NHK高校講座

科学と人間生活

今回の学習

第5回 生物

微生物との共生 〜ヒトの体と細菌〜

  • 監修:東京都立国分寺高等学校教諭 市石 博
学習ポイント学習ポイント

微生物との共生 〜ヒトの体と細菌〜

微生物との共生
  • 木村多江さん
  • 中村嘉惟人さん

木村多江さんと中村嘉惟人さんがお届けする、科学と人間生活。
第5回目のテーマは、「微生物との共生〜ヒトの体と細菌〜」。

「微生物」というのは、目に見えない生き物たちのことをいいます。
そのうちの一つが「細菌」です。
「細菌」というと、みんなまとめて「悪いバイキン」だと思っていませんか?
細菌には、悪い菌もあれば良い菌もあります。
私たちの体では、良い菌と悪い菌が絶妙なバランスで共存しているのです。

  • 手のひらの細菌
  • ブドウ球菌

  • 黄色ブドウ球菌
  • いろいろなものに触っている

カイトさんの「手のひらの細菌」を二日間培養したものを見てみましょう。

タエ 「例えば、この白いのは『ブドウ球菌』。ブドウ球菌はね、誰にでもいる細菌なの。病原性の細菌なんかの侵入を防いでくれる善玉菌。
そして、この黄色いのが『黄色ブドウ球菌』。黄色ブドウ球菌は『病原菌』といって増え過ぎると食中毒を引き起こす細菌だから、こっちの方は気をつけなきゃいけないの。
カイト、手を洗うとき、石鹸使ってなかったですよね?」

カイト 「いや…。」

タエ 「この菌の増え方からして、それがわかるもん。学校から家に帰るまで、何に触った?思い出してみて。」

カイト 「電車で吊り革につかまって、駅で買い物をするときにお金も触った。それからバスでスマホをいじって、マンションのエレベーターのボタンも押した。それで玄関を開けて、ただいまって…。」

タエ 「結構いろいろなものを触っているでしょう?細菌だらけの手でおにぎりなんか食べたら、食中毒を起こしちゃうかもしてないんだから。例えば、病原性大腸菌O157(おーいちごーなな)って聞いたことない?」

病原性大腸菌O157
  • O157
  • 食中毒発生菌数

  • サルモネラ、カンピロバクター
  • サルモネラもカンピロバクターも家畜のおなかの中にいる

1996年、全国で感染者が6500人を超える大規模な食中毒事件が起きました。
原因は「病原性大腸菌O157」です。
O157は、食べ物だけでなく、人から人へ、人の手を介して感染し、食中毒を引き起こします。
一般的に食中毒は10万個以上の細菌が原因で発症します。
でも、O157は感染力が強いため、細菌の数が少なくても発症するのです。

食中毒の原因になる細菌には、他にも「サルモネラ」「カンピロバクター」などがあります。
どちらも、O157と同じように細菌の数が少なくても食中毒を引き起こします。
サルモネラもカンピロバクターも、牛や豚、ニワトリなどの家畜のおなかの中にいる細菌です。
サルモネラやカンピロバクターに汚染された肉を十分に加熱せずに食べることで、ヒトに感染してしまうのです。

アクネ菌
  • アクネ菌
  • 拡大したアクネ菌

タエ 「細菌がいるのは手だけじゃないのよ。近頃、ニキビはどう?」

カイト 「今はないけど時々出るから、本当にやだ。ニキビも細菌が原因なの?」

タエ 「ニキビの原因は『アクネ菌』っていう細菌なの。」

顕微鏡でアクネ菌を見てみると…。

カイト 「ニキビがないのにアクネ菌がいるんだ?アクネ菌って丸くないんだ…。こんな菌、消えてしまえばいいのに!」


タエ 「アクネ菌は、たしかにニキビの原因にはなるんだけど、皮膚にとってはすごく大事な働きをしているのよ。例えば、黄色ブドウ球菌。黄色ブドウ球菌は、カイトの顔にも、わたしの顔にもいるんだけど、実はアクネ菌と絶妙なバランスで共存しているのよ。」

