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撮った!ゼレンスキー大統領 G7広島サミットの裏側

  • 2023年05月31日

5月19日から21日まで開催された「G7広島サミット」。

カメラマンの私はチームの一員として取材に当たりました。

私がレンズで捉えたのは、電撃来日したウクライナのゼレンスキー大統領のほほえみ。

わずか1秒のことでした。

ひたむきに「一瞬」を狙い続けたカメラマンの目線から、サミットに出席した首脳の「表情」の意味を考えます。

(NHK高知放送局 カメラマン 山本青)

NHKカメラマン 
G7サミットで何してる?

私が所属するのは「映像取材グループ」。いわゆる「報道カメラマン」の集まりで、主に日々のニュースや自分で提案したリポートの取材・撮影をしています。

G7のような大規模なオペレーションになると、全国の地域局からもクルーを集めて取材態勢を組みます。

今回のG7広島サミットで報道カメラマンが担ったのは、

・サミット会場の中で首脳会談や会見の様子を撮影

・予定にない動きやトラブルに対応する警戒取材

・サミットが開催される街の様子などの撮影

若手のカメラマンは主に警戒取材や街の様子の撮影を担当します。

サミットの取材拠点となっている「国際メディアセンター」
世界中のメディアが集まる

「一瞬の表情」狙う警戒取材

カメラマンとして特に力量が問われるのが警戒取材です。

何かトラブルが起きたときなどに対応することはもちろんですが、もうひとつ大事な役目があります。

それは各国首脳の表情を撮ること。

沿道やサミット会場の近くなどで、通りすぎる車の中の首脳の表情を狙います。

時間にすると、表情が映るのはわずか5秒ほど。

しかし、

サミット初日を迎えた岸田総理大臣

原爆慰霊碑に向き合うアメリカのバイデン大統領

電撃来日したウクライナのゼレンスキー大統領が飛行機のタラップに姿を見せた瞬間

そのときの心情は顔に表れます。

たとえ一瞬であったとしても、その表情を撮影して報道することで、今回のG7サミットの意味を皆さんに伝えたいのです。

悔しい・・・サミット初日の取材

これはサミット1日目(5月19日)に警戒取材に当たった私のおおまかなスケジュールです。

午前6時30分  出勤、機材の準備、上司と撮影場所の打ち合わせ

午前7時30分  撮影場所に向けて出発

午前8時~午後2時  サミット会場から平和公園の間の沿道で車の中の首脳たちの表情を撮る

現場に到着したらまず、車の中を撮影できる角度、高さを考えて場所を決めます。警備に当たっている警察官と交渉をすることもあります。

この日は、午前中に各国首脳が平和公園と原爆資料館を訪れる予定があったため、私は各国の首脳がサミット会場から平和公園へ向かう道路沿いにカメラを構え、表情の撮影に臨みました。

「原爆資料館の訪問について、アメリカやイギリス、フランスなどが難色を示し、交渉が難航していた」というニュースを事前に読んでいたので、交渉の末に実現した原爆資料館訪問に臨む首脳の表情を伝えることは重要だと感じていました。

しかし・・・プレッシャーや緊張で、車のスピードについていけず、しっかりと撮り切ることができませんでした。

また、雨の中の撮影で体力的にもきつかったです。

初日の午前中は後悔が残る取材になりました。

立ちはだかる防弾ガラス

車の中を撮影する際には、PLフィルターという光の反射を軽減するフィルターをレンズに装着して撮影します。

ふつうの車であれば、これがかなりクリアに見えるのですが・・・

各国首脳が乗っている車の窓には防弾ガラスが使われているため、下の写真のように虹色の反射が残ってしまいます。

大統領専用車“ビースト”に乗るアメリカのバイデン大統領

反射の隙間から表情がはっきりと見えるのは本当に一瞬です。カメラマンにはその瞬間をしっかりと撮ることが求められます。

横の窓からであれば比較的見えやすくなりますが、横顔になってしまい表情を読み取りづらくなる可能性があります。

私は首脳の顔がはっきりと見える正面から撮りたいと思っていました。

(午前中にまともに撮れなかった人が何を言ってんねん、となりますが)

