第27回 第4編 私たちの空と海・地球のこれから
サワ 「私ぼんやり空を見上げて、あれこれ考えごとをするのが好き。モコモコした、羊みたいな雲が浮かんでいる空とか、夕焼け空もロマンチックで素敵だよね!」
左の写真は「高積雲」という雲です。ひつじ雲という名で親しまれています。
夕焼け空が赤くなるのには、大気が関係しています。
大気とは、地球の周りを覆っている空気の層のことです。
サワ 「大気って私たちの周り、ここにもあるんだよね。でも見えないし、触れないし、存在感薄いって感じ。」
右の画像は、宇宙から見た地球です。表面に沿って青く光っているところが大気です。
大気の厚さは約100kmで、これは地球の半径の60分の1しかありません。
地球の大気の組成は、水蒸気を除くと、窒素が78%で酸素は21%、他にはアルゴンが0.9%、二酸化炭素はわずか0.04%しかありません。
地球に近い金星や火星の大気は、ほとんどが二酸化炭素です。
大気の違いからも、地球の環境が、いかに特別かがわかります。
サワ 「二酸化炭素が地球には0.04%なんて、そんなに少ないとは思わなかった。」
アイコ 「二酸化炭素の増加が地球温暖化の原因だ、って話題になることもあるけど、増えたと言ってもほんのわずか。もし0.04%が0.1%になったら大変なことなのよ。」
地球は、酸素が多くて二酸化炭素が少ない、特別な環境を微妙なバランスで維持しています。
気圧とは「気体によって発生する圧力」のことです。
天気予報で使われている気圧は、正確には「大気圧」という、大気の重さによる圧力のことです。
サワ 「大気は重さなんてないように感じるけど、あるんだね。」
アイコ 「そう。私たちの体には、上にある大気の重さが常にかかっているのよ。」
地上にいる私たちには、1気圧という圧力がかかっています。
1気圧は「1cm2に1kgの重さがかかっている」のと同じぐらいの圧力です。
これは、例えば爪の上に1kgぐらいの重さがかかっているのと同じですが、私たちは通常そのような重さを感じることはありません。
右の写真のようにポリ袋の中に空気を入れると、袋の表面には1cm2に1kgの重さがかかっていますが、ポリ袋はつぶれません。
大気圧は、外側からだけでなく、内側からも外に向かってかかっています。
私たちの体も大気圧と同じ力が内側から働いているので、大気圧を感じずに生きていけるのです。
サワ 「“地上にいる私たちには1気圧”ってことは、場所によって大気圧は変わるってことなの?それに、大気圧って上にある大気の重さっていうことは、高い場所ほど大気圧は低くなるってことなの?」
気圧の変化を観察するために、今回は気圧計の他に大きな注射器を使い、実際に調べてみました。
注射器はピストンを引いたり押したりして使うもので、先端をふさいで空気を閉じ込めた時は、左の画像のように注射器の外の大気圧と中の気圧が同じになります。
では、この注射器を高い場所に持っていくと、どうなるでしょうか。
サワ 「高い場所ほど大気圧が低くなるのなら… 外側からピストンを押す力だけが弱まって… ピストンが押し出される?(右画像)」
高度によって大気圧がどのように変化するのか。星槎大学 客員教授の武田 康男さんに実験していただきました。
やってきたのは静岡県の田子の浦という海岸です。
この日は、雲が出ていますが青空もあり、富士山の山頂付近が見えています。
使用するのは、パソコンに接続すると詳細な測定ができる装置です。
高度0mのこの海岸では、当日の気圧は1011hPa(ヘクトパスカル)でした。
1気圧は約1013hPaですので、ほぼ1気圧です。
アイコさんから預かった注射器も準備しました。
高度0mの海岸で、右の画像の位置にピストンを止め、先端をふさぎました。
海岸から富士山の五合目、高度約2400mまで、大気圧を測定しながら移動しました。
標高約500mの場所での気圧を見てみると、約955hPaと、海岸よりも下がりました。
注射器は周囲の気圧が下がったことで、外からピストンを押す力が弱まったことが右の画像からわかります。
さらに富士山を登っていき、高度1500mまで来ました。
気圧は約851hPaと、さらに下がっています。
注射器のピストンを外から押す力も、さらに弱まっています。
高度2000mあたりから、雲の中に入っていきました。
標高2360メートルの富士山五合目に来ました。
かなり寒く、先生は上着を着ました。
気圧は約767hPaと、かなり下がっています。
今回の測定結果は、右の画像のようになりました。
高度が上がるにつれて、大気圧は下がることがわかります。
上の画像は、高度と気温の関係を示したグラフです。
実験時、海岸から富士山の五合目まで、気温も計っていました。
グラフから、高度が上がるにつれて、気温が下がっていることがわかります。
