胞がガン化してしまうことがあります。
また、生存に必須な遺伝子に変異が起こることにより、生きられなくなってしまうといった非常に重篤なことが起こる場合があるといいます。


武村さん 「したがって生物というのは、基本的にはその遺伝子を正確に子や孫に伝えるために複製していかなければならない。そのため、そのDNA複製というのはほぼ100%に近い確率で、正確にDNAを複製していくというふうに考えられます。」


ほぼ100%!
DNAって、とっても優秀なんですね!

手動で簡単にできるのか?
  • PCR
  • 遺伝子の増幅

武村さん、何をしているんですか?


武村さん 「これは手動でやるPCR(ポリメラーゼ・チェーン・リアクション)というもので、特定の遺伝子を増幅させるために世界的にも非常によくやられている手法の1つです。」


遺伝子の増幅……遺伝子をたくさん増やす、複製するということですか?
こんな簡単にできちゃうんですか!


武村さん 「材料さえ揃っていれば、あとこういうセットを用意するだけなので。あとは、やけどに気を付けなければいけませんが、簡単に増幅できるので誰でもできると思います。」


誰でもできるのですね!
そもそも、DNAの複製は、細胞の中でどんなふうに行われているんでしたっけ?

  • DNAは二重らせん構造をしている
  • DNAを構成するアデニン、チミン、グアニン、シトシン

生物の遺伝情報を持ったDNA。
2本の塩基の鎖がはしごのように並んで、らせん状になった構造をしています。

DNAを構成している塩基はアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類です。

  • DNAの模型
  • DNAが解けて2本に分かれる

模型を使ってDNAの複製の様子を見ていきましょう。

DNAの複製は、まず らせん状の鎖が解け、2本に分かれます。

  • プライマー(複製開始の足場)
  • 相補性の性質により新たなヌクレオチドの塩基がくっつく

分かれた鎖状の塩基の列に、プライマーと呼ばれる相補的なヌクレオチドの鎖がくっつき、足場が作られます。

  • はしご状の塩基配列が形成される
  • もう一方の鎖でも同じ合成が行われる

新たなヌクレオチドの塩基が、相補性によって対になる塩基にくっつき、はしご状の塩基配列を形成します。

一方の鎖でも同じ合成が行われ、塩基配列が同じ2つのDNAが複製されるのです。

  • はしご状の塩基配列が形成される
  • 細胞分裂時にDNAの複製・分配

どちらも、1本は元からあった塩基の鎖、もう1本は新しく合成された塩基の鎖です。
このようなDNAのでき方は、半保存的複製と呼ばれています。



確かに、まったく同じものができましたね!
DNAの複製と分配の回(第10回)で、細胞分裂するときに、DNAも同じものが複製・分配されるといっていましたよね!

ところで、武村さんが行っていた手で増幅するPCRとは、どういうしくみなんでしょうか?

  • 二重らせん構造のDNAを解く
  • プライマーをくっつける
  • DNAポリメラーゼがDNAを合成する

最初に、DNAの入った容器を96℃の湯につけます。
こうすることで、二重らせん構造のDNAを解きます。

その後、容器を55℃の湯につけます。


武村さん 「こうすることで、プライマーと呼ばれる、特異的にある遺伝子を増幅したいときに設計する、非常に短いDNAなんですが、そのプライマーを2本にほどけたDNAにくっつかせる意味合いがあります。」


次に、くっつかせたプライマーから、DNAポリメラーゼによってDNAを構成させます。
容器を72℃の湯につけることで、DNAポリメラーゼが、DNAを合成します。


武村さん 「普通、研究者がやるやり方は、だいたい25回から30回くらいです。この手動PCRの場合も、基本的に機械がやる代わりに人間がやるだけの話なので、しくみとしてはやっぱり25回から30回くらい。何回も何回も繰り返すということですね。」


DNAを複製するには、温度を変えることに意味があるんですね。

  • DNAの複製
  • DNAポリメラーゼ

そういえば、細胞が分裂するときは、DNAが入った核から命令されて分裂するんですよね。
DNAが自分と同じDNAを複製する場合は、自分の意思でするのでしょうか?


