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南海トラフ地震“臨時情報” ・・・そのときどうする?

黒潮町で住民たちと防災専門家が和やかにトークセッション
  • 2023年05月11日

東日本大震災から12年たったことし3月11日、高知県黒潮町とNHK高知放送局が共同で防災ワークショップを開催しました。

テーマは「もし、南海トラフ地震の“臨時情報”が出されたら・・・」。
 
防災イベントと聞くと、参加者が専門家の話に真剣に耳を傾ける、かしこまった雰囲気を想像しそうですが、この日の会場はちょっと違っていました。その一部をご紹介します。 
(高知放送局副局長 伊藤純)

南海トラフ地震の“臨時情報”って何!?

南海トラフ地震の発生時には、町の沿岸部に全国最大の34メートルを超える津波が襲来!
そんな予想が国から発表されて以降、もしもの時に備えて熱心な取り組みを続けてきた黒潮町。
3月に放送された「NHKスペシャル」でも、町が舞台の一つになりましたよね。

ところが、今回の防災イベントの企画案をNHKから伝えた当初、町役場の防災担当者は 
「“臨時情報”をやりますか・・・」とやや困惑気味。
理由は、“臨時情報”に対する住民の理解や認識がまだまだ浸透していないと考えたからでした。

 

NHKが南海トラフ地震の被害が想定される全国の自治体を対象に2022年に行ったアンケートでも、
臨時情報”が
「あまり浸透していない」「ほとんど浸透していない」
と回答した市町村は、四国沿岸で76%に上りました。
(黒潮町の回答も「ほとんど浸透していない」でした)

「地震発生の可能性が高まっている」と評価されたら“臨時情報”発表

 

南海トラフ地震の“臨時情報”について、簡単に説明します。 
上の図のように、南海トラフで起きる地震は東日本と西日本で連動して発生する可能性があることが、過去の記録で明らかになっています。
(ただし、ほぼ同時か、数時間後に発生した例と、数年後に発生した例があり、その予測までは困難です)

 

そのため、南海トラフで大きな地震が起きると、規模の大きさなどから判断して気象庁が
臨時情報(調査中)」を発表します。 
その後、専門家による検討の結果、この先、南海トラフのどこかで巨大地震が連動して起きる可能性が高まっていると評価されると
巨大地震警戒」や「巨大地震注意」が発表され、住んでいる地域によっては1週間の避難が求められるのです。

「避難する」「避難しない」 あなたの選択は?

ワークショップではまず、
【東海地方の南海トラフで地震が発生】
という架空のニュースを流してスタート。

町民代表の3組の家族と、およそ100人の会場のお客さんも参加して、住んでいる場所や家族構成、時々刻々と変化する状況などに応じて、「避難する」か「避難しない」かを選択してもらいました。

3世代で参加した宮地さん一家は、5歳のお孫さんの意見を尊重して早くから「避難する」を選択。

 

宮川さん夫婦は、海から900メートルほど離れた自宅を耐震補強済み。 
いざとなれば車で逃げる準備を整えつつも、当面は「避難しない」で様子を見たいという意見。

 

客席のこの女性は、町の高台にある高校の先生。
臨時情報(調査中)」が発表された段階では、生徒たちを下校させると浸水被災のリスクが高まってしまうため判断に迷うだろうと発言。

活発な発言を引き出したのは防災心理学の専門家

ワークショップを監修してくれたのは、京都大学防災研究所教授で防災心理学が専門の矢守克也さん。
全国最大の津波襲来予測が出された黒潮町から防災対策への助言・指導を求められて以来、長年、役場だけでなく住民とも交流を続け、さまざまなアドバイスや、訓練の提案などもしてきました。

矢守克也さん
「避難するか避難しないか、正解はありません。
それぞれが置かれた状況や事情で、どうすべきか考え、話し合っておくことが大事です」

町の人たちにとっては、気軽に質問や相談ができる親しい間柄の先生ということもあり、ワークショップは和やかな雰囲気で進行しました。

選択に困った浜田さん親子は、
「『避難する』と『避難しない』が半々です」と回答
矢守先生も思わずほおが緩みました

2時間あまりのワークショップの最後に、矢守さんから会場に集まった人たちに向けて締めくくりのメッセージが送られました。

矢守克也さん
「前触れもなく突然起きる地震に比べて、臨時情報が出た後にする事前の避難は、はるかに時間的余裕心の余裕もあると思いませんか?」

「臨時情報が出て事前避難をしても、実際には地震が起きない可能性も十分ありえます。
でもそれは、“空振り”(=無駄足、骨折り損)ではなく、“素振り”(=いい練習)をしたんだと受け止めてください」

どうせ無理だと諦めず、できることから少しずつ、備えや訓練をしていけば、
「犠牲者ゼロ」も夢ではない――
今回の黒潮町でのワークショップに立ち会って、その思いを強くしました。

  • 伊藤純

    高知放送局 副局長 

    伊藤純

    黒潮町は家族の故郷
    自然豊かなこの町で
    休日のんびりがお気に入りです

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