高い山に登ると、平地より涼しいと感じることがあります。
一方で、例えば部屋をストーブで暖めたとき、暖められた空気は上昇します。部屋が上の方から暖かくなるのはそのためです。
では、なぜ高度が上がるにつれて気温が下がるのでしょうか。
実はこれには、気圧が関係しています。
アイコ 「富士山で気圧の変化を測定した時、注射器の中の空気がピストンを押していた。つまり、中の空気は膨張していたってこと。気圧が下がると空気が膨張するのよ。ということは?」
サワ 「高度が上がると気圧が下がり、空気が膨張して気温が下がるってことかな?」
実験で確かめてみました。
用意したのは、気圧を下げる実験容器と、風船、温度計、そしてポンプです。
実験容器は、ポンプで空気を抜くことで、中の気圧を下げることができます。
まずは、容器の中に風船を入れて気圧を下げてみます。
左の画像のように、空気を抜くと風船が膨らんでいきます。
このように、空気を抜くことで容器の中の気圧が下がり、風船の中の空気が膨張して風船が膨らんだのでした。
次に、容器の中に温度計を入れて気圧を下げてみます。
すると、右の画像のように、容器内の気温が約2℃下がりました。
サワ 「高度が上がれば上がるほど気温が下がるってことは、富士山よりもはるかに高い、大気のずっと上のほうは、どんどん気温が下がっていくってことね。」
アイコ 「残念ながらそんなに単純じゃないの。」
上の画像は、高度と大気圧の関係を表したグラフです。
大気圧は、高度が上がるにつれて徐々に低くなっていきます。
一方、高度と気温の関係を見てみると、上の画像のように気温は下がったり上がったりしています。
地球の大気は、高度による気温の変化によって、下から対流圏・成層圏・中間圏・熱圏の4つに分けられています。
地上から高度10〜12km周辺までが対流圏で、高度が上がるにつれて気温は下がっていきます。
高い山の上のほうが平地より寒いのはこのためです。
上空へ移動した空気は気圧が下がることで気温も下がりますが、太陽に暖められた地表から離れていくからでもあります。
高度が12kmより高くなると、気温の低下は一旦止まり、高度20kmぐらいから徐々に上昇していきます。
この高度にはオゾン層があります。
オゾンは、紫外線を吸収して熱を発生させる性質があるため、成層圏のオゾン層より上は、徐々に気温が上がっています。
サワ 「オゾン層がなくなった高度30kmから上でも、気温はまだまだ上がっているのはなぜなの?」
アイコ 「高度が上がるほど紫外線が強くなるし、オゾンの密度が低くなるけど、密度が低いと少しのエネルギーでも温度が上がるからなのよ。」
高度50kmからの中間圏は、高度が上がるにつれて気温が下がっています。
ここまで高度が上がると、大気の密度はかなり小さく、酸素がとても少なくなります。
オゾンもわずかしかないため、高度が上がるにつれて気温は下がっていきます。
しかし高度80kmで気温の低下が止まり、そのあとまた上昇します。
熱圏では、窒素や酸素が太陽からのX線や紫外線を直接吸収して、分子などが激しく運動することで熱を発生します。
高度110kmより上は、地表よりもはるかに気温が高く、「暖かい」というより、「熱く」なっています。
アイコ 「分子などの運動が速いから『熱い』というだけ。密度がとても低いから、もし私たちがそこに行ったとしても、熱さは感じないはずよ。」
サワ 「熱いけど熱さは感じないって不思議ね。同じ大気でも、地上付近の大気とはぜんぜん違うんだね。」
アイコ 「サワさんが大好きなオーロラも、熱圏で起こる現象なのよ。」
アーカイブスにアクセスして、再び武田 康男さんにお話を伺いました。
サワ 「先生は、南極でも観測された経験があるとお聞きしましたが、南極の大気… 空って、やっぱり日本とかとは違うんですか?」
はい、とても空気が澄んでいて、汚れもほとんどなかったですね。
右の画像は、サワさんが好きなオーロラの写真です。私が南極で撮影しました。
南極では年に50日以上オーロラが出ました。
アイコ 「他には南極では、どんな風景が見られるんですか?」
南極では、ずっと高い空に雲ができたんですよ。
左の画像が、その写真です。雲は基本的に対流圏でできるんですけど、南極の冬は成層圏が冷えて、成層圏にできた雲が夕方でも白く見えていますよね。
そして、高さ80kmの中間圏にも雲ができました。
中間圏の雲は、ちょっと淡いんですけどね。ここは、地球の大気で一番気温が低い場所なんですね。
南極での観測はとても大変なんですけど、こうしたいろいろな気象現象が見られるから、とても面白いですよ。
それでは、次回もお楽しみに!
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