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100歳のアーティスト 描き続けた夢

Newsかいドキ
  • 2024年06月11日

 

色をつけた数ミリの「卵のから」などを細かくはり合わせて仕上げた「大阪城」や、毛の1本ずつまで鉛筆の繊細なタッチで表現され、いまにも動きだしそうな「シロクマ」は同じ作者のアート作品です。

 

手がけたのは山梨県甲州市に住む安部欣之助さん。
大正13年生まれの100歳です。

子どものころから絵を描くことが大好きだった安部さんはいつしか「多くの人に作品を見てもらいたい」という夢を抱き、美術の道に進むことを希望しましたが、かないませんでした。

安部さんが10代になると、日本は戦争への空気に満ちていきました。

20歳で徴兵検査を受けた安部さんは、
旧日本海軍で気象を読み解き天気図を作成する担当として、愛媛県西条市の部隊に配属されました。

「どうしても絵を描く道に進みたかったけれど、とうとうできなかった。本当にいろいろ辛抱しながら生きた時代だったね」

戦後は、警察官や会社員として大阪で暮らし、子ども2人を授かりました。
一家を支えるため日々、邁進していて絵を描くこととは無縁の生活でした。

再びアートに向き合い始めたのは97歳だった3年前でした。
慣れ親しんだ大阪から山梨県に引っ越して娘の倫子さんと同居したことが大きなきっかけになりました。

「大阪を離れた父は山梨県での新たな生活に物足りなさを感じているようでした。
そんな父がほかの人と交流ができる場がないか探していたのですが、あ、これだと思いました」

倫子さんが偶然、見つけた甲州市のアートケアサロン「楽」は、地域の高齢者が芸術を楽しみながら交流を深める場所です。

利用者の平均年齢は85歳。
このうち最高齢の安部さんは週に1回のペースで通い、
午前9時半ごろから正午前までの2時間余り制作に没頭します。 

 

安部さんが絵に向き合うのは、実に90年ぶりでした。

サロンでは利用者それぞれがアートに打ち込むことと同じくらい、仲間と一息つく時間を大切にしています。

お茶とお菓子、それに大好きなアートの要素が加わり、会話が弾みます。

何気ない、こうしたやり取りの中で2023年の12月ごろに持ち上がったのが安部さんのアート個展の話でした。

「安部さんが100歳になる記念にどうかなと
  誰が言ったのかは分からないけれど、
 何か記念になるものをしたいねという話になりました。」

 「『100歳展』みたいな話が一気に盛り上がり、
  そうなったらもうやるしかないと」

個展の開催が決まった安部さんは、ときには肩が上がらなくなるほど無心で制作を進め、
3か月間で6作品を描き上げました。

「自分にできるかどうか不安だけど講師も熱心に指導してくれるし『よし、やってみよう』という気持ちだね。これまでもそうやって生きてきたわけだから」

そして、2024年3月20日に個展は初日を迎えました。

会場には安部さんがこれまでに手がけたはり絵や鉛筆画など20点余りが展示され、
訪れた人は鮮やかな色で彩られた作品などをじっくりと眺めていました。

「色もひとつずつちゃんと変えられていて『すごい』『きれい』と思って見ていました」

「100歳の方が作ったことを考えると私もがんばらないといけないと感じました」

「自分でもびっくりしてますよ。まあまあ、がんばれたなって思ってね。若い人はもっと 頑張ってください」

個展の初日を終えた安部さんに座右の銘を教えてもらいました。

「人生に結論なし」

100歳を超えて夢をかなえた安部さん。
今春、新たな生活のスタートなどを迎えた人たちに向けたエールでもあると言います。

「生きてるかぎり、がんばるぞー」


 

  • 赤木 雅実

    甲府局 記者

    赤木 雅実

    2021年入局
    主に警察・司法・行政取材を担当

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