アクネ菌の役割
  • アクネ菌の入った二つの試験管
  • 24時間後の黄色ブドウ球菌の数

アクネ菌と黄色ブドウ球菌には、どのような関係があるのでしょうか。
2本の試験管には、それぞれアクネ菌が入っています(画像・左)。
左の方には、右よりも少ない量のアクネ菌。
アクネ菌の入った二つの試験管に、黄色ブドウ球菌を同じ数ずつ入れます。

24時間後、それぞれの試験管にいる黄色ブドウ球菌の数を調べます(画像・右)。
アクネ菌の少ない方には、黄色ブドウ球菌はたくさんいました。
一方、アクネ菌の多い方では、黄色ブドウ球菌はほとんどいませんでした。
培養した結果と比べてみると、黄色ブドウ球菌はアクネ菌が少ないと増え、アクネ菌が多いと減ることがわかります。

実は、アクネ菌は酸をつくることで、黄色ブドウ球菌などの細菌が増え過ぎないようにする働きがあるのです。

カイト 「アクネ菌が正義の味方、善玉菌でもあるだなんて知らなかったよ。」

多江 「だから強い消毒液なんか使ってアクネ菌をやっつけ過ぎないようにしないとね。
カイトのお腹の中にも細菌がたくさんいるって、知ってた?」

カイト 「知ってるよ。例えば、ビフィズス菌とか、乳酸菌とかでしょ?」

タエ 「ピンポン!どっちもお腹の調子をバランス良く整える、善玉菌で有名だもんね。ここで問題です!お腹の中には、はたして何種類くらいの細菌がいるでしょうか?」

カイト 「う〜ん…、50種類!」

タエ 「残念!1000種類!しかも、その数100兆個とも1000兆個ともいわれていて、そのたくさんの種類の細菌が、それぞれ色々な役割を持っていることが分かってきたの。」

腸内細菌
  • 食べ物の栄養を吸収する腸
  • 腸内細菌は大きく分類すると3種類

食べ物の栄養を吸収する腸の中では、たくさんの細菌が暮らしています。

「腸内細菌」を大きく分類すると、「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」の3種類になります。

善玉菌は、食べものの消化や吸収を助けるなど、良い働きをする細菌です。
悪玉菌は、体に悪い影響を与えると考えられている細菌です。
数が増え過ぎると病気を発症することがあります。
日和見菌とは、健康なときには問題がなくても、体が弱ったりすると悪玉菌と同じように体に悪い影響を与えてしまう菌です。

大人の場合、善玉菌が20%、悪玉菌が10%、日和見菌が70%くらいの割合が、健康的でバランスのとれた良い状態だといわれています。

腸内フローラ
  • ジェフリー・ゴードンさん
  • マウスの隔離装置

そんな腸内細菌たちと、腸内細菌の暮らす環境を含めて「腸内フローラ」といいます。
フローラとは、お花畑という意味です。
腸内フローラは私たちの健康にも大きな影響を与えているといわれています。
その一つが肥満です。

ジェフリー・ゴードンさんは、腸内細菌を研究する科学者です。
ゴードンさんは、腸内フローラと肥満との関係を調べるために、大胆な実験を行いました。

ゴードンさん 「これはマウスの隔離装置です(画像・右)。この中は、外の世界と完全に切り離されていて、細菌1匹たりとも入れない仕組みになっています。」

この装置を使って、完全な無菌状態で育てたマウスに、あることをして、特別なマウスを作りました。

  • 人間の腸内細菌を移植したマウス
  • 脂肪の量の変化

人間の腸内細菌を移植したマウスです(画像・左)。
このマウスのお腹には肥満のヒトの腸内細菌が入っています。

研究では、肥満の人と痩せている人の腸内細菌を取り出し、それぞれをマウスに移植します。
そして、餌や運動量などが同じ条件で育てます。
すると、驚きの結果が現れました。

脂肪の量の変化です(画像・右)。
痩せたヒトの菌を与えたマウスは変化なし。
ところが、肥満のヒトの腸内細菌を与えたマウスは、どんどん脂肪が増え、太ってしまったのです。