武村さん 「DNAは自発的に複製するわけではなくて、DNAを複製するための酵素が必要になってきます。それをDNAポリメラーゼというんですけども。すべての生物はこのDNAポリメラーゼを持っていて、そのDNAポリメラーゼでDNAを複製します。」


DNAポリメラーゼ……いったい何なんでしょう?

  • 鋳型の塩基と相補的なヌクレオチドをくっつける機能を持つもの
  • 損傷したDNAを修復する機能を持つもの
  • 損傷したDNAを修復する機能

DNAポリメラーゼは、DNAを複製したり、修復したりする酵素です。
DNAの鋳型の塩基と相補的なヌクレオチドをくっつける機能を持つものや、損傷したDNAを修復する機能を持つものなど、生物には複数の種類のDNAポリメラーゼが存在するといわれています。


ポリメラーゼって、複製にとって重要なんですね。
でも酵素って、決まった物質とだけ反応するんでしたよね。
どうやってDNAを並べているんでしょうか?

  • 右手モデル
  • ポリメラーゼがDNAを持つ
  • 手のひらドメイン、指ドメイン、親指ドメイン

DNAポリメラーゼの酵素活性は、「右手モデル」で説明されます。

たとえば、メスシリンダーをDNAだとします。
武村さんによると、ポリメラーゼは中画像のように、右手でDNAを持つような形で働いているといいます。
右手モデルではDNAの活性部位が「手のひらドメイン」、「指ドメイン」、「親指ドメイン」のように3つのドメイン(領域)に分かれています。

  • 指ドメインが折れ曲がるときヌクレオチドを鋳型に置いていく
  • しっくり来ている状態

武村さん 「手のひらと親指でDNAを受け止めて、新しいヌクレオチドはこのフィンガーを『おいでおいで』するような形で、1個ずつヌクレオチドを鋳型に置いていく。こういうモデルを右手モデルというふうに呼びます。ですからこのフィンガーの部分……指ドメインが、このDNAポリメラーゼの正確な複製には、非常に重要になってきます。」


フィンガーの部分が折れ曲がった状態のとき、DNAの鋳型がTのときには必ず、入り込んだヌクレオチドはAになっています。
そのTとAというペアと、DNAポリメラーゼの折れ曲がったフィンガーモデルとの立体構造が「しっくりきている状態」なのだといいます。


武村さん 「もしこのときに、鋳型がTなのにGが入ったりした場合には、うまく噛み合わないといいますか。したがって、基本的にちゃんとした塩基対が形成されるようになっています。」

  • 模型を組み立てる手がDNAポリメラーゼを表す

ということは、まさに模型を組み立てている手がDNAポリメラーゼを表している、という感じですね!

複製エラーを起こす要因
  • 複製エラーを起こす要因
  • DNAポリメラーゼ

そういえば、DNAの複製は、ほぼ100%正確といっていましたよね。
「ほぼ」ということは、ほんの少し失敗することも、あるということなんでしょうか。


DNAの複製に失敗する要因は2つあります。
1つは、DNAポリメラーゼそのものが間違いを犯すというような場合です。
もう1つは外部要因で、紫外線や放射線、発がん物質などがDNAを損傷させる場合があります。


武村さん 「基本的に10億分の1、10億回に1回というのは、おそらくDNAポリメラーゼの持っている性質としてそうなのですね。ところが私たちの体には、それをさらに補うしくみがあって。複製エラーを起こしたものを元に戻す、修復のしくみがきちんと備わっています。」


10億回に1回!
DNAポリメラーゼは、すごい職人さんなんですね!

複製エラーを補修する仕組み
  • 複製エラーを補修する仕組み

DNAポリメラーゼが自分自身をフォローする能力を持っており、まさに「消しゴム付き鉛筆」のようなものだといいます。


武村さん 「鉛筆で書いていくように、DNAポリメラーゼがDNAを複製していく。で、間違うと鉛筆をひっくり返して消しゴムで消す。DNAポリメラーゼも、ポリメラーゼ活性を持つ部分とは違う部分に消しゴムを持っていますので、ヒュッとこう代わってね。その消しゴム付きのエキソヌクレアーゼ活性の部分が消すわけです。消して、またポリメラーゼ活性のところが戻って、再び複製し始めると。まさに消しゴム付き鉛筆のような方法で、DNAポリメラーゼは活動しているということです。」


DNAポリメラーゼ自身が間違いに気づいて修復してくれるのですね!

