NHK高校講座

科学と人間生活

今回の学習

第7回 化学

グルメの神髄 〜食品の科学〜

  • 監修:開成学園中学・高等学校教諭 宮本一弘
学習ポイント学習ポイント

グルメの神髄 〜食品の科学〜

  • 木村多江さん
  • 中村嘉惟人さん

木村多江さんと中村嘉惟人さんがお届けする、科学と人間生活。
第7回目のテーマは、「グルメの神髄〜食品の科学〜」。

料理は最も身近な科学の1つです。
パンは発酵という化学反応を利用して作るということを、第6回で学びました。
今回用意したコーヒー、香りと色には化学反応が関わっています。

メイラード反応
  • 茶色い焦げ目
  • メイラード反応

お肉を焼くカイトさん。

カイト 「焦げ目がついてて、おいしそう!」

タエ 「これね、メイラード反応っていうの。」

肉を焼くと、茶色い焦げ目ができて、こうばしさやうまみが出ます。
これが「メイラード反応」です。
茶色い焦げ目はメラノイジンという物質。
肉が持っているタンパク質のアミノ酸と糖が、化学反応で結合することによって生まれます。
肉の場合、150℃くらいが反応のピーク。
180℃を超えると、黒く焦げ始めるので注意が必要です。

タエ 「メイラード反応はプロの料理人から、基本中の基本と言われているの。」

カイト 「トーストも焦げ目がついたほうがおいしく感じるけど、あれもメイラード反応なの?」

タエ 「そうよ、あのトーストの焦げ目のかりっとした食感も、おいしさの要素よね。そして、コーヒーのふくよかな香りと色も、メイラード反応のおかげなの。」

コーヒー豆のメイラード反応
  • 茶色いコーヒー豆
  • 生のコーヒー豆

茶色いコーヒー豆。
この色はメイラード反応によってできたものです。
実は、生のコーヒー豆はこんな色をしています。
メイラード反応は、「焙煎(ばいせん)」によって生じるのです。
焙煎とは生の豆に熱を加えること。
150℃を超えるくらいで、メイラード反応が始まります。
メイラード反応が起きることで、コーヒー豆の色は深みを増していきます。
そして、独特の香りが引き出されるのです。

タンパク質分解酵素
  • 筋切り

カイト 「メイラード反応たっぷりのソテーができたよ。」

タエ 「だいぶ固いよ。実はね、柔らかくする方法があるの。どうすればいいと思う?」

カイト 「食べやすいように、包丁でたくさん切れ目を入れておいたんだけどなあ。」

タエ 「それも正解。あらかじめ肉の筋を切るのを『筋切り』って言うんだけど、プロの調理人も使っているわよ。でもね、もっと科学的な方法を使ってほしいな。例えば、野菜とか果物の酵素を使うっていうのは、どう?私のおすすめはマイタケね。」

  • マイタケ
  • 肉と一緒にパックに入れる

タエ 「マイタケは、『タンパク質分解酵素』を持っているの。そこで、マイタケをみじん切りにして、肉と一緒にパックしちゃいます。このまま一晩漬け込むと、酵素の働きがタンパク質を溶かすので、お肉が柔らかくなるって寸法よ。」

酵素のチカラ
  • 酵素が働いた肉

タエ 「これが一晩マイタケに漬けて焼いたお肉よ。食べてみて。」

カイト 「柔らかい!すぐ切れる。こんなに柔らかい豚肉、初めて食べたかも。」

タエ 「マイタケのほかには、タマネギとか、パイナップル、それからキウイなんかのフルーツにもタンパク質分解酵素が多く含まれているの。どれも一晩お肉に漬けて料理するのが、効果的な使い方ね。」

カイト 「フルーツにも入ってるんだ。お肉も焼けたし、ご飯にしますか。」

タエ 「お肉だけ?それじゃ栄養のバランスが悪いでしょう。」

カイト 「栄養のバランスって何?」

タエ 「いろいろな栄養素をとったほうが、体にいいってこと。例えば、伝統的な和食の基本、『一汁三菜』は栄養のバランスがいい食事として知られているの。」

一汁三菜の栄養素
  • 本膳料理
  • 三大栄養素

ご飯とみそ汁に3品の料理を添えたものが「一汁三菜」
室町時代に生まれた、お客をもてなす「本膳料理」に由来しています。
ごはんや、麺、パンなどの炭水化物を中心とした「主食」。
肉や魚などのタンパク質や脂質を多く含む「主菜」。
これらが、「三大栄養素」です