  • バクテロイデス

太ったマウスの腸内で少なくなっていたのは、「バクテロイデス」などの菌。
こうした菌が、肥満を防ぐ働きをしていたのです。

バクテロイデスなどの腸内細菌は、私たちが食べたものを分解し、それを栄養に生きています。
そのとき、腸内細菌はさまざまな物質を出します。
腸内細菌が出す物質が、私たちの体にとって重要な働きをしていることが分かってきました。

腸内フローラと肥満
  • 短鎖脂肪酸
  • 脂肪細胞が脂肪を取り込む

バクテロイデスが出すのは、「短鎖脂肪酸」
これが肥満を防ぎます。
肥満は、脂肪細胞が脂肪を取り込むことでおこります(画像・右)。
血管を流れる脂肪を取り込み続け、どんどん巨大化するため、太ってしまうのです。
バクテロイデスが出した短鎖脂肪酸は、腸から吸収され、血液中に入ります。
全身に張り巡らされた血管を通して、体のすみずみまで運ばれていきます。

  • 脂肪の取り込みが止まる
  • 腸内細菌が出す物質が数多く発見され始めている

短鎖脂肪酸が脂肪細胞に働きかけると、脂肪の取り込みが止まります(画像・左)。
余分な脂肪の蓄積を抑え、肥満を防ぐのです。

短鎖脂肪酸には、もうひとつ、別の役割があります。
筋肉などに作用し、脂肪を燃やす働きです。
脂肪の蓄積を減らし、消費を増やす。
全身のエネルギーのコントロールを腸内細菌が行っていたのです。

短鎖脂肪酸以外にも、腸内細菌が出す物質が数多く発見され始めています。
そうした物質がさまざまな効果をもたらすことが分かってきたのです(画像・右)。

腸内細菌と食物繊維
  • 食物繊維

カイト 「バクテロイデスを増やすには、どうしたらいいんだろう?」

タエ 「腸内細菌が大好きな食べ物は『食物繊維』なの。だから食物繊維をたくさん食べると腸内細菌が増えるといわれているの。野菜だと、ゴボウ、玉ねぎ、アスパラガスとか。豆類だと、大豆、納豆とか。」

食物繊維は、ヒトが体内で消化できない栄養素です。
かつては、消化吸収されることなく体の外に排出される不要物と思われていました。
それが腸内細菌にとって、とても大事な栄養分となることが分かってきたのです。

「でもね、近頃は食生活が変化して、食物繊維をとる機会が少なくなっていてね、そうすると腸内細菌のパワーが落ちちゃうんだって。」

カイト 「“健康にいいから食物繊維をたくさん食べなさい”って言われてもなんかピンとこないけど、“腸内細菌が元気に育つ”って言われたら、なんだか食べたくなってくるね。」

タエ 「それから、腸内細菌は肥満を防ぐだけじゃなくて、病気を治すのにも使われているの。」

便微生物移植
  • 女性
  • 腸内フローラを移植して治療

この女性は、腸の中の「ディフィシル菌」という菌だけが異常に増えてしまう病気に苦しんでいました。
全身の倦怠感や目まいに襲われ、中には死んでしまう人もいる病気です。
これまで特効薬のない病気でしたが、効果的な治療方法がみつかりました。
それが、「便微生物移植」です。
便微生物移植とは、健康なヒトの便を患者の腸に入れる治療法です。
健康なヒトの腸内フローラを全部、患者に移し替えてしまうのです。

腸内フローラを移植した2日後、すっかり体調が良くなりました。
アメリカの報告では、8割から9割の患者に効果があったと報告されています。
特効薬のなかった病気の治療で、腸内細菌が大きな役割を果たそうとしています。


多江 「まだまだ試験的な治療方法みたいだけどね。」

カイト 「これから腸内細菌のことがいろいろわかってくると、いろんな病気に苦しんでいる人が救われるかもね。」

タエ 「腸内細菌には、シワをなくす働きをするものがいるらしいですよ。気になる方は、ぜひ調べてみてくださいね。」


それでは、次回もお楽しみに!

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