第27回
「化学基礎」では、自分たちの身の回りの物質や現象などに興味を持って、鈴木福さんと一緒に考察していきましょう!
福 「前回(化学基礎「酸と塩基の強さ」の回)では、塩酸・HClのような強い酸は、ほとんどの分子が電離して、酢酸・CH3COOHのような弱い酸にくらべて『水素イオン・H+』がより多く存在していることがわかりました。
強い塩基の場合は、『水酸化物イオン・OH−』が多く存在していましたよね。
では、酸や塩基を水で薄めると、これらのイオンはどうなるのでしょうか?
そしてこのとき、酸性・塩基性の強弱は、どのような数値で表すことができるのでしょうか? どうやら『水素イオン濃度』が、カギを握っているようですよ!」
福 「レモンティーを飲もうと思ったんだけど、レモン果汁残ってない?」
美樹 「あのレモン果汁すごく酸っぱかったけど、水で薄めて全部飲んじゃったよ。あのpH(ピーエイチ)3くらいのレモン果汁!!」
福 「pHって、なんだっけ?」
美樹 「この間、酸と塩基の強さについて説明したよね。(化学基礎「酸と塩基の強さ」の回) 『酸の強さ』を決めているのは何?」
福 「水溶液中にどれだけ水素イオン・H+が存在しているか、だったよね。」
美樹 「その通り! では、Q:強い酸を水で薄めると、水素イオン濃度はどうなる?」
福 「それは簡単だよ。レモン果汁だって水で薄めていけば、だんだん酸っぱくなくなる。だから電離度が大きい酸でも、水を加えることで『水素イオンの濃度』が薄まるんじゃない?」
美樹 「pHは『水素イオン指数』といって、水溶液中の水素イオン濃度を表しているんだ。0から14で示されていて、真ん中の7が中性で、酸性が強くなるほど7より小さく、塩基性が強くなるほど7より大きくなるんだ。」
福 「なんで、水素イオン濃度で塩基の強弱までわかるの?」
美樹 「とてもいい質問! まずは、真ん中の中性のとき、水素イオンと水酸化物イオンがどうなっているのか、“純水”の場合で考えていくよ。」
福 「中性は、酸性でも塩基性でもないことをいうんだよね? 『塩水は電気を通すのに、純水は電気を通さない』という実験をやったよね(化学基礎「イオンの形成」の回)。純水は電離しないから、イオンにならないんじゃなかったっけ?」
確かに、純水は電気を通さなかったよね。だから、イオンは存在しないと思うかもしれない。
でも実際は、わずかだけど水分子の一部が電離して、イオンが存在する。
水素イオン・H+と 水酸化物イオン・OH−の量が、きわめて少ないから電気を通さなかった、というわけ。
水溶液中の、
水素イオン・H+のモル濃度を「水素イオン濃度[H+]」
水酸化物イオン・OH−のモル濃度を「水酸化物イオン濃度[OH−]」という。
純水では、水素イオン濃度[H+] と 水酸化物イオン濃度[OH−] が等しくなる。
このような状態を「中性」というんだ。
福 「純水は、ほんのわずかだけど、電離している。その濃度は、水素イオン・H+と水酸化物イオン・OH−で同じだから『中性』なんだね。」
美樹 「等しいっていうのは、こういうことなんだ。水素イオン濃度[H+]と 水酸化物イオン濃度は[OH−]は、25 ℃の時、どちらも1.0×10−7 mol/L。そして、濃度を表すときは、H+、OH−に[ ]をつける。」
美樹 「[H+]=[OH−]=1.0×10−7 mol/L(25 ℃)が、中性の状態だから、黒板にそれぞれの濃度を当てはめてみて! ピンク色が水素イオン濃度[H+]、青色が水酸化物イオン濃度[OH−]。」
福 「『pH7』が中性の状態だから、水素イオン濃度[H+]も水酸化物イオン濃度[OH−]も、同じ10−7だね。」
美樹 「そこまではOK! 問題はここから。」
福 「そうだね…。そもそもpHって、水素イオン濃度[H+]の指数なんでしょ? 酸性と塩基性で、水素イオン濃度って、どんなふうに変化していくんだろう?」
この純水に、酸の代表「塩酸・HCl」を加えることで、水酸化物イオン・OH−がどう変化するか説明しよう。
塩酸・HClを加えたことで、水素イオン・H+が増加する。