  • 五大栄養素

野菜やきのこなどを主な材料とした、煮物やあえ物などの料理が「副菜」です。
「副菜」には、ビタミン、ミネラル(無機質)などが含まれます。
そして、みそ汁など、水分をとるための「汁物」。
三大栄養素に、ビタミン、ミネラル(無機質)を合わせて「五大栄養素」
一汁三菜は、健康的な食事スタイルだと世界からも注目されています。

  • ポークソテーに合わせる料理

タエ 「一汁三菜を意識して、本日のメインディッシュ、ポークソテーに合わせる料理、私がご用意いたしました。」

カイト 「ソテーにマイタケとニンジンの付け合わせ、パンと、サラダ、それからスープを作ってくれたんだね。彩りがよくて食欲そそるなあ。」

タエ 「必要な栄養素は、料理に5色をそろえると自然にそろうって言われているの。赤、黄色、青。青っていうのは緑ね。それから黒と白、全部で5色。」

カイト 「すると、お肉は黒なの?」

タエ 「お肉は焼く前の色の赤なの。タンパク質と脂質。黒は、付け合わせのマイタケで、ビタミン。」

カイト 「なるほど、白いパンは炭水化物。サラダは緑のビタミン。でも黄色がないね。」

タエ 「黄色は卵です。マヨネーズも作っちゃおう!」

マヨネーズを作ろう
  • マヨネーズの材料
  • 乳化

タエ 「マヨネーズの材料は、お酢、サラダ油、それに卵黄と、食塩よ。でもね、材料のお酢と油は、混ぜようとしても混ざらないの。そこで卵黄の登場。お酢と油、それぞれを結びつける成分を持っています。卵黄にお酢を入れ、少しずつ油を加えてかき混ぜると、ほら、お酢と油が混ざっていくでしょう。卵黄は、いわば、お酢と油を取りもつ仲人。この働きが『乳化』です。」

  • エスプーマ
  • 泡立てたミルク

カイト 「ミネラルが足りない分は、このミルクのカルシウムで補うことにするよ。」

タエ 「私はコーヒーにミルクを入れよっと。」

カイト 「なにそれ?」

タエ 「エスプーマっていうの。これね、いろんな食材を泡状のムースにする調理器具よ。こうやって使います(画像・右)。この白い泡、ミルクよ。最近、エスプーマを使った分子料理という新しい創作料理が世界中で話題になっているのよ。」

新しい創作料理 分子料理
  • 中村哲さん
  • 黄色い泡のムース

「分子料理」とは、これまでの料理を分子レベルで徹底的に解析した料理。
科学的な知識を生かした新しい調理法が、次々と開発されています。
その最先端を探るべく、都内にある料理学校にカイトさんが訪れました。
カイトさんと同年代の若者が、食のプロを目指し、最新の料理を学んでいます。
分子料理を教えている、講師の中村哲さんです。
取り出したのは、タエさんも使っていたエスプーマ。
あっという間に、黄色い泡のムースが出来上がりました(画像・右)。
いったい、どんな味がするのでしょうか?

カイト 「カレーだ!」

なんと、カレーを泡状にしたものでした。

  • キャビアに見えるコーヒー
  • コーヒーにアルギン酸ナトリウムを入れ塩化カルシウムを含んだ水に落とす

続いて現れたのはゼリーのような3つの料理。
キャビアに見えたのは、コーヒーでした。
実はこれ、液体を膜で包んだ料理。
食べると膜がはじけ、中の液体が口の中で広がります。
作り方は科学的。
コーヒーに、海藻などに含まれるアルギン酸ナトリウムを入れ、豆腐を固めるカルシウム成分を含んだ水に落とします。
すると、化学反応によって、液体の表面に膜ができるのです。

