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“医療的ケア児” と共に学ぶ 四国らしんばん②

  • 2023年05月19日

近年、“医療的ケア児”を受けながら暮らす人が、全国で増えています。“医療的ケア児”とは、医療機関以外の場所で、たんの吸引やインスリン注射、胃に直接栄養を送る胃ろうなどの処置を日常的に行うことです。18歳以下の子どもたち「医療的ケア児」は、四国で少なくとも400人が暮らしています。

2年前、「医療的ケア児支援法」が国会で成立しました。この法律で18歳以下への支援が広がり、保育園や幼稚園、学校で受け入れが進み始めようとしています。実際に、地域の小学校に通う家族を取材しました。

“医療的ケア児”を受け入れている学校では

  愛媛県松山市の小学校です。

この小学校に通っている小学5年生・山本楓真さんです。 全身の筋肉が萎縮する難病(SMA)を抱えています。

楓真さんの教室は、1階。車から降りてすぐの場所です。教室に入ると同級生とあいさつを交わします。

左が楓真さんの母親、皇世さん
同級生

楓真くん、おはよう

クラスメートがいる教室は3階。楓真さんとは、常にリモートでつながっています。

楓真さんは、小学1年生の時から地域の学校に通っています。常に母親の皇世さんが付き添っています。

楓真さんの入学式の様子

そばでケアするのは看護師たち。 2年前に成立した「医療的ケア児支援法」によって、今は週に2回、学校の看護師がサポートしてくれるようになりました。法律が成立したことで、将来的に皇世さんが付き添う時間が減ることが期待されています。

皇世さん

地域の友達にも楓真のことを知ってもらいたい。そして、子どもだけじゃなく地域の皆さんにも一緒に生活してるんだよと知ってもらいたいです。

楓真さんは体を自由に動かすことができないため、食事は胃に直接栄養を送り込む胃ろうといった“医療的ケア”が必要です。

胃ろうのチューブをつなぐ様子

また楓真さんは、24時間人工呼吸器が必要です。

意思疎通は、あらかじめ答えが書かれたイラストを指さし、質問に対する目や指の動きではかります。

皇世さん

うれしかったら目がトロンとなったり、指を動かしてくれたりします。自分の意思をしっかり持っているので、もう嫌なものは嫌、好きなものは好きって、はっきりしているので、そこがいいところですね。

同級生と一緒に過ごす学校生活

この日の理科の授業は、2階にある理科室で行われていました。そこで階段昇降車を使い、2階へ移動します。 

操作方法の講習を受けた教員たちに支えられ、10分かけて理科室に到着しました。

同級生

楓真くんやる?

グループに分かれて行う授業は、楓真さんも輪に加わります。

体育の授業も一緒に受けました。

休み時間に、楓真さんの教室に同級生が遊びに来ることもしばしばです。

同級生

いつも行っていたら、なんか来たくなる。これからも仲良くしていきたい。

皇世さん

地域の学校に来てよかったなと思いました。特別じゃなく、本当にみんなと同じ1人として見てもらっているという部分がすごくうれしいです。

楓真さんと一緒に学ぶことは、同級生たちにとっても大きな成長につながるといいます。

松山市立
味生小学校
校長

この先いろんなハンデがあるとか、自分と少し違うものの考え方の人と出会ったりした時に、自然にやっぱり手を差し伸べたり、これが当たり前だというような感覚は、彼ら自身の中でも育まれていると感じています。

初めて受け入れる学校の対応は?

徳島県のある中学校では、“医療的ケア”が必要な生徒の受け入れに向け、さまざまな準備が進められています。

細川彩姫(いるみ)さん。 重い障害があり、 たんの吸引や胃ろうなどの医療的ケアが必要です。

彩姫さんの母親

先生たちが、彩姫を車いすからベッドに移したりする練習をしてくれて、やっぱり最初は彩姫の事も知らないし、機械とかいっぱいあるので、不安がすごく大きかったです。少しずつ知ってくれることで、彩姫に合ったやり方を先生たちもすごくマスターしようとしてくれています。

彩姫さんの通う中学校では、この日、医療機器の勉強会が行われ、教職員が参加しました。

医療機器
メーカーの
担当者

細川さんが使用している人工呼吸器の簡単な操作方法を教えます。

実際に機器の操作方法を伝えながら、教職員たちの疑問を1つ1つ解消していきます。

人工呼吸器

ピピピ(アラーム音)

参加して
いる教職員

いまのアラームは何の警告音ですか?

医療機器
メーカーの担当者

今ですね、換気量が上限になったという合図です。

勉強会を開くなど、共に安心して学ぶことができる環境づくりを目指しています。

徳島県内
自治体
教育長

可能な限り、私は受け入れていきたいとは考えております。中学校になって初めて接する生徒もいます。定期的に、特別支援教育の巡回教育相談員等にですね、相談や指導をしていただく機会を設けていきたい。

この状況について、「医療的ケア児」の学校教育について詳しい下川和洋さん(NPO法人 地域ケアさぽーと研究所 理事)は。

下川和洋
さん

実際に研修を受けてもらうっていうのがすごく大切なんですね。知ることが安心につながると思います。

進学先について家族はどう考えている?

四国に住む“医療的ケア児”の家族にアンケートを行いました。

「進学先はどのように考えているのか」を尋ねたところ、障害に合った専門性を持つ教師がいる特別支援学校への進学を選ぶ人がほとんどでした。

実際にアンケートに答えてくれた家族に尋ねてみました。長崎眞綾さん、4歳です。生まれながらに染色体に異常があります。

そのため、鼻から胃に栄養を送り込む、経管栄養といった医療的ケアが必要です。再来年、小学校への進学を控えている眞綾さん。両親は今のところ、特別支援学校に通わせる予定だといいます。

眞綾さんの母親

今のお友達が一緒に通う子が多いので、知っているお友達もいるので、まあそっちのほうがいいのかなと思うんですけど。

眞綾さんの父親

病気しただけで、かぜを引いただけで、入院とかそういう事になってしまうので、なかなかね、(地域の学校は)難しいかもしれませんけどね。

子どものことを考えると、地域の学校にするのか特別支援学校にするのか、悩ましい現状が見えてきました。この状況を、専門家の下山和洋さん(NPO法人 地域ケアさぽーと研究所 理事)に聞いてみました。

下山和洋
さん

学校に通うのは、人生の中で最大のライフイベント。どこの学校に通いたいと悩むのは当然です。2013年に法律が変わって、本人や保護者の意向を最大限尊重するというふうに法令が変わったものですから、家から遠くても専門的な教育を受けたいというので特別支援学校を希望する家族が一番多かったんだと思いますね。しかし、一方で地域の学校に行きたいという人もいます。なので、選択できることが最大限必要なことだと思います。

さまざまな選択ができる社会に少しずつ進んでいる一方で、“医療的ケア児”がいる家族の声を聞くと、悩みの声は他にもあります。それは、「高校卒業後の生活がどうなるか」、「18歳以上の本人たちの行き場」でした。高知県にある、18歳以上の“医療的ケア”が必要な人や重い障害がある人たちを受け入れている施設を取材しました。次の記事で詳しく書いています。ご覧ください。

「“医療的ケア”地域で共に暮らすために 四国らしんばん③」

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