一方、水酸化物イオン・OH−は、その水素イオン・H+と反応して、水・H2Oになるため減少する。
続いて純水に、塩基性の「水酸化ナトリウム水溶液・NaOH」を加えると、水酸化物イオン・OH−が増加。
一方、水素イオン・H+は、(増加した)水酸化物イオン・OH−と反応して、水・H2Oになるため減少する。
ここで大事なのは、どちらの場合も、電離した水素イオン・H+や水酸化物イオン・OH−が、すべて反応してなくなるわけではないこと。
純水に酸や塩基を加えていって、それぞれ「酸性」「塩基性」を強めたとしても、ある一定量のイオンは残るんだ。
福 「もともと中性の状態で、水素イオン・H+も水酸化物イオン・OH−も、ごくわずかしかなかったら、たとえば塩基性の水溶液にしたときに、すぐに水素イオン・H+がなくなるような気がしていたけど、(水素イオンの)数は減っても、なくならないってことなんだね。」
美樹 「そう。つまり、どんな水溶液の中でも、水素イオン・H+と水酸化物イオン・OH−の両方が存在するということなんだ。
その濃度の変化をグラフで表したのが、それ! 黒板のpHの指数に、当てはめてみよう!」
福 「まず、水溶液が酸性の場合、pHが1減るごとに、水素イオン濃度[H+](mol/L)が10倍増える、という関係だね。
このとき、水酸化物イオン濃度[OH−]〔mol/L〕の方は、10分の1に減っていく。」
美樹 「福くん、いいね! じゃあ、塩基性の場合は?」
福 「水溶液が塩基性の場合は、pHが1増えるごとに、水素イオン濃度[H+]は、10分の1に減っている。反対に、水酸化物イオン濃度[OH−]は10倍に増えるっていうことだね。」
福 「pH7の中性を中心に、左右で同じような形になった。」
美樹 「ということは…?」
福 「このグラフは、水素イオン濃度[H+]が増えれば、水酸化物イオン濃度[OH−]が減り、
水酸化物イオン濃度[OH−]が増えれば、水素イオン濃度[H+]が減るという、
反比例の関係を表しているってことだね。」
美樹 「つまり、水素イオン濃度がわかれば、水酸化物イオン濃度もわかる。
そして、pHの数値は、何の数値と同じになっているかな?」
福 「水素イオン濃度[H+]の10のマイナス何乗というのが、pHの数になっている!
だから、水素イオン濃度[H+]さえわかれば、酸性・中性・塩基性 がわかる指標ということか! pHって便利じゃん!」
便利なpHと、水素イオン濃度[H+]、水酸化物イオン濃度[OH−]の関係をまとめておこう!
水溶液では、どのpHでも、温度が25 ℃では、水素イオン濃度[H+]と、水酸化物イオン濃度[OH−]をかけ合わせると、1.0×10−14(mol/L)2 という数値になる。
つまり、水素イオン濃度[H+]が10−3 mol/L だとしたら
水酸化物イオン濃度[OH−]は10−11 mol/L だとわかるんだ。
また、pHの数値は、水素イオン濃度[H+]の、1.0×10−nの、マイナスをはずした指数nを表しているんだ。
(化学基礎・監修講師) 加賀谷先生 「pHは、酸性・塩基性の強弱を簡単に比較することができる便利なものなんです。たとえば、土壌の酸性の度合いを測る測定器もあって、野菜づくりする人たちにはおなじみですよね。
それぞれの野菜には、育ちやすい土壌のpHがあります。野菜の苗を植える前に、土壌に測定器を刺して、表示されたpHの値によって石灰をまくなどして、pHを調整するんです。みなさんも、pHという指標がどんなことに役立っているか調べてみてください。」
福 「pHって聞いたことはあったけど、実際何かわかってなかった。でもきょうpHがよくわかったよ。でも、頭の中だけでわかってる感じなんだよね…」
美樹 「化学は実際に手を動かしてみて本当の理解につながる。化学は愛と情熱、そして実験よ!」
早速、実験! でもその前に、溶液の濃度を薄めていくとpHの値はどう変化するのか確かめてみよう。
0.1 mol/Lの硝酸・NHO3を10倍に薄めることを繰り返したら、どのようにpHは変化していくのだろうか?