  • 温泉卵のような料理
  • トマトの液の中にパスタとバジルを入れた

同じ原理で作った、まるで温泉卵のような料理。
材料はヨーグルトをミルクで溶いた物。
膜で覆われた中身は液体のままです。
そして、これはトマトの液の中にパスタとバジルを入れました(画像・右)。

  • ココナツミルクをボール状のアイスにしたもの
  • 注射器で風船にココナツミルクを入れる

次に現れたのは、冷たいスイーツ。
ココナツミルクをボール状のアイスにしたものです。
使った道具はなんと、風船!
注射器でココナツミルクを入れます(画像・右)。

  • 液体窒素
  • マンゴーのシャーベット

続いて液体窒素の登場!
マイナス196℃以下の超低温です。
なんと、液体窒素の中で、風船を転がして中身を凍らせていきます。
風船をむくとボール状のアイスが完成、というわけです。
中に入っているのは、マンゴーのシャーベット(画像・右)。
普通のものよりきめ細かいサラサラ、パウダー状です。

  • 氷の結晶

その秘密は、マンゴー果汁を、エスプーマでフワフワの泡にし、液体窒素で凍らせたこと。
水の分子が並んでできた、氷の結晶です。
通常の凍らせ方をしたシャーベットに比べ、液体窒素のほうが細かい結晶になっています。

科学的な道具と知識を使って、新しい食感と驚きを楽しむのが、分子料理なんですね。

中村さん 「これから料理やろうとしているお子さんたちも、こういったところがきっかけになって、料理を楽しんでくれればいいなと思っております。」

真空低温料理
  • 真空低温料理

タエ 「この『分子料理』って、物理学者と一流シェフの交流から生まれたんだって。科学が料理を楽しむ調味料の1つになっているっていうのがまた、いいよね。」

カイト 「調理学校では、すごい肉の焼き方も教えてもらったんだ。それが、これです!お肉を真空パックする調理法なんだ。それを『真空低温料理』っていうんだって。」

  • カモのロースト
  • 通常のローストは200℃のオーブンへ

フレンチの定番、「カモのロースト」。
火加減が難しい料理と言われています。
カモのローストを真空低温料理で作り、通常の作り方と、火の通り方を比べてみましょう。
まずは同時に強火で焼き色をつけ始めました。ここまでは両者一緒です。
焼き色をつけはじめて2分後、通常のローストは200℃のオーブンへ(画像・右)。

  • 肉をパックに入れる
  • 熱の分布

ほぼ同時に真空低温料理は火から下ろし、十分に冷まします。
そして肉をパックに入れはじめました(画像・左)。
これを、真空パックにします。
真空パックした肉は、スチームオーブンで加熱します。
設定温度は58℃。
この温度が重要です。

熱の分布を、調理の工程で比較してみます。
通常のローストでは、加熱の中盤、白く見える周辺部分が、およそ70℃の高温になっています。
それに対し真空低温料理は、1度も高温になる部分がなく、その温度はほぼ50℃。熱が均等に伝わっています。
この温度の差が、味の違いを生むのです。

  • 筋繊維束と脂肪

肉は主に2つの組織でできています。
肉の筋が束になった「筋繊維束」と、その隙間にある「脂肪」です。
カモなどの肉は、およそ50℃の加熱で、まず脂肪が溶け出します。
これが、肉汁になります。
肉料理のジューシーさを醸し出す大切な成分です。
ところが、およそ60℃をこえると、固く縮まった筋繊維束の隙間から、肉汁がどんどん流れ出し、失われてしまいます。
それに比べ、真空低温料理は、肉の組織から肉汁が流出しにくい、最適な温度で調理されているのです。

タエ 「カモってちょっと固くなりがちなんだよね、それが難しいんだけど、これはすごいね。柔らかくてふわふわしているの。」

  • コーヒー

タエ 「さきほど作ったこのコーヒー。こうやって混ぜることで、味も食感もクリーミーになるんです。これが何か、みなさんはもうおわかりですね?そう、これも『乳化』なんです。」


それでは次回もお楽しみに!

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