外的要因のエラーを補修する仕組み
  • 紫外線や放射線
  • DNA損傷の外的要因

武村さん 「紫外線や放射線は外からやってくるもので、こちらの方が劇的にDNAを損傷しているので、おそらく外部要因の方がDNAの損傷の割合は高くなる原因だと思うんですけども。」


ポリメラーゼは、傷ついたDNAについては「これは何だろう」と止まってしまい、コピーできないといいます。
ところが細胞の中には、それを補ってくれるポリメラーゼがいるのだそうです。


武村さん 「それまで普通に複製してきたポリメラーゼを『俺がやるから』と、どかせて。自分が『はい、やりましたよ』『あとは任せました』とかで、また元のDNAポリメラーゼが複製をするという。DNAにどのような傷がついているかによって、ピンチヒッターがまた違うらしいんですね。そういう役割分担がすごく細かく決まっているらしいということが最近わかってきて。よくそんなしくみを我々は進化させてきたなという。そこがまた1つおもしろいところかなと、僕は思っています。」


DNAポリメラーゼのチームワークってすごい!
小さな細胞の中でそんなことが行われているなんて、本当におもしろい!

複製エラーのメリット
  • 多様性
  • 多様性
  • 多様性

正確に、正確に……と複製されていますが、失敗が起きたらどうなるのでしょうか?
逆に、メリットがあったりするのでしょうか?


武村さん 「メリットはやはり、多様性を生み出すということですね。共通祖先から何十億年にも渡って複製し続けて、今これだけの何百万種の生物になったということは、そのつど、さまざまなその変化がDNAに起こった。その、実は1つの大きな原因というのが、DNAポリメラーゼの複製エラーなのではないか。その複製エラーが、そのまま修復されないで残ると、突然変異になるんですね。そういったようなものが積み重なって、今これだけの多様性を持っているので。だからメリットとすれば、生物が進化する中で多様化してくる、その原因となる。という1つの大きなメリットがある。」

複数のDNAポリメラーゼ
  • ヒト
  • DNAポリメラーゼの存在

武村さん 「たとえば私たち人間のような、真核生物と呼ばれる生物は、実はDNAポリメラーゼを何種類も持っているんですね。その何種類ものDNAポリメラーゼを分担させて、我々は60億塩基対のDNAを複製していく。なぜこういう役割分担がなされているのかということに関しては、実はあまりわかってないんですね。非常にその謎が多いところで、一口にDNAを複製するというだけでも、いろいろなタンパク質がいろいろなことをしているという、すごく複雑な世界だということがわかってきています。そういうものを探求する楽しみというか。そういうものはありますね。」


DNAの正確な複製には欠かせない、DNAポリメラーゼの存在。
まだまだわかってないこともありそうで、なんだかワクワクしちゃいますね!

  • 次回もお楽しみに!

武村さん
「我々すべての生物は、いろいろな試行実験のたまものなんだと。
だから、いろいろなその多様性を生み出すことで、目には見えないけれどもそういう大自然の試行実験の、私たちは実験モデルなんじゃないかな、というふうに思ったこともありますね。

ですから、DNAの多様性っていうのはまさに、そういう意義があって。
それを結び付けるというか、それを生み出してきたDNA複製のこの……なんか絶妙なね。

正確なんだけど、100%正確じゃない部分。
そこが、その多様性をうまく生み出してきたんだなって。
だからDNAを複製するって実は100%完璧ではない、そういうちょっとそのいい加減さが内包されていることで、今の生物の世界を創り出してきたという。
だから非常に絶妙な、すごく神がかり的な、そういう反応かなと僕は思いますね。」



次回も、お楽しみに!

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