この日残されたチャンスは、平和公園からサミット会場に戻るタイミングしかありません。

ここで、まずバイデン大統領の表情が撮れました。

正面からでも撮る角度や光の入り方によっては顔が見える瞬間があるという自信をつかみ、ほかの首脳の表情も着実に撮っていくことができました。

ゼレンスキー大統領が広島に来る!

初日の取材を終えたあと、携帯を見ると、

「ゼレンスキー大統領が来日し、G7広島サミットに対面で出席する」

という速報が目に飛び込んできました。

この時は、目の前の撮影のことで頭がいっぱいで、ゼレンスキー大統領が広島に来るという実感があまり湧きませんでした。

しかし、故郷に残る家族を高知で毎日のように心配していたウクライナの人を取材したことがあったので、もし撮影するチャンスがあるならば、戦争の実態と平和を世界に伝える「広島」という場所で、ゼレンスキー大統領の表情を切り取りたいと強く思いました。

最終日に見た「1秒のほほえみ」

サミット最終日(21日)、私はサミット会場から平和公園に向かうゼレンスキー大統領を撮影する機会を得ました。

3時間前に撮影場所に到着し、交通規制がかかる前に、通り過ぎる車でピントの合わせ方や明るさの調整を練習しながら、これなら大丈夫だと思えるように気持ちを整えていきました。

沿道に人が集まり始め、交通規制が始まりました。

静寂を破るように遠くから何台もの車両が連なって走ってきました。

ゼレンスキー大統領が乗っているのはどの車両か・・・無線で上司が伝えてくれた情報を元に冷静に見極めていきます。

これだ!

2台目がゼレンスキー大統領が乗っている車

隣に座っている人と何かを話すゼレンスキー大統領の影が見えました。

手を振る姿も、かすかに見えます。

ピント、ピント、ピントが合うように調整します・・・

沿道に集まった人々にほほえみかけるようなゼレンスキー大統領の表情が見えました。

テレビでよく見る厳しい表情ではなく、優しい表情のゼレンスキー大統領でした。

この映像を見たカメラマンの先輩が後ほど送ってくれたメッセージです。

「(ゼレンスキー大統領は)実際は笑顔になんてなれる状況ではないであろう。

だけど、アジアにまでやってきて、自らが歓迎されている様子を見て思わず顔がほころんだのか、平和な街に心が緩んだのか・・・

戦争とはそういうことなのかもしれない」

ゼレンスキー大統領の車両が見えてから通り過ぎるまでは、およそ15秒。

ほほえみが見えたのは、1秒です。

テレビを見ている視聴者には、ゼレンスキー大統領の顔が少しほころんだようにしか見えなかったかもしれません。

私も正直なところ、いつも表情の意味を考えられるわけではありません。先輩たちが撮る会談や会見での映像の方がはっきりと顔が見えるのに、どうしてこんなことをしているのだろうと思う時もあります。

しかしカメラを向けていると、ふとした時に素の表情がかいま見える時があります。

だからこそどんな表情であってもまず映すことがカメラマンの自分には求められている役割だと感じました。

映像に映し出される誰かの表情は、その映像を見た人の捉え方の数だけ、さまざまな意味を持っています。

どうしてゼレンスキー大統領は広島にまで足を運び、対面でサミットに参加したのか。

その表情を映し出すことで、少しでも見た人に考えるきっかけにしてもらえる映像になればと思います。

サミット最終日
帰国の途につく首脳たちを待つ
  • 山本青

    高知局 カメラマン

    山本青

    2019年入局
    札幌局を経て現職
    自分で撮影しながら取材するのが好き

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