まずは、0.1 mol/Lの硝酸・NHO3から1 mLを正確に取り、純水を9 mL加えて10倍に薄める。
さらに、そこから1 mLを取り、純水を9 mL加えて10倍に薄める。
0.1 mol/Lの硝酸 (1.0×10−1 mol/L)
10倍希釈の硝酸 (1.0×10−2 mol/L)
100倍希釈の硝酸 (1.0×10−3 mol/L)ができた。
液に浸すと、色の変化でpHの測定ができる「万能pH試験紙」で調べてみよう。
0.1 mol/Lの硝酸・NHO3の水素イオン濃度[H+]は、1.0×10−1 mol/Lなので、pH=1になるはず。
結果は、(pH試験紙が)濃いオレンジ色に変わったので、確かに「pH=1」だ。
10倍希釈の硝酸(1.0×10−2 mol/L)は、(pH試験紙が)薄いオレンジ色に変わったので、「pH=2」だ。
さらに10倍に希釈した(100倍希釈)硝酸・NHO3(1.0×10−3 mol/L)は、(pH試験紙が)やや黄色味がかったオレンジ色になったので、「pH=3」。
硝酸・NHO3を純水で10倍ずつ薄めていくと、pHの値は1ずつ大きくなった。
pHを使えば、水素イオン濃度[H+]の変化を扱いやすい数値で表すことができるんだ。
福 「やっぱり。純水で10倍に薄めると、pHは1ずつ変わっていったね。」
美樹 「これを踏まえて、今度は塩酸・HClを10倍に希釈してpHを調べてもらうよ。」
福 「わかった!」
秤量(ひょうりょう)びんに入った塩酸・HClを使って実験しよう!
純水で塩酸・HClを10倍ずつ薄め、pHを測るミッションだ。
溶液の電位差を利用して測る、「pHメーター」を使って測定してみよう。
福 「まず、この塩酸・HClのpHは、およそ1だね。」
美樹 「使ったpHメーターは、純水でその都度洗おうね。」
福 「わかった。(pHメーターを純水で洗う)
じゃあ、10倍に薄めるよ。まず、この塩酸・HClを1 mL取って、そこに 純水9 mLを(加えると)10倍に薄められた。
よし、測ってみるよ。(10倍希釈の塩酸の)pHは、およそ2。ほぼ、1 変わったね。」
福 「じゃあ、もう1回、10倍に薄めて測るよ。(100倍希釈の塩酸の)pHは、およそ3。ほぼ、1 変わった。」
福 「このまま続けると、pHは1ずつどんどん増えていくってことだね!」
美樹 「う〜ん…福くん、ちょっと待って。塩酸・HClに加えている、純水の水素イオン濃度[H+]はいくつだっけ?」
福 「純水の水素イオン濃度[H+]は、1.0×10−7mol/Lだよね…
そうか! 純水自体が中性だから、塩酸・HClを純水でどれだけ薄めていっても、中性に近づくだけで、塩基性にはならないってことかな?」
美樹 「そのとおり!」
加賀谷先生 「きょうは、水素イオン濃度[H+]とpHについていろいろ見てきました。
pHのよいところは、水溶液の 酸性・中性・塩基性がわかり、数値で表すことができることです。これは化学の実験や私たちの生活の中でも、さまざまなことに貢献しています。くらしの中のpHの例なども、次回見ていきましょう。」
福 「pHって、実験や生活の中でもいろんなことに使えそうだね。美樹さんがpHのことを伝えたかった理由がわかる気がする。」
美樹 「そうでしょ! pHは地球環境を守るのにも役立っているんだよ。次回はそんなpHのすばらしさを、もっともっと福くんに知ってもらわないと!」
それでは、次回もお楽しみに!
1:H+とOH−でわかる?
水素イオンのモル濃度である「水素イオン濃度[H+]」と、水酸化物イオンのモル濃度である「水酸化物イオン濃度[OH−]」が等しいとき、その水溶液は「中性」となる。
2:酸性・中性・塩基性
水溶液中では、水素イオン濃度[H+]が増えれば、水酸化物イオン濃度[OH−]は減り、
水酸化物イオン濃度[OH−]が増えれば、水素イオン濃度[H+]が減る。
3:pHってなに?
水素イオン濃度[H+]の指数を取り出し、マイナスをとった数値を「pH」という。
pHは、水溶液の酸性・中性・塩基性の強さを表す数値で、この値が小さいほど酸性、大きいほど塩基性が強